第677話 色々な模索
出発してすぐに前方への視界を確保する為に、椅子の前に用意したコケの方へと視点を変えていく。うん、視界は良好っと。
<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『ハイルング高原』に移動しました>
ハーレさんとの連携によって安定した速度を出せる手段で加速していけば、割とすぐにエリア切り替えになったね。
今のハイルング高原はパッと見た感じでは……あー、なんか盛大に炎が上がってるな。昨日同じようなのを見たから、火の昇華魔法のエクスプロードか。ふむ、それなりの人数が集まってボス戦をしてたっぽいね。
「あ、あれってフーリエさんじゃないかな?」
「ん? どっちだ、サヤ?」
「あっちの方かな」
「……どれどれ?」
ボス戦をしていた人達とは別方向のサヤが指し示しているのでそっちを確認してみるけど、どこだ? パッと見で分かるようなコケは見当たらないけど……もしかして2ndか? お、戦闘中のトンビのシリウスさんを発見。その隣に太めの枝のようなものが見える……って、その枝がフーリエ2ndって表示になってる!?
うわー、フーリエさんの2ndってヘビか……。よりによって、俺の大の苦手なヘビときたか……。いやまぁ、思いっきり俺の個人的な都合でしかないけどさ……。苦手生物フィルタがちゃんと仕事をしてくれているし、ヘビと認識さえしなけりゃ問題ない! よし、そういう事にしておこう。
「フーリエさんはヘビにしたんだね」
「そうみたいなのさー!」
「あー、聞こえない、聞こえない。あれは枝だ。もしくは蔓系の植物!」
「……あはは。とりあえず、そういう事にしておこうかな?」
もうそのサヤの発言がヘビだって確定させてるよね! 俺が苦手なだけでフーリエさんが悪い訳じゃないんだけど! ……よし、少し落ち着け、俺。
それはそうとして、フーリエさんのコケの姿は見えないな。でも、相方のシリウスさんはトンビだから共生進化は未成体までお預けにしてる感じか? ……ふむ、そうなると考え方によっては共生進化後ならコケの生えた枝に見えるようになるはずだから、よりヘビ感は無くなるはず!
あ、そうしているうちにフーリエさん達が見えるぎりぎりの距離にまでなってきた。普通にLv上げの戦闘の最中っぽいし、俺らに気付いている様子もない。変に声をかけて集中力を乱して邪魔をしても悪いし、俺らは俺らでやる事もあるからこのまま進んでいくか。
「さて、そろそろ2発目で再加速と行きますか」
「フーリエさんは良いのかな?」
「何でも面倒を見れば良いって訳でもないし、流石に俺らがパワーレベリングをするのは駄目だろ?」
「……確かにそれはそうかな」
何でもかんでも教えてしまえば、自分で試行錯誤する事が無くなるからね。どうしても行き詰まったり、方向性に悩んで意見が欲しいというのでなければ無理に干渉する事もないだろう。
まぁ、それでも何も予定がなければちょっと挨拶を交わすくらいはしても良いんだろうけど、フーリエさんもシリウスさんも戦闘中だという事もある。
「それにヨッシさんの氷塊の操作も取りに行くんだし、雑談とかは予定がない時で良いしな。って事で、ハーレさん2発目いくぞ!」
「おー! 『並列制御』『略:ウィンドボム』『略:風の操作』!」
さてと、2発目の風での加速をやっていこう。ぶっちゃけ無くても既に速度は結構出てるんだけど、更なる加速で安定して使えるのが何発目くらいまでか確認しておきたいんだよな。
<行動値5と魔力値15消費して『土魔法Lv5:アースウォール』を発動します> 行動値 62/70(上限値使用:7): 魔力値 192/214
ちょっとだけ回復していた行動値と魔力値を消費して、再度の加速を試していく。手順は1発目と全く同じ……あ、すぐに解除しないと減速の要因にもなるから、即座に解除しとかないとね。さて、これでどうなる?
「おっ、結構速度が上がったな」
ちゃんと今回のも推進力にはなったようである。でも、俺らが飛行中という事もあってハーレさんの指向性を操作したウィンドボムの着弾のタイミングが遅れた……というか、少し距離が出来てしまっていたっぽい。
ウィンドボムの爆風で魔法砲撃にしたアースウォールを展開しているから全く効果が無いとは言えないけど、停止している時と同じにはならないか。……ふむ、ハーレさんがウィンドボムを発動してから狙いを微調整してるから、ほんの少しのタイムラグが影響してくるんだな。
「ケイさん、さっき程の勢いがありません!」
「まぁこれなら実用範囲だろ。流石に完全に同時には無理だしな」
「でも、もうちょい発動位置を手前にすればいけると思います!」
「……これ以上近付けると、移動操作制御の岩の方に当たるから止めてくれ……」
「はっ!? 確かにそれもそうだった!? 真っ逆さまに落ちちゃう!?」
「……私はそれでも大丈夫だけどね」
「私も大丈夫かな?」
「そういや私もクラゲを使えば大丈夫だー!」
「あ、地味に一番ヤバイのは俺!?」
俺の飛行手段である飛行鎧用の移動操作制御が強制解除になり、他のみんなは慌てさえしなければすぐに対応出来る飛行手段は持っているもんな。
まぁ、俺も大急ぎで水のカーペットを展開すればどうにかなるか。普通に水や岩を生成して飛んでも良いし……。他のスキルを使っていない時という条件はあるけどね。
「ケイも大丈夫じゃないかな?」
「……大丈夫は大丈夫だけど、色々と面倒だからそれは却下で!」
「了解です!」
「まぁその方が安定はするもんね。……ところで、それなりに速度は上がってるけど、ケイさん操作は大丈夫?」
「あー、これくらいなら問題なし。ぶっちゃけ、変に自分で加速させるよりも操作は楽だな」
「そっか、それなら良かったよ」
操作系スキルは、操作によって急激に変化をさせる方が負荷は大きいからね。他の手段で移動速度を加速させたのなら、その速度を維持させる方が負担は少ないんだよな。
水流の操作とか元々に流れがあったりするのが前提の場合だと少し扱い方は変わってはくるけど、急激な変化が操作時間を減らすのは共通ではある。ま、影響が出てくるとしたら停止する時か。
「……操作の速度を一定にするのも、それはそれで難しい気もするかな?」
「そこは慣れだな! サヤもかなり苦手なのは解消してるんだし、そのうち出来るようになるって」
「まぁ、その辺もそのうち出来るように頑張るかな」
「おう、頑張れ!」
まぁサヤみたいに苦手な人の場合は操作時間の温存の余裕はないだろうし、逆に思ったままに加速させたりする方が楽かもね。あ、もしかするとそういう所が操作系スキルの得手不得手が分かれる理由なのかもしれないな。
「さて、ハーレさん、もう1回加速させるか!」
「どこまで加速出来るか、挑戦さー!」
「加速させるのはいいけど、前はちゃんと確認しておいてね?」
「ヨッシ、それは私達でやろう? 多分ケイとハーレはタイミングを合わせるのに集中しそうな予感がするかな」
「……あはは、それもそうだね」
あー、まぁさっきよりも速度が上がっているから、更なる加速をするにはタイミングを図るのが重要にはなってくるからなー。進行方向の警戒というか、様子のチェックの余裕はないかもしれない。ここはサヤとヨッシさんに任せるのが適任だね。
「無駄の少ない加速を目指すのさー!」
「それって大体俺の方の負担だけどな!?」
「ケイさん、ファイトです!」
「あー、やりますよっと! おし、加速開始!」
「了解なのさー! 『並列制御』『略:ウィンドボム』『略:風の操作』!」
よし、余計な事は考えずに即座に俺も発動していこうっと。
<行動値5と魔力値15消費して『土魔法Lv5:アースウォール』を発動します> 行動値 61/70(上限値使用:7): 魔力値 190/214
おっと、今度はさっきよりも上手くいったか? ……あー、タイミング的には良かったっぽいけど、移動速度が上がってるのが原因で、加速具合はさっきよりも控えめだな。
まぁ、これでもアルの全速より少し遅い程度の速度にはなってきてるし良いか。でも、これ以上の加速は……加速自体は出来るけど、今のままでは問題がありそうだ。
「なんとなくこの辺りが限界っぽい気がします!」
「俺も同感。というかこれ以上は風除けを作らないと乗ってるのがキツくなるな」
「あ、そっか。そのくらいの速度なんだね。でも、これだけの速度が出てたら問題ないんじゃない?」
「私もそう思うかな。もう雪山も見えてきてるしね」
「あ、意外と早かったか」
もっと時間がかかるかと思っていたけど、案外そうでもなかったようである。ふむふむ、この加速方法は3回も使えば現時点では充分っぽいね。これ以上の速度を求めるなら色々と他の工夫が必要になりそうだし……。
まぁ今のでもかなり移動に偏った使い方をしてるとは思うけど、何かに当たれば即座にアウトな移動操作制御を使っているという点を考えると、移動操作制御は無しでも同じくらいの速度が簡単に出せるアルの安定性には劣るか。
「ケイさん、雪山に入る前に氷結草茶を用意するから、手前で止まってもらえる?」
「あー、そういやそうだった。んじゃ減速していくか」
ヨッシさんの言う事ももっともなので、雪山に辿り着くまでに徐々に速度を落としていこう。あ、そういや移動操作制御には時間の制限はないから、無茶な減速をしても急ブレーキみたいになっても大丈夫ではあるのか。
あれ? よく考えたら、移動操作制御なら無茶な加速をしても操作時間が減る事もないんだし、今回の加速方法の意味なくね……? ……いやいやいや、移動操作制御を使える時ばかりとも限らないし無駄じゃないはず! うん、そうだよ! 決して無駄じゃないはず!
そんな風に自分に言い聞かせながら、とりあえず減速をしていく。……あ、そうか。今回の手段って、味方に限る必要はないんだ。
敵の攻撃の種類にもよるけど、敵の攻撃をあえて受け止めて推進力に変えて距離を取る手段としてもありだな。……その場合は体当たりと併用して、あえて後方にふっ飛ばされて、その先に水の防壁をクッション代わり生成して自分を受け止めるというのも――
「ケイさん、ストップ、ストップ! 雪山エリアまで行っちゃうから!」
「はっ!? すまん、ヨッシさん!」
ヨッシさんが慌てて声をかけてくれたお陰で、少し急ブレーキ気味にはなったけども雪山エリアに切り替わる前に止まる事が出来た。ふー、無駄な事をしてたという思考から、無駄にしない為の方法を考えるのに思いっきり脱線してたね。
このままの状態で雪山エリアに入っても即死する訳じゃないから大丈夫といえば大丈夫だけど、周りを確認せずに飛んでいたのは危ないな。……無駄な事をしたと思って、今のはちょっと動揺しすぎだった。ゲームなんだし、多少の無駄な事があってもいいじゃんか。
「ケイ、チャージが終わった状態から、吹っ飛んで突っ込んでいくのには使えないかな?」
「……サヤ、それは俺にチャージをしながら予め防壁を展開をしておいて、チャージが済んだら吹っ飛んで突っ込めという事か?」
「そうなるかな? でも、それなら無駄にはならないよね」
「……まぁ、確かに」
ふむ、確かにサヤの言う手段は魔法も物理もいける俺の手段としては結構ありだな。それにこれってチャージを行う際に、純粋に邪魔をされないように防御をしておくという使い方にも出来る。ふむ、割と無茶な事を言ってるようで、意外と理に適った手段では……って、ちょっと待ったー!?
「……どこから声に出てた?」
「今回の移動手段の意味がないって辺りからなのさー!」
「ほぼ全部筒抜けかい!」
あー、この癖はなんとかしようとは思っているけど、中々上手くいかないね……。普段は意識して少しは出ないようにはなってきたような気はするけど、単純に先読みされてたりしてその辺の実感も薄いし、さっきみたいな状況だとさっぱり駄目だな……。
「はい、ケイさん、氷結草茶をどうぞ。それを飲んで少し落ち着いてね」
「……ヨッシさん、サンキュー」
「いえいえ、どういたしまして。はい、サヤとハーレもね」
「ヨッシ、ありがとー!」
「ヨッシ、ありがとうかな」
とりあえずヨッシさんから受け取った氷結草茶を飲んで、一息ついておこう。ふー、スポーツ飲料の味だけど、なんだかホッとした気分。
自分で考えた案やさっきのサヤの案とかで活用方法はありそうだし、無駄になってはいないもんな。それにハーレさんのスキルの強化にも……って、あれ? 移動中に他にもする予定の事があったような……。
「そういえば、ヨッシさんの魔法砲撃の取得は……?」
「え? あっ、忘れてた……」
「そういえばそうだったのさー!?」
「……あはは、まぁあの移動の最中だったし、そうやって忘れる事もあるかな?」
確かにフーリエさん達の様子を見たり、何回かに分けて加速を繰り返したり、それで思った以上に早く辿り着いてしまったという事もあるから、みんな揃って忘れてても仕方なかったのかもしれないか。
「まぁ氷塊の操作を取る時の待ち時間ででも取得をやっていくから大丈夫だよ。それより桜花さんから頼まれた届け物もあるんだし、中立地点の灰の群集のとこに急ごう?」
「ま、それもそうだな」
忘れていた事を今更言っても仕方ないし、今はやる事もあるんだからそっちをやっていく方が建設的だよな。ヨッシさんの魔法砲撃については今すぐ必要って訳でもないしね。
「はっ!? 忘れていた事が他にもあったのを思い出したのです!」
「え、何か他にあったかな?」
「昨日のスイカなのさー!」
「「「あっ!」」」
そういえば昨日のフェルスさん達の依頼の報酬として貰ったスイカと、試食用に貰ったスイカがあったんだった。……試食用のを食べようと思っていたのに、完全に忘れてたな。それにしてもハーレさんが食べ物の事を忘れていたとは珍しい事もあるもんだね。




