第302話 後編が始まる前に
現在時刻は1時。共闘イベントの後編が始まるのが2時からだし、1時間くらいは猶予があるのでアルと特訓開始である。アルはクジラを小型化させて、クジラを木の背後へと移動させている。そのままだとクジラは邪魔だもんな。
「ケイは土の操作を鍛えるんだったな?」
「おう、そうだぞ」
「今のLvはいくつだ?」
「土の操作はLv4だな」
「Lv4って事は同時操作数は2個か。よし、ケイが俺の木に小石を当てたら勝ちな」
「ほほう? 叩き落としきる自信があるんだな?」
「逆だ、逆。ケイの操作する小石とか操作スキルのLvが上でも叩き落とせる気はしねぇよ」
「じゃあ、なんで勝負設定?」
「こっちの方がお互いにやる気は出るだろ? ま、今まで通りではあるけどな」
「ま、そりゃそうだ」
この手の対戦型による操作系スキルの熟練度稼ぎは初期からやってるしね。土の操作はあんまり攻撃には使ってなかったけど、操作感自体は水の操作とそれほど変わらない。まぁ小石と水球の大きさとLvによる精度の違いくらいだな。
「じゃあ、シンさん。開始の合図を頼む」
「え、俺!? いや、見物はしてたけどいきなりこっちに話を振られるとは思ってなかったぞ!?」
周囲ではまだバーベキューをやっているし、シンさんは相変わらず肉やら魚やらを棘に刺されて鉄板代わりになっている。他にも色々みんな好きなようにやってるね。
「シンさん、合図だけで良いから頼むよ」
「まぁ合図だけなら問題ないか。それじゃ開始!」
「『根の操作』!」
そしてシンさんの合図と同時にアルの根が意思を受けて動き出す。本数は10本か。これを掻い潜りながらアルの木に当てれば勝ちである。
<行動値1と魔力値4消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 55/56 : 魔力値 174/178
<行動値を4消費して『土の操作Lv4』を発動します> 行動値 51/56
俺も小石を2つ生成して、猛攻を開始だ! さーて、アルと本格的に勝負をするのも久々な気がするね。まぁ勝たせてもらうけどもな!
そこからしばらくアルとの勝負が続いていく。流石にアルも操作系スキルが上手いだけあって、中々上手く当てられないでいた。くっそ、地味に根の本数が多い上にLv5だから精度も高い。よし、そこだ! ちっ、弾かれたか。
うーん、水の操作なら当てられると思うけど、まだ土の操作では厳しいか。……さっき思いっきり速度上げたから操作の時間切れ。アルの根はまだ大丈夫……でもないな。アルの根も相当動かしていたから時間切れも早まったようである。
「うっは!? なんとか凌ぎ切ったから俺の勝ち!」
「くっ、操作系スキルでアルに負けた……」
「……いや、つっても無茶苦茶ぎりぎりだったけどな。他の奴とも偶にやるけど、スキルLvが下なのに苦戦するとかケイ相手くらいだぞ?」
「随分無口だと思ってたら、ぎりぎりだったのか。よし、良い事聞いた。アル、もう1回やろう」
「……嫌な予感もするが、まぁいいか。シンさん、また合図頼むわ」
今のでぎりぎりなら、もう少し負荷が大きければあの根の防御は抜けれそうだな。俺としてはまだ余裕あるし、あの手でいこう。……うん、周囲に必要なものは揃ってるから問題ないな。
「……おう。そんじゃ2回目、開始!」
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値を4消費して『土の操作Lv4』は並列発動の待機になります> 行動値 47/56
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値を8消費して『土の操作Lv4』は並列発動の待機になります> 行動値 39/56
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
さてと周囲に落ちている小石を4つ同時に制御していく。行動値の消費は激しいけど、このくらいなら何とかなる範囲。ふっふっふ、操作系スキルでの勝負だからね!
「ケイ、ちょっと待て!? それはズルいだろ!?」
「土の操作の熟練度稼ぎだから、魔法産である必要はないんだよ! アル、早く準備!」
「いや、そりゃそうだが!? そういう事なら……つっても制御しきれるか……? いや、やってみるまでだ。『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」
「ふっふっふ! 今度は仕留める!」
「うわっ!? ケイが本気モードに入ってやがる!?」
そりゃ、熟練度稼ぎの遊びの対戦とは言っても負けっぱなしにはなりたくないからね。全力を持ってアルに勝ってやる!
「……これ、もう特訓って水準じゃねぇぞ、おい」
「『ビックリ情報箱』のPTには今更じゃね?」
「だよなー。お、塩での味付けはうまく行ったぞ」
「川魚の塩焼き、美味いな。回復量も20%は良い感じだ」
「おーい、追加の塩が完成したぞ」
「うーん、ここのPTの戦法は結構参考にはなるけど、プレイヤースキルが高過ぎてこの手のは真似出来ないな」
何かシンさんを筆頭にみんなに見学されて色々言われてるようだけど気にしない。それにしても魚の塩焼きは出来たんだ。うん、後でハーレさんがヨッシさんに作って欲しいと頼みそうではあるね。
「ちょ!? ケイ、よそ見しながらなのに何でそんなに平然と!? あーもう、根を20本も同時制御とか無理だ!」
「そういう時は大雑把に2、3本を纏めて操作するんだよ。で、必要な時だけ細かく制御する」
「コツがあんのかよ!? あ、こうか!」
「あ、教えるの後にすれば良かった……?」
「もう遅い!」
やっべ、余裕っぽいからアルにコツを教えたらあっさりと使えてるし……。集中したいやつ以外は割と雑に操作するのがコツではあるんだよな。それで相手の意識から外れたやつで隙を付くのが割と効果的。オンライン版の対人戦で見つけたコツである。
さてと、よそ見は無しで全力で行こうか。対戦型の特訓で勝つのが難しくなるだけでアルの操作精度が上がるの自体は問題ないしね。
「あれ? 何をやってるのかな?」
「あ、ケイさんとアルさんが全力でやってるんだね」
「サヤさん、ヨッシさん。塩焼きでもどうだ?」
「シンさんありがと」
「塩焼きは出来るんだね。……これはちょっと焼き過ぎかな?」
「……だそうだぞ?」
「なん…だと……。いや、まぁそんな気はしてたさ……」
「あはは、ゲーム的に多少簡略化はされてるけど、直火での焼き加減って難しいからね」
そして崩折れていくサルの人がいた。っていうか、カインさんじゃん!? 何でこっちに来てるんだ? ……単純に考えればボス戦に来てただけか。
あ、俺もだったけど、アルも地味に気を取られている。その隙、もらった!
「ちっ、しまった!?」
「お、今度はケイさんの勝ちだな!」
「油断大敵だぞ、アル」
「……ケイも思いっきりこっちに気が逸れてなかったかな?」
「それはそれ、これはこれ。同じものに気を取られても勝ったのは俺だもんな!」
「……なんか釈然としねぇ。ケイ、もう1回だ!」
「おうよ! 受けて立つ!」
そしてそこから30分程、俺とアルの連戦になっていった。何度も繰り返していく内にアルの動きの精度も上がってきているけども、俺の土の操作がLv5になってからは俺の圧勝である。まぁ同時操作数が3個に増えて、精度も上がったんだから負ける気はしない。
「くっそ、負けるまでがどんどん早くなって来てんじゃねぇか」
「そりゃ同じLvなら負ける気はしないぞ?」
「あーもう1回だ!」
「望むところ!」
「アル、ケイ、そろそろ時間も時間だから次で最後かな」
「あーそれもそうだな」
「んじゃ次が最後って事で!」
あと20分で共闘イベントの後編が開始だしね。いったんが言うには初期エリアにいた方が良いってことだし、これの決着が着いたら移動かな。さて、勝ち越させてもらおうか。1分も要らないからな!
「それじゃ最後の1戦、開始!」
「『根の操作』!」
途中から合図はシンさんからヨッシさんに代わっている。……いつの間にか見物人も減ってきているので、みんなそれぞれに移動しに行った感じだね。さて、俺もスキルをーー
「ケイ、ちょっと待った!」
「……アル、どうした?」
「いや、今ので根の操作が昇華に辿り着いた」
「おっ!? マジか!」
「え、ホントかな!?」
「アルさん、おめでと。どんな内容?」
昇華したという事は、根の操作がLv6になったってことか。さてさて、根の操作が昇華したら何になるのかは俺もかなり気になってはいるところなんだよね。根の操作がパワーアップするのだろうか?
「……予想外の方向で来たぞ。称号は『自己操作を昇華させたモノ』でスキルは『枝の操作』と『負荷軽減Ⅰ』だな」
「あー、根の操作って自己操作になるのか。それで枝が動かせるようになるのはなんとなく分かった」
生成したものや天然にあるものを操作する他の操作系スキルと違って、根の操作は自分自身の根を操作しているからそういう形なのだろう。その延長線上で根ではなく枝を動かせるようになる訳だ。……具体的にどう使うのか、まだよく分からないけどそれは試してみればいい。
「『負荷軽減Ⅰ』ってどんなのかな?」
「木の上限値使用系の固有スキルの使用量が半減だとよ。これ、『根脚移動』の使用量が随分減るぞ」
「えーと、今って4分の1消費だっけ?」
「あぁ、そうだ。それが8分の1になるし『樹洞展開』とかもそうなるな」
「おー、便利そうじゃん」
「まぁ、クジラで浮いて移動してる最中はどっちもほぼ使ってないがな」
「……あ」
そうか、クジラで浮いている時には『根脚移動』も『樹洞展開』も使ってなかった。あれ? スキル自体は便利そうだけど、クジラと組み合わせてるアルには微妙な内容……?
「つっても、クジラを小型化して牽引する際にはまだまだ有用だ。木のみの場合に比べると恩恵は少し薄くなるが、意味がないって訳じゃない」
「それもそうだよな」
「まぁそれなら良かったかな」
「ところで『枝の操作』ってどう効果があるの?」
「あー、それは予め確認してはいる。未成体からポイント取得自体は可能だからな」
「ほう、確認済みなんだ」
まぁポイント取得が可能だったなら情報も出てるよな。まとめ情報も内容がかなり増えてきているから、自分の種族以外のとこまで全部確認しきれてる訳じゃないし、木の応用スキルの内容はまだ知らないんだよね。
「『枝の操作』は基本的な使い方は枝をしならせての打撃だが、そこに付随する効果が木の種類によって変わってくるんだよ」
「……ん? どういう事?」
「杉なら花粉症の状態異常をばら撒いたり、樫なら威力が上がったり、桜なら花びらを舞わせながらで視界封じだったりだな」
なるほどね。木の性質に合わせて効果が変わってくるという変化球的なスキルになるのか。そうなるとアルの場合は……。
「アルの蜜柑……というか柑橘だったら?」
「標準の蜜柑ならHP回復だな。採集にはカウントされないから『果実生成』でレモンもいけるぞ」
「ってことは回復系か!」
「ちなみにこれの場合は食う必要が無くなって、ぶつけるだけで良いらしい。Lvが上がれば果実を投げる事も可能になるとの事だな」
「それってかなり便利なんじゃない?」
「うん、私もそう思うかな」
アイテムに頼らない完全に他者を回復させる事が可能なスキルという事か。それだと相当便利な内容ではあるけど、応用スキルだし使用条件はそれほど気軽とも思えないな。
「で、発動条件は? 多分だけど普通の応用スキルの操作系スキルとは別物だろ?」
「あぁ、大当たりだ。行動値も消費しつつ、再使用時間が設定されていて、その間は上限値使用にもなっている。……なるほど、『負荷軽減Ⅰ』ってこっちにも効果があるのか」
「……役立ちそうな感じか?」
「そうだな。実際使ってみないと何とも言えんが、効果自体は便利なはずだ」
スキルでの回復という事は、アイテム使用よりも隙は出にくいだろう。というか、PTメンバーでのフォローが可能である。……うん、これは便利なスキルを手に入れたようだね。
「あれー!? みんな、まだここにいるの!?」
「お、ハーレさんか」
「てっきりもう移動してるのかと思ってたー!」
「夢中になってるからぎりぎりまで声をかけずにいたけど、ケイさん達は急いだ方が良いんじゃねぇか? 森林深部だろ?」
あ、いつの間にか周囲の人達が減っている。シンさんがわざわざ残って、ぎりぎりで話しかける用意をしてくれていたらしい。……うん、時間がぎりぎりになりそうなタイミングで本格的に確認するべきじゃなかったね。
「そういやそうだった。みんな、いったんから聞いてるよな?」
「初期エリアにいろって話だよな?」
「そう、それ! 俺は森林深部でいいと思うんだけど、みんなは?」
「私も森林深部が良いかな」
「私もー!」
「スタート地点だしね。私も森林深部が良いね」
「俺もだな」
「よし、それじゃ急いで森林深部まで移動するぞ! シンさん、わざわざありがとな」
「俺はすぐ横だしな。どんな内容になるか分からんが後編も頑張ろうぜ!」
「おう!」
そしてシンさんに挨拶をしてから、移動開始である。共闘イベントの後編開始まで残り15分。……まぁ何とか帰還の実を使わなくても、転移で間に合うはず。みんな揃ったから、森林深部へ移動開始だ!




