第543話 特訓を続けて
それからアルと何度か対戦を繰り返して、今は10戦目である。ふっふっふ、初めは思いっきり負けたし、途中でも勝ち負けはあったけども、現在2連勝中! よし、水のカーペットに乗ってアルの木の根の操作を掻い潜り、側面へと回り込むことに成功。
流石に使い勝手が悪かったので移動操作制御はいつもの水のカーペットに戻す時間は取ってもらった。もう1つの移動操作制御の登録については、後でやる予定。
さてと、アルとのこの対戦では近距離まで潜り込めば高確率で勝てる! というか、ハサミを当てなきゃいけないのでそうするしか勝ち目はないとも言うけどね。……何度か拘束は試したけど、クジラが巨体過ぎるのと小型化で回避されるので諦めた。
「潜り込まれたか! 『略:リーフカッター』!」
「おっと!」
そこをアルが樹木魔法で葉っぱを舞わして攻撃してきた。リーフカッターは威力は低いとはいえ範囲攻撃だから近付けさせない妨害としてはありだけど、それは近接のみの話! 俺には魔法もあるからね。
<行動値6と魔力値18消費して『水魔法Lv6:アクアインパクト』を発動します> 行動値 24/68(上限値使用:4): 魔力値 156/204
覚えたての水魔法Lv6は非常にシンプルな攻撃魔法であった。ただ生成した水を勢いに任せてぶつけるだけで、性質としては昇華魔法のウォーターフォールに近いかもしれない。まぁバケツの水をひっくり返すような感じで、アクアインパクトには滝であるウォーターフォールみたいな持続性はないけどね。
そうしてリーフカッターを全て吹き飛ばした上に、アルのクジラの側面へと水を叩きつけていく。
「くっ、『旋回』!」
あ、大慌てなアルは回避したか。……そしてアルが避けた事で、元々いた場所の後ろにあった木々に水が直撃して何本かへし折れていった。ダメージが発生しない状況だから具体的な威力はまだ確認は出来てないんだけど、Lv6の魔法ともなるとLv2のアクアボールやLv4のアクアボムよりも威力は上みたいだね。
「やっぱりズルくねぇか、その魔法!?」
「いやいや、シンプルだけど使い勝手はいいぞ」
「シンプル過ぎて逆に厄介なんだよ!」
「まー、確かになー。って事で、もう1発!」
今回は急な旋回で回避されたけども、先の2連勝にはアクアインパクトはかなり重要だったもんな。まさか真上から魔法砲撃で使えば、アルのクジラを叩き落とせるとはね。ま、不意打ちな上に初見だったってのが大きいんだろうけど。
<行動値6と魔力値18消費して『水魔法Lv6:アクアインパクト』を発動します> 行動値 18/68(上限値使用:4): 魔力値 138/204
今度は魔法砲撃にして、ロブスターの尻尾から発射。そして水のカーペットを土台代わりにして、一気に推進力を得る! よし、生成魔法の放水みたいな感じになって勢いはついたし、発動自体も短時間だから良い感じだ。
でも流石に勢いがあり過ぎたっぽくて、水のカーペットが押されていった? ふむ、水のカーペットを踏ん張るように操作をしなければ駄目なのか。
<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>
<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 18/68 → 18/70(上限値使用:2)
あ、水のカーペットがどっかにぶつかったっぽい? ……今はアルに向けて吹っ飛んでる最中だから、背後の確認をしてる余裕はないか。まぁいいや。
「くっ! 『旋回』!」
「逃がすか!」
アルが再び旋回を使って回避しようとしていく。くっ、このタイミングで旋回されると空振りで吹っ飛んでいく可能性すらある。空振りにならなくても場合によっては攻撃も当てられず俺自身が弾かれそうだ。
いや、勢い的に回避の前にぶつかるか? でも勢いあり過ぎだから俺も早く攻撃に移らないと、ただぶつけるだけになって……あ、なんか旋回で良い位置に尾ヒレがやってきた。これはチャンス!
<行動値上限を36使用して『大型化Lv1』を発動します> 行動値 18/70 → 18/34(上限値使用:38)
<行動値を4消費して『鋏切断Lv4』を発動します> 行動値 14/34(上限値使用:38)
<熟練度が規定値に到達したため、スキル『鋏切断Lv4』が『鋏切断Lv5』になりました>
よし、鋏切断がLv5になった。これで後は鋏鋭断をLv5にすれば凝縮破壊Ⅰの取得になるはずだけど、今はそれは後回し!
まずは今の対戦の決着が先だけど、今回はアルの旋回が敗因だな。ちょうどいい位置に狙いやすいとこを持ってきてくれてありがとよ! 勝利条件である俺の鋏切断でアルのクジラの一部……今回は尾ビレ挟む事に成功! って、旋回ー!?
<行動値5と魔力値15消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』を発動します> 行動値 9/34(上限値使用:38): 魔力値 123/204
くっ、今回は自己強化が再使用時間待ちで使っていなかったから挟んだものの掴みきれておらず、アルの旋回の勢いで吹っ飛ばされてしまった。大慌てで飛んでいく先に水の防壁を展開して、そこに突っ込んでいく。
……とりあえず防壁魔法の展開は間に合った。やっぱり大型化した上でもクジラの方が遥かに大きいから、その辺の差は出てくるか。まぁその辺の大きさに関しては一長一短だから、一概に良いとも悪いとも言えないけどね。
「おーい、ケイ、大丈夫か?」
「おー、大丈夫だ」
色々と実際に運用するには工夫が必要そうだけど、このアクアインパクトの使い勝手自体はいい。結構なダメージは期待出来そうだし、攻撃の妨害にも使いやすい。っと、その前に勝利宣言だな。吹き飛ばされたとはいえ、勝利条件は指定したスキルを当てる事である。
「よし、俺の勝ち!」
「あ、そうなるのか!? これで3連敗かよ……」
「ふっふっふ、この新魔法は強い!」
「……1回目は叩き落とされ、2回目は囮に使われ、今回は推進力だもんな。ただぶつけるのが目的なら魔法産の水を操作するより遥かに強いんじゃねぇか?」
「まー、操作系で言えば昇華になるLvの魔法だし、強いのはある意味納得だぞ」
「……言われてみりゃそうなるな」
どうしても2人で使う昇華魔法の威力よりはかなり劣るけど、魔法単体として見るのであれば相当強力なのは間違いない。……でも性質的には瞬発性が強い感じなので、操作系スキルと組み合わせるのは相性が悪そうではある。
持続性が欲しければ生成魔法と操作、瞬間的な威力が欲しければLv6の魔法ってところか。要は使い分ければ良いだけって事だな。
「10連戦したし、少し休憩しようぜ、ケイ」
「それもそだな」
流石にアルとの実戦形式での特訓を10連戦は少し疲れたし、それは多分アルも同じなんだろうね。行動値や魔力値の回復の際に簡単な休憩はしてはいたけど、しばらく本格的に休憩しよう。どうしても精神的な疲れは出てくるから、適度なとこでの休憩は取っていかないとね。
えーと、今の時刻はっと……。あ、もう3時が近い。対戦を始めたのは1時過ぎくらいだったから、1時間以上もほぼぶっ通しで対戦をやってたのか。そりゃ疲れもするよ……。
アルは一旦地面に降りたし、俺も大型化を解除して休憩していこうっと。俺の場合は大型化の常時使用にはメリットがない。上限値を使用してるから回復する行動値の上限も低くなるからね。
<『大型化Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 9/34 → 9/70(上限値使用:2)
よし、これで解除完了っと。魔法砲撃については……まぁそのままでもいいか。夜目は必須だから解除する必要は無いな。
さてと、俺とアルの特訓中ではサヤとヨッシさんの特訓にまでは意識を散らせなかったから、休憩中に2人の様子を見ておこうかな。行動値や魔力値回復の時にチラッとは見てたけど、サヤは電気の操作、ヨッシさんはウニのスキルの強化をしているんだよね。
サヤはクマでログインして簡略指示から使っていて、ヨッシさんはウニでログインしてハチを大型化させた状態で特訓中となっている。
「サヤ、今度はこれ。今回は確実に当てることだよ。『棘杭』!」
「分かったかな! 『略:エレクトロクリエイト』『略:電気の操作』!」
ヨッシさんがウニの棘を飛ばして地面に突き刺していって、それを的にする感じでサヤが電気の操作をしているんだな。ふむふむ、これは要するに落雷をイメージして電気の操作をするって感じか。
お、良い感じにサヤの竜が生成した電気が、地面に突き刺さっているウニの棘に命中したね。シンプルに上から下へ操作した感じだけど、操作自体はスムーズである。
「うんうん、かなりいい感じになってきたね。それじゃさっきは駄目だった連続のをやってみようか。次は刺した棘に当てないように、あっちの木まで電気を操作する事ね」
「……うん、頑張ってみるかな」
「それじゃ準備していくね。『棘杭』『棘杭』『棘杭』『棘杭』!」
そうしてヨッシさんが大型化したハチで飛びながら、ウニの棘を飛ばして一直線になるように地面に杭を打ち込んでいく。久々に見たね、ヨッシさんのウニが本格的にスキルを使ってるところ。
今までは共生指示の微妙な使い勝手の悪さがあった感じだけど、ヨッシさんが簡略指示を手に入れたら今の棘の射出による杭も便利に使えそうだ。
「はい、準備完了。サヤ、杭に当てないように杭と杭の間をジグザグに通しつつ、あっちの木まで操作をやってみて。焦らなくていいから、確実にね」
「うん、分かったかな! 『略:エレクトロクリエイト』『略:電気の操作』!」
ヨッシさんが目印として用意した杭に当てないように、サヤが生成した電気が1つ目の杭に向かって進んでいく。お、さっきと比べるとぎこちないし、ゆっくりではあるけども着実に杭の間を進んでいた。
1つ目の杭と2つ目の杭の間は無事に通り過ぎ、同じ要領で次々と杭の間を通り過ぎたら向きを変えるように操作して、ジグザグに電気を進めていく。ほほう、これはサヤの操作は結構上達したんじゃないか?
「やった! 木まで辿り着いたかな!」
「段々上達してきたね、サヤ。それじゃ今度は今のを速度を上げて行けるように……って、ケイさんとアルさんは休憩?」
「あ、見てたのかな?」
「ちょっと連戦で疲れたから休憩中だな。サヤ、結構上達したんじゃないか?」
「あはは、そうだと嬉しいかな。でもケイにはまだまだ届かないけどね」
「……サヤ、ケイのを比較対象にするのは止めといた方がいいぞ?」
「そういうアルさんの操作も高水準だから、基準には出来ないけどね」
おう、ヨッシさん言ってやれー! 俺は操作系スキルは得意だしアルよりも扱いこなせてる自信はあるけども、アルだってかなりの高水準なのは間違いない。操作系の苦手なサヤが参考にするには不適格という意味では俺と同じだもんな。
「アルの自分の事の棚上げ反対ー!」
「ケイにだけは言われたくないが、否定しきれないのが複雑な心境だ……」
「よし、アル、もう1戦だ。もう1回、地面に叩き落としてやる!」
「……あー、今のは俺が悪かった。だから休憩させてくれ……」
「まー、そういう事なら仕方ないな」
割と失礼な事を言われた気がしたから本気で落とすつもりではいたけど、俺もまだ休憩していたいからね。撤回するのであれば、まぁ水に流そうじゃないか。
「ヨッシ、私達も少し休憩にしないかな?」
「あ、それもそだね。それじゃ少し休憩にしよっか」
そういやサヤ達も合間で行動値や魔力値の回復はしてただろうけど、本格的には休憩をしてなかったっぽいね。ま、ここでみんな揃って大々的に休憩するのも良いだろう。
「みんな、何か飲む? ちょっと裏技という小技があったから、少しくらいなら飲んでもいけるよ?」
「え、何か小技があるのか?」
「うん、まぁね。お茶なんだけど、実は水で薄めても味が変わらないみたいでさ。効果はほぼ無くなるんだけど、ただの飲み物としてはありだよ」
「へぇ、そんな仕様になってんのか」
「うん。お茶はそれぞれ薄めて効果がなくなってるのはいくつかあるから、それでも飲みながら休憩しようよ」
「それは良さそうかな。えっと、確かリンゴジュース味もあったよね?」
「確か、漆黒草茶がコーヒー味だったよな。俺はそれで頼む」
「サヤは発火草茶で、アルさんは漆黒草茶だね。ケイさんは?」
えーと確か、発火草茶はリンゴジュース、旋風草茶はメロンジュース、硬化草茶はカフェオレ、麻痺草茶はレモンジュース、発光草茶はフルーツオレ、漆黒草茶はコーヒー、氷結草茶はスポーツドリンクだったよな。
あれ? これって7種類だよな。……何か足りないような気もするんだけど……って、癒水草茶の味が抜けてるのか。
「ヨッシさん、聞き忘れてただけかもしれないんだけど、癒水草茶の味って何?」
「え、あれ、言ってなかったっけ? 癒水草茶はサイダーだよ」
「ほうほう、癒水草茶はサイダーなのか。んじゃ俺はそれで」
「ケイさんは癒水草茶だね。私は発光草茶にしようかな」
そうやって話している内にみんなの飲むお茶の種類が決まっていった。……まぁ味的にお茶なのかどうか非常に疑わしいけども、現実に存在しない植物を元に作られているお茶だからその辺は仕方ないか。
それに水で薄めれば、効果はなくなっても味はそのままというのは嬉しい仕様だね。ただ飲みたいだけの時にも遠慮せずに飲みやすくもなる訳だしさ。
「はい、みんなどうぞ」
「ヨッシ、ありがとうかな」
「ヨッシさん、サンキュー!」
「ありがとな、ヨッシさん」
「いえいえ、どういたしまして」
ヨッシさんは水で薄めたお茶は予め竹の器に入れて保管していたようで、すぐにみんなに配ってくれた。この様子だと、こういう休憩の時用に用意してくれていたみたいだね。
今ここにハーレさんがいないのが少し残念だけど、まぁ今日と明日はハーレさんはアルバイトなんだから仕方ないか。
さてとお茶らしくないお茶を飲んで、少し休憩したら特訓を再開していこう。出来るかどうかは分からないけども、今日中に凝縮破壊Ⅰの取得を目指していこう! 後は鋏鋭断Lv4をLv5に上げれば良いだけだから、スキル強化に専念している今日なら辿り着く可能性は充分あるもんな!
 




