第676話 預かった届け物
それじゃ夕方の予定も確定したし、手早くニーヴェア雪山まで移動して、急いでヨッシさんの氷塊の操作を取得していこう。
他の人達は俺らが今後の予定を立てている内にそれぞれの行動に移っていったようで、桜花さんの樹洞の中にはほんの数人しか残っていないようである。まぁ一斉に動く時の混雑は避けられたからちょうどいいか。
「チラッと聞こえたんだが、ケイさん達は雪山の方に行くのか?」
「おう、そうだぞ」
「なら丁度いいか。ちょっと頼まれ事を引き受けてくれねぇか?」
「ん? どんな内容?」
桜花さんからの頼み事なら断る理由もないからここは引き受けておいても良いとは思うけど、流石に内容は聞いておかないとね。無茶振りをしてくる事はないと思うけど、一応念の為。
「強化済みの瘴気石を灰のサファリ同盟の雪山支部に届けて欲しくてな。後でメジロで持って行こうかと思ってたんだが、ついでに頼めないか?」
「それくらいなら別にいいぞ」
「おし、サンキューな! えーと、流石に運んで貰って何もなしは駄目だから、何か欲しいものはあるか?」
「……欲しいものか。みんな、何かある?」
俺としては特に思いつくものもないんだけど、みんなに欲しいものがあればそっちを優先していけば良い。回復アイテムについては基本的に足りてるしなー。
「はい! あったらで良いんだけど、投擲用の竹串が欲しいです!」
「おっ、例の試しに作ってみたって竹串か。今は20本くらいしかないがそれでいいか?」
「それくらいあれば、とりあえずは充分です!」
「で、投擲メインのハーレさんとしては使用感はどんなもんよ?」
「普通の投擲には向かないけど、狙撃系には使えそうです! 毒でも塗れたら良い気もするのさー!」
「ほうほう、そりゃ良い情報だ。……毒を持たせた加工については、灰のサファリ同盟かモンスターズ・サバイバルの方に話を持っていくか」
ふむふむ、竹串に毒を塗るって感じか。……出来るかどうか分からないけど、ヨッシさんの毒を投げる前の竹串に塗っておくとかって出来るのかな?
ちょっとこれは後で試してみるのもありかもしれない。もし可能なら、遠距離狙撃からの毒の付与が可能という事にもなるしね。
「桜花さん、その辺りはお願いねー! あ、勝手に決めちゃったけどみんな、これで良いですか!?」
「私は特に必要な物はないから、大丈夫かな」
「ハーレの場合、弾は消耗品だからね。回復アイテムは足りてるし、問題はないよ」
「それもそだな。って事で、桜花さん、そういう感じでよろしく!」
「あいよ! 瘴気石はケイさん、竹串はハーレさんに渡しとけばいいか?」
「それでいいぞ」
「なのですさー!」
「ほいよっと。んじゃこれな」
そうして、俺は瘴気石を、ハーレさんは竹串を受け取っていく。おっと、瘴気石の数が思った以上に結構あるな。そんなに雪山で瘴気石を使う……って、これから取りに行く氷塊の操作の取得にフィールドボスの討伐称号を使う事もあるって言ってたし、その為の瘴気石か!
でも、それなら雪山の中立地点で作れば良いだけのような気もするんだけど、その辺はどうなってるんだろ? ちょっと気になるし、聞いておこうっと。
「なぁ、桜花さん、瘴気石の強化は中立地点ではやってないのか?」
「それについては全くしてないって訳ではないんだが、あそこの不動種は人数が少ないのと氷属性が必須だからな。現時点では慢性的な人手不足だから、あちこちで作ってるのを持ち込んでるんだよ」
「あー、なるほどね」
確かに言われてみれば、雪山の中立地点は特殊な環境だから不動種の人も限られてくるんだね。だからこそ、今みたいに桜花さんとかがこっちで強化した瘴気石を持ち込んでいる訳か。
「それって、雪山エリアから仕入れているアイテムもあるのかな?」
「おう、もちろんあるぜ。大体は氷や雪とかだが、加工済みのかき氷とかも仕入れてるからな」
「おー!? 桜花さんのとこにもかき氷は取り扱ってるんだー!?」
「まぁな。つっても、数は多くはないから数が欲しけりゃ雪山に行くのが確実だぜ」
ふむふむ、つまり桜花さんのところで全てが満足するだけの数は手に入らないって事だな。まぁ、この辺は仕方ないんだろうね。
「よし、それじゃ灰のサファリ同盟の雪山支部に瘴気石を届けて、ヨッシさんの氷塊の操作を取りに行くぞー!」
「「「おー!」」」
「頼んだぜ、ケイさん達!」
そうして少し予定が増えたものの、雪山の中立地点へ移動する準備は整った。とりあえずみんなでサクッとPTを組んでから、桜花さんの樹洞から出てっと。さて、今は水のカーペットを展開中だけど、移動はどうしよう?
出来れば移動時間を短縮したいけど、何か手段はあるかな? ……魔法砲撃にしたウォーターフォールでの放水の勢いで強引に行くか?
うーん、推進力を受ける側がちゃんと用意出来ないとそれはちょっと厳しいか。ヨッシさんのアイスウォールという手段もあるけど、それよりは安定した移動も出来ていたハーレさんの風の操作の方が良いかもね。
「ヨッシさん、ハーレさん、2人で推進力をやってみない? ほら、この前やったやつ」
「おー! あれだねー!」
「え、この前のってどれかな?」
「……ハーレが入っているなら昇華魔法ではないよね?」
「……あ、そういやあれは6時台で俺とハーレさんの2人だったっけ」
しまった、ついみんなが知っている前提で話してしまったけど、ハーレさんの鍛えた手動操作にしたウィンドボムでの推進力はサヤとヨッシさんは知らなかったんだな。こういう情報共有の忘れは気をつけないと……。
「えーと、簡単に説明するとヨッシさんのアイスウォールを展開して、そこにハーレさんの指向性を変えたウィンドボムで押し出すような感じだな」
「……ケイさん、それは多分無理だよ」
「え、何か問題あった?」
「私のアイスウォールだと、魔法砲撃の効果がないから勢いに合わせての移動は無理だね……」
「……あ、そういやそうか」
そういやヨッシさんは魔法砲撃を持ってないから、俺がやった事の代わりが出来ないか。通常発動の防壁魔法だと、魔法砲撃にした防壁魔法とは違って発動したキャラまで一緒には動かないもんな。これはちょっと失念してたね。
「それなら、ヨッシも魔法砲撃を取れば解決じゃないかな?」
「……その手もあるにはあるね。えっと、魔法砲撃の取り方ってなんだっけ?」
「キャラの身体のどこかの部位を使って狙いをつけて、魔法を50回発動だったかな?」
「付与魔法だと魔法砲撃での性質も変わるんだし、取っておいて損はないよね。ケイさん、移動中に取得を狙ってみるから今日の移動は任せてもいい?」
「おう、問題無しだぞ」
「それなら私が周囲の警戒かな?」
「サヤに任せるよ。まぁ魔法は使うから、敵がいれば私も攻撃するけどね」
「うん、分かったかな!」
とりあえず移動中の敵への警戒に関してはサヤとヨッシさんに任せて良さそうだ。まぁ今のハイルング高原なら、成熟体と遭遇しない限りは早々危険もないとは思うけど。
さて、それじゃ俺とハーレさんの2人で推進力を用意していく訳だけど、やっぱりちょっと改良はしたいんだよなー。前回やった時は単発で初速の加速をしたんだけど、連発してみるってのはどうなんだろう?
「ハーレさん、この前のを連発っていけるか?」
「ケイさんが土の防壁を後から展開してくれれば、いけると思います!」
「……耐久値が残ってる分は展開したままじゃ駄目なのか?」
「それだとウィンドボムの生成する位置が視認出来ないのさー!?」
「あー、そういう問題……」
確かに操作した後なら見えなくても問題はないけど、生成する時にはその位置が見えてないと駄目だもんな。うーむ、土の防壁は視界を塞ぐから、それが大問題か。
氷の防壁なら透けて見えるからその辺は大丈夫なんだろうか? これも試してみないと分からないやつだね。……よし、氷の防壁についてはヨッシさんが魔法砲撃を取得してから試すとしよう。
「よし、それじゃ俺も再発動しながらやっていくから、どんどん加速させていくか」
「おー!」
「そのうち、サヤとハーレさんの2人体制でアルの推進力にもしていくぞ」
「ケイはそんな事を予定してたのかな!?」
「え、いやただの思いつきで言っただけ。正直、多分やる意味はあまりないし」
「アルさんは既に早いもんねー!」
「……あはは、でも実際に出来そうではあるよね」
受け止める側さえちゃんと固定してしまえば、爆発だろうが暴風だろうが推進力に変えられる事は実体験済みだしね。
ハーレさんの言うようにアル自身が既に単独で早いから、出来たとしてもあんまり意味はなさそうなんだよな。もしやるとしたら、昨日の超加速とかでないと効果が薄いだろう。まぁ、今はそれを考えても仕方ないので、さっさと移動を始めようか。
<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 75/75 → 75/77
とりあえず今回の移動には水のカーペットは不適格なので一旦解除。速度としてはとんでもない速度は想定していないから、風除けも今回は必要ないだろう。
<行動値上限を1使用して『魔法砲撃Lv1』を発動します> 行動値 75/77 → 75/76(上限値使用:1)
そして今回は必須な魔法砲撃を発動っと。次は土台となる岩だけど、俺とハーレさんは固定した方が良いとして、サヤとヨッシさんはどうしようか?
「サヤ、ヨッシさん、岩で固定はした方が良いか?」
「固定は無くても良いけど、咄嗟に掴まれるような出っ張りくらいは欲しいかな?」
「私はサヤにしがみついておくから大丈夫だよ」
「ほいよっと。ハーレさんは固定で良いよな?」
「リスが座れるような椅子をお願いします!」
「よし、拷問や拘束用の椅子っぽいのにしとくか」
「あぅ!? そこは普通の椅子でー!?」
ま、流石に今のは冗談だけどね。えーと、進行方向を考えると設置方向を間違えたら加速の際に落下する可能性もあるから、その辺も考慮して……。
「向きは前面にしないと勢いで落ちるから前面にするけど、発動時に見にくくなるけどそれは良いか?」
「問題なしなのさー! こうするのです!」
「……なるほど、クラゲの向きを変えるのか」
帽子のように被っているクラゲの向きを180度変えて、後方へと視点を切り替えたようである。うん、その手があったな。
さて要望としてはハーレさんが座れるような椅子を作り、サヤが咄嗟にバランスを保てるように掴まれるところがあれば良いんだな。……ふむ、よし、こうしていくか。
<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 75/76 → 70/70(上限値使用:7)
まずは俺のロブスターを覆うように岩の鎧を形成し、その周囲にサヤが多少動ける広さの平坦な岩を生成。その後に俺のロブスターの背中の上にハーレさんが座れるようにしつつ、椅子の前面にコケを増殖させて核を移動させておく。これでロブスターは後方を向いているけど、コケに視点を切り替えれば前方の視界も確保出来るね。
ついでに椅子の背もたれ部分を少し高めにしたので、これでサヤのバランスを崩した場合の対応も大丈夫だろう。
「よし、完成!」
「……なんだか、古い神殿の玉座みたいな感じかな?」
「言われてみればそんな感じだね」
「それなら私が王様なのさー!」
「あー、まぁそんな感じではあるよな。……どうせなら、周囲を囲むように柱でも立てとく?」
「欲しいです!」
「ハーレ、それは邪魔になるから却下ね」
「あぅ!? ヨッシに却下されたー!?」
まぁ冗談で言っただけなんだけど、普通に考えたら邪魔なだけだもんな。ハーレさんもノリで言っただけで本気ではなさそうな感じだし、普通に柱は却下だね。
「それじゃみんな、乗ってくれ」
「はーい!」
「サヤ、肩の上に乗らせてね」
「うん、分かったかな」
そうして、ハーレさんは椅子に座り、サヤは椅子の背もたれに手をかけて、ヨッシさんはクマの肩……というよりはクマの首回りにいる竜の上に乗ってる感じだな。
さて、これで移動準備は完了……でもないや。地上付近で展開したから、上空へと飛んでいき森の上へと移動していく。
「お、何か森の上を飛んでる人も増えてきてるな」
「そりゃ、色々飛行手段も増えてるしね」
「まぁそうだよな」
俺らが早い段階で飛び回ってたとはいえ、基本的に俺らが可能な事は誰でも実行は可能なんだしね。今見ているように、空飛ぶサメや、空飛ぶカメや、羽根の生えたキツネや、岩の上に乗っている木や、気球みたいになっているクラゲが飛んでいる光景は不思議なものでもないだろう。
「さてと、他の人にぶつからないように気をつけながら進んでいくか。いくぞ、ハーレさん!」
「了解です! 『並列制御』『略:ウィンドボム』『略:風の操作』!」
俺のロブスターの前方にハーレさんによって風の弾が生成され、今にも爆発するという状況である。これを受けて推進力に変えるのは俺の役目だな。
<行動値5と魔力値15消費して『土魔法Lv5:アースウォール』を発動します> 行動値 65/70(上限値使用:7): 魔力値 199/214
即座に魔法砲撃にして……これを受けるのならバランスを考えるなら中央部が良いか。って事で起点はロブスターの口に指定して、ウィンドボムに向けて発射!
すぐに着弾してアースウォールが展開され、そこに指向性を操作した爆風がぶつかっていく。そして魔法砲撃によってアースウォールの位置が固定されているから、その爆発の勢いは俺を前方に吹き飛ばすように推進力へと変わっていく。そして即座にアースウォールは解除。
「ニーヴェア雪山へ、レッツゴー!」
「って、椅子に座ってないんかい!」
ウィンドボムの効果が切れて、初速の加速に成功した段階でハーレさんは椅子には座らずに、椅子の上で仁王立ちしていた。……うん、まぁ落ちなきゃ別に良いけどさ。
さて、それじゃ合間で何度か加速させながらニーヴェア雪山まで飛んでいこう。アルがいない時でも、色々と工夫すればこうやって飛んでいけるものだね。まぁアルがいる時が一番安定してるとは思うけど。




