第424話 更に深い場所へ
流石にフィールドボスの事が気になったので、ちょっとまとめを見てみようっと。その為にも、ちょっとだけ時間を貰おうかな。
「あー、ごめん。少しだけ時間を貰っていい?」
「うん、問題ないよー! シュウさん、この近くの散策してこよー! ルストも行くよー!」
「分かったよ、弥生」
「待って下さい、弥生さん、シュウさん!?」
「私達は少し休憩しましょうか」
「分かった、水月!」
「ま、未知の場所を警戒しながらだったからな。丁度いい休憩か」
「……休憩は大事」
「さて俺も気になるから、その情報は見ておくか」
「私もー!」
「それじゃ私もかな」
「私も見ようっと」
何だかなし崩し的にではあるけども、一旦軽い休憩という事になったね。シュウさんと弥生さんとルストさんは周囲の探索、水月さんとアーサーとマムシさんと翡翠さんは普通に寛いだ状態で休憩をしていた。
俺らのPTのみんなは揃ってフィールドボスの情報確認である。えーと、フィールドボスについてのまとめは……あった、あった。
ふむふむ、人為的にフィールドボスに進化させる方法ってのが思いっきり載ってるね。えーと、まだ不確定要素が多いため、その点に要注意か。現時点ではフィールドボスになる可能性が高いだけで、まだ確定した手法ではないんだね。
Lv上限に達している成長体2体を近い位置に誘導させて、それぞれに瘴気石を食べさせる事で進化させると。へぇ、瘴気石ってボスの再戦だけじゃなくて、そんな使い道も発見されたのか。あ、注意点もある。
これで進化させた後は未成体のLv1で強くなりやすいからフィールドボスになりやすいだけで、この時点では殆ど旨味はないと。って旨味ないのかよ! Lv上昇の法則については調査中か。
それ以上の詳細はまだサンプル不足で、情報は足りてないと。この段階の情報ならまだ役には立たないか。……これ、赤のサファリ同盟の方が情報を持ってそうだな。
まぁシュウさんにこれ以上は自分達でと言われたし、そのうち自分達で確認したいとこだね。瘴気石が鍵になるっぽいし、これは群集内でやる内容か。
「……これはまた今度、時間がある時に試してみるか」
「ケイに賛成だな。まだ正確な条件は不明か」
「そうだねー! 明日やってみるー!?」
「それは明日の夕方次第かな?」
「Lv上げに丁度いい場所を探すついでが良さそうだよね」
確かにこれは狙ってとは言っても簡単ではないな。まず成長体Lv20を2体揃えるところから始める必要があるし、その場合は未成体だらけのエリアに成長体がいるかどうかの確認からしないといけない。その辺がサンプル不足の原因なんだろうね。……他のエリアからLv20の成長体を持ってくるのは……流石に試してみないと分からないか。
明日は少しLv上げをメインにする予定になってきてるし、そのついでで成長体を探す形が良いんだろうね。もしくは既に出現しているフィールドボスを狙ってみるのも良いかもしれない。
「ま、その辺は明日の夕方に決めるとして、少し休憩だな」
「そだねー!」
「弥生さん達が戻ってくるまでかな?」
「それがいいだろうね」
「それじゃ弥生さん達が戻ってきたら出発だな」
その俺らの会話を聞いていた水月さん達もそれで良いようで、休憩については弥生さん達が戻ってくるまでとなった。
身体的には疲れないけど、精神的な疲れはどうしてもあるから適度に休憩しないとね。未知のエリアを探索中だから、集中力の回復はミスを減らす為にも大事である。まぁそれでもミスをする時もあるけども……。
そして少し経った頃に、ルストさんの枝に弥生さんとシュウさんが乗った状態で戻ってきた。休憩時間は10分ってところかな。周囲の散策には何か成果があったかな?
「戻ったよー!」
「少し先で急激に深くなっているね」
「私達だけでは少し降りるのは大変そうでした」
「わたしだけなら行けるけど、ルストはともかくシュウさんは置いていけないからねー!」
「……いつもの事ですけど、弥生さんは最近特に私には厳しいですね?」
「心当たりは色々あるんじゃない?」
「……うっ、それは確かに……」
弥生さん達が戻ってきたけども、ルストさんって何をやらかしたんだろう。完全な身内ともなれば色々あるんだろうけど、やっぱり迂闊な個人情報漏洩とかかな? ルストさんはうっかりリアル情報を喋ったのは何度か見たけど、それが俺らの前でだけとも限らないもんな。
「それは良いとして、ケイさん、灯りをお願い。更に暗くなってるからその灯りは重要だね」
「ほいよっと」
「それじゃ出発する……マムシさん、小型化とか持ってないか?」
「ん? あるにはあるが、どうすんだ?」
「いや、どうせならもう全員を乗せた方が早いんじゃねぇかと思ってな? 多少の重量オーバーでも水中なら急激な落下って事もないし、いざって時はケイの水流の操作もあるしな」
「お、それなら任せとけ!」
確かに大型なのはルストさんとマムシさんの2人だから、マムシさんだけでも小型化が出来れば重量は軽くなる。その状態ならルストさんがアルのクジラの上に乗っても大丈夫かもしれない。それにアルの言う通り、いざって時は俺の水流の操作で補佐はどうとでも出来るしね。
「……なるほど、そういう事か。なら乗らせて貰うぜ。『小型化』!」
「それでは私も失礼しまして……この辺りでよろしいですか?」
「おう、良いぞ。……ふむ、これで少しずつ沈むくらいか……」
アルの木の前にルストさんが根でクジラの頭より下の首辺りにしがみつき、丸太から木の枝みたいに姿を変えたマムシさんもアルの木の枝に巻き付いていた。うん、苦手生物フィルタを使うとどうしても珍妙な光景になってしまうな。
それにしてもクジラの背の上に木が2本あるというのも凄い光景だな。アルの木とルストさんの間に他のみんなが乗れば良い感じになりそうではある。
「おー!? 木が2本のクジラだー!」
「これは撮らないと駄目だねー。ハーレさん、シュウさん、撮っていくよー!」
「弥生、僕は正面から撮るから側面を任せるよ」
「私は上からだー! 『上限発動指示:登録1』『ウィンドクリエイト』『風の操作』!」
「あぁ!? 私も撮りたいですけど、この状況は無理ですね!?」
「はいはい、後でスクショをあげるから大人しく撮られてね」
「……はい。こればっかり仕方ないですしね……」
背中に2本の木を背負ったクジラという状況に反応して、素早く飛び降りたネコ夫婦のシュウさんと弥生さん、クラゲの傘を広げて風魔法で少し浮かび上がったハーレさんがスクショの撮影を始めていた。
そして撮られる側に回った事で、撮れない事を悔しそうにしてるルストさんであった。……そういや、これってフラムが中継してるんだよな? ……まぁその辺は害もないし別にいいか。
そしてひたすらスクショを撮り続けている3人のサファリ系プレイヤーの姿があった。活き活きとしていて何よりだ。その間、暇そうにしてた翡翠さんとヨッシさんとサヤが見つけた残滓を倒して、経験値を稼いでいるよ。どうやら先行してる別の湖底探索のグループが倒したのが残滓で復活してたっぽいね。
「ふー、まだまだいくよー!」
「……まだ続くのか」
ほぼ身動きが取れずにただ撮られるだけのアルは少しお疲れのようだ。……サファリ系プレイヤーの人達は適度な所で止める必要があるのかもしれないね。若干テンションが上がり過ぎて、複数人いた事で周囲が見えてない状況になってるぽいし……。という事で、流石にそろそろ止めよう。
「弥生さん……というか、サファリ系プレイヤーの人、そろそろストップ!」
「……何かな、ケイさん?」
「ケイさん、何ー!?」
「……あぁ、僕とした事が少しやり過ぎたようだね。すまない、アルマースさん。ほら、弥生もね?」
「あ、そっか!? ごめん、アルマースさん! つい!?」
「はっ!? 夢中になってアルさんがプレイヤーって事が頭から抜けてた!?」
「おい、ハーレさん!?」
「……いや、分かってくれたならいい。ケイもありがとな」
「……もうちょい早めに止めれば良かったな……」
明確に内容を伝えなくても、俺が言いたい事は伝わっていたらしい。あー、もしかしてちょっと前までは風景や中身がプレイヤーでない敵ばっかりだったから、プレイヤー相手の場合の事を失念していたのかもね。
反省はしてくれてるみたいだし、これで多少の改善にはなるはず。悪気がないのは確実だから、その辺について意識さえしてくれれば大丈夫だろう。
「よし、それじゃ改めて出発って事で、みんなアルに乗れー!」
「はーい!」
「あはは、ちょっと自重しないとねー?」
「そうだね。僕も少し気を付けないと……」
そんな事を言いながらアルのクジラの上に戻ってきた。さてとこの先には更に深くなってるらしいし、慎重に行かないとね。とりあえず懐中電灯モドキを進行方向に向けていく。
この懐中電灯モドキは予想より遥かに便利だね。まさか光に弱いかどうかの判定まで出来るとは思わなかったもんな。
「それじゃアル、出発!」
「おうよ! ちょっと沈み防止に自己強化を使うぞ。『自己強化』!」
「アル、速度の出し過ぎには気をつけてかな!?」
「……湖に来るまでの道中の事は反省してるから、無茶はしないって」
「……道中に何があったの?」
「ケイさんとアルさんの2人掛かりでの大暴走があったのさー!」
「……そうなんだ。……それ、楽しそう」
「あ、翡翠さんはそういうの好きなの?」
「……リアルでは苦手。でもゲームなら好き。ヨッシは?」
「……私は苦手なんだよね」
「……そう、なんだ……」
「あ、でもゲームの中では割と平気になってきたよ?」
「……そうなの?」
「うん、そうなの」
そりゃまぁ、今まで何度も暴走したもんな。そういや今日の大暴走ではヨッシさんは平気そうだったし、平気になってきたというのも本当なんだろうね。まぁ慣れの問題なんだろうけど。
そして沈まないように、自己強化を使ったアルに全員が乗って出発である。さて、更に深くなっていると言ってもどの程度のものかな?
「あ、アルマースさん、ストップ!」
「おうよ。へぇ、ここが更に深くなってる場所か」
「うん、そうなるね。ケイさん、明かりをお願い」
「ほいよっと」
少しアルのクジラの頭の方に移動して、懐中電灯モドキで照らしながら下を覗き込んでいく。……急な傾斜ではあるけど、崖と言うほどでもないか?
でも、これは普通に歩いて降りるには確実に苦労する地形だな。それにしても底までは明かりが届かないか。この先は随分と深そうだね。
「……また随分と深くなってるのかな?」
「そうみたいだねー。ケイさん、一か八かにはなるけど明かりを絞ってもらって遠くまで照らしてもらってもいい?」
「ほいよっと。……あんまり意味ないか」
少し光を収束させて範囲を狭めて光量を上げても無意味なようだ。うーん、暗視と望遠の小技の合わせ技なら見れるかな……?
「弥生さん、暗視ならどうにかなるか?」
「近場ならいけるけど、この距離は無理だね。あ、そうそう。暗視は視界は良くなるけどエリアの特徴が分かりにくくなるから暗いからって常用はあまりオススメしないよ?」
「あー、確かにそれはあるかもな……」
今まで気にしていなかったけど、言われてみれば確かにそうだな。暗闇での視界は確保出来るけど、今回の湖みたいに少しずつ暗くなっていく場所だとその変化を見落としかねない。暗視も万能ではないという訳か。
「よし、それならここまで来た通りに俺の懐中電灯モドキでなんとかするか。アル、潜っていくのは任せるぞ」
「おうよ!」
「アルさんの潜水開始ー!」
元気なハーレさんの号令に従って、急な傾斜に沿ってどんどんと深いところに潜っていく。今は深度はどれくらいなんだろうか? 全体的に緩やかに降った傾斜だったし、もう200〜300メートルくらいは潜ったような気はする。
そうしてどんどん潜っていくと湖の様子が変わってきた。ちょっと待て、なんで湖底から灯りが見えてくる? あ、もしかして先行しているグループの灯り? とにかく今はその場所まで行ってみるしかないか。
もう少し潜ったところで、灯りが強くなり俺の懐中電灯モドキが必要なくなってしまった。ははっ、よく分かんないけど、これは凄い。
「……これはなんだ?」
「こりゃすげぇな!」
「わぁ! 湖底にこんなのがあるとは思ってなかったかな!?」
「絶景だー!」
「これは凄いね」
「……うん、凄い」
そこには湖底一面に広がる、緑色をした50センチ程度の山のように盛り上がったものが大量に存在した。……これって初めて見るけど、何なんだろう?
「……これは驚いたね。コケボウズがこんなところにあるなんて」
「確かにびっくりだねー! でも、これは良い発見だよ、シュウさん!」
「そうですね。運営も粋なことをするものです」
えっと、コケボウズって何ですかね? コケボウズって事は、これら全部コケなんだろうか? シュウさん達は知っているみたいだから、内容を聞きたいところ。
でも、聞いている余裕はなさそうだ。無視して雑談出来そうにはない相手もいるっぽいんだよね。ここの光源となっているこいつ……。
<ケイが成熟体・暴走種を発見しました>
<成熟体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>
<ケイ2ndが成熟体・暴走種を発見しました>
<成熟体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>
さて、思いっきり光りまくっているアロワナみたいな1メートルくらいの成熟体はどうしたもんだろうね。とりあえず、良く知らないコケボウズとやらの成長の為の光源はこのアロワナで間違ってないんだろな。
……折角のチャンスだし、『格上に抗うモノ』を狙ってみるか? いやでも、連結PTだとどうなるか不明なんだっけ……。さて、流石に相手に地の利があり過ぎるかもしれないし、これはどうしたものだろう。……その前に思いっきり見てきてるけど、そっちが大丈夫かな!?




