第675話 ベスタと蒼弦の対決 後編
それからしばらくはベスタも蒼弦さんも行動値の回復をしながらも、お互いに位置を探り合いながら小規模な衝突が何度か続いていた。現時点で蒼弦さんの残りHPが4割、ベスタの残りHPが5割ってとこか。
どうにもお互いに回避力が高くて、攻撃を当てる事そのものに難儀している感じがする。でも、やっぱり優勢なのはベスタっぽいな。
そして今の戦闘の場所は、川からは離れた森の中であった。蒼弦さんは木の枝を飛び移りながら移動し、ベスタは地面からそれを追いかけていく形になっている。
「これでどうだ! 『並列制御』『アイスニードル』『アイスニードル』!」
「その程度が当たるものか。『高速疾走』『アースクリエイト』『並列制御』『爪刃双閃舞・風』『土の操作』!」
「ちっ、やっぱりこの程度じゃどうにもならないか! 『アイスボム』!」
「ふん!」
おー、空中を駆けながら蒼弦さんがアイスニードルを6発同時発射し、それをベスタが小石を3個生成して足場にしつつ緑色を帯びた銀光を放つ爪で切り落としていた。
その直後に蒼弦さんが追撃としてアイスボムを放つが、3個の小石を上手く飛び移りながらベスタは回避していた。それとほぼ同時に連撃数を稼いで眩い銀光になったベスタの爪が、蒼弦さんに襲いかかっていく。
「おっと!? 『アイスウォール』!」
「甘い!」
「げっ、マジかよ!? 『飛翔疾走』!」
「とか言いつつ、避けれるんだな? 『強打尾・風』!」
「ぐっ!」
ほほう、ベスタが蒼弦さんの展開したアイスウォールの外周へと小石を移動させ、そこに移動していく事で内側へと回り込んだね。でも、即座にアイスウォールを解除して銀光に輝く爪を回避したのはナイスだぞ、蒼弦さん!
でも、すぐに小石を移動させ、小石を解除して追撃へと切り替えたベスタも凄いな。縦方向に全身を回転させつつ上から振り落とすようにして放たれたベスタの尾による一撃は蒼弦さんに思いっきり決まって、地面に叩きつけられていく。
うわー、風の追撃効果でふっ飛ばす勢いも増していて、地面に亀裂が入ってるな。銀光はなかったから通常スキルなんだろうけど、すげぇ威力。
「蒼弦さんは押されてるな。……やっぱりバランス型っぽいから?」
「多分そうだと思うかな。物理攻撃の威力がかなり違うよね」
「だよなー」
やっぱりどうしてもバランス型は全体的にステータスが控えめになるから、特化している物理型や魔法型に比べるとそういう所が弱くなるんだろう。その代わりバランス型は明確な弱点がないというのが利点ではあるんだけど、流石にベスタ相手だとキツいよね。
「あー、やっぱりリーダーは強いな」
「なんだ、もう諦めたのか、蒼弦?」
「いやー、諦める気は欠片もないんだがな! 『並列制御』『アイスクリエイト』『アイスクリエイト』!」
「同じ手が通じるとでも? 『強爪撃・風』!」
お、蒼弦さんがまたダイヤモンドダストを使ったけど……さっきまで魔法を撃ちまくっていたから、規模がショボいな。今回は効果範囲に入ることもなく、ベスタが一気に距離を詰めていく。……いや、いくらなんでも今の蒼弦さんの攻撃は露骨に隙だらけなような?
「貰った! 『並列制御』『激突硬連衝』『強硬牙』!」
「仕留めたと思って油断したな? 『スリップ』!」
「んな!?」
ベスタが突っ込んで攻撃したのをあえて受けて、蒼弦さんがベスタに噛み付いて応用スキル……多分連撃系の突撃スキルを使おうとしたけど、スリップで噛み付く寸前に滑らされたっぽい。あー、地味に角度も変えて、より噛み付かれにくくしてもいたっぽいな。
「『連閃・風』!」
「ぐはっ!」
そして空振りに終わってバランスを崩した蒼弦さんに向けて、ベスタが銀光を放つ連続斬りで一気にHPを削り取っていく。
おー、蒼弦さんの残りHPが1割まで減ったけど、連撃が終わると同時にすぐに体勢を立て直していた。っていうか、地味に連撃の突撃銀光が強まってたから、攻撃をされつつも連撃の対象部位で受けるようにして相殺しつつ、ダメージを抑えていたっぽいね。……それがなければ今のベスタの連撃で終わってたか。
「くっそ! 行動値が足りねぇ!」
「だから、どうした? 1対1ならそれはお互い様だ」
「……そりゃそうだ。だったら、通常攻撃で尋常に勝負!」
「……良いだろう!」
その宣言の直後に両者共に魔力集中効果が切れていた。……意外とそれなりに時間は経ってたんだな。そこからはもうスキルも何も関係ない攻撃の応酬が……って、ここは明確にプレイヤースキルに差が出てるな。
「……分かってた事だけど、確実にプレイヤースキルはベスタの方が上だよな」
「……あはは、確かにそれはそうかな?」
「でも、私は近接だと蒼弦さんにも勝てる気はしません!」
「私もハーレと同感だね」
「まぁ、どう見てもベスタのプレイヤースキルが高過ぎるだけだもんな」
蒼弦さんの通常攻撃も決して低い水準じゃないし、爪による攻撃だけでなく、頭突きや噛み付き、体当たりや、尻尾での薙ぎ払いなど色々な事をしてはいる。まぁそれはベスタも同様で、最小限の動きで回避しつつ、相手のバランスを崩すようにしたり、相手の勢いを利用する形で近くの木へと叩きつけたりしている。
うーん、俺も近接で対抗する為の手札は増やしていってるとこだけど、この光景を見ると根本的に近接で戦わないようにするのが最重要な気がしてきた。
「このっ!」
「攻撃は鋭いが足元が留守だぞ」
「おわっ!? ぐへっ!」
おー、前脚の爪で斬りかかろうと飛びかかった蒼弦さんの方へと距離を詰めたベスタが、その身を翻して尻尾で蒼弦さんの腹部から後ろ脚の部分にかけて薙ぎ払って、地面へとひっくり返していた。
その攻撃でもう蒼弦さんのHPは僅かしか残っていない。……かなり奮闘したとは思うけど、やっぱりベスタの強さは別格だな。
「さて、蒼弦。何か言い残す事はあるか?」
「ははっ! やっぱり強いな、リーダー! なぁ改めてオオカミ組の――」
「その話は二度としない話だったはずだが?」
「ぐへ……。容赦ねぇ……な!」
そんな言葉を最後に、蒼弦さんはベスタに踏み潰されてHPが無くなっていった。……うん、その最後の言葉さえなければ負けたものの大奮闘をしたと文句なしに言えるのに、最後の最後で台無しだよ!
「蒼弦って、まだオオカミ組のボスにリーダーを狙ってたんだな?」
「折角良い勝負だったのに、最後の最後がなんか残念だったなー」
「いやいや、あれでこそ蒼弦だろ!」
「だなー! 盛り上げるとこはとことん盛り上げるのに、大事なとこで台無しにするってのはいつもの事だし」
「オオカミ組が揃ってれば、最近はその辺のフォローはしてるんだけどね」
「そういやそうだっけか? オオカミ組は基本的に複数人で動いてるし、その辺は知らなかった」
「蒼弦はあれだぞ。割と頻繁にオオカミ組のボスの解任要求を出されるけど、再選出になったら実力で毎回ボスの座を取り直しているからな」
「……ツッコめばいいのか、称賛すればいいのか、判断に困るな、それ」
「オオカミ組の一番の謎だそうだぞ」
「ある意味、オオカミ組の定番イベントになってる気がするな」
「実際、そうなってるって聞いたな。別に本気で嫌われてる訳じゃないってよ」
「……まぁ本気で嫌われてたら、あのオオカミ組が成立してる訳もないか」
「それは確かにねー!」
ふむふむ、俺らが見た際にもオオカミ組の他のメンバーに解任要求を出される事があったけど、あれってまだあるんだな。とはいえ、ギャラリーの人の誰かが言ってたように本当に嫌われているって事はないんだろう。
不定期にボスの座の争奪戦が行われる共同体というのも、ある意味では面白いのかもね。まぁ真似しようとは思わないけども……。
おっと、そうしている間に中継画面には『勝者:ベスタ』と表示がされて、模擬戦は完全に終了になったね。ふむふむ、ベスタと蒼弦さんが向かい合っている状態になってるな。
「……最後まで言わせてくれないのは酷くねぇ?」
「知るか!」
そこまで発言した所で中継の画面が消えていった。これで完全にこの模擬戦は終了になったんだな。
「おし、これで中継は終わりだ! 悪いが、色々と取引やアイテムの加工もあるから今は中継はここまでだからな」
「分かってるって、桜花!」
「さてと、対戦の前に話が出てた海エリアの行方不明のフィールドボスの捜索とやらに行きますか」
「え、何それ?」
「詳細プリーズ!」
「あー、リーダーと蒼弦の対戦の開始のちょっと前にそういう話が情報共有板に出ててな? 捜索を手伝ってくれって要請があったんだよ」
「うわー、それはタイミングが悪過ぎる……」
「海エリアの人達で人手は足りなかったの?」
「海エリアの人達も、結構な割合で今の対戦を見てたはずだぞ? 人手が欲しいのに、全然人が集まらないって言ってたからな」
「あ、そうなんだ?」
「ん? 森林深部ってか、エンでの模擬戦の中継って他の初期エリアでも見れるのか?」
「……そういえば気にした事はなかった気がする。桜花さん、その辺ってどうなってるの?」
あ、それについては俺もちょっと気になったやつだな。多分出来るんだろうけど、確定情報として知っておきたいよね。って事で、質問したイノシシの人、ナイス!
「それについては、同じ群集の群集拠点種ならどこでも問題なく中継出来るようになってるぞ。ただ、同じエリアの方が知り合いが多いって都合上、同じエリアのに偏りやすくはなるけどな」
「回答ありがと、桜花さん!」
「なに、良いってことよ!」
ふむふむ、そういう事ならどこの初期エリアの群集拠点種で行われている模擬戦でも中継が可能な不動種の人がいればどこでも見れるんだな。
まぁ見たい模擬戦を中継してもらえるかはその不動種の人次第だろうし、桜花さんが言っていたように同じエリアで知り合いが多い方が優先されるのも当然ではあるか。……俺らの場合なら、桜花さんの都合さえ良ければ桜花さんに頼むのが良いんだろうね。
「おっし、海エリアの増援に行くやつは着いてこい!」
「「「「おう!」」」」
「とりあえず情報共有板で、現状確認もしないとね」
「あ、それもそうだな」
「桜花さん、海属性の進化の軌跡を下さいな」
「あ、俺も頼む!」
「あいよ!」
そうして海エリアの増援に行く人達は話し合いを始めたり、既に出発したり、準備の為に桜花さんと取引を始めたりしている。
さて、俺らはどうしようか……? 海エリアでフィールドボスの誕生させられるエリアって1ヶ所も行ってないから、アルがいないなら却下だよなぁ……。
「やっぱりアルがいないから、この件は参加は無しだな」
「はい!」
「ん? どうした、ハーレさん?」
「そもそもどういう話なのかがよく分かりません!」
「同じくかな」
「うん、私もだね」
「あ、そういやみんなはまだログインしてなかったっけ……」
この情報についてはみんながログインしてくる前に、情報共有板で確認した内容だもんな。さっきの他の人達の会話で少しは情報が分かったかもしれないけど、俺はその場を見てたんだしちゃんと説明をしておくか。
「それじゃ軽く説明しておくよ。とりあえず情報の大本は――」
そうして簡単にだけど、みんなに俺の知っている範囲の情報を伝えていった。まぁこれから行くのはほぼ確実に無しだろうけど、伝えておく事は伝えておかないとね。
「おー! Lv20の黒の暴走種のフィールドボスが誕生させられたんだー!?」
「それって結構な進歩じゃないかな?」
「そうだと思うぞ。まぁアルが居ないから、今行くのは無しだと思ってるんだけど」
「それは私も同意。まだ行った事のないエリアは、みんなで一緒にだもんね」
「もちろんなのさー!」
「私もそれに賛成かな」
うん、やっぱりこの辺の行動方針はみんなの共通認識だな。でももし仮に夜になって、青の群集の森林エリアへと辿り着いた後でも、まだ見つかっていないとかになれば行ってみても良いかもね。まぁ、その可能性は低いとは思うけど……。
「ところで、黒の暴走種で逃げるフィールドボスって少し似たようなのに心当たりがあるのは気のせいかな?」
「……似たようなフィールドボス? サヤ、何を……いや、待て? あー!? あの岩山のドラゴンか!」
「そういえばそうなのさー!?」
「似ているといえば、似ているね。でも特性が逃亡と警戒じゃ違いはあるんじゃない?」
「んー、ヨッシさんのその意見も確かにそうなんだけど……ま、すぐに行ける訳じゃないし、大勢が増援に行ったし、今は気にしなくても良いだろ」
「……それもそうだね」
もし気にするとしても、実際にあの岩山のドラゴンのような事態になってからでも良いだろうしね。そもそも大勢が向かっていってるんだし、俺らだけが考えないといけない事ではないからな。
「って事で、俺はヨッシさんの氷塊の操作を取りに行くのを提案する!」
「おー! 私は賛成です!」
「同じく賛成かな!」
「え、2日続けて、私のスキル取得を優先で良いの?」
「それについては問題なし!」
「もちろんさー!」
「私達は急ぎで取る必要があるものもないし、取れるのがあるのならそれを優先かな!」
「……そういう事なら、お願いするね」
「任せとけ! んじゃ、とりあえずの目標はニーヴェア雪山で!」
「「「おー!」」」
現在時刻はまだ5時にはなっていないし、サヤとヨッシさんが晩飯でログアウトする6時までには何とか間に合うだろ。後は氷塊の操作の取得は順番待ちになっているとは言っていたから、その混雑状況次第にはなるか。……時間に余裕があれば全員で取っておきたいとこだけど、流石に厳しいかな?




