第679話 氷塊の操作を取る為に
氷柱の採集場所になっている氷結洞の中で、桜花さんから頼まれた瘴気石をカグラさんに渡し終えた。次は本来の目的であるヨッシさんの氷塊の操作をやっていかないとね。
そしてカグラさんが氷塊の操作に使う氷がある凍った池の方にいるラックさんへと連絡を取ってくれているので、それが終わるのを待機中。
「あ、そうだ。今のうちにちょっと試して見たいことがあるんだけど、やってもいい?」
「……今度は何を思いついたのかな?」
「この岩のボートの防御方法。移動操作制御だけど、ダメージ判定の回避方法をちょっとね? 上手く行くかはやってみないと分からないんだけどさ」
「試すの自体は別にいいけど、ここでやるのは良くない気もするよ? ほら、氷柱の採集に赤の群集の人も混ざってるしさ」
「……あ、それもそうか」
うーん、ちょっとの待ち時間を有効活用しようかと思ったけど、赤の群集の人がそれなりにいるのを失念していた。ヨッシさんの言うように、流石にこの状況だと新たな防御というか回避手段の実験をここでするのは向いていないか。……実験については後で他の場所で改めてやるとしよう。
それにしても空を飛んでヒレで氷柱を切り落としている赤の群集の魚の人が目立っている……って、あの魚の人ってルアーじゃん!? ……なんだか大きくなってヒレの鋭いシャケみたいになっているな。
あ、俺達に気付いたのか、こっちに飛んできたね。前から飛んではいたけど、飛ぶのはもう標準装備なんだな。
「なんか赤の群集って聞こえた気がしたから何かと思えば、ケイさん達じゃねぇか! こうやって会うのは久しぶりか?」
「おっす、ルアー。あー、そういや直接会うのは結構久しぶり?」
えーと、前にルアーに会ったのっていつだっけ? 覚えている範囲ではウィルさんが赤の群集を抜けていく時だったはず……。
そういや1度会ったっきりって人もそれなりにいるよなー。まぁオンラインゲームって、それぞれの人の都合があるからそういう事は結構あるけどさ。
「ルアーさんは何やってるのー!?」
「赤の群集でアイテム加工を専門にやる共同体の設立に向けての下準備ってとこだ。流石に誰かにやれって丸投げして終わりじゃ駄目だろうしな」
「おー! それでルアーさんが自らやってるんだねー!?」
「まぁそういう事になる。新規のプレイヤーや青の群集からの移籍もいて、今は慣らしていってる感じだな」
「へぇ、そうなのか」
ふむ、そう言われてよく見てみれば赤いカーソルではあるものの、移籍して間もない状況を示す白い線が入っている人も結構いるね。あれが青の群集から移籍した人なのか。……なんか多くない?
「……赤の群集の新規のプレイヤーは分かるんだけど、なんで青の群集からの移籍なんだ?」
「あー、それか。なんか青の群集には突出してる寡黙な不動種の人が凄くてな。戦闘は一切していないのに、未成体Lv28とかになってるらしいぞ」
「え、マジで!?」
「それは凄いかな!?」
「……あはは、もしかしてそれで同じエリアの不動種の人がやりにくくなってたりするの?」
「まぁ、そういう事らしいぞ。灰の群集の方は既に安定してて後からの移籍は少し参入がしにくくて、赤の群集で元の地盤から自分達で作ろうと思ったってよ」
「色々あるんだねー!?」
「そうみたいだな」
要するに桜花さんが灰の群集に移籍してきた理由と似たようなもんなのだろう。てか、灰の群集は後からの移籍での参入はしにくくなってるんだな。移籍の桜花さんは結構人気がある感じだけど、あれは桜花さんの参入が早かったというべき?
そして青の群集の寡黙な不動種がいるエリアは桜花さんが出てきたとこだから……えーと、確か森林エリアになるのか。
何度か話に聞いた事はあるけども、そこにいる不動種として非常に優秀な寡黙なプレイヤーの影響力が強過ぎるようだね。でもまぁ、それが結果的に赤の群集での後方支援の人員補充に繋がるのなら悪くもないか。……赤のサファリ同盟は強いけど、後方支援までは賄えないだろうし……って、他の群集の心配をしてどうする!?
「あの、ラックさんへの連絡は済みましたけど、もう少し待っていた方が良いですか?」
「お、足止めしちまってたのか。そりゃちょっと悪い事をしちまったな」
「あー、ちょっと待ち時間だったから問題ないぞー」
「ほう、そうだったなら良いけどよ。……ま、次に対戦する事があれば負けねぇぜ。赤のサファリ同盟以外でも赤の群集も成長しているとこを見せてやるからな」
「おう、その時は楽しみにしてるぞ!」
「それじゃまたなー!」
そんな風に次の戦いでの宣戦布告を言い残してルアーは再び氷柱に採集へと戻っていった。ふむ、なんだかんだで赤の群集の方も安定はしてきているみたいだね。
赤のサファリ同盟の影響は大きかったんだろうけど、ルアー達も色々と頑張って立て直していたんだろうな。
「カグラさん、私達はどうすれば良いですかー!?」
「ラックさんの用事は既に済んでいるそうで、皆さんが来るのを池の方で待っていると言っていましたよ。その後、氷塊の操作の取得を案内するとも言っていましたね」
「おー、ラックが案内してくれるんだー!」
「それはありがたいね」
「そうだよね。それじゃすぐに移動かな?」
「それもそうだな。カグラさん、連絡してくれてありがとな!」
「いえいえ、どういたしまして」
そうしてカグラさんにお礼を言って、俺らは氷結洞の外へと向かって移動開始していく。ふー、このボート状の岩での防御手段については、6時を過ぎてからミズキの森林に移動してからやろうかな。
6時から7時の間で、1時間は実験する時間が確保出来るからね。ま、その辺については6時になってからハーレさんと相談して決めようか。
<『ニーヴェア雪山・氷結洞』から『ニーヴェア雪山』に移動しました>
色々と考えながら飛んで移動をすれば、すぐにエリアの切り替えになった。ま、それほど入り口から離れてもいないもんな。さてと氷結洞を出たから凍った池の方に移動していこう。
「ハーレさん、6時からさっき言ってた実験に付き合ってもらってもいいか?」
「良いよー! でも、私の風魔法の特訓にも付き合ってもらえると助かります!」
「あー、どっちにしても攻撃はしてほしいとこだから、それについては問題なしだな」
「了解なのさー!」
多分、考えてる手段なら物理攻撃に対しては結構有効だとは思っているけど、魔法に対しては試してみないと分からないからね。物理も魔法も試しておきたいから、ハーレさんの特訓にも支障はないはず。
まぁ、おそらく万能な回避策ではないだろうから、どこまで通用するかの確認をしとかないとね。
そうして、それほど時間もかからずに凍っている人工の池の近くまでやってきた。あー、昨日見た時とはちょっと違って全面的に凍りついてる訳じゃなく、溶けて水になった池の表面に大きな氷の塊がいくつも浮いているような感じなんだな。これは太陽が出てるか出てないかの違いっぽいね。
おっと、池の畔で待っていたラックさんの姿を見つけたハーレさんが飛び降りていったね。それに合わせてサヤとヨッシさんも、俺の岩のボートの上から降りていく。
「ラック、来たよー!」
「待ってたよー、ハーレ! 話は聞いてるけど、ヨッシさんが氷塊の操作を取りたいって事で間違いはないよね?」
「うん、そうなるね」
「あー、可能であれば俺も取っておきたいんだけど、それって可能……?」
普段では氷塊の操作を使う事はほぼ無いとは思うけど、手段としては念の為に持っておきたいんだよな。昨日のサヤと水月さんの対決みたいに、意外なところで活用方法があったりするかもしれないし。
まぁあくまで順番待ちで余裕があればで良いけども……。一応氷の塊を持ち運ぶ手段自体は考えてるしさ。
「え、ケイさんもだったんだ? んー、順番待ちは今は空いてるから大丈夫だよ。でも氷の昇華があるのが一番良いんだけど……ケイさんなら岩の操作で代用出来るかな?」
「それについては元々そのつもりだぞ」
「あ、そうなんだね。えーと、それじゃ荒らすモノの称号とフィールドボスの討伐称号のどっちと重ねてやる?」
「それは荒らすモノの称号でお願い出来る?」
「荒らすモノの方だねー! それじゃ――」
「ラック、ストップなのさー! ヨッシもー!」
「あれ、何か問題でもあった?」
「……どうしたの、ハーレ?」
ん? なんでハーレさんがそこでストップをかけるんだ? 何か今ので問題でも……って、そういや俺はもう『雪山を荒らすモノ』の称号を持ってたよ!? いやいや、問題ないどころか大問題じゃん!
「あ、ケイは既に『雪山を荒らすモノ』を取ってなかったかな?」
「……今気付いたけど、まさしくその通りで……」
「そういう事なのさー! だから、ラック、フィールドボスの討伐の方でお願いします!」
「んー、そっちになるのかー。それじゃちょっと下準備が必要になってくるねー」
あーもう、完全にど忘れしてたなー。うーん、フィールドボスの討伐の方が用意に手間がかかるから避けたかったんだけど……今回は俺が諦める形にしとくか?
桜花さんに頼まれて運んできた瘴気石があるから、必要な瘴気石は対価を渡せば調達は出来るだろうけど、進化元になる成長体がいるとも限らないしね。……下準備なんか全然してないし、ここは俺が引くのが無難か。
「……なんかすまん、ヨッシさん。今回は俺は遠慮しとくわ」
「ケイさん、それは気にしなくて良いよ。ラックさん、瘴気石と確保してる成長体っている?」
「えっと、瘴気石はあるけど、成長体は……今は1体しかいないけど持ち込みの予定はあったはず……。ちょっと待って、メモをしてるのを確認するから」
そう言ってラックさんはウィンドウを表示させて情報のチェックをしているようである。ふむ、成長体の持ち込みがあるという事は実行自体は出来そうな雰囲気ではあるけど、それって流石にどうなんだろね? 俺ら自身は何も用意してないのに、恩恵だけもらうのもな。
ヨッシさんは気にしなくて良いとは言ったけど、俺の氷塊の操作の取得は優先度は高くない。ぶっちゃけすぐに使う事があるかどうかも分からない。それなら無理はせずに、気軽に取れると手段にすべきだろう。
「ヨッシさん、気を遣ってくれたのはありがたいけど、やっぱり今回は――」
「お、ケイさん達じゃん! 何やってんの?」
「……ヨッシがいる! ……それにサヤもハーレも!」
あれ? ヨッシさんに今回は遠慮しておくと言おうとしたら、背後の方から聞き覚えのある声が2人分聞こえてきた。
誰なのかは大体の予想は付いているけど背後を振り向いてみれば、トリカブトのザックさんと氷っぽい体表に緑色の模様が入ったハチである翡翠さんがいた。そういや翡翠さんって風と氷の2属性になってたんだよな。それにしても声の主はやはりこの2人だったね。
「おっす、ザックさん! 翡翠さんもこんちは!」
「おうよ! ケイさん達も何か用事か?」
「……ヨッシ、それにみんなも久しぶり!」
「翡翠さん、こんにちは」
「こんにちはかな!」
「ここで会うって奇遇だねー!?」
まさかここで会うとは思ってなかったなー。って、ザックさんが根でウサギを締め上げて捕まえているっぽいんだけど、このタイミングで、この様子はもしかして……?
「あ、ザックさん、翡翠さん、ちょうど良かった! 今、灰のサファリ同盟の予定メモをチェックしたんだけど、瘴気石と成長体を1体持ち込みで翡翠さんが氷塊の操作の取得をしたいって事で良いんだよね?」
「……うん、氷の操作がLv6になったから『氷属性強化Ⅰ』と一緒に昇華も取るつもり。……今は私とザックだけだから、フィールドボスになるぎりぎりの瘴気石しか用意してないけど」
「それでもしっかり用意してきたぜ! ラックさん、もう1体の成長体の分の対価はどうすりゃいい?」
「それなんだけど、ちょーっとお願いを聞いてもらってもいい?」
「……それは内容次第」
「お、どんな内容だ?」
あ、なんとなくラックさんの狙いが分かった。っていうかこれは間違いなく俺らにとっては非常に都合の良い話……いや、都合が良過ぎるんじゃね……?
「いやね、ケイさんとヨッシさんも氷塊の操作を取りたいって話になってるんだけど、ちょっと手違いというかど忘れで、すぐに実行って事が出来なくなっちゃってね?」
「……ヨッシ、そうなの?」
「……あはは、まぁ簡潔に説明するとそうなるね」
「……そういう事なら、フィールドボス戦、一緒にやろう! ……良いよね、ザック?」
「おう、俺は問題ねぇぜ!」
「いやいや、ちょっと待った! それじゃいくら何でも俺らが得をし過ぎ!」
流石に何もかもを他の人が用意したものを利用させて貰うというのはなしだ。いくらなんでもそれは図々し過ぎるから、許容は出来ない! せめて何かこっちも用意をしないと……。
「……私は別に気にしないよ?」
「俺も別に気にしねぇぜ?」
「いやいや、俺らが気にするんだって!?」
「私もちょっとその条件は気が引けるかな……」
「私も同感なのさー!」
「……提案自体は嬉しいんだけどね」
サヤ達も俺に同意のようで、ちょっと難色を示している。翡翠さんとザックさんの厚意はありがたいんだけど、流石にそれに甘えきるというのはなぁ……。
「……でも、折角会ったんだし一緒にやりたい」
「だよなぁ……。ケイさん達が気にしなくて済む内容かー」
一応前にキノコタケノコのお菓子対立のスクショの手伝いで貰った瘴気石はあるにはあるんだけど、これについてはアルがいる時に使いたいんだよな……。
うーん、灰のサファリ同盟にすぐ何か対価を用意出来るような依頼でもないかな? 場合によっては赤の群集や青の群集からの依頼でも良い。……ちょっとその辺を当たってみるか。




