第667話 そろそろ次の場所へ
思った以上に勝ち誇っているジェイさんだけど……って、あれ? よく考えたら、この勝負を始めて2番目に見つけたのってジェイさんなんじゃ?
あー、割と適当にルールを決めたから、見つけた順なのか、獲得した順なのかがごちゃまぜになってるな。うーん、まぁお遊び勝負だし、別にそれで良いか。
「……はて、よく考えたら勝負が始まってから見つけた順番でいえば、私はサヤさんの次だったような……?」
「はっ!? そういえばそうだったような気がします!」
「……そうだっけ?」
「確かに俺が持ってるやつは、ジェイが見つけたやつだぜ」
「えっと、確かにそれもそうかな?」
「あー、見つけた人と、実際に手に入れた人が違うから、ややこしい事になってんのか。ケイ、その辺はどうする?」
あらま、そのまま有耶無耶で終わらせようかと思ったけど、みんなが気付いちゃったか。うーん、ちゃんと見つけた順で考えるなら……えーと、まず勝負の前に俺とハーレさんが見つけてて、勝負を始めてからサヤ、ジェイさん、アルの順番か? あ、その後にハーレさんが発見してるな。
つまり発見を条件とした勝負としては、まだ俺とヨッシさんと斬雨さんはまだ見つけていないという事にはなる。うん、もう1順するだけの個数が見つけられるとも思えないな。
「……ぶっちゃけ、これ以上やる意味ってないんじゃ?」
「確かにそれもそうですね。そろそろ氷樹の森も抜けますし」
「……え、マジで?」
それならどっちにしても勝負は氷樹の森を抜けるまでって内容だったし、これ以上続ける意味もないか。っていうか、いつの間にやら抜ける寸前までやってきてたんだな。
自分達の近くを優先して見ていたから気付かなかったけど、進行方向の南の方を光で照らしてみれば木々が途絶え始めている。うーん、暗いから遠くは見渡しにくくなってるとはいえ、これについてはもう少し早めに自分で気付くべきだったか。
「よし、それなら今の段階で勝負は終了って事で! 氷樹の森を出てから、もし黒い破片を見つけたら発見順のサヤ、ジェイさん、アル、ハーレさんの順で手に入れて、それ以上見つかればその時に相談って事で!」
「まぁそれが妥当なとこでしょうね。皆さん、それでいかがですか?」
「問題ねぇぜ、ジェイ!」
「みんな1個は手に入れたし、問題なしさー!」
「ハーレさんに同意かな」
「なんだかんだで、みんな1個は手に入れてるもんね」
「確かにそうだな。俺もそれで良いぞ」
「よし、それじゃそういう事で決定!」
特に反対意見も出ずにあっさりと纏まったね。まぁ全員の順位を決める為に、氷樹の森で残り何個あるかも分からない黒い破片を探すのは完全に無駄な時間だもんな。
そういや結構じっくりと探しながら移動してたけど、今って何時……あ、もう11時を過ぎてる。ちょっと氷樹の森で時間をかけ過ぎたかも……。
「ジェイさん、ちょっと質問!」
「この先に発見済みの光る方の進化記憶の結晶があるかどうかですか?」
「なんでわかるんだよ!?」
今、質問しようとした内容については絶対に声には出してないと思うんだけど!? またハサミを変な動かし方でもしてたかなぁ……。
「いえいえ、今のはともかく、先程のは声にも癖も出てはいませんでしたよ?」
「今のは出てたんかい!」
くっそ、今のは思いっきり油断した……。ふー、とりあえず気持ちを落ち着けて冷静に……よし、ちょっと落ち着いた。
「で、実際のところ、ジェイはさっきのはどうやって見抜いたんだ?」
「単純な話ですよ、斬雨。既に調査が終わっていて発見済みの光っている方があるのなら、近くに他の進化記憶の結晶がある可能性は低いという判断でしょう? 黒い破片の方であれば拾える可能性はありますが、そちらなら今日はスルーして一気に進んでしまおうという目論見ですよね」
「……見事に大正解。俺の心でも読んでるの、ジェイさん?」
「……それが出来れば色々とありがたいんですけどね。ただ単に、さっきの状況で私がケイさんの立場なら何を聞くかという想定をしたまでですよ」
「……なるほどねー」
それでも十分過ぎるほど厄介な気はするけど、まぁ俺でもそういう相手の行動を自分に当てはめて考える事はする時もあるし、人の事は言えないか。
「それでジェイさん、光る進化記憶の結晶はあるのかな?」
「ここに向けて出発する前に、道中にあると言いませんでしたっけ? てっきり、具体的な位置を聞いてきているのかと思ったのですが……」
「あ……、そういえばそうだったかな?」
「……完全に忘れてた」
しまったな。聞いていた筈なのに、完全に失念していた。まぁ、サヤも忘れていたみたいだし、他のみんなも何も言ってこないところからすると、みんなも忘れてたな?
「……まぁ慌ただしかったですから、仕方ありませんけどもね。それでそちらには寄りますか?」
「ケイ、せっかく近くを通るのなら確認するだけはしとこうぜ」
「ま、それもそうだな」
もし道中にあるその光る進化記憶の結晶のところで、その力が宿った一般生物の確保が出来そうならすればいいし、無理ならそのままスルーでも良い。とりあえず今重要なのは、途中で念入りに探索をするのを省けそうなとこだろう。
まぁ本当ならじっくりと探索しながら進みたかったけど時間的に厳しい感じになってきたし、流石に明日には青の群集の森林エリアに行ける状態にはしておきたい。
「アル、全力で高速移動をしていくか!」
「おっ、いいぜ!」
「へぇ、そりゃ興味あるな?」
「そうですね。確かに気になるところではありますし、是非とも見せていただきたいところです」
あ、ここでアルの全速力の移動を見せると、もれなくジェイさんによる分析も付いてくるのか……。うーん、流石にアルの現状での最速モードを青の群集には見せたくない……。
かと言って、かなりの速度を出すとなるとそれ相応の手段を……あ、良い事を思いついた。俺らだけの手段で完結させるとあれだけど、折角だしジェイさんの手札も使わせて今だけの連携プレイにしてしまおう。
さてとそう考えたのは良いけど、流石にそのまま口には出せないな。よし、こういう時こそ内緒話に最適な共同体のチャット機能を使うべし! 地味に便利だよね、このチャット機能。
ケイ : 内緒話タイーム!
アルマース : 今度は何を思いついたんだ、ケイ?
ハーレ : どんな内緒話ー!?
ケイ : 流石にアルが自力で出来る今の全力の移動は見せたくないじゃん?
サヤ : 確かに、それはそうかな……?
ヨッシ : そういう言い方をするって事は、ケイさんに何か代案があるの?
ケイ : おうともさ! その辺をジェイさんと交渉するから、適度に口裏合わせをよろしく!
アルマース : そういう事なら、俺が一番気を付けておくべきか。
ハーレ : アルさん、がんばー!
よし、とりあえずこれで口裏合わせをする事は決定。隠したいのはアルのみでほぼ完結が可能という部分だから、その辺を伏せつつジェイさんに協力を求める形にすればいい。
「それでアルの高速移動なんだけど、流石にまだ単独では成立してなくてさ?」
「……おや、そうなのですか? 昨日、上風の丘で盛大な勢いで飛んでいたと聞きましたが」
「あー、うん、まぁそれは他の人の手伝いもあってな?」
「……まぁ、今回はそういう事にしておいてあげましょう。それで私に何を手伝えという事でしょうか?」
うげっ、これって完全にバレてんじゃん!? くっ、昨日の上風の丘での移動だけなら誰かの名前を付け加えて誤魔化す事も出来るけど、その後にジャックさん達とも会ってるから誤魔化しきれないか……。
でもまぁ無理に追求をしてくる気はないみたいだから、そこは感謝しておこう。……ただし、そう思わせておいて不意に情報を狙ってくる可能性もあるので要警戒だな。
「思いつきではあるんだけど、スチームエクスプロージョンを推進力に使う」
「はい!? え、それは正気ですか!? 吹っ飛ぶだけですよ!?」
「……昇華魔法で推進力って、あれだよね……」
「……あはは、確かにあれかな」
「あれ、凄い勢いで楽しかったよねー!」
「……あー、話だけは聞いてるけど、あれか」
「実際に昇華魔法を推進力にした事があるのですか!? ……いえ、そういえば確か変な目撃情報もありましたっけ。あれはケイさんでしたか……」
うん、まぁ、あると言えばあるんだよね。夕方の事だったからアルはいなかったけど、ダイクさんとレナさんと一緒にデンキウナギを捕獲しに行って称号の『理不尽な襲撃』を取った時にやったもんな。
「魔法砲撃にした風の昇華魔法だったけど、速かったぞ!」
「……相変わらずとんでもない事をしますね。……ちょっと待ってください、魔法砲撃での昇華魔法だったなら単独発動でしょう!? 2人での発動では大丈夫なのですか!?」
「あー、うん。やった事はないから、正直分からん!」
「んな!? 無茶を言いますね!」
「あっはっは! 良いじゃねぇか、ジェイ!」
「……そうやって斬雨は楽観的に考えますが、巻き込んだらどうするのですか!?」
「その時はその時じゃねぇの? どう考えても、それで文句を言ってりゃ灰の群集には勝てねぇぜ?」
「それはそうですが!? ……いえ、分かりました。その案、賛成しますよ」
おっと、雰囲気的に反対で押し切られるかと思ったけど、斬雨さんの言葉を聞いて意外とあっさり意見を覆したね。……これはちょっと何かをしくじったか?
いや、でも青の群集も強くなってくれないと張り合いがないもんな。問題連中が居なくなって前よりは着実に強くはなってるとは思うんだけどね。
そういや青の群集の中継の権利を手に入れたんだし、目的地に辿り着いたら赤の群集と青の群集の対決の様子でも中継してみたいとこだ。アルと桜花さんが揃えば中継は出来るし、対戦カードの調整は顔の広いレナさんに相談するのも良いだろう。
まぁそれらについては明日以降って事にはなるから、今日は出来るだけ近くに行く事を考えようか。……ふっふっふ、尚更この無茶な手段を試す必要があるね!
「んじゃ始めるか! アル、樹洞の中にみんなを退避させといてくれ」
「あー、その方が良いだろうな。外にいるのはケイとジェイさんの2人か?」
「そのつもり!」
「ほいよっと。んじゃ『樹洞展開』! ほれ、みんな入ってくれ」
「はーい! そういやヨッシは大丈夫ー!?」
「……あはは、今回はどうなるんだろ」
「ヨッシは私にしがみついていたら良いかな」
「……うん、そうさせてもらうね」
あ、しまった、ジェイさんに手伝わせる事に気を取られて、ヨッシさんがこういうのが苦手なのを失念してた。うーん、ヨッシさんが苦手なんだしやっぱりやめといた方が良いかな……。こんな形で無理強いするような事でも――
「あ、ケイさん、私に気遣いはしなくていいよ」
「え、でも、ヨッシさんはこういうの苦手なのに、勝手に決めたら――」
「ケイさん、私は大丈夫だから。リアルでなら流石に遠慮したいけど、ゲーム内ならただの苦手意識なだけだし、その辺りは慣れておきたいんだ。無茶なものを体験してれば、それだけ後々のものは気楽になるからね」
「……ヨッシさんがそう言うなら良いけど……無茶はしないでくれな?」
「うん、それはしないから大丈夫」
ふむ、ヨッシさんはヨッシさんで、自分が苦手なものを克服しておきたいというのもあるようだし、その決意を無下するのも駄目だよな。
「……おい、ジェイ。俺が焚き付けといてなんなんだが、大丈夫か、これ」
「今更、斬雨がそれを言いますか!? ……私は覚悟を決めたので、さっさと覚悟を決めてアルマースさんの樹洞の中に行ってて下さい」
「……お、おう」
そんな会話を繰り広げながら、斬雨さんはアルの樹洞の中に入っていった。ヨッシさんの様子をみてからジェイさんと斬雨さん、ちょっと警戒し過ぎじゃない? ……まぁ俺としてもどうなるかが想像付かないけどさ。
「……それではケイさん、始めましょうか」
「あー、平原に行ってからと思ってたけど……」
「おや、そうでしたか? それでは先にそちらへ移動をしましょうか」
「いや、ちょっと木が疎らになった辺りからでいいや。アル、そういう場所の上空に浮かべるぎりぎりの高度まで移動を頼む」
「おうよ」
「ジェイさんは俺と一緒にアルのクジラの尻尾の方な」
「えぇ、分かりました」
そうして俺とジェイさんはアルのクジラの尻尾の方に移動し、アルは上空へと泳いでいる。今のアルは3〜4メートルくらいの高さまでは空中浮遊だけで飛べるので、これから突っ切る平原ではこれで問題なし。
敵にぶつかる可能性はあるけど、それならそれでアルが『理不尽な襲撃』の称号を取得出来るのでありと言えばあり。おまけでジェイさんと斬雨さんも取る事にはなるだろうけど、手に入るスキルの『奇襲強化Ⅰ』は対人戦には使え……いや、これは対人戦には普通に有効なのか? ……今更やめますと言ったら確実に何かあると教える事になるし、敵とぶつからない事を祈ろうかな。
「ケイ、こんなとこか?」
「ばっちりだぞ、アル」
「さて、それでは開始しましょうか」
「おうよっと」
それじゃ、スチームエクスプロージョンの爆風を推進力に変えての平原の高速移動を始めていこう。さて、思った通りにいけばいいけど、失敗したら盛大な勢いで地面に激突とかありそうだし、慎重にやらないとね。




