第554話 色んな人が集まって
「これで揃ったようだな、疾風の」
「そうみたいだな、迅雷の」
「風雷コンビ、今日はよろしくな!」
「あぁ、よろしく頼もうではないか。グリズー・リベルタ……いや、リベルテだったか?」
「おいこら、迅雷さん!? 表示されてるのになんで読み間違えるんだよ!?」
「あぁ、なんだ。よく見れば普通に表示されるのではないか。すまないな、馴染みがなくて覚え間違えていた」
「……今、所属共同体の名前を見た訳じゃないのか。まぁそういうことなら……」
ライオンの迅雷さんはただ単に、よく見れば所属している共同体名が表示されるという事を知らなかっただけのようである。
確かに語感優先でアルの知っていたフランス語にしたから、馴染みがないのは仕方ないか。あだ名のビックリ情報箱ではなく、共同体名のグリーズ・リベルテで呼ぼうとしてくれただけありがたいのかもね。
「そうだぞ、迅雷の。ここは略してグリズリーと呼ぼうではないか」
「おぉ、それはいいな、疾風の」
「ちょっと待てーい!? 疾風さん、それは略になってないから!?」
「グリズリーってクマじゃねぇか」
「そうなるとサヤの事だね」
「サヤなのさー!」
「ちょっとそれは困るかな!?」
疾風さんもとんでもない事を言い出してくれるな! 一体どう略したらそうなるんだよ。わざとか!? 風雷コンビなりのジョークだったりするのか、これ!?
「ぷっ、あっはははははははは!」
「今度は何事!?」
「いや、これは失礼しました。風雷コンビ、悪ふざけはその辺りにして下さい。……そうでないと、レナさんが怖いですよ?」
「そだねー。まずは初対面の琥珀を紹介しないといけないのに何をやってるのかな、風雷コンビはー? 普通に名前、覚えてたよねー?」
「おっと、どうやら悪ふざけが過ぎたようだな、疾風の」
「そのようだな、迅雷の」
「「という事で、歓迎するぞ。『グリーズ・リベルテ』!」」
……えーと、ダイクさんの水のカーペットの上で仁王立ちしているレナさんと、それに怯えた風な風雷コンビが歓迎の意を伝えてきている。うん、それ自体は別にいいし、さっきまでのは本当にただのジョークだったようである。
それと笑っていたのは琥珀と呼ばれたキジっぽい人か。声的には男の人で、丁寧口調な人か。ちょっとルストさんを連想したけど、まぁあそこまでぶっ飛んではいない気はする。なんとなくだけど。
ただ気になるのは、レナさんがなんかチャージを始めているってとこなんだよなー。風雷コンビ、一体何をした……?
「あんたらは歓迎する側じゃなくて、参加させてもらってる方でしょうがー!」
「逃げるぞ、疾風の!」
「おうよ、迅雷の!」
「ダイク、全力で追いかけて! ちょっとあの2人は最近また調子に乗り過ぎてる感があるから少し懲らしめる!」
「ま、仕方ないか。あ、琥珀さん、その間に自己紹介とかしといてくれ」
「えぇ、分かりました。あの2人は油断すると変な方向に行きますし、そちらはお任せしますね」
そう言って、ダイクさんとレナさんは走り去っていく風雷コンビを追いかけていった。あー、うん、元々問題児であった風雷コンビは、油断すると変な方向に行くのか……。
まぁ確かに今回のスクショの撮影に関しては俺らとレナさんとの約束だったけど、いつの間にか風雷コンビが参加って事になってたもんな。……そういう意味では歓迎するのは俺らの方であって、風雷コンビに歓迎されるというのは間違っている気もする。
「……時々夜中に聞くが、風雷コンビの暴走癖がこれか」
「そうなのか、アル?」
「まぁな。つっても、そんな悪質なもんじゃないんだが……」
「大体はあの2人の小競り合いですね。……まぁよくベスタさんかレナさんに怒られていますが」
「ベスタさんも大変かな」
「あの2人って、止められる人は少なそうだもんね」
「そうだよねー!? それはそうとして自己紹介をすべきだと思います!」
「あ、確かにそりゃそうだ」
普通に混ざって会話してたけど、黄色くて少し表面に電気が走っている尾羽の長いキジのような人……琥珀さんだな。琥珀さんとは初対面なのに自己紹介も何も出来ていないもんね。まずは自己紹介からちゃんとしていかないといけないだろう。
「レナさんも言っていましたし、まず自己紹介から行いましょうか。皆さんの事はレナさんから色々と聞いていますし、色々と他の方からも聞いていますから、まずは私からですね」
あ、レナさんがもう既に俺らの事を色々と伝えているのか。流石はジェイさんに『渡りリス』とあだ名をつけられて、顔の広さに定評のあるレナさんだ。
後で俺らもちゃんと自己紹介はするけども、レナさん以外からでも知られてるんだなー。やっぱり専用の報告欄とか用意されているとかが大きいのかもしれないね。
「私はクジャクの琥珀と申します。聞いているとは思いますが、雷の昇華持ちとしてレナさんに呼ばれた形になりますね」
「レナさんが呼んだのは琥珀さんなんだな。てか、キジじゃなくてクジャクなんだ?」
「えぇ、クジャクですね。とは言ってもキジから合成進化して、最適の変異進化の結果ですのであながち間違ってもいませんよ」
「おー!? そうなんだ!」
「……確かクジャクはキジ科だったな。それで合成進化になるって事は羽根の合成か?」
「おや、アルマースさん大正解ですよ」
「お、当たりか。単なる思いつきで言ってみたもんだが、鳥に更に羽根を追加ってのもありなんだな」
「えぇ、私もダメ元でやってみたんですが、見事に大成功しましてね。クジャクの羽根を広げたところでも見てみますか?」
おぉ、これは是非とも見てみたいね。それにしてもキジに羽根を合成する事でクジャクに進化するとはなー。適応の為の変異進化の条件ってのは何処にあるか分からないもんだ。
「はい! クジャクの羽根を広げたとこを見てみたいです!」
「私も見てみたいかな?」
「私も同じく」
「俺も見てみたい」
「俺も興味はあるな」
「皆さん、興味があるようですね。では『羽根広げ』!」
「「「「「おー!?」」」」」
見事な程に琥珀さんのクジャクの羽根が広がって、何度か動画や写真とかで見たことのあるような光景が広がっていた。まぁちょっと現実のものとは違うけど、こりゃ凄いもんだね。
薄っすらと黄色くて電気が走っているのが、現実のクジャクよりも神秘さを増している要素な気がするな。ドラゴンを筆頭に現実には存在しない生物も迫力があっていいけど、現実の生物の特徴を大きく残している種族でも神秘的なもんだなー。
ふむ、前に3枠目が開放されたらドラゴンを作ろうかと冗談混じりに言ってはいたけど、こうやってクジャクを見てみると色んな可能性もあるんだな。……3枠目の開放条件はまだ不明だけど、色々と検討してみて格好良いのを作るのも楽しそうだよね。
「どうやらお気に召していただけたようで何よりです。ですが、まだこれは序の口ですよ?」
「え、まだあるのー!?」
「えぇ、ありますよ」
「だったら、それが見たいです!」
「こら、ハーレ! ほどほどにしなさい!」
「あぅ、怒られた……」
「いえいえ、構いませんよ。灰のサファリ同盟にいればいつもの事でもありますし」
「琥珀さんが良いのなら、良いんじゃないかな?」
「……そだね。本人の許可があるなら……」
「やったー!」
「それでも、ハーレ、まずは相手にしっかりと確認をすること!」
「はい、了解です!」
ちょっと遠慮なしに暴走しかけたハーレさんをヨッシさんが諌めているという一幕はあったものの、とりあえず問題はなさそうだ。
それにしてもハーレさんはどうも今日は随分とテンションが高いみたいだね。最近は今みたいな相手の都合を聞かずに暴走気味な事は減ってたんだけどな。まぁ日によってはそういう時もあるか。
「それではお見せしましょうか。行きますよ! 『雷纏い』『発光』!」
「お、こりゃ凄い!」
「確かにこれは凄いな」
広げたクジャクの羽根に電気が盛大に走っていき、広げた羽根の中にある模様からも発光によって光が放たれていく。これは実用性はどうなのか分からないけども、見た目の派手さは凄いものである。
「琥珀さん、スクショを撮っても良いですか!?」
「えぇ、構いませんよ」
そして案の定、ハーレさんは琥珀さんのスクショを盛大に撮りまくっていた。ま、これもいつもの光景だよな。俺でも凄いと思うものをハーレさんが撮り逃すはずが無い。
「……琥珀さんって、灰のサファリ同盟の草原支部のリーダーなんですね」
「そういえばそれは言い忘れてましたね。ヨッシさんの言う通り、草原支部のリーダーをさせていただいています」
「あ、よく見たら白い縁取りがあるねー!」
確かに琥珀さんの所属共同体のひし形マークにリーダーの印である白い縁取りがあった。灰のサファリ同盟の支部リーダーとなれば結構な実力者な気はする。
「ところでサヤさん、どうかしましたか?」
「あ、ちょっと気になった事があって……。あの、この羽根って邪魔にはならないのかな?」
「あぁ、確かにそれを気にする方は結構いますね。……正直、普通に攻撃する場合には邪魔ですよ。ですけど、カウンターや防御に絞ればそうでもないんです」
「え、そうなのかな?」
ほほう、これはちょっと興味深い内容になってきたね。ぱっと見ただけでは動きの邪魔にしかならなさそうだけど、カウンターや防御にはありなのか。……ふむ、電気の昇華にあの広げた羽根か。
「あ、そうか。雷纏いを起点にするのか!」
「やはり鋭いですね。ケイさん、正解です」
「え、どういう事かな!?」
「あー、簡単に言えば雷纏いで麻痺させてから、一気に攻撃を叩き込むんだと思うぞ。俺の予想だけど、琥珀さんって魔法砲撃持ちで、羽根の模様が地味に攻撃の起点に設定出来るんじゃないか?」
「……そこまで見抜きましたか。えぇ、そうなります。通常は羽根を閉じておいて、相手が近寄ってきたところで雷纏いをしつつ羽根を広げて、そこから魔法砲撃で電気魔法での連撃ですね」
うん、大体予想通りの戦法か。PTを組んでいる時は後衛から電気魔法を使っていたりもするんだろうけど、この巨大なクジャク特有の羽根を有効活用しているようである。
後は前に行った虫が光に集まってくるような場所なら、高効率の殲滅も出来そうではあるよね。空も飛べるだろうから、遠距離攻撃については事欠かないだろう。
「……それは地味に厄介そうかな?」
「……もしかしてなんだけど、琥珀さんって特性で異常付与を持ってたりもするの?」
「……ヨッシさんはそちらに気付きますか。皆さん、予想以上に鋭いですね」
「あ、ちょっと聞き過ぎたか?」
「いえ、同じ灰の群集ですし構いませんよ。手の内がそれだけという訳でもありませんしね。それに魔法砲撃に関してはケイさんの検証情報にはお世話になりましたから」
「そっか。そう言ってもらえると助かるよ」
今までに見た事のないタイプの育成の方向性だったから、ちょっとつい聞き過ぎてしまったのは少し反省だね。推測してからそれに答えてもらった形ではあるけども、あんまり詮索しすぎも良くはない。
でもまぁ、俺が情報を上げた魔法砲撃の有効な活用方法が役に立っていたのなら良かったよ。魔法砲撃に関してはあれで使い方が一変したもんなー。
「ま、質問ばっかもなんだから、俺らも自己紹介はしとこうぜ」
「あ、それはそうだな。アルもたまには良い事を言うね」
「たまには余計だっての!」
そんな軽口を叩きながら、俺らも一通り自己紹介をしていった。とは言っても、大体は把握されていたようなので俺らの自己紹介はあんまり意味なかった感じだけどね。
「ところでレナさん達はまだ戻ってこないのか?」
「えっとね、あ、今ダイクさんが水流の操作を使ったみたいだよー!」
「あ、マジだ。あーレナさんが追いつく為に使ったのか」
ダイクさんの生成した水流の勢いを利用しながら泳いでいるレナさんが、逃げている風雷コンビに迫っている。レナさんの銀光を放つ連続蹴りが迅雷さんに……って、疾風さんが何かをして吹っ飛んだ!?
「助かったぞ、迅雷の」
「良いって事よ、疾風の」
「うがー! いい加減止まれー、風雷コンビー!」
「……いや、レナさん、もう良いんじゃね? 今回のはそこまで言うほどの問題行動って訳でも……」
「前回は逃げ切られたから、今回は絶対に逃さない!」
「……完全に私怨じゃん」
なんかそんな会話が聞こえてきたけども、風雷コンビは前回何やったんだよ。そしてレナさんから逃げ切ったとか、とんでもねぇな、風雷コンビ。
「お、ベスタさん、こっちだぜ!」
「……ったく、いきなり桜花に呼ばれたかと思ったら何やってんだ?」
「って、ベスタ!? あれ、桜花さんもいつの間に?」
そういえば桜花さんもいたはずだったけど、会話に混じってなかったような気がする。……あれ? 普通に桜花さんの桜はいたのになんでだ?
「俺ならちょっとログアウトしてトイレに行ってただけだぜ。んで、戻ってきたらあの有様だったからな」
「あ、なるほど」
「で、桜花。俺を呼んだのは、いつものあれって事か?」
「そういう事だな。ケイさん達でも出来そうではあるけど、ベスタさんの方が色々知ってるだろ?」
「……ったく、俺は風雷コンビの保護者じゃねぇんだがな。ちょっと待ってろ、すぐに片付けてくる」
「ベスタ? 風雷コンビを抑えるのなら俺らもやるぞ?」
「問題ねぇよ、ケイ。ま、代わりと言ったらなんだが、後で撮影にでも参加させてくれや」
「あー、まぁそれは別に問題はないけど……」
こうしてベスタの方からスクショの撮影に参加させてくれと言ってくるのは意外と言えば意外だね。まぁ優秀賞のスキル強化の種は破格なアイテムだし、ベスタもそれ狙いかな? どうやらベスタが風雷コンビの抑え込みには慣れてるみたいだし、ここは任せておこうか。




