第605話 次の戦いへの準備
思わぬ形で付与魔法と例のドラゴンの強さの理由が判明していった。さてと、こうなってくると今のうちにベスタが知ってる範囲の内容は教えてもらった方が良さそうだな。
「ベスタさん、少し確認をいいかな?」
「なんだ、サヤ?」
「その土属性のドラゴンは、物理型と魔法型のどっちかな?」
「かなり魔法寄りなバランス型だ。下手をすれば魔法の強烈なコンボを食らった後に、応用連撃スキルでの追撃があるからな」
「……それは危険だね。弱点はないの?」
「状態異常は溶解毒と凍結と凍傷が有効らしい。ヨッシ、期待しているぞ」
「……あはは、それは責任重大だね」
なるほど、溶解毒も凍結も凍傷もヨッシさんの得意分野だもんな。毒と氷を持っていて、状態異常特化のヨッシさんは今回のドラゴン戦の切り札なのかもしれないね。
それにしても氷というか低温絡みに弱いのは種族としての特徴なんだろうな。持ってる属性次第で多少は軽減されるけど、種族として弱い属性も存在してるしね。俺のコケは水属性を持っていても火にはどうしても弱いしさ。
「あとはアルマースとケイに拘束と防御を任せたいんだが、良いか?」
「あー、俺とケイはそういう役割か。早速付与魔法の出番かもしれないぞ、ケイ?」
「俺は今回は付与魔法で自分の魔法とアルに守勢付与を使えば良いんだな。それで威力を強化した拘束魔法と防壁魔法をメインか」
「あぁ、そういう事だ。攻撃は俺とサヤとハーレで担当しようと思うが、それで構わないか?」
「うん、分かったかな!」
「了解です!」
「おうよ!」
「ほいよっと」
ふむふむ、こうやって聞いてみると俺らをドラゴン戦に誘おうとしていたのにも色々と狙いがあったんだな。俺とアルを防御と拘束の役目、ヨッシさんを状態異常を入れる役目、そしてベスタを含めた物理攻撃の3人が火力役だね。
しっかりと俺の付与魔法も作戦に入っているし、土属性のドラゴン相手なら風属性に弱いはず。火力役の3人共が操作属性付与で風属性の付与も可能だから戦力のバランス的にも良さそうだ。
「まぁ俺としても途中で逃げ帰った訳ではあるから確実に勝てるとは断言は出来ないが、勝てる可能性は十分あると見ている」
「……ま、聞いてる限りではそうだろうな。これで無理ならもっとLvを上げるか、連結PTにして大勢で戦うしかない」
「アルさんの意見に賛成ー! 今出来る全力で倒すのさー!」
「プレイヤー相手以外で負ける可能性がある強敵は久々かな!」
「そっか。初めに負けたヒノノコと戦った時以来になるんだよね」
「あー、それ以降はギミック的に倒せないってくらいだったもんな」
わざわざ倒しに行かなくても問題はないドラゴンではあるけど、そう考えてみるとやり甲斐もあるもんだね。……さっきベスタに負けたばっかでまた負けたくもないから、このドラゴン戦は意地でも勝ちたいところである。
「……分かってるとは思うが一応言っておくぞ。俺やケイ達で苦戦するような敵がそこら中に普通にいたら、ゲームの難易度が上がり過ぎてクソゲー化するからな?」
「……流石にそれは分かってるって。なぁ、みんな」
「……だな」
「うん、そうなるかな」
「……まぁそうなるよね」
「なんだかんだで、私達って結構強いもんねー!」
みんなも頷きながら同意していく。まぁ確実に強い方ではあるから、俺らで苦戦するような敵が標準だと倒せない人が続出するのは間違いないからなー。
他のゲームで強い人にゲームの難易度を合わせた事で付いていけなくなった人が多くなって過疎化してサービス終了というのも、やった事はないけど聞いた事はある。……まぁ今のところ、このゲームではその様子はないから安心は出来るよね。
「……まぁこれ以上は実際に戦ってみるしかないだろう」
「それもそうだな。それじゃ岩山に向けて出発していくか」
「アル、移動は任せていい?」
「それはいつもの事だから構わんが、ケイ、どうかしたのか?」
「んー、単純に疲れてるだけ。合流を待ってる間に少し休めたけど、もう少し休んどきたい」
「あー、そりゃベスタと戦えばそうもなるか」
一応ドラゴンの事についてはしっかりと話してはいたけども、やっぱり微妙な精神的な疲れが抜けきっていない。ドラゴン戦自体は楽しみではあるんだけど、悔しさと次は勝つという意気込みが混ざって落ち着かない気分でもある……。
これから戦いに行くドラゴンは決して油断の出来ない確実に格上で、そして勝てる可能性のある敵である。同じ格上でも進化階位が違って勝ち目のない成熟体と違って、かなりLvが上とはいえ同じ未成体ならば倒す事は理屈の上では可能。……だからこそ気分を切り替える為にも休んでおきたい。
「……悪いが俺も休ませてもらっていいか?」
「え、ベスタも? 平気そうに見えるけど……」
「……あのな、戦闘中に一切の前情報のない全く予想外の手段が出てくるケイを相手にすれば流石に俺も疲れるぞ。……あの飛行手段は初めて見たしな」
「あ、それは確かに納得かな」
「それはその通りさー!」
「うん、確かに」
「まぁ、流石のベスタもケイの突拍子の無さに警戒しまくればそうなるか」
「……なんかボロクソに言われてる気がするんだけど!?」
おいこら、そこまで言っといて全員顔を逸らすな! っていうか、ベスタまでそんな判断だったのかい! ……今回出し抜かれたのはむしろ俺だった気もするんだけどさー。
「まぁケイの無意味な反論は置いておくとして、軽い情報交換と作戦会議は終わったし、ベスタとケイはしばらく休憩って事で良いんだな。2人は樹洞に入っとくか?」
「あぁ、それで頼む」
「あー、うん、まぁそれでいいや……」
無意味な反論と言われたけど、否定し切れないとこが辛い……。いや、悪い事をしている訳でもないんだから別に問題はないもんね! まぁ確かに飛行鎧は昨日完成したばかりだし、まだ全貌をベスタには見せてはいないのも確かではあるしな。
「よし、なら移動しながらだな。『樹洞展開』『樹洞投影』! ほれ、ケイとベスタは中に入って休んでろ」
「アルマース、すまないな」
「アル、サンキュー!」
「他のみんなはクジラの背の上だな。今はゆったりしてていいけど、丘陵エリアに入ったら警戒を頼むぜ」
「分かったかな!」
「了解です!」
「うん、それは任せて」
そうして高度を下げたアルのクジラの背の上に乗って、俺とベスタはアルの木樹洞の中へ、サヤとヨッシさんはクジラの背の上に、ハーレさんは定位置の巣の中へと移動していった。
ま、移動中はこんなもんだろうし、樹洞投影で外の様子が見れるようにしてくれたのはありがたい。
「おっと、忘れるとこだった。ほらよ」
「……ん? あ、PT申請か」
「そういえば忘れていたな……」
<アルマース様のPTに加入しました>
<ベスタ様がPTに加入しました>
よし、これでフルの6人PTの結成完了だな。さてこの1PTでドラゴンを倒し切れればいいんだけど、もし駄目だった場合は他の強いPTや共同体に声をかけて連結PTで挑むしかないんだろうね。……もしくはドラゴンについては手出しせずに放置しておくかだろう。
「あ、ベスタ、灯りはいる?」
「そうだな。流石に暗いままというのも微妙だから、灯りは用意するか」
「それじゃ俺の方でやるよ。ついでにさっきの模擬戦でのあの飛行手段の他の使い方も公開しようじゃないか!」
「……なに? それは気になる話だな」
「だろ? って事で、発動するぞー!」
飛行鎧の真価は岩で自身を覆って飛ばせる事だけではないからね。……あ、ちょっと良い方法も思いついたからそれも試してみようっと。
<行動値上限を5使用して『発光Lv5』を発動します> 行動値 73/73 → 68/68(上限値使用:5)
<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 68/68 → 62/62(上限値使用:11)
よし、ロブスターの表面を増殖したコケが覆って、予め発動しておいた発光で光るコケを光源に光の操作を発動。光るコケに灯りを光の操作の支配下に置いてから、ロブスターの胴体だけでなくハサミも含めて岩で覆って光源を隠していく。
「……ほう? それは光の操作も組み込んでいたのか」
「ま、そういう事」
「で、今は光を遮断してるようだが、どうするんだ?」
「それはこうする!」
右のハサミを筒状の岩で囲んで、その筒の先から光が放射されるように操作していく。ふっふっふ、一度光の操作で支配下に置いてからなら、直接視認しなくても方向の調整は可能なんだよな。
まぁ方向が分かりにくくなるという欠点はあるけど、それを補う為のハサミを覆った筒状の岩だ。この筒状の岩から光が出ていくようにイメージして操作をすれば……。
「……なるほど。無駄に光を漏らさないようにピンポイントで照らす懐中電灯みたいなものか」
「そういう事! で、拡散させたり収束させたりで光量の調整もね」
「ふむ、これは場所にもよるがありではあるな。……だが、今のここの灯りには不適格じゃないか?」
「まぁね。って事で、さっき思いついた魔改造を開始する!」
「思いついたばかりのがあるのか……」
「まぁな!」
さて、それじゃ思いつきだけどやってみようっと。思いついたこれが上手く行くなら、場合によってはかなり重要かもしれないんだよな。
<行動値上限を1使用して『群体塊Lv1』を発動します> 行動値 62/62 → 61/61(上限値使用:12)
まずは群体塊を発動して、ロブスターの表面のコケを塊に変えていく。そしてとりあえず岩を操作して形状を変えつつ、群体塊はロブスターの背中へと移動させて……よし、移動完了。それじゃ次!
<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します> 行動値 57/61(上限値使用:12)
これで群体塊になりきらないコケがロブスターの表面を覆いきった。……うん、ここまで行けば胴体部分……正確には群体塊の部分を覆うだけで良いだろう。群体塊以外のコケも発光はしているけど、光の操作で方向を群体塊に誘導しているので気にならない範囲だな。
さて、ここから群体塊の真上を覆っている岩を退けて筒状の岩で煙突みたいにして、そっちの方向に光の操作をしていけば……お、上手くいったね。
「……また珍妙な光景を作り出しているな」
「ふっふっふ、筒状の岩の開いている向きを変えれば光の操作の方向も指定しやすいし、照らしやすくもなる!」
「……まぁこれならば背中から前方に向けて照らす事も可能か。だが、これをするのなら発光のLvは抑えろ。少し光量が強過ぎるから、ダメージ判定が発生しかねないぞ」
「あ、やっぱり? 発光Lv5は眩しすぎるとは思ってたんだよな」
「分かっててやったのか。まぁ分かっているなら問題はないか」
群体塊になっているというのもあるのか、光量が通用時よりも1ヶ所に集まり気味ではあるんだよね。まぁそのお陰で少し操作がしやすくなった感じもするから、光量については発光の発動Lvを下げて対応すればいいか。
「さてと、これでベスタのいない方向に光を向ければ灯りとしては充分だろ」
「……無駄に贅沢な使い方な気はするがな」
「あー!? ケイさんがまた変な事になってるー!? これはスクショのチャンス!」
おっと、会話を聞いていたハーレさんが巣の方から覗き込んできているね。……これ、他の人から見たらどんな風に見えてるんだろ? えーと、基本は今までの飛行鎧をベースにしていて、そこに筒状の岩が生えている状態……って、あれ、もしかしてこれって筒状の岩を鋭角に設置すればロブスターの背中に砲台を設置してるように見えるんじゃ!?
「ハーレさん、撮ったスクショを見せてくれ!」
「わっ!? え、ケイさんが思いっきり食いついてきたよ!? はい、どーぞ!」
<スクリーンショットが共有化されました。表示しますか?> はい・いいえ
ハーレさんがすぐにスクショの共有化をしてくれたので、はいを選択して撮られたスクショを見ていく。おー、想像通りの砲台を背負った岩の鎧を纏ったロブスターの姿になっているね。しかも岩に覆われていないハサミの表面のコケが光っているのも良い感じだ。
ただ、全体的に無駄が多い感じで膨れているような印象はあるね。まぁこの辺は直接見ずに大雑把に生成した岩だから仕方ないとこではあるか。……ふむ、もっと精度を上げてスマートな感じに仕上げてみたいとこだね。はっ!? ちょっと出来るかどうか分からないけど、良い事を思いついた!
「ベスタ、発光と閃光って同時に発動は可能?」
「……また何か思いついたんだな。その2つについては同時発動は可能だが、使い道があるのか?」
「この筒状の岩の中から、並列制御でレーザーにして撃ち出す!」
「……確かにそれは出来るな。閃光の場合は事前兆候として僅かな点滅があるが、ただの灯りの中に紛れさせてから不意打ちか」
「そういう事!」
ふっふっふ、行動値の使用量は多いけどもこれはかなり良い事を思いついたね。色々なスキルを組み合わせていけば、やれる事はどんどん増えてくる!
あー、こうなってくると行動値をもっと増やしたいなー。やっぱりこれからのドラゴン戦に勝って、大量の経験値を手に入れねば……。よし、勝てそうだったら折角のチャンスだし経験値増加のアイテムも使うか!
「……休むんじゃなかったのか、ケイ?」
「……あ、そういやそうだった」
「あはは、そういうとこはケイらしいかな」
「まぁ気分転換には良いんじゃない? ケイさんの疲れって、精神的な側面の方が強いんでしょ?」
「……あー、やっぱりバレてた?」
「まぁね。ケイさんって勝ち負けに極端にこだわる訳じゃないけど、悔しがらない訳じゃないよね」
「負けず嫌いとまではいかなくても、悔しそうにしてたのは何となく分かるかな」
うーん、悔しがってる態度は出したつもりはないんだけど、みんなには筒抜けだったかー。まぁその辺については理解してくれているって事だし、素直に受け取っておきますか。
「ま、その通りだな。よし、だいぶ気分転換にはなった!」
「おー、ケイさん復活だー!」
「あ、でも普通に集中して疲れてるのもあるけどな?」
「それなら本当に大人しくして休んどけ。どう考えてもドラゴン戦は楽じゃねぇぞ」
「ほいよっと」
アルの意見も尤もなので、これ以上は余計な事はせずに休憩に専念しようっと。何かをするにしても雑談までだな。……大人しく休憩だー!




