第619話 赤のサファリ同盟と接触
獲物察知を使ってみたら青の群集がいるのを示す青い矢印が表示され、その後には赤のサファリ同盟に所属しているフラムからのフレンドコールが来るという事態になっている。……さて、これはどうしたものか。
「あー、フラム、具体的な話の内容ってのは?」
「そりゃ会ってからって話でな。こっちも色々あるんだよ」
「……悪いがちょっと相談させてくれ」
「ま、そりゃそうなるよな。俺が聞いてたら相談もしにくいだろうし一旦切るから、話し合いが終わったら折り返しの連絡をくれな!」
「……おう」
「おー、見事に警戒してくれてんじゃん! いやー、シュウさんがケイ達が警戒してるって言ってた……ぐふっ!」
あ、何か呻き声みたいなのを残してフレンドコールが切れた。……今のシュウさんが俺達が警戒している事に気付いてたという事情は伏せておきたかったようである。口の軽い奴め。
どうやらフラムに連絡させたのは、何か思惑がありそうだな。アーサーや水月さんも一緒に動いてたみたいではあるし、弥生さんとシュウさんもいるのはほぼ確定だけど、その中でわざわざフラムに俺へと連絡をさせた理由はなんだ……? 穏便に話を進めたいなら、弥生さんやシュウさん辺りが直接連絡をしてきてもいいはず。……情報が少な過ぎて目的が読み切れないか。
「ケイ、どうなっている?」
「あー、とりあえず相談してから折り返しで連絡をくれってさ。……弥生さんから話があるそうだ」
「おー!? 弥生さんもやっぱり来てるんだ!?」
「話ってどんな内容かな?」
「内容は不明だけど、フラムについては俺らが見える位置にいるっぽい。あと、やっぱりディーさんには見つかってたのは確定だ」
「……まぁあれだけ動けば、気付かれない方が無理があるか」
アルも言ってるけど、そもそも巨体であるクジラで空を飛んでいたんだから気付かれないと思う方が無理があるね。まぁ小型化して地上を移動してたとしても上風の丘は見通しは良いエリアだったから気付かれやすかっただろうし、気にしても仕方ないとこか。
「ベスタ、この話はどう思う?」
「……そうだな。弥生とシュウの性格から考えると、罠という可能性は低いだろう。場合によっては共闘の誘いという可能性もあるが、それならそうと伝えてくる筈だ。……いまいち読み切れないな」
「赤のサファリ同盟も方針を決めかねてるって可能性はねぇか? まだ俺らと向こうの人数の総数も判明してないだろ」
「アルマースのその意見も一理はあるが、フラムが俺らを見ていたなら人数を把握している可能性もある。今の時点でその断定は危険だろう」
「そっか、フラムさんが私達を視認出来る位置にいるんだったよね。……ケイさん、さっきの獲物察知では確認出来なかった?」
「……残念ながら、そうなるね。フラムのヤツ、隠密持ちになってるのか?」
「あ、それはありえそうかな。でも、そうなるとフラムさんの単独行動?」
そういや全員が隠密持ちや擬態持ちでなければ、近くにいる他の赤のサファリ同盟の人は俺のさっきの獲物察知に引っかかって気付けたはずだよな。ってことは、赤のサファリ同盟は今は全員で一緒には動いていない……? ふむ、思いつきではあるけどありえそうな話だ。
あー、でもフラムは誰かにぶっ飛ばされてた感じもしたけど、既に移動済みかもしれないな。……少なくとも誰か1人は近くにいるのかも。もしそう仮定するなら……。
「……赤のサファリ同盟は少人数で手分けをしてドラゴンを探しているとか? その時にフラムが俺らを見つけて、少し距離を取ってから弥生さんとかに連絡してから俺に接触してきた?」
「……可能性としてはありそうだな。隠密持ちなら単独で隠れながら探れるし、その近くに近接の戦力が待機していてもおかしくはない。弥生さんが俺らの事を直接確認をしていないから、直接確認をしたフラムさんが接触をしてきたってとこか」
「……ふむ、アルマースの推測の可能性が高そうではあるな。だが、その確証も得られない以上は会ってみるしかないが、どうする?」
基本的には赤のサファリ同盟は対人戦が好きではない人が多いという話ではあるし、お互いに知らない関係性でもないから、会ったら即座に戦闘という形にはならないだろう。
でも実際にどういう話なのかは聞いてみないと分からないし、もう完全にドラゴン戦については競合したと思っていいはず。……ここは弥生さんの話に乗ってみるべきか。
「私は賛成です! こうやって気付かれた以上は、対応を変えるべきだと思います!」
「私もハーレに同意だよ。もし共闘のお誘いなら、受けてみたいかな」
「……そだね。色々と気になる点はあるけど、話してみないと始まらないよね」
「って事みたいだが、ケイとベスタはどうする? ちなみに俺は賛成だ」
「まー、多数決ならもう確定だし、俺も気にはなるからそれに賛成!」
「なら決まりだな。ケイ、フラムに連絡を取ってくれ。その後に赤のサファリ同盟と話をする」
「ほいよっと」
とりあえず俺らの方の意思決定は済んだから、フラムに折り返しのフレンドコールをしてみるか。……ついでに近くにいるのが誰なのか探ってみようっと。……よし、すぐにフレンドコールに出たな。
「お、ケイ、話し合いは終わったか?」
「まぁな。てか、フラムはアーサーと水月さんの3人組だったんだなー。さっき余計な事を言って攻撃してきたのは水月さん?」
「え、なんでそれを知ってんだ!? え、俺はちゃんと距離を取って、見つからないようにしてからフレンドコールしたよな!?」
「……やっぱり、近くにいるのはアーサーと水月さんか。ついでに3人組で動いているのも確定っと」
「はっ、誘導尋問か!? ちょっと爪を構えるのは待って、水月!? そんな見下すような目で見るな、アーサー!? ぎゃー!?」
うん、随分とあっさり口を割ってくれたものである。完全にデタラメを言っただけなのに、ここまで見事に的中するとは……。フラム、この辺の警戒心が薄過ぎない?
「おーい、さっさと復活してこい、フラム」
「そう思うなら余計な事を言うなよ、ケイ!?」
「余計な事をポロッと喋ったのはフラムだけどな」
「うぐっ!?」
「で、ドラゴン探しでいくつかの班に分かれて別行動中の赤のサファリ同盟の合流場所はどこだ? 俺らが弥生さんに会いに行けばいいのはそこだろ?」
「……どんだけこっちの状況を読んでんだよ……」
「よし、今の赤のサファリ同盟の行動目的と状況の情報もありがとな!」
「はっ!? また誘導尋問!?」
フラム相手だと情報を引き出すのも簡単ですなー。これがジェイさん相手とかだと偽情報やハッタリも混ざってきて、こんなに簡単には分からないだろうにね。
「……大体は想像通りなんだな」
「赤のサファリ同盟、情報漏えいは大丈夫なのか?」
思いっきりベスタに情報漏えいについて心配されているぞ、フラム。まぁリアルでの知り合いの俺が相手って事もあるんだろうけど、いくらなんでもこの口の軽さはなぁ……。
うーん、これらを弥生さんやシュウさんや水月さんが放置しているとも思えないし、もしかすると俺らに筒抜けになるのを前提としてフラムを連絡役にした? ……うん、それくらいやってきてもおかしくはないか。
「ケイ、とりあえず合流場所を聞くのが先じゃないかな?」
「それもそうだな。おい、フラム、結局俺らはどこに行けばいい?」
「あー、それならケイ達……その前に聞くけど、さっきの場所から移動してないよな?」
「え、移動したぞ?」
「はい!? それじゃ方向の案内が出来ねぇじゃん!?」
「よし、今のでフラムが俺らを確認した時から移動してるのも確認出来た。ま、動いたってのは嘘だぞ」
「嘘かよ!? ……あー、それじゃそこから北西に進んで、その正面にある切り立った崖を越えたとこまで来てくれ。そこから直接俺らの方で、合流場所まで案内する」
「……つまり、俺らに運んで行けと?」
「俺らは普通に歩きで良いって。それじゃ待ってるぞ……」
段々と尻すぼみになっていくフラムの声を最後にフレンドコールが切れた。これから水月さんからお叱りタイムなんだろうな。
さて、ここから北西に進んだとこにある切り立った崖か。えーと、あ、多分あれだな。ふむ、岩が剥き出しの急斜面な小規模な山みたいな感じか。一応崖は崖なんだろうけどね。
その辺りからエリア全体が緩やかにではあるけど傾斜が出てきて、似たような崖がちょいちょいと点在している。基本的にはこの崖と崖の間を通って上へと進んでいくみたいだな。
「よし、目的地はとりあえずここから北西方向で、そっちの正面の崖を乗り越えたとこにフラム達がいるっぽい」
「ここから北西の崖か。……確かその先は少し拓けて、植物と湧き水があったはずだ」
「おー!? 湧き水だー!?」
「え、ここって湧き水があるのかな!?」
「それはちょっと意外だったね」
「とは言っても、大した水量ではないぞ。まぁ休憩がしやすい場所ではあるがな」
「なるほど、休憩場所って訳か」
まぁ飛べなきゃ移動が地味に大変そうなエリアではあるから、そういう休憩場所も用意されてるって事なのだろう。フラムもアーサーも水月さんも、前に会った時には飛行手段は持ってなかったしね。
さてと、目的地がどんな場所かも分かった事だし、その場所に行ってみようじゃないか。
「それじゃアル、続けて移動は任せた!」
「おう、任せとけ」
「強襲クジラ船『アルマース』出港です!」
「いや、ハーレ、襲わないからね?」
「ふっふっふ、そうではないと予言しておきます!」
「え、どういう事かな?」
「ケイさんがフラムさんへ奇襲をかけそうかなって思ってます!」
「「「あー!」」」
「いやいや、やらないからな!?」
サヤもアルもヨッシさんも、そこで納得しないで!? いや、確かに今まで何度かフラムに対して攻撃を仕掛けた事はあるけど、それはフラムが余計な事をしたからで……あ、フラムが余計な事をすればやらないと否定出来ない……? くっ、フラムめ、余計な事をするんじゃないぞ!
「ケイ、多少のじゃれ合い程度なら構わんが、完全には仕留めるなよ。色々とややこしくなるからな」
「ベスタまで!?」
「ま、ケイの攻撃はその時に考えるとして、出発するぞー!」
「「「おー!」」」
「……何か釈然としないんだけど!?」
「ケイ、日頃の行いだ、諦めろ」
「うぐっ……!」
くっ、否定するだけの要素が見つからないのが悔しい! もうここまで言われるのなら、八つ当たりでフラムに襲撃をしてもいいかなー。……いやいや、それをするからこういう風に言われるんだから、ここは我慢だ、我慢!
そんな俺の内心はお構いなしにアルのクジラが目的地へと向かって進んでいく。おー、かなり崖に近付いて来たけど、植物がほぼ無しで岩や土が剥き出しのエリアにある崖ってのも雰囲気が違うもんだな。
それにしてもこの崖というか小規模な岩山とはいえ、それなりの高さがある。……アルの空中浮遊だけでは乗り越えられそうにないな。
「アル、小型化して側面から回り込むのと、水のカーペットで乗り越えるの、どっちで行く?」
「あー、そうだな。ここは水のカーペットで乗り越えるとするか。『移動操作制御』!」
よしよし、空中浮遊だけなら高度が足りないけど、水のカーペットで底上げをすれば問題なく崖を越えられそうだね。
崖の横を徐々に上がっていく間に、ここまで来た道程を振り返ってみたけど絶景だなー。荒れて植物の少なくなっている岩山エリアを手前に、草花や点在する木々が風に揺れている光景が見えている。うん、折角だしスクショを撮っておこうっと。……よし、撮影完了!
「おー! アルさん、かなり高くまで飛べるようになったねー!」
「まぁな。まだまだ高度を上げる余地もあるが、空飛ぶクジラ計画はひとまず成功って事で良いだろうよ」
「だろうな。……今度、空飛ぶクジラの特集ページでも編集しておくか」
「お、そりゃいいな。必要な情報があったらいつでも聞いてくれよ」
「あぁ、そうさせてもらおう」
お、どうやらベスタがまとめ機能に空飛ぶクジラ計画の特集ページを作るみたいだね。アルの件で育成方法が確立出来たと言えるだろうし、その情報を元にして3枠目で作る人も出てくるだろうしね。まぁまだ3枠目の解放条件が不明だけど……。
「ねぇ、ここって霧でも発生させたらかなり神秘的になりそうだよね?」
「おー、ヨッシ、それいいねー!」
「確かにそれは良さそうかな!」
ふむふむ、確かにこの光景に霧を発生させるというのはありかもしれないね。もしくは雲を発生させて雲海とかが出来れば、かなり見応えのあるスクショが撮れそうな気はする。
てか、霧って毒霧以外の発生方法を知らないんだけど……。うーん、昇華魔法か複合魔法にありそうな気はするけど、まずは今やるべき事を優先しよう。……興味はあるんだけどね!
「まぁその辺は色々片付いてから、じっくりやろう。って事で、アル!」
「おうよ。んじゃここの崖を超えていくぞ!」
そうして崖を超えて、反対側へと降りていく。そこにはフラムとアーサーと水月さん……ここまでは予定通りだったけど、他にも弥生さん、シュウさん、ルストさんがいた。ふむ、もう合流してたのか。
「灰の群集のリーダーのベスタさんと、グリーズ・リベルテのみんな、来てくれてありがとねー! さて、それじゃドラゴンについての話し合いをしよっか」
さてと、今いる目の前の赤のサファリ同盟のメンバーは6人、俺らも6人。これだけならば共闘という選択肢もあり得るけど、3人単位で手分けをして探していたみたいだし他に何人いるかが問題か。




