第511話 夜の部、開始!
現実に戻って来たら……あ、7時を少し過ぎてる。……ドタドタと階段を駆け降りていく足音が聞こえてたから、晴香の仕業だな? あ、何か唐揚げっぽい感じの匂いがするね。最近はいつも俺のところに来てたけど、匂いに釣られて先に降りたのか。
「晴ちゃん、危ないから階段は走らないの!」
「はーい! 晩御飯は唐揚げだー!」
「……もう。圭ちゃんも手が空いたら降りてきてねー!」
「ほいよ」
母さんからも呼ばれたので、ササッと晩飯を食べに行こうかな。……そういや、最近は晴香におかずを狙われる回数も減った気もする。あれって、もしかして晴香の無自覚の内にしてたストレス発散の行為だったのかもしれない。
ま、そういう事だと思って、今まで取られたおかずについては気にせずにおこうか。
そして既に食卓に並んでいる晩飯を見てみれば、さっき思っていた事が甘かったと痛感した。くっ、晴香め。先に降りたのはこの為か!
「なーんか、俺の分の唐揚げが露骨に欠けている気がするのは気のせいか?」
「あはは、兄貴の気のせいだよー?」
「そして妙に晴香の分が盛り上がってるように見えるんだけど?」
「それも気のせいさー!」
「んなわけあるか! 俺の唐揚げを返せ!」
「あー!? 兄貴が私の唐揚げを取ったー!?」
取ったも何もあるか! 元々、晴香の方が量が多いってのに俺の分まで減らされてたまるか! 少しでも気遣って、これまでのおかず争奪の事を水に流そうと思った俺の心境も返せ! 食欲に関してのみはストレスとか何も関係ないのがよくわかったよ!
「……晴ちゃん?」
「あぅ、ごめんなさい……」
度が過ぎた晴香の行為に、母さんが流石に怒っていた。まぁ、具体的に何かを言った訳でもないんだけど、無言の圧力って怖いよね。
「あー、母さん。明日の弁当なんだが、必要なかったのを思い出した。弁当用に残してる分を晴香にやってくれ」
「あー、はいはい。そういう事にしておきますね。……晴ちゃん、次はおかずが減るかもしれないからね?」
「……ごめんなさい」
なんか、父さんの弁当用の唐揚げが晴香に渡って事態は収束したようである。絶対に父さんの今の話は嘘だろうね。なんだかんだで父さんも晴香に甘いんだよな。
ま、ちょっと前まで落ち込み続けていた晴香の事は母さんだけで考えてた訳じゃなくて父さんも把握はしてただろうから、その辺の事もあるんだろうけどね。
そんな風に晩飯を食べ終えてから、食器を洗って片付けていく。いつの間にか晩飯の後片付けは俺の担当って決まってるんだよな。……なんでだっけ? 晴香が食洗機を壊した後からなし崩し的にそうなったような……。
「兄貴! 先に行って、合流の場所を決めとくねー!」
「おう、任せた。ついでにクエストの情報も伝えといてくれ」
「任せてー!」
そう言いながら晴香は自室へと戻っていった。多分、転移の種を使った転移先で合流になるとは思うけど、先に晴香がその辺の事を調整してくれてるとありがたい。後はデンキウナギの捕獲の時に偶然見つけた、『???』の正体である『進化記憶の結晶』についても説明しといてもらっておけばいい。
「圭吾、少し話しておく事がある」
「……何、父さん?」
「晴香はバイトをして旅費を稼ぐと言ってただろう?」
「そう言ってたな。明日と明後日の近所のスーパーの臨時の短期バイトだよな」
「そう、それだ。ただ、ここから東北までとなると旅費だけでも結構かかるだろう?」
「あー、確かに……」
なんだかんだでヨッシさんが引っ越した地域までは結構な距離はあるもんな。短期の2日のバイトでは……まぁどういう移動手段を選ぶのかにもよるけど、それなりに金額はかかるだろう。
「という事で、出掛ける前日に臨時の小遣いを出す事にした。お土産分も含めて、楽しんでこれるようにな」
「へー、そうなんだ」
ちっ、晴香だけ臨時の小遣いを貰うのか。……まぁお土産の代金も含んでるみたいだし、サヤとヨッシさんが一緒にいるなら無茶苦茶な使い方もしないだろう。……多分。
「おいおい、圭吾、話はまだ途中だぞ? 圭吾にも臨時の小遣いはやるからな」
「え、マジで!?」
「ま、お土産分だけ晴香よりは少なくはなるけどな。……それでだ、渡す当日までは内緒にしとけな?」
「おう、わかったよ」
「よし、それでいい。話はそれで終わりだ」
「ほいよ」
まだ具体的な金額については教えてはくれなかったけども、これは父さんグッジョブ! やったね、これで臨時収入があるのは確定だ。……さてと、そういう事なのであれば晴香には内緒にしておかないとね。
よし、食器洗いも完了したしゲームの続きをやっていくとしようかな。
◇ ◇ ◇
そしてゲームを起動して、いったんのいる場所にやってきた。さっきは時間がなかったから何も処理出来てないんだよな。……胴体部分の内容については特に変化なしか。
「おかえり〜」
「おうよ。スクショの承諾って来てる?」
「うん、あるよ〜。承諾をお願いね〜」
「ほいよっと」
いったんから渡された承諾待ちのスクショの一覧を眺めてみる。あ、レナさんからのが多くて、吹雪の中から薄っすらと俺達の姿が見えているスクショとかがあるね。あとはダイクさんとのコンボ移動の時のがいろんな角度や場所から撮られている。……うん、確かにあれはスクショを撮りたくなるのは分かる。俺だってあれをもし見かけたら撮ってたと思うしさ。
ん? 妙に近いとこから撮られてるのが……って、撮影者はライさんかい! うっわ、このスクショの感じだとかなり近くから撮ってたんじゃないか? もしかしたら危うく轢きかけたのかも……。よし、その時は擬態してたライさんが悪いという事にしておこうっと。
他にも何枚も撮られているから、ブレてなくて綺麗に撮れてるのを何枚かもらっとこう。ライさんのは近過ぎてブレまくってるから別にいいや。
「いったん、この辺のスクショをくれ。あと、灰の群集だけ承諾で」
「はいはい〜。それじゃそう処理していくね〜」
どっちにしても赤の群集にはあの移動は気付かれてるだろうけど、許可は出さない方針へ戻す予定だったしね。記念撮影とかで撮ったもの以外は例外なしで処理しようっと。知り合いでどうしてもって場合は直接言ってくるだろうしさ。
とりあえずスクショに関してはこれで完了っと。今は特にお知らせはないみたいだし、みんなが待ってるだろうからログインしていこう。
「それじゃコケでログインをよろしく!」
「コケの方だね〜」
そうしていったんに見送られながらゲームの中へと入っていく。さぁ、夜の部の開始である!
◇ ◇ ◇
ログインしてゲームの中へと移動すれば、ログアウトしたハイルング高原である。周囲をグルッと見渡して……うん、快晴だし清々しくて気持ちいいね。まぁ気温は感じないから気分的な問題だけど。
さて、現実逃避はそれくらいにしておこう。確かに高原のど真ん中にログアウトしたのは俺の判断だったけども、この状況はいくらなんでも……。あー、良い天気だなー。
気のせいだと思いたいけども、流石にそういうわけにもいかないので現実を直視しよう。今の俺の置かれている状況としては、結構な数の黒のカーソルの敵に囲まれている。えーと、ヤギ、ウシ、なんかの草花、移動種の木、イタチ等など……種類は沢山いるけど発見報酬が出ないので、残滓か瘴気強化種ばっかりか。
「それじゃ、昇華魔法を行ってみよー!」
「これで『共闘殲滅を行うモノ』が取れますからね」
「おー! 『アクアクリエイト』!」
「行くぜ! 『ファイアクリエイト』!」
少し離れたところに見覚えのある赤の群集の黒いネコと白いネコ、それと青の群集の甲羅にコケの生えたカニの姿があった。って、弥生さんとシュウさんとジェイさんかー!?
そして薄っすらと青っぽい色をしている赤の群集のゾウの人と、青の群集の赤いフクロウの人が、昇華魔法を狙っているように魔法を発動させていく。その組み合わせはスチームエクスプロージョンか!
「ちょ! ちょっと待ったー!?」
「え、あれ!? なんでケイさん、そこにいるの!?」
「……もしかして偶然そこにログインしたのですか?」
「「えっ!?」」
みんな気付いてはくれたみたいだけど、これはどう見ても発動を止めるには間に合わない! えぇい、一か八か、まだ試したことのない事を試して凌ぐ! ……間に合うか!? いや、発声での発動じゃ間に合わないから、ここは思考操作で発動だ!
<行動値上限を1使用して『魔法砲撃Lv1』を発動します> 行動値 71/71 → 70/70(上限値使用:1)
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 69/70(上限値使用:1): 魔力値 199/202
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値2と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 67/70(上限値使用:1): 魔力値 196/202
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
大急ぎで魔法砲撃の効果でアースクリエイトを砲撃にして、それぞれ左右のハサミを発動の始点に設定! これはまだ試したことがないから、正直予想通りの効果になるかは未知数だ。
でも邪魔しない範囲でスチームエクスプロージョンを避け切れる手段は……他にも色々あったきはする……。いや、でも確実に威力負けするだろうけどこれでも回避は可能なはず。えぇい、どうとでもなれ! 死んだら死んだ時だ!
<『昇華魔法:アップリフト』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/202
左右のハサミから放たれた小石同士がぶつかって、アップリフトが発動する。お、これは予想通りの動きをしてくれた! よし、これなら狙いは地面だな!
両方のハサミの延長上に土の柱が伸びていき、その頂点でロブスターのハサミで逆立ちをしているような形になった。そしてその直後にスチームエクスプロージョンが轟音と共に炸裂し、群がっていた敵を一掃していく。
「おわ!?」
それと同時に俺のアップリフトで作り出した土の柱も消え去って、そのまま俺は落下していく。……うん、流石に単独発動の昇華魔法じゃ、2人での発動の昇華魔法に耐えられる訳もないよねー。って、そのまま落ちてられるか!
<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 67/70 → 67/68(上限値使用:3)
とりあえず大急ぎで水のカーペットを生成してその上に退避。爆風で少し上空にもふっ飛ばされていたので、コケはほぼ無傷だけどロブスターのHPが半分以上は減ったな。まぁ咄嗟の大急ぎの対応としては上等なところか。
アップリフトは普通に発動すれば地面を隆起させる昇華魔法だけど、魔法砲撃にすれば土の柱を始点からの延長線上に生成していくようである。ある程度は予測してたけど、そのままの性質で助かったー!
「ケイさん、大丈夫かい?」
「ログインした直後にいきなりごめんねー?」
「「いきなり、すみませんでしたー!」」
シュウさんと弥生さんが心配そうに覗き込んできて、昇華魔法を放ったゾウの人とフクロウの人も申し訳なさそうに謝ってきている。……まぁびっくりはしたけど、この手の巻き込みについてはこのゲームじゃ気にしても仕方ないもんな。
とりあえず上空から見下ろすのもどうかと思うので、水のカーペットの高度を下げて話しやすい位置に移動しよう。
「あー、一応無事だったから別に良いって。……ここでログアウトしてた俺も悪かった気もするし」
「……まぁ、私達もびっくりしましたよ。『共闘殲滅を行うモノ』を取りたいという方がいたので敵を集めていたら、その中からケイさんが現れるんですからね。……それにしても良く避け切れましたね?」
「あー、そうでもないぞ。結構ダメージは受けてるしな」
「……タイミング的に即死でもおかしくなかったとは思いますけど……。やはり侮れませんね」
どうやらジェイさん的にはさっきの俺の回避はあまりお気に召さなかったらしい。まぁジェイさんにはちょっとライバル視されてる気もするので、その辺で微妙な心境なのかもね。
「うんうん、今のケイさんの咄嗟の回避は凄かったね。わたしなら、足場を作って一気に駆け上がるかなー? シュウさんならどうするー?」
「僕かい? 僕なら並列制御でウィンドボムの指向性を操作して上空へジャンプだね」
「……こちらの2人も平然と回避しそうですね」
「ジェイさん、やれば出来るって!」
「……実際に目の前で見た以上はそうでしょうね。後で真似でもしてみましょうか」
なんだかんだでジェイさんは向上心が強いから、邪魔な連中がいなくなった今からでも色々強化してきそうではあるんだよな。まぁ灰の群集の一強が続くのも面白みに欠けるから、強くなってくるの望むところだけどね。
それにしてもシュウさんも弥生さんもいつも通りの様子に戻っているようでホッとした。……まぁ昨日の一件の傷跡として、シュウさんの赤いカーソルの縁が黒くなってはいるけども……。数日の間に追加でPK行為をしなければ元に戻るらしいから、しばらくの我慢だろうね。
「あ、そういやハーレさんを知らない? 俺より少し前にこの辺りにログインしてるはずなんだけど」
「ハーレさんですか? それなら少し前からあちらの方でフレンドコールをしていますよ」
そうしてジェイさんが指し示した方向を見てみれば、何やら慌てた様子でハーレさんが駆けてきた。ん? 何をそんなに慌ててるんだ?
「ケイさん、なんでそんなにダメージを受けてるのー!? もしかしてログイン場所がさっき聞こえてた爆発の位置に重なってたー!?」
「……まぁそうなるな」
「あちゃー!? 色鮮やかな蝶を見つけたから追いかけてスクショ撮った後にフレンドコールをしてたら、その位置のことを失念してたー!?」
「なるほど。で、そのスクショの成果はあったか?」
「えっへん! 成熟体の逃げるやつでした!」
「お、マジか! まぁそういう事なら別にいいか」
そもそもはログアウトに不適切な場所でログアウトしてたのが原因ではあるから、ここでハーレさんを責めるのは無しだな。……今度からはログアウトの場所についてはよく考えて決めよう。せめて拓けた戦闘に向いている場所は避けた方がいいのは体感としてよく分かった。
「で、ハーレさん。みんなとの集合場所は?」
「昨日、転移の種で登録した場所になりました!」
「やっぱりそこが無難だよな。了解っと」
やっぱりそうなったか。まぁみんなが同じ場所に登録したんだから、それが一番手っ取り早いよね。さてと、それじゃ弥生さん達に挨拶をしてからみんなと合流だな。
あ、ついでだから目的地の赤の群集の森林深部と青の群集の森林について聞いておこうかな? 偶然ではあるけど、それぞれに詳しそうな人達が目の前にいる訳だしね。




