第525話 事情を聞いて
思ってもみなかった無所属でのクエスト絡みの事情が聞けた。まさか黒の統率種なんて進化先があるとは思ってなかったな。でも、黒の暴走種はプレイヤーと同種の存在ではあるから、居てもおかしくはなかったのか。
この辺の仕様もそのうち何かありそうな気もするね。まぁそんなにたくさんの黒の統率種が誕生するとも思えないけども……。
「さて、無所属の事情はこんなもんだ。他に何か質問はあるか?」
「……いや、特にはないな」
「そうか。で、俺はそうでもないんだけど、羅刹とイブキが戦いたがっているんだよ。増援クエストもやってしまいたいし、俺としてはケイさん達に無条件で破片を渡すのでもいいんだけど……」
「ウィル! こんな絶好のチャンスを無条件でなんて嫌だからなー!」
「……とまぁ、イブキが確実にうるさいんだ。勝負を受けてはくれないか?」
「あー、俺は良いけど、とりあえずみんなと相談させてくれ」
「おう、それで構わない。良いよな、羅刹、イブキ?」
「あぁ、俺は問題ない」
「そこは任せるぜ! 受けろ、受けろ、受けろー!」
うん、イブキの希望全開の言葉が思いっきり混ざってるけどもそこはスルーしておくか。さてと、これはみんなと相談するしかないな。……それにしても、ウィルさんご苦労さまです。
「相談タイム! アル、ちょっと離れた場所に移動を頼む」
「ま、そうなるよな。んじゃ、ちょっと移動するぜ」
そうして俺らの声がウィルさん達に聞こえない程度の距離を取って、対戦を受けるかどうかの相談開始である。
「みんな、どうする?」
「俺は受けるのはいいと思うぞ。勝っても負けても群集クエストに重要な『進化記憶の結晶』が手に入るしな」
「うん、それはアルさんに同感。でもあれって、発見のカウントになるの?」
「……多分なるんじゃないのかな? 無所属では群集クエストはなくて、増援クエストで受け渡すのが条件になってるみたいだしさ」
「それを確かめる為にもやってみるべきなのさー!」
確かに、こればっかりは実際にやってみて確かめる必要がある。俺が見つけた時の経験値増加の水草みたいなアイテムについては話してなかったし、見つけた場所についても聞いておきたいもんな。
それに増援クエストというものがあるのなら、無所属プレイヤーの動向も把握しておきたいとこである。そういう意味でも、悪意はなく、ただ戦いたがっている羅刹とイブキと接点を持っておくのもありだろう。イブキについては羅刹とウィルさんがブレーキ役をしてくれそうだしね。
「とりあえずみんなは戦う事そのものには反対はなし?」
「それについては問題なしさー!」
「私もそれは問題ないよ」
「私も問題はないんだけど、少し気になる点はあるかな?」
「あー、サヤが気になるのは人数か? 俺も戦うの自体は別に良いが、人数差は気になる所だな」
「うん、やっぱり5対3はちょっとね? あ、でもウィルさんはそうでもないみたいだから5対2になるのかな?」
「あ、そうなるんだー!?」
「……確かにそれはちょっとあれだよね……」
「それもそうか。んじゃ向こう次第ではあるけど、同じ人数に調整してみるって感じでどう?」
「ま、それが無難だな」
「同じ人数で戦うなら、誰が戦うのかなー!?」
「どうだろね? その辺は向こう次第?」
「この感じだとそうなりそうかな」
その人数調整という案には反対意見も無かったので、その辺を調整した後で実際に対決かな。イブキは弱くはなさそうだけど、ベスタみたいに無茶苦茶強いという感じはしない。
でも羅刹に関してはベスタ級の強さがあるんじゃないかという気はしている。……もし戦う事になったら全力でだ。火の昇華を持っているのは見たから、俺のコケも安全とは言い切れないしね。
さてと、さっきの位置まで戻ってきた。改めて対戦に向けての人数調整の協議という事だけど、どういう形になるかな? この戦闘好きの2人が相手ならば、5対2で良いと言ってくる可能性も否定は出来ないんだよね。まぁそれならそれで遠慮なくぶっ倒すけど。
「とりあえず、対戦自体は了承って事で決まった。それで対戦の人数の相談をしたいんだけど」
「んなもん、全員でかかってこいやー!」
「お前はアホか!」
「ぐふっ!」
そしてある程度は予想していたイブキの俺ら全員との勝負発言に対して、羅刹が恐竜の尻尾で龍のイブキの頭を薙ぎ払っていた。おぉ、容赦ないツッコミ! そこから追撃をかけるように、イブキの頭を羅刹が踏みつけていく。
「強敵だと分かってる相手に人数差を倍以上で挑むのは、舐め過ぎだって分かるか? 人数差が覆るのは圧倒的に実力差がある場合かちゃんとした作戦があって初めて成立するものなんだがな?」
「分かった! 羅刹、俺が悪かった!」
「……はぁ」
そうしてイブキは羅刹の踏みつけから解放されていた。……どう見てもこの2人は羅刹の方が圧倒的に強いよね。
「それなら2対2ならどうかな?」
「……それが無難なところか。それでいいな、イブキ」
「戦えるならそれでもいいぜ、羅刹! 希望としてはケイとサヤのコンビだ!」
「おいこら、イブキ!? すまん、ケイさん、サヤさん。ワガママ言ってるのはこっちだから、組み合わせについてはそっちで自由に決めてくれて――」
「ウィルさん、私はそれで良いよ。ケイ、みんなも良いかな?」
「ま、サヤが良いなら俺も別に良いけど」
「問題なしですさー! サヤとケイさんのコンビ戦だー!」
「私もそれで良いよ」
「俺もそれで構わないぜ」
サヤが真っ先に了承したのが少し意外だったけども、他のみんなからの反対意見も出ていない。そういえば、サヤとのコンビで戦うのって久しぶりか。今はお互いに手札は増えているし、これはやりがいがあるかもね。
「おっし! いざ、正々堂々と尋常に勝負!」
「奇襲を仕掛けたお前がそれを言うな! あー、俺らのワガママを聞いてくれて感謝する」
「私達も色々聞かせてもらったからね。それに、私もちょっと戦ってみたい気はしてたかな」
「……へぇ? サヤさんがそういうのは、正直意外だな」
「私もちょっと負けたくない相手もいるからね。その為に特訓っていう意味合いもあるかな」
「どうでも良いから、さっさとやろうぜ!」
「……もう1回仕留めてしまいたいが、時間が勿体無いから止めておくか……」
イブキの好き勝手な言い草に呆れたような羅刹ではあるけども、流石に今からまたイブキを殺されるとデスペナがまた発生して少し弱体化するからな。正々堂々と戦うのであれば、デスペナの影響が抜けてからになるだろう。
「とりあえず、双方の合意で対戦って事で良いんだな。それじゃルールを決めていくか」
「そんなもんは全滅した方の負けで良いだろ! 分かってることを聞くなよ、ウィル!」
「……やっぱりもう一度死んどくか、イブキ?」
「羅刹、待った!? 聞く、ちゃんと聞くから、それは勘弁!?」
なんというか、いくらなんでもイブキって短時間に羅刹から怒られ過ぎじゃない? ……この怒られても中々反省しない感じは、何となくリアルのフラムや会ったばかりのアーサーを連想するな。
もしかするとイブキって俺より年下って可能性も結構ある気がする。……まぁリアル情報の詮索はマナー違反だし、それはやる気はないけども……。
「……はぁ、いい加減懲りてくれないもんかね……。とりあえず、ケイさんとサヤさんは死ぬまでって条件はどうだ?」
「あー、まぁすぐそこでリスポーン出来るから俺は問題ないぞ。ってか、ウィルさんも大変だな」
「……イブキはちょっとじゃじゃ馬過ぎて苦労してるぜ……。まぁ、こういうやつを抑えて迷惑をかけた人達への詫びにしたいと思ってるがな。……それでも許されるとは思ってないが」
「……それは俺からは頑張ってくれとしか言えないな」
「ま、それで良いさ。俺が手段を間違ったのは事実だからな。……それでサヤさんの方は、ルール的にはどうだ?」
「えっと、場合によっては共生進化が解除になるけど、それくらいなら許容範囲かな。今日はまだ死んでないから、死んでもデスペナはないしね」
「そうか。……なんだかイブキの思い通りになってる気もするが、2人が良いならそれでいいか」
ウィルさんは色々と、本当に色々と思うところはあるようだけども、俺とサヤが同意したからこれでルールは決定だね。まぁ特に拒む理由もないからなー。
「よし、それじゃ羅刹とイブキのコンビとケイさんとサヤさんのコンビで、全滅した方が負けって事で決定だ」
「はい! 要望があります!」
「……ハーレ、実況なら却下かな?」
「あぅ!? 内容を言う前に断られた……」
「あはは、ハーレ、ドンマイ。サヤはそういうのは苦手だから仕方ないよ」
「ま、今までもそうだったしな。今回はそういうのは抜きでスクショでも撮ってようぜ。それは別に問題ないよな、ウィルさん?」
「それに関しては問題ないぜ。良いよな、羅刹、イブキ?」
「あぁ、問題ない」
「そんなもんはどっちでもいい!」
「んじゃ、そういう事で決定な。えーと、それじゃ互いに距離を取って、俺の合図で試合開始だ」
そういうルール設定を終えて俺らは互いに一旦距離を取っていく。それに合わせてアル達も別方向に距離を取って、巻き込まれないように移動していた。俺らの位置は河原の上で、羅刹とイブキは草原の上といった感じである。
……そういや羅刹とイブキって今はPTを組んでるのか? ふむ、その辺の内容によっては色々と戦い方が変わってくるか。
「ウィルさん、少しだけ質問」
「ケイさん、なんか問題あったか?」
「問題っていうか疑問だな。羅刹とイブキってPTは組んでるの?」
「あー、それか。PTならイブキを仕留める時に解除してたみたいだが、今は俺も含めて組んでる状態になってるぜ。無所属同士ならダメージは通るけど、流石にPT組んだらフレンドリーファイアはないって」
「そっか、なるほど。情報、サンキュー!」
「良いってことよ!」
ふむふむ、イブキを仕留める為だけにPTを解除してたのか。それで普通にPT組み直しているのなら、さっきの光景は日常茶飯事なんだね。んー、PTを組んだ状態でフレンドリーファイアに期待してたんだけど、流石にそれは無かったようである。いくらなんでもそれは無茶な仕様過ぎるか。
さてと、軽くではあるけどもサヤと作戦会議でもしておくか。……音声だと聞こえるかもしれないから、ここは共同体の新機能を使おう。
ケイ : サヤ、初手で河原の石にコケを増殖させるから、大雑把で良いからコケ付きの石を周囲にばら撒いてくれるか? ちょっと奇襲の仕込みをしとく。ついでにドサクサに紛れてコケ付きの石を1個確保しといてくれ。
サヤ : あ、こっちで作戦会議するんだね。うん、それについては分かったかな。それで、その後は?
ケイ : 羅刹は危険だろうから、先にイブキを潰して2対1状況を早めに作る。サヤは竜に乗ってイブキと空中戦はいけるか? 俺が羅刹の足止めをしながら、隙を見て攻撃をしかけるからさ。
サヤ : 分かった、やるだけやってみるかな。そこから先は臨機応変にかな?
ケイ : ま、そうなるな。
さて、最低限の仕込みはこれで良いだろう。簡単にロブスターを仕留められる気はないが、全滅が敗北条件ならコケの退避場所を用意しておくのは重要だ。それに場合によっては遠隔同調も使えるしね。
「それじゃ始めるぞ!」
「あぁ」
「おう!」
「ほいよ」
「分かったかな!」
「試合開始!」
そしてウィルさんの合図により、サヤとコンビで対戦の開始である! さぁ、全力でぶっ倒すつもりでやっていこう!
「それじゃ行くかな! 『魔力集中』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」
<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します> 行動値 67/71(上限値使用:1)
サヤは即座に風属性を付与し、俺はロブスターの表面と河原の石に向けてコケを増殖させていく。
「サヤ、ぶっ飛ばせ!」
「分かったかな! 『薙ぎ払い・風』『薙ぎ払い・風』!」
そうして俺のコケ付きの石をサヤが薙ぎ払って、羅刹とイブキに向けて吹っ飛ばしていく。風属性を付与した事で、攻撃速度が増して10個くらいのコケ付き石が飛んでいったね。……しかも途中で勢いに耐えきれず、ピシリと亀裂の入る音も聞こえている。
「イブキ! 何を仕掛けてくるか分からん。全て叩き落とせ!」
「分かってらぁ! 『魔法砲撃』『ウィンドボム』『ウィンドボム』!」
お、いきなりのサヤの近接ではない攻撃に警戒したのか、石の破壊を優先したか。……ただし、指向性を調整しなかったのも、火属性にしなかったのも失敗だぜ。
さて、思った以上に石が砕けて散らばってくれたね。まぁ、即座にこれを使えば仕込みの意味がないから少し温存か。
「サヤ!」
「分かったかな! 『上限発動指示:登録1』『略:雷纏い』! 勝負かな、イブキさん!」
「ドラゴン対決なら望むとこだぜ! 『魔力集中』『斬化鱗』!」
バチバチと放電する電気を纏う竜とその背に乗るクマと、体表を覆う鱗が刃物のように鋭利化した龍が共に空へと飛び上がっていき、戦いが始まっていく。
羅刹はかなり警戒をしているようだけども、イブキはそうでもないようだね。サヤのメインはクマではあるけども、イブキにとってはドラゴン同士の対決って思っているのか。これは上手く連携が出来てない感じでチャンスだな。
「イブキ、安易に誘いに乗るな! ちっ、聞こえてないか……」
竜に乗ったサヤと、それを追いかけていくイブキ。手の内はまだはっきりとしないけど、それはお互い様って事で。向こうはどうもイブキの我が強くて連携はさっぱりのようである。
「純粋なドラゴン相手に共生進化でクマが邪魔な状態で空中戦ってか! 『回鱗鋭刃舞』!」
「それはどうかな! 『爪刃双閃舞・風』!」
そしてイブキの龍の緑色の鱗が複数、銀光を放ちながらサヤへと向かって飛んでいく。それを迎撃する様にサヤも応用スキルで迎撃を行っている。
「初手から1対1に分断か。何を狙っている……?」
「さてね?」
イブキの相手については作戦通りサヤに任せておこう。羅刹の方が確実に強いし、慎重でもあるからね。さてと、俺が何かを狙っている事自体は見抜かれてるみたいだし、こっちはこっちで頑張っていきますか。




