第510話 急いで移動
色々と予定外の事があったけども、無事に灰のサファリ同盟へと渡すデンキウナギの確保は完了である。でも、もう6時半が近付いている。今回はデンキウナギを運ばないといけないから帰還の実で戻る訳にもいかないし、ここから30分以内に森林深部まで移動かー。7時までに間に合うのか、これ……。
出発する時に使ったダイクさんとのコンボ移動なら確実に間に合うだろうけど、デンキウナギの運搬をしながらだと制御しきれる気がしない。そもそもあれは普通でも制御が厳し過ぎるし、緊急時以外は封印だ。という事で、ダイクさんに移動は任せる!
「ダイク、移動用意ー! ケイさんとハーレは時間が厳しいからねー!」
「おうよ。『移動操作制御』! ケイさん、ハーレさん、乗ってくれ」
「はーい!」
「ダイクさん、サンキュー!」
時間が非常に微妙だし必要以上に考えていても仕方ないので、サッサとダイクさんの水のカーペットに乗って移動開始だね。……おっと、デンキウナギめ、無意味に放電をするんじゃない。びっくりしただろ。
「それじゃ大急ぎで帰るよー! ダイク、あれやっちゃって!」
「ほいよ」
何やらダイクさんが水のカーペットの上に寝っ転がって、レナさんがダイクさんの大根の葉っぱを押さえつけるように爪を立てて踏んでいる。……え、いきなり何事? あー、なるほど、そういう事か。
「ダイクさんって、もしかしてそういう趣味なのか……!?」
「……ケイさん、これは俺を固定するものだから変な想像はやめてくれな?」
「あー、固定って事は風で推進力か」
「……分かってて言ったよな、ケイさん!?」
「まぁな。元々こういう事をしてたから昇華魔法を推進力にって案が出た訳だ」
「……そういう事になるな。とにかく出発するからな! 『魔法砲撃』『ウィンドクリエイト』!」
寝っ転がったダイクさんはレナさんの脚によって固定され……あ、地味に水のカーペットでレナさんの脚があまり動かないようにも固定してあった。なるほど、これがレナさんとダイクさんの2人での移動時の状態か。……通りがかりで見かけると二度見はしそうな珍妙な光景ではあるね。
そして、ダイクさんの大根の根から噴出されていく風が推進力となり、どんどんと加速していく。うん、行きの時みたいなバカみたいな速度ではないけど普通の水のカーペットだけよりはかなり速いね。
「お、お、おぉー!? 結構な速度で進んでいってるねー!?」
「これ、充分な速度は出るんだな」
「おうよ。まぁ実用性が高くなってきたのは最近だけどな」
「そうそう。風の昇華になってからだもんね」
「それまではウィンドボムを至近距離で爆発させてたけど、安定せずに使い勝手は悪かったんだよ。少し向きを間違うと水のカーペットがどっかに当たってダメージ判定が出てたりしてな」
「何度、無意味に使用不可になった事やらねー!」
「あー、そういう失敗もあったんだな」
珍妙な光景ではあるけども、これはこれで結構な試行錯誤の上で成立したもののようである。……そういやこれって、以前にサヤが竜で試そうとした魔法砲撃による風での推進力の完成形みたいなもんか。
なるほど、あれは風の昇華になってしまえば完全に成立するんだね。ふむ、そうなるとサヤに竜で頑張って風の昇華を取ってもらうという手も……いや、操作系が苦手なサヤにはちょっと厳しいか。ま、後で言うだけ言っておこうっと。
場合によってはアルが……いや、俺でもいいのか? ふむ、この推進力は魅力的だし風の昇華をPT内の誰かが取れないか検討してみるのもありだね。それならヨッシさんとハーレさんにも話して、みんなで……。
「ねぇねぇ、ケイさん!」
「ん? ハーレさん、どした?」
「クラゲで風の昇華を狙ってみてもいいですか!?」
「あー、別にいいぞ。って、そういやハーレさんのクラゲって物理型と魔法型とバランス型のどれだっけ?」
「バランス型だけど、魔法寄りー! ここから魔法クラゲを目指します!」
「おー、そっか。頑張って、風の昇華を目指してくれ」
「なんかケイさん、反応が軽いよー!?」
「……いや、色々考えてたのに無意味になったのが、ちょっとだけな……?」
「そういう時に限って、独り言がないんだよねー!?」
みんなで相談しようと考えてる最中にハーレさんが育てる事を確定しちゃったもんな。まぁ別に悪い訳じゃないし、むしろありがたいんだけど、俺の些細な心境の問題である……。……よし、気分を切り替えていこう。
<命名クエスト『命名せよ:名も無き平原』が完了しました>
<『名も無き平原』を改め『ザッタ平原』へと名称が変更になりました>
あ、どうやら命名クエストが終わったようである。そっか、命名クエストが始まって30分位だったんだな。……それにしてもまたネタっぽい名前のエリア名になったもんだね。ネス湖の隣の平原はザッタ平原か。
「おー! ネタになったねー!」
「みたいだなー」
「ま、そういうのも良いんじゃね?」
「楽しければネタ的な名前でも良いのさー!」
まぁレナさんの言う事も一理あるね。ネタ系の名前とは言っても不快感のある悪質なネタでもないし、この程度なら充分楽しめる範囲だな。
「もうすぐエリア切り替えになるぞ。ここからは上空を盛大に飛ばしていくからな」
「「「おー!」」」
<『ザッタ平原』から『ハイルング高原』に移動しました>
よし、ハイルング高原まで戻ってきた。ここも結構広いけど、ダイクさんの風の推進力を使っていけば何とか間に合いそうだね。そう思っていたら、ダイクさんの風の推進力が切れていった。
「あー、再発動するから待ってくれな」
「スキルの仕様で永続的に発動し続けられないし、問題ないって」
「そだねー!」
「ま、そうなるんだよな。そんじゃ『ウィンドクリエイト』! 生成の魔法は魔力値の消費が少ないから助かるぜ」
「あー、そりゃ確かに」
ある意味では魔法砲撃での生成の魔法がコストパフォーマンスはかなり良いのかもね。まぁ、あれ単独ではそれ程ダメージはないから攻撃向きではないけど、操作すれば自由度は高いし、工夫すれば威力も出るからね。
「ん? 急に暗くなったな。あー、雲の下に入ったのか……?」
「どれどれ?」
寝っ転がったままで上を見上げていたダイクさんが少し不思議そうにそんな事を言い出したので、空を見上げてみれば確かに太陽を遮るものの下に入り込んでいたようである。……って、ちょっと待った。パッと見では俺も雲かと思ったけど、これは普通の雲じゃないっぽい?
やたらと黒い雲だし、雰囲気的にはこれは雷雲か? うおっ、観察してたら雷鳴が轟いてきたぞ!? あ、雷雲が晴れたかと思ったら雷属性っぽい黄色を基調として、所々に青い色が混ざった模様の西洋系の龍が姿を表してきた。
しかもその龍から逃げ回っている様子のペガサスのプレイヤーがいるっぽいね。ちゃんと白いペガサスになってるので、光属性か氷属性かな? 氷属性ならもう少し青みがかっているから、光属性っぽい感じか。
「1人で成熟体のドラゴンから逃げ回ってるっぽいな?」
「んー? 時々妙なタイミングで止まってるけど、もしかしてあの人は雷雲から出てきた成熟体のドラゴンのスクショ狙いかなー?」
「多分そうだと思います! あー! ペガサスの人の背中の上に、ニワトリの人が乗ってるよー!」
「お、マジだ。あー、青の群集の人なのか」
へぇ、2人組で成熟体の龍を相手にスクショを撮りながら逃げ回られる人が青の群集にいたのか。まぁ群集の運営に興味を示さずに自由にやってる人もそれなりにいるみたいだから、そういう人達なのかもね。
いくら強いからといっても群集のまとめ役を任せられるかどうかは性格的な向き不向きや、本人のやる気とかも関わってくる話だから、無理強いは出来ない話ではあるもんな。そういう意味では性格的にも実力的にも問題がないベスタが灰の群集にいてくれたのはラッキーだったんだろうな。
結構な激戦をしていたのでつい見学をしていると、とうとう逃げ切れなくなったのか龍が発生させたらしき大きな雷鳴と共に発生した落雷を受けてペガサスの人とニワトリの人はポリゴンとなって砕け散っていった。ナイス、健闘だったぜ!
「いやー、見応えあったねー。でも、あの雷はなんだったんだろ?」
「……え、今の雷って昇華魔法?」
「一番初めに見た雷雲が昇華魔法だよ。確か電気と水で雷雲を生み出す『サンダークラウド』って昇華魔法。電気同士なら、もっと広範囲に雷を落とす『サンダーボルト』だしさ」
「えー!? それじゃレナさん、今の雷って何ー!?」
「……昇華の効果のかかった、電気の生成魔法……? でもあそこまで大きな雷じゃなかった気がするね?」
「もしかして、魔法にも上位の魔法が存在してるのか……?」
「……ケイさんのその推測はあり得るかもね。魔力集中に似た何かとか、元々属性自体を帯びたスキルっぽいものの存在の可能性を考えたら、応用操作スキルに対応する魔法があっても不思議ではないかも……?」
「おー!? そうなると、成熟体では物理型、バランス型、魔法型でそれぞれに強力なスキルが追加なのかなー!?」
「可能性は高そうだな。……これは、成熟体への進化が楽しみになってきた!」
「ケイさんに同意だな! ま、それまで鍛えられるだけ鍛えとこうぜ」
3種類の方向性の違う未知のスキルの存在の可能性が浮かび上がってきたし、これはまだまだ強くなれそうだ。……もし今より上位の魔法があるのだとすれば、取得にはそれなりの条件が必要になってきそうではある。
可能性としては属性の所持か、昇華称号の所持が有力候補かな。応用スキル自体が操作系以外の多くは特性や攻撃部位を持っている事が条件になっているみたいだし、可能性としては充分ある。ま、すぐには条件の確定は出来ないから成熟体に進化出来るようになるまでに色々鍛えておくのがベストかな。
「あーうん、それには同意なんだけどさ。時間は大丈夫?」
「あっ!? もう7時まで15分もないよー!?」
「ダイクさん、悪い! 超特急で頼む!」
「お、おうよ!」
「あー!? ケイさん、水の操作が切れてる!? デンキウナギがいないよー!?」
「げっ、完全に忘れてた!? デンキウナギを探せー!」
「あはは、こりゃ油断し過ぎたねー!」
レナさん、笑ってないで逃げたデンキウナギの捜索を手伝ってくださいな! くっ、ついうっかりとペガサスの人と雷の龍の戦闘に魅入ってしまっていた。このミスはかなり恥ずかしい!
そうして少しの間、手分けをして探せばデンキウナギを再び捕獲する事には成功した。……でももう時間切れである……。あー、良いものが見れたとはいえ、時間配分を盛大にミスったー!
どう考えても今からどんなに急いでも晩飯の時間までには森林深部には戻れそうにない。となれば、ここでの選択肢は1つのみ!
「ダイクさん、レナさん、デンキウナギの受け渡しは任せた」
「ま、時間的にしゃーないか」
「それじゃわたしとダイクで受け渡しはしておくね。えっと、報酬はどうしよっか? 途中までは運んでくれたから、少し量は減るかもだけど報酬はちゃんと貰ってくるよ」
「そういえば、報酬って聞いてなかった気がするー!? 報酬はなんですか!?」
「あれ、言ってなかったっけ? えっと、乾物系が試作段階だけど色々と完成したらしいから、その中から好きなのを1人2つだね。でも、途中までだったからケイさんとハーレは1つずつになるね」
ほほう? そういやドライフルーツやらお茶の茶葉を乾燥させるとか言ってた気はするね。そしてこの言い方だとそれ以外もありそうな予感。よし、ダメ元で聞いてみようかな。
「はい、私はドライフルーツが欲しいです! 種類はお任せで!」
「ハーレはドライフルーツをお任せだね。ケイさんは?」
「あー、あればだけど、干し肉か魚の干物で」
「どっちもあるね。どっちがいい?」
ふむふむ、どっちもあるのか。うーん、それならロブスター的には魚という事にしておこうかな。魚の種類はお任せにしておこう。
「それなら魚の干物でよろしく。あ、俺も種類はお任せで」
「はいはい、了解っと。今はまだそんなに種類は多くはないけどね」
「あー、そうなんだ。ま、それで構わないよ」
「うん、了解。それじゃ次に会った時に渡すね」
「はーい!」
「ほいよっと」
途中で中断という事にはなってしまうけども、半分とはいえ報酬貰えるならありがたい。さてと、それじゃ受け渡しはレナさんとダイクさんに任せてログアウトだな。
「それじゃレナさん、ダイクさん、またねー!」
「またな、レナさん、ダイクさん」
「おう、また時間が合えば一緒にやろうな」
「またねー!」
そうしてレナさんとダイクさんに見送られながら、晩飯の為に一度ログアウトである。……帰還の実で森林深部に戻っても良かったけども、晩飯を食べた後にアル達と合流する際に転移の種を使うつもりだ。
だからハイルング高原の真ん中でログアウトになるけど、そこは大して気にしなくても良いだろう。さてと、時間はぎりぎりだからさっさとログアウト処理をしないとね。
◇ ◇ ◇
そしていつものようにいったんのいるログイン場面へとやってきた。今回の胴体の内容は『お、ちらほらと見つけた人が出てきたね』となっている。ほう、これは群集クエストの『???』の発見状況についてかな? こうやって地味に話題には出してくるんだね。
「お疲れ様〜。晩御飯の休憩かな〜?」
「おう、そうだな。あ、悪いけど急ぐから、色々と後でも良いか?」
「特に急ぎの案件はないから問題ないよ〜」
「そっか。それじゃそういう事で、また後で!」
「はい〜。戻ってくるのを待ってるね〜」
そうしていったんに見送られながら、現実世界へと戻っていく。これはちょっと7時を過ぎたかもしれないな……。まぁ盛大に遅れたら流石にあれだけど、数分くらいならそこまで母さんは怒ることはない。とはいえ、急いだ方が良いのは間違いないけどね。




