第548話 ハーレと2人で
ハーレさんが眩い銀光を放つ手を振りかぶっていく。7時までハーレさんの特訓に付き合うという事になったので、その真っ最中である。
「ねぇ、ケイさん!」
「ん? どした?」
「アイス、ありがとねー! でも、お母さんから言われてびっくりしたよー!?」
「……もしかして母さんからもうもらったのか?」
「うん! 電子マネーだけ受け取って、休憩時間に自分で買って食べました!」
「あー、なるほどね」
今日の晩飯のデザートという事だった気もするけど、アルバイトの休憩時間でおやつとして食べたのか。そういう形になったのなら、母さんに頼んで正解だったのかもしれないね。
<行動値5と魔力値15消費して『土魔法Lv5:アースウォール』を発動します> 行動値 56/61(上限値使用:11): 魔力値 189/204
そんな会話をしながら投げ放たれた爆散投擲を土の防壁で防いでいく。ふむ、まだLv1だし魔力集中も発動してないから防ぎきれる範囲だな。それでも半分以上の耐久値がなくなっているから、かなりの威力ではあるよね。
「晩飯のデザートにはしなかったんだな?」
「ふっふっふ、それは後でのお楽しみなのさー!」
「……さては父さんか?」
「ぎくっ!?」
「いや、『ぎくっ』って口で言うなよ。それ、隠す気ないだろ」
「うん、そだよー! お店にお父さんが来るかもって覚悟してたけど、来なくてその代わりになんかお父さんが買ってきてるってー! でも、内容は私も知らないのさー!」
「あー、うん、何となく想像がついた……」
今朝の父さんの様子を見る限り、仕事終わりにでも晴香のアルバイト先に行ってそうな気はしてた。だけどそうはなってないみたいだから、これは母さんが上手く誘導した感じかな。
「再使用時間を待つのも勿体無いから、次行くよー! 『連速投擲』!」
「ちょ!? それをやるなら先に言えー!?」
雑談をしながらやっていれば、ハーレさんが急に走り出して銀光を放ちつつ投げてくる。くっ、通常のアースウォールでも多少の移動は可能だけど、手動操作じゃないからそんなに自由度はないぞ。
これは仕方ないから、アースウォールに隠れるような形で飛んでいく。ふむ、水のカーペットよりも細かい機動性があるね。うーん、こっちの岩の移動にも名前をつけておくか? ……岩で全身の大半を覆って飛んでいるし……よし、これは飛行鎧とでも呼ぼうかな。
「うー! ケイさんのその新移動方法ってどうなってるのー!?」
「あー、これは基本的には雪山で滑り降りた時とか、ダイクさんと一緒に吹っ飛んだ時と同じだぞ? あれの改良版」
「どっちも大暴走だったのに、実用化されてたー!?」
「ま、そりゃ失敗は成功のもとって事で?」
「それもそうだったー!?」
そんな事を言いながらも、ハーレさんは走りながらでも着実に俺に当てるべく投擲を続けていく。うーん、何とか飛行鎧の機動力とアースウォールの移動で防いではいるけど、もう耐久値が保たないな。……耐久値が尽きたら即座に魔法砲撃の効果ありでアクアウォールを展開するか。
「これならどうだー!」
「はい!?」
え、いきなり上にハーレさんが飛び上がったけど今何やった!? 連速投擲の発動中だから、途中で他のスキルの発動は無理なはず……。クラゲが上から引っ張り上げているような感じ……いや、中から押し出されるような感じか。……はっ!?
「隙ありー!」
「……あ」
<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>
<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 59/61 → 59/69(上限値使用:5)
くっ、今回はハーレさんにしてやられた。俺の予想外の挙動をして、上空から投げてくるとはね。アースウォールを手動操作にしていれば……いや、残っていた耐久値的に破壊された上で貫通していただろうから、今のは回避か自分で魔法を破棄して再発動のどっちかが最適解か。
「やったー! 勝ったー!」
「……てか、勝負だったっけ?」
「的当てはいつでも勝負なのですさ!」
「……まー、ある意味そうか。にしても、今のってクラゲの内側に投擲したのか?」
「えっへん! 思いつきだけど、やってみれば出来るもんだね!」
「だなー」
それについて否定はしない……というか、その手の事はいつも俺がやってるもんな。それをハーレさんがやったとしても、まぁ特におかしいという話でもないか。それに風魔法で浮かせれるんだから、他の手段で浮かせられる可能性はそりゃあるよね。
ふむ、これは使い方次第ではさっきの俺みたいに意表をつける可能性は高い。ハーレさんが風の昇華……いや、それよりも早くに手に入る簡略指示でもかなり化けそうだね。
「……ハーレさん、今のはかなり有効だけどいざっていう時までは封印な?」
「えー、なんで!?」
「見慣れたら対策しやすくなるからだよ。今のは対人戦の時の切り札になり得るぞ」
「おー!? そんなに!?」
「まぁな。知られてなければ知られてないほど効果があるから、とっておきって事で温存な。結構応用が効きそうな予感もするし、運用は慎重にいこう」
「了解です!」
よし、とりあえずはこれでいいだろう。今の段階でも意表をつくのには有効だし、ハーレさんが移動操作制御やクラゲのスキルが使いやすくなれば、もっと化ける可能性はある。それこそ、投擲と見せかけてクラゲで突撃という手段もありだな。急激な間合いの変化は上手く使えば、強い武器になるぞ。
「ま、その辺の応用は追々考えていくとして、今は爆散投擲のLv上げだな」
「そだねー! それをしながら、今日の昼間の事を教えてねー!」
「ほいよっと」
それからハーレさんの爆散投擲とその再使用時間の合間に他のスキルの強化と行動値の回復も挟みながら、昼間にあったサヤの爪刃双閃舞のLv毎の威力の検証や操作系スキルの特訓、薪割り、アルの簡略指示を得てからの強化、そして俺自身の新たな移動手段の詳細を含めて伝えていった。スキルを鍛えるだけと思ってたけども、意外と色々あったもんだね。
それからしばらく経って、もうすぐ7時という時間になった。おー、話しながらやってたら案外早かったね。でも、ハーレさんの爆散投擲は上がらずか。うーん、そろそろ上がっても良い気もするんだけどな?
ま、焦っても仕方ないか。9時までの間にどこかでLv上げもするんだし、その時にやれば良いだろう。
「おっ、ぎりぎりまだいるかと思ったけど、大当たりか」
「アルさんだー! ご飯食べ終わったのー!?」
「まぁな。ケイとハーレさんはこれからってとこか?」
「うん、そうだよー!」
「ま、そういう事だな」
「そりゃそうだよな。ま、まだ居たならちょうどいい。Lv上げ用のフィールドボスを誕生させる為の瘴気石を調達してこようと思ってるが、2人とも瘴気石は持ってるか?」
お、確かにそれはありな話だね。そういう事なら、今いくつか持ってる瘴気石をアルに渡してしまおう。あ、そういえばヨッシさんがレナさんから貰った強化済みの瘴気石もあったはず。
「いくつかあるから、アルさんに預けるねー!」
「俺のも全部渡しとくわ」
「俺のも含めて合計15個か。ま、これだけあればひとまず充分だな」
「それとヨッシさんが強化済みのを持ってたはずだぞ」
「あぁ、そういや雪山にレナさんと行った時に貰っていたな。……ケイ、あれの強化度合いっていくつだったか覚えてるか?」
「……いくつだっけ?」
「地味に聞いてない気がします!?」
うん、思い返してみたけども強化度合いを聞いた覚えが全然ない。あのレナさんがくれた強化済みの瘴気石だから、そんなに中途半端なものではないとは思うけど……。
「……よし、ログインしてきたら確認しておく。Lv16周辺になるように調整するのでいいか?」
「それなら+7と+8を1個ずつってとこか。手に入るならそのくらいが良いんだろうな」
「そだねー! 桜花さんのとこにあるかなー!?」
「それなら数は多くはないが+10までは生産可能になってるってよ。浄化の光Lv2で正常化までは出来るそうだ。ただ+11以上にするには瘴気収束Lv3以上が必要みたいなんだが、まだそこまでスキルLvが上がってないんだとさ」
「あー、それ以上はスキルの強化待ちって事か」
+10まで作れるようになっているというのは良い情報だけど、それ以上はまだ生産不可能なんだな。まぁそれでも現時点でLv21までのフィールドボスは生み出せるという事ではある。
昨日のワニのLvがそれくらいだったけど、あれは上手くハメ殺しに嵌っただけで実際もっとやばいんだろうな。……HPは多くて、結構倒し切るのに時間もかかったしさ。
「よし、それじゃ瘴気石の確保はアルに任せた!」
「アルさん、お願いします!」
「おう、任せとけ!」
「それじゃご飯の前に最後の1発、行くよー! 『爆散投擲』! あっ!?」
「……その『あっ』はLvが上がったか?」
「ケイさん、当たりなのさー! これならチャージを待たなくてもいいし、えいや!」
「扱いが雑だな!?」
「ま、良いんじゃねぇか。それよりもう7時になるぞ」
「おっと、そうだった! そんじゃまた後で!」
「また後でねー!」
「おうよ!」
そうしてアルに見送られながら晩飯を食べる為に一旦ログアウトである。とりあえず俺らが晩飯を食ってる間にアルが渡した瘴気石を元にして強化をしてもらうか、既に強化済みの瘴気石と交換をしてくれる事になった。
まぁ既に強化済みとの交換なら追加で何か交換にはなるだろうけど、アルの蜜柑やレモンもあるし、ヨッシさんが合流すれば加工品も色々あるからね。その辺は心配いらないので任せておこうっと。
◇ ◇ ◇
そしていつものようにいったんのいるログイン場面にやってきた。胴体部分には『不具合の修正についてのお知らせがあります。詳細は公式サイトかいったんからご確認下さい』となっていた。あー、この不具合って俺が報告したやつかな? そうだとすると運営は仕事が早いね。
「いったん、不具合の修正についての詳細をよろしく」
「はいはい〜。内容としては君が報告してくれたあれの修正だね〜」
「あー、やっぱりか。早い対応、ご苦労さまです」
「僕は報告以外は何もやってないけどね〜。頑張ったのはチョーチと開発の人達だね〜」
「あー、そうなるんだな。ま、1人のプレイヤーがそう言ってたって報告しといてくださいな」
「それは伝えておくね〜。それじゃ内容は分かってるとは思うけど改めて報告していくよ〜」
「ほいよ」
俺が報告者で内容を知っているとはいえ、いったんとしては内容を言わないって訳にもいかないんだろうね。ま、その辺は当然といえば当然の処置なので、ちゃんと聞いておこう。
「まず不具合の内容としては『半自動制御のログイン時にどれかの枠を使用すれば、一律で全枠が再使用時間を経過するまで使用不可』という仕様が正しく動作しておらず、一律使用不可になっていなかったという点を修正しました。本来の仕様の『ログイン時にはどの枠を使っても一律で再使用時間が経過するまで使用不可』になっています」
「正直、不具合状態の方が便利ではあったんだけどな」
「まぁそうだろうね〜。便利だからこそ、こういう仕様で制限をかけてたとこだからさ〜。不具合状態の方が便利だと分かってても、不具合報告をしてくれた事に感謝だよ〜。報告を受けてから精査したら結構使ってる人がいたからね〜」
「え、そうなのか?」
「うん、そうだよ〜」
まぁあの内容であれば他に使っている人がいても不思議ではないか。それに不具合状態の方が便利であったのは間違いない。……でもそれが正常な動作でないのなら、流石に見て見ぬ振りをして使い続ける気にはなれなかったしさ。
ああいうのって短期的にはそれが有用かもしれないけども、長期的に見るとゲームの寿命を縮めかねないからね。……不具合を放置し、盛大に炎上してサービス終了したオンラインゲームもあるからなー。このゲームは気に入ってるからこそ、そういう事にはなって欲しくない。
「他にお知らせってある?」
「今は特にはないよ〜」
「そっか。それじゃスクショは?」
「そっちはいくつか来てるよ〜。はい、一覧をどうぞ〜」
「サンキュー!」
いったんからいつものようにスクショの一覧を貰って確認していく。あ、薪割りの時のスクショがそこそこ来てるね。ミズキの森林でやっていたから、撮影者は灰の群集なのは当然だね。お、飛行鎧のスクショも来てるってことは……やっぱりサヤとヨッシさんとアルからか。よし、薪割りを何枚かとみんなの撮ったスクショを貰っておくか。
「この辺のスクショをくれ。あと、今回は灰の群集だけだし全部許可で」
「はいはい、そう処理しておくね〜。まぁいつも通りだけどね〜」
「ま、他の群集から申請がなかっただけだしな。あ、それと俺も何枚か申請しときたいんだけど」
「はいはい〜。それじゃ申請したいスクショの指定をお願いします〜」
「ほいよ」
今度はさっきの承諾申請のスクショの一覧ではなく、俺が撮ったスクショの一覧を渡された。さてと、アルのクジラのロケットみたいな上空への突撃のスクショを申請しておこうっと。
あれは多分アルが欲しがるだろうしね。ま、直接ゲーム内で渡しても良かったけど、渡し忘れてたからこういう形で受け渡しても良いだろう。
「よし、それじゃこれでよろしく」
「はいはい〜。それじゃこれで承諾申請を出しておくね〜」
「おう。それじゃそろそろ晩飯を食べてくるわ」
「いってらっしゃい〜」
そうしていったんに見送られながら、ログアウトしていった。さてと父さんが何かを買ってきているらしいけど、あのハーレさんの言い方からすると家族全員分という可能性の方が高いだろう。
晩飯のメニューも気になるところだけど、父さんが何を買ってきているのかが気になるところだね。ま、ログアウトすればすぐに分かる内容か。




