第573話 付与魔法と魔法砲撃
さてLv7の魔法の検証の割り振りをしたし、サヤとヨッシさんは水砲ザリガニの捕獲へと向かっていってくれている。アルはアルで情報共有板での検証情報の確認をしてくれているし、俺も自分の担当分である魔法砲撃での仕様を確認していこうじゃないか。
<行動値上限を1使用して『魔法砲撃Lv1』を発動します> 行動値 71/71 → 70/70(上限値使用:3)
これで準備は完了っと。……Lv7の付与魔法の魔法砲撃による効果の変化については全く予想がつかないんだけど、どうなんだろね、これ。まぁそれを確認する為の検証ではあるから、試してみるしかないか。
「よし、それじゃアル、試してみるぞ」
「おうよ。えーと、俺を狙いやすい位置にしといた方がいいか?」
「あー、そういやさっき付与の実験をしたままだったっけ」
今はアルに木とクジラに攻勢付与をして、アクアウォールで受け止めたままの位置関係だもんな。問題はない距離ではあるけど、ちょっと近いと言えば近いか。
これから魔法砲撃での付与魔法を試してみるのであれば、少し距離を取っておいたほうが良いかもしれないね。よし、ちょっとアルとの距離を離すように移動してっと……。
「……位置的にこんなもん?」
「あー、まぁそんなとこだろうな。それなら魔法砲撃による変化が分かりやすいだろ」
「だな。よし、それじゃ早速やってみますか」
「さて、どういう結果になるやら……」
それは俺にも分からないので、いざ実際に発動だ。これで本当にどういう結果になるのか、楽しみなとこだね。
<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 63/70(上限値使用:3): 魔力値 185/206
とりあえず普通に発動して魔法砲撃の適応を……ん? あれ、魔法砲撃にするかどうかの選択肢が出てこない。……って事は、魔法砲撃の効果は無し!? えー、ここに来て不発かよー。ちょっと想定外の変化を期待してたのに、不発かぁ……。
「……ケイ?」
「あー、残念ながら不発。魔法砲撃での砲撃化の指定は不可っぽい……」
「不発か。まぁ、それはそれで仕方ないな」
「……まぁ、それもそうだよな」
何もかもが思い通りに上手くいくとは限らないし、一応不発という結果も検証の成果ではある。それはそれで重要な情報ではあるから、今回はその不発という成果で我慢しておこう。
「よし、それじゃ魔法砲撃は不発だと報告を上げとくぞ」
「ほいよっと」
さて、不発という事で思っていた以上に早く済んでしまったけども、この発動中の付与魔法はどうしたもんかな。効果範囲内に敵でもいれば敵への付与を試してみるんだけど近くに敵はいない……って、これは地味に索敵にも使えるのか。
いやでも、どう考えてもコストパフォーマンス悪過ぎだよね。うん、獲物察知を持っていなければありかもしれないけど、持ってたら実用性は皆無だな。……でも、一応報告には上げといてもらうか。
「アル、追加情報の書き込みを頼んでいい?」
「おう、良いぞ。どんな内容だ?」
「コストパフォーマンスは悪いけど、敵への付与は索敵にも使えるかもしれないって報告しといてくれ」
「あー、なるほどな。……いや、待て。ケイ、ネズミの人がその情報を上げてきたぞ」
「え? そりゃまぁすぐに気付くような内容だよなー」
付与の指定範囲を見てみれば一目瞭然なんだし、敵への付与を担当しているネズミの人が俺と同じ事を思い付いても何の不思議でもないよね。むしろ、ちゃんとそういう使い方が実際に出来るという確認が出来たくらい――
「ケイ、そんなお気楽なもんじゃねぇみたいだぞ?」
「……はい? ちょっと待って、まさかかなりの有用性があるのか?」
「おう、そのまさかだ。擬態にも有効だとよ」
「……マジで?」
「嘘を言っても仕方ないだろ」
「……そりゃそうだよな。えー、それマジか!」
擬態をしている敵にも有効となると、さっきのコストパフォーマンスが悪いという点は撤回しないといけないか。……うーん、でも看破を使った方が確実性は高そうな気もするよな。もし使うとしたら普通の敵ではなく対人戦や、戦闘中に身を隠すような相手の場合か?
いやいや、それ以前に敵へと付与した際の効果がまず重要だよな。それによっては運用方法が大きく変わってくる。
「アル、その情報があるって事は、元々の検証内容の報告も上がってる?」
「おう、上がってるぞ。無属性の物理型の成長体への土の付与魔法の結果だな」
「どんな内容?」
「あー、敵に一時的に土属性を付与するみたいだな。纏属進化っぽくなるらしいぞ」
「ほほう、纏属進化っぽくなるのか」
纏属進化っぽくなるという事は、一時的にとはいえ敵に強制的に任意の属性を付与出来るんだな。もし俺がそれを使ったとすれば、敵を一時的に水属性を追加して水の追撃効果を与えて強化してしまう訳か。でも重要なのは水属性の強化ではなく、属性持ちへのデメリット効果だろう。水属性を持っていると雷属性からのダメージ量は増えるし、火属性攻撃の威力は下がるもんな。
水属性を付与すれば、サヤの竜とヨッシさんのハチの電気魔法の威力強化に使えるね。それに場合によっては火属性の敵に水属性を付与して、威力の軽減に使うのもありか。
ふむふむ、Lv7の魔法だから気軽にいくつもは覚えられないけども、PTで連携して使うにはありな効果だな。……既に同属性を持っている相手への付与効果がどうなるかが気になるけど、そこはサヤとヨッシさんが水砲ザリガニを見つけてくるか、ネズミの人のところに土属性の敵が出てくるかどうかにかかっているね。
「ちなみに、付与効果はスキルを3回分当てたら解除だそうだ」
「あー、もしかしてこれも操作の方の同時操作数が回数になってる?」
「多分そうだろうって推測になってるぞ」
「まぁ、このタイミングで3回ってなるとそうなるよな」
こりゃ、操作系スキルLv7と魔法スキルLv7はどっちも重要な段階っぽいな。……両方がLv7になれば、味方への攻勢付与も守勢付与も、敵への属性付与も、1回分の回数が増加になる訳だしね。
「……ところで、そのスキルの当てた回数って連撃の場合はどうなんの?」
「あー、ちょっと待て。他の人がちょうどそれを聞いてるとこだ」
「あ、質問の真っ最中だったのか」
「まぁな。……ほう、連撃については1撃でも当たった状態から連撃スキルの発動が終わった段階で回数が減るらしいぞ」
「って事は、連撃だけで全部の付与回数を使い切る事はない訳か」
「そうみたいだな」
よしよし、これで大体の敵への付与の仕様が分かってきた。属性を敵に強制的に付与する事で、味方の使う相関関係にある弱点属性のダメージの増加や、敵の所持属性に合わせて属性効果の相殺を狙えるんだな。
これまで戦ってきた敵に照らし合わせてみるなら、瘴オオヒノノコが昇華魔法や瘴気魔法を使うタイミングに水属性を強制的に付与して、火属性の攻撃の威力の軽減を狙うのが良いかもしれないね。うん、これから強力な魔法を使う敵も増えてくるだろうし、その為の対応策になり得るかな。
「……あっ」
「ケイ、どうしたよ?」
「いや、付与魔法の指定の時間切れ……。付与しないまま放置してたからさ」
「あ、そういやそうだったな」
完全に無駄発動……でもないか。一応、魔法砲撃では使えないという検証結果にはなっているんだし、決して無駄な発動ではないのだよ! ……そう自分自身に言い聞かせておこう。
「お、こりゃ良い情報だ。サヤ、ヨッシさん、聞こえるか?」
「うん、聞こえてるかな」
「アルさん、何か情報があった?」
「おう、水砲ザリガニの目撃情報だ。エリアの北側の浅い湖から少し南東に行った辺りにいるってよ」
「え、私達は南の方にいるから方向が真逆かな!?」
「あらら、これは運が悪かったね」
「まー、そういう事もあるって」
いつでも都合よく近くにいるとは限らないって事だよね。まぁ割と正確な位置の目撃情報が出てきただけでも運が良いと思うべきなんだろう。……散々探した挙げ句、結局見つからないって事もあり得るしね。
「……それは確かにそうかな。うん、これは仕方ないから、急いで移動かな」
「そだね。サヤ、ただ移動するだけってのもつまらないし、競争でもする?」
「あ、それいいね。望むとこかな!」
「お、サヤとヨッシさんで競争か。それはそれで楽しそうだなー」
「まぁ、誰かを轢かない程度にな」
「あはは、アルさん大丈夫だって。ねぇ、サヤ」
「うん、流石にそれはないかな?」
うーん、どうだろね? ヨッシさんは普段の様子からするとその心配はなさそうに思えるけど、サービス開始の初日に大暴走はしてるし、サヤはアルの木を引っ張る事が多かった時には割と大暴走してるんだよなー。
まぁ大丈夫だとは思うけど、前科が無いわけでもないから断言しきれないというのも……。
「……何かケイが失礼な事を考えてる気がするかな?」
「……サヤに同意だね」
「あはは、気のせいだって!」
くっ、今のは全力で声には出さなかったし、PT会話で姿は見えてない筈なのに何故気付かれた!? 流石に今のは読まれやすかった内容……っていうか、サヤもヨッシさんも地味に自覚があるのでは……?
「……まぁ轢かないように気をつけながら、水砲ザリガニを捕まえに行ってくるかな」
「……そだね。やらかした事はある訳だし、そこは気をつけようね」
「あ、やっぱり自覚はあったんだ」
「「…………」」
うん、姿は見えないけどもサヤもヨッシさんも今、思いっきり目を逸らしているような気がする。……まぁあんまりその辺を掘り返し過ぎると自分の墓穴になりそうなので、これ以上は止めとこう。
「その辺は置いとくとして、2人とも捕獲は任せた!」
「うん、任せてかな!」
「了解!」
さて、水砲ザリガニの捕獲はサヤとヨッシさんに任せて大丈夫だろう。……それはそうとして、俺のする事が無くなってしまったけど、どうしようか。適当に獲物察知でもして、この辺の雑魚の成長体でも見つけて俺の方でも敵への付与の再現検証でもやっていこうかな。
「ケイ、草花の人から他の属性との複合魔法の検証の結果がちょっと出てきたぞ」
「お、良いタイミング! ……地味にする事もないから、自分で見てみるか」
「ま、手が空いてるなら俺が説明するより、自分で見た方が分かりやすいだろうな」
さっきはアルに説明を頼んでしまったけど、今は手が空いているんだし自分で確認しても問題はないもんな。って事で、再び情報共有板で情報の確認だね。
草花3 : ……簡単に説明するね。私の持ってる魔法との組み合わせだけにはなるけど、並列制御でどの魔法と組み合わせても複合魔法にはならなさそうなのが分かった。
サル : それは残念な結果だな……。
カンガルー : 複合魔法が一切ないのなら、Lv7の付与魔法はかなり性質が違うんだな。
ヘビ : ま、仕方ないんじゃね? さっきのネズミの人の報告から考えると、それだけでも結構破格だぜ。
マグロ : だよなー。同属性での付与が気にはなるけど、そっちはコケの人の方で確認は出来そうだし、これで大体の仕様は分かったか。
草花3 : ……その判断を下すのはまだ早いよ? 私の報告、まだ終わってない。
サル : あ、報告はまだ途中だったのか!? それはすまんかった!
オオカミ : 複合魔法にならないが、何かあるんだな?
草花3 : ……うん、あるよ。まだ検証の途中ではあるけど、傾向は見えてきた。……大前提として、同属性の魔法と並列制御で同時に使うのが必須。
ほほう、これはちょっとかなり重要な内容な気がしてきたぞ。……複合魔法にはならなくても何らかの効果があるのなら、見逃せない情報だ。
草花3 : ……まずはLv1の生成魔法。これは攻勢付与も守勢付与も何も意味はなかったからスルーでいい。大事なのはLv2の射出魔法から先。これには並列制御の段階で自動的に攻勢付与がかかって、風の弾の射出弾数が3個追加されたよ。
カンガルー : ちょ、同属性で弾数の増加効果!?
ネズミ : 複合魔法じゃなくてそういう強化で来たか!
オオカミ : なるほどな。属性が違う場合だとどうなる?
草花3 : ……まだ持ってる魔法の全ての組み合わせは試せてないけど、属性が違っていたら何もなかった。それで同属性ならどうかと思って試したら変化があったから、同属性に限定されている感じ。……多分、同じ属性にしか効果は及ぼさない。
コケ : ふむふむ、それは興味深いね。……なるほど、同属性のみで並列制御が必須か。
ネズミ : お、コケの人も一段落ついたから来たんだな。
コケ : まぁね。あ、敵への同属性の付与はこっちで試せそうだから、こっちでやっていいか?
ネズミ : おう、それは問題ないぜ。
草花3 : ……コケの人もネズミの人も情報ありがとね。……まだ続きがあるから話を戻してもいい?
コケ : あ、それは失礼しました。
ネズミ : 同じく失礼しました。続きをよろしく。
ふー、草花3の人の報告が興味深かったからつい書き込んだけど、まだ途中だったんだな。とりあえず水砲ザリガニで敵への付与の検証は俺って事で問題なさそうだし、今は報告が終わるまでは大人しく待っていようっと。
それにしても複合魔法にはならないけども、並列制御で同属性魔法と同時に使えば効果が変わるとはね……。自分のキャラに付与は不可ってなってたけど、自分のキャラの同属性の魔法には付与が可能って事か。これは地味に見落としそうな仕様だし、草花3の人、ナイス発見!




