第326話 転移地点の移動
各地の情報はある程度揃ったので、次にやるべき事をやっていこう。多分だけどさっきのマグロの人……おそらくソウさんの増援要請を受けて、海方面へと移動する事になりそうだね。
「さて、ケイ達に頼みがある」
「さっき言ってた増援のやつだねー! 問題ないさー!」
「え、なんの事なのかな!?」
「まず説明してもらってもいい?」
「……あぁ、そのつもりだ」
「おや、何かあるのですね?」
ベスタが説明しようとする前にハーレさんが返事をしてしまったので、段取りが狂ってしまっているようだ。俺とアルとハーレさんは事情は分かっても、サヤとヨッシさん、それに多分一緒に来そうなルストさんも事情がさっぱり分からないだろう。
「一応まとめた情報を他の群集と統合したいんだがそれとは別件の頼み事だな。まずは順番に、ここにいる奴らには群集問わず分かった情報を説明しておく。ルアー、そっちはどうだった?」
「あー、問題ないぞ。こっちも情報のまとめが終わったところだ。思ったより情報共有板にいる人数が少ないのが気になるが……まぁそれはいい」
「何か手が離せない理由でもあったか……? まぁいい、現時点で判明している事を説明していくから、手の空いているやつは聞いてくれ! まずはーー」
そしてベスタの口から先程の情報交換で分かった他の群集の情報が伝えられていく。時々ルアーが赤の群集の情報とのすり合わせをしつつも、基本的には持っていた情報はほぼ同等のようである。まぁ灰の群集のメンバーも赤の群集や青の群集と行動を共にしているんだから、極端な情報の差異が出るわけもないか。
情報を統合して分かった事といえば、入る群集の初期エリアの位置によって近くにある金属塊の数に差があるくらいだろうか。灰の群集の常闇の洞窟では少ない方面もあるけど、その辺りには他の群集の常闇の洞窟の金属塊があるようだ。3つの群集の常闇の洞窟を合わせて考えると、全体的にバランスよく配置されているらしい。
そうして話していく内に例の海方面の増援の話になっていく。まぁ、こっちが本題だもんな。
「俺はケイのPTが海にも陸地にも適応しているから適任だと思うが、引き受けてくれるか? 無理だと言うなら強制はしないが……」
「それって、明日の一斉修復の時の撃破人員って事で良いのかな?」
「あぁ、その認識で問題ない。青の群集からも何人か来ているそうだし、後で他の連中に声をかけておくが確実な人員が欲しい」
「そういう事なら別にいいとは思うが、ケイはどうだ?」
「ん? 俺は問題ないぞ」
そもそも海水適応してない時でも途中までは踏破したルートだしね。サヤも素の海水適応は無くなったっぽいけど、海水適応の特性の種を持っているから問題はない。もし、問題があるとすれば……。
「おや、ケイさん、私が何か?」
「いや、ルストさんって海水は大丈夫なのかなって思ってさ?」
「あぁ、そういう事ですか。海水適応の特性の種を持っていますので、その辺りは問題ないですよ」
「一応心配はしたけど、問題はなかったみたいだね」
「というか、ルストさんも行くのかな?」
「サヤさん、何を言いますか!? ここで行かなくてどうするのです!」
「わっ!? あ、ごめんなさい……?」
「……いえいえ、見事なカウンターでした。いけませんね、この癖はなんとかしませんと……」
興奮してサヤに迫っていったルストさんを、足払いというか根払い……か? とりあえずバランスを崩させたサヤがルストさんを盛大に転倒させていた。うーむ、流石俺らのPTの近接最強のサヤだね。
俺ならあっさり掴まったルストさんの行動パターンを見事に返り討ちにしていた。まぁルストさんもすぐに体勢を立て直してたけども。
「それじゃ海の方に移動だねー! あれ、そういや何人で行くの!?」
「あぁ、それはケイ達のPTだけで頼めるか。こっちも放置って訳にもいかんし……向こうにも人員はいるからな」
「私は着いて行きますからね!?」
「……分かっている。ルストに関しては元々そのつもりだ」
「少ないとはいえ、半覚醒も居ますからね。そちらはお任せください!」
「あぁ、任せた」
あ、そういえば半覚醒も居たんだった。俺のPTは道中では何度か出た程度だったから少し忘れかけてたけど、赤の群集の人達に任せてたっけ。それならルストさんがいる方がむしろ好都合か。わざわざ暴発や昇華魔法でゴリ押ししなくていいし。
「そういう訳なんだが、ルアー達はそれで問題ないか?」
「ま、他にもこれだけメンバーがいるなら問題ないだろ。それに実行は明日になるしな」
「コケのアニキ、今日は楽しかったよ! ヨッシさんも特訓ありがとうございました!」
「うん、アーサー君も頑張ってね」
「アーサー、頑張れよ!」
成長株のアーサーは俺らに着いてくると我儘を言う事もなく、この場に残るようである。ほんとに成長したもんだな。
「ケイ、頑張れよ」
「……フラムに言われてもなぁ……」
「素直に受け取れよ、そこは!?」
「断る!」
「なんでだよ!?」
「……聞いた限りでは日頃の行いでしょうね。サヤさん、それではまたお会いしましょう」
「うん、水月さんまた会おうね。今度会った時は全力で勝負かな!」
「えぇ、受けて立ちましょう!」
「おー! それじゃあーー」
「ハーレ、実況は却下かな?」
「言う前に断られたよ!?」
そんな風に今日の別れの挨拶をしていく。今まで地味にし忘れていたルアーとのフレンド登録も済ませておいた。って、それはそれで重要だけど他にちょっと確認しておきたい事があったのに、それを忘れてたら意味がない。
「あー、言い忘れ。ベスタ、折角の纏浄中だし効果の確認がてら少し寄り道してヒノノコに突撃してきていい?」
「……今の段階だと死ぬだけだからやめておけ」
「でも纏浄の効果時間が勿体無くてさ」
「おそらく死んで効果が切れるだけだぞ? やるなら外の瘴気に対しても纏瘴と合わせて瘴気の除去が有効か試すとかそういう内容になる。それに外は外で灰のサファリ同盟や他の連中で戦いながら情報を探ってるんだ。ヒノノコ攻略についても順番にやっていくからそう焦るな」
「あ、それもそうか」
「ま、ただ死にたいだけというのであれば自由にしてもらっても構わんが?」
「……やっぱりやめとくわ」
纏浄だけで考えてたけど、纏瘴と連携して瘴気の除去の件も検証も必要か。それに外には外で灰のサファリ同盟だけでなく他の多くのプレイヤーもいるはずだ。……纏浄の効果時間の無駄遣いのような気がして少し焦ってたけど、そもそも俺だけで無理にやる必要もないし焦らなくてもいいんだね。
桜花さんが灰のサファリ同盟に持ち込んだ麻痺毒の毒草から麻痺毒の実が完成してれば、貰ってきて蜜柑と一緒に抱えて食われてダメージを与えてみようと思ってたけどね。……冷静に考えてみればみんなに絶対反対されそう……。
「ケイ、何か無茶な事を考えてなかったかな?」
「……気のせいじゃない?」
「あー!? この反応はケイさん、絶対に何か企んでたー!?」
「それもあんまり良くない手段みたいだね?」
「何故バレた!?」
「いや、ケイ。態度に出過ぎだぞ?」
「え、マジで?」
「おう、マジで。てか、自滅前提くらい考えてたんじゃねぇの?」
「…………」
思いっきり見抜かれてますがな。いや、もうする気ないからね!?
「……ケイ、自滅前提の作戦は無しだ。既に常闇の洞窟入りがその状況に近いし、その打開策が欲しいくらいだからな」
「あ、そういやそうだっけ……」
それを考えるとさっき思いついていた俺の手段はなしで当然か。……ふむ、死ぬのを前提にしないで済むヒノノコの行動を誘導する手段か。まぁそれが翼竜に麻痺毒が効きやすいのに関わってきそうだけど、他にも何から手段はないものか……? ん?
「なぁ、ベスタ。ヒノノコの攻撃を抑えてる種族って基本的にどの種族?」
「基本的に移動種の木だな。……何か思いついたのか?」
「上手く行くかは分からないけど、飛行系で空中で纏瘴と纏浄の2人組で瘴気の無いところから『瘴気集束』で瘴気を吸い寄せて経路を作りつつ、そこに『浄化制御』を乗せた毒あり投擲攻撃とかってあり?」
「……なるほど。瘴気の中しか移動しないのを逆に利用して空中への経路を作り、毒ありの投擲の弾に食いつかせる訳か。……やってみる価値はありそうだな」
突入の際に狙われやすいのなら、そのタイミングでヒノノコが狙いにくい所に誘導してやればあるいは……。でも飛行系の人の回避能力が必要になってきそうだね。
「一応試せないか伝えておく。まぁ翼竜を利用する方が効率が良い可能性も高いが、それでも手段は多いほうが良いだろう。とにかく、そっちはそっちで任せておく。ケイ達は海の方面を頼むぞ」
「ほいよ」
それじゃとりあえず海の方に行ってみますか。今日はそこまで移動して、向こうの様子を確認したくらいで終わりかな? 流石に移動速度は早くなってても即座に移動出来る距離でもないしね。
「あ、そういや明日の時間の調整は?」
「それはこれからだな。決まったらまとめと情報共有板で通知しておくから確認してくれ」
「了解っと」
これでひとまずここでするべき事は終了かな。死ぬの前提でヒノノコへ突撃しようかと思ってたけど、却下されたから予定変更として、これから海の方に向かおうじゃないか。
それにはまず海水の地下湖へのルートまで戻らないとね。そういやあそこの分岐点には夕方にザックさんが居たはずだけど、今はどうなんだろう? ま、いるなら行けば会えるかな。
「それじゃ出発するか!」
「ケイ、発光を使ってもらってもいいか?」
「あ、そういや使ってなかったっけ。発動しとくわ」
「おう、任せた。俺は木に切り替えてくる」
「ほいよ」
陸地の移動の間は木の方からが楽っぽいしね。海水のとこまで行けばクジラの方が楽なんだろうけど。仕方ないとはいえ、この辺は地味に不便ですな。
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 55/56(上限値使用:2): 魔力値 179/182
<行動値を3消費して『増殖Lv3』を発動します> 行動値 52/56(上限値使用:2)
<行動値上限を3使用して『発光Lv3』を発動します> 行動値 52/56 → 52/53(上限値使用:5)
<纏浄のデメリットが発動します>
うおっと、まだ纏浄を使用中だからスキルを使うとデメリットがあるんだった。増殖でコケは増やしたからとりあえず群体数は大丈夫だけど、HPが心許ないね。魚でも食べながら移動してもいいけど、ここは新スキルの出番だな。
よし、まだ土の操作はしてないから大丈夫。光源の石を3つ用意したかったけど、操作の発動の手前で気付いて良かった。そして纏浄中だと瘴気の中での発光での視界は良くなっていてありがたい。
<行動値を1消費して『治癒活性Lv1』を発動します> 行動値 51/53(上限値使用:5)
<纏浄のデメリットが発動します>
思いっきりダメージを受けた後に、ちょっとずつロブスターのHPが回復していっている。回復量はまだまだ微妙っぽいけど、まぁ無いよりかはマシである。あ、これは回復してても次のスキルは普通に発動出来るみたいだね。そうじゃないと使いにく過ぎるか。
<行動値を3消費して『土の操作Lv5』を発動します> 行動値 48/53(上限値使用:5)
<纏浄のデメリットが発動します>
とりあえず灯りの石はこれで完成。この感じでダメージがあると、結局回復アイテムは食べる事になりそうだね。まぁそれは仕方ないか。
そしてアルも再びログインして戻ってきていた。その間にルアー達とのPT連結の解除も完了済みである。よし、これで出発準備は完了だ。
「アル、準備いいぞ!」
「『樹洞展開』! よし、こっちも完了だ」
「みんな乗り込めー!」
「ハーレは相変わらず元気がいいね」
「それでこそハーレかな」
そんな会話をしつつ、みんなはアルの樹洞の中に入っていく。ハーレさんは巣の上で、俺はクジラの上で灯り役である。
今回は小型化したクジラの牽引式の共生式浮遊滑水移動だ。灯りの1つは樹洞の中に設置中。
「それじゃ出発するぞ!」
「「「「おー!」」」」
「仲が良いようでなによりです。さぁ、海水の洞窟へ参りましょうか! 『根脚強化』『根の操作』!」
「……え?」
「……ルストさん?」
「私が牽引しますよ。その方が速いですからね!」
「「「「「えー!?」」」」」
その事態に俺たちみんなの驚きの声が重なったのは仕方ないと思う。先頭を進むルストさんがアルのクジラをアルの木の根ごと固定して牽引していく事がなし崩し的に決定した。木が一緒にくっついているクジラごと木を引っ張るとか、物凄く妙な事になった気がする。
っていうか、その手段は何か間違っている気がするのは気のせい!? ほんとにルストさんのやる事は予想外にもほどがある!




