第292話 アイテムに関する進展
それほど離れた場所でもないのでササッとアルに乗って飛んで灰のサファリ同盟の本拠地へとやってきた。うーん、俺らの特訓場だった時の面影はもう殆どないな。なんか畑や池やらが増えてるし、どんどん魔改造されている。
崖下側が池エリア、崖上側が畑エリアになっているようだ。崖のすぐ横に以前はいなかった不動種らしき杉の木の人が植わっている。あ、ちらっと見た感じでは小動物系の人達の崖上までの登り道になっているね。
とりあえず邪魔にならないようにアルのクジラは小型化して、牽引タイプの共生式浮遊滑水移動に切り替えてもらった。そして池エリアの方へと降りていく。一番大きな池の横でラックさんが待ち構えていた。
「ラック、やってきたよー!」
「意外と時間かかったね? 何かあった?」
「ちょっと雑談してたら脱線しまくってたー!」
「あはは! まぁそういう事もあるよね」
ラックさんとハーレさんが挨拶を交わしているうちに、周囲を観察して変化を確かめてみる。小さな岩風呂的な池が3個ほど増えているけど中身は水のみで特に誰も浸かっていない。
俺が前に作った池には泥を落とす為にリスやネズミの人が浸かっている。……人数的な問題で増やしたのかな? 他のを見てみれば大きな池の中には水草が結構な量が増えている。あ、これってもしかして……?
「お、ケイさん目敏いね! 癒水草の栽培、見事に成功したよ!」
「あ、やっぱりか!?」
「そうともさ! 用事ってのはその辺の事でね。はい、これ」
「これは?」
ラックさんのインベントリから取り出されたのか、どこからともなく現れた蜜柑を手渡される。うーむ、ハサミで掴むと潰れそうなのでハサミに乗せるような感じで受け取ってと。おぉ、色艶のいい美味そうな蜜柑だね。
「それが癒水草と蜜柑の合成した蜜柑だね。まだ量産とまではいかないけど、癒水草の合成サンプル品って事でね!」
「なるほどね。お、HP20%回復か」
回復量の確認をしてみればそのような数値になっていた。アルの蜜柑や焼いた魚や肉で10%だったから、これは結構なものじゃないか? 名前は上質な蜜柑となっているね。こりゃいいな。
「はい、これはみんなに1個ずつご進呈ー!」
「え、良いのかな?」
「いつも情報にはお世話になってるからね! あと思いつかないような使い方にちょっと期待を込めてね!」
「……回復アイテムを回復以外に使えって?」
「さぁ? その辺が予想出来ないから、期待してるんだよ」
「だってさ、ケイ」
「……ちょっと無茶振り過ぎません?」
蜜柑を回復以外に使えとか、結構な無茶振りだな。うーん、今考えてみただけでも一般生物を弱らせてマッチポンプ取得に使うとか、敵を誘き寄せるのに使うとか、投擲で目潰しに使うとかくらいしか思いつかないぞ。
「ま、ダメ元だから無理なら無理でもいいよー。それでハーレはこっちをよろしく!」
「おー! 何かの果物だね!?」
「そっちが毒草との合成した毒ありの果実。とりあえず試作で10発ねー。スキルによって使い分けて効果が変わるのか試して欲しいかな」
「了解だよー! 『微毒の果実』ってなってるから毒の種類は微毒だねー!」
どことなくサクランボっぽい感じの果物で美味しそうではあるけど、毒があるんだな。……もしかしたらこういう果物も採集する事もあるかもしれないから気をつけないとね。
そして毒草にも種類があると。合成する毒草によって種類が変わるとかそんな感じか。
「毒の種類を増やすのは実験してるんだけどさ。毒草にも何種類かあるみたいなんだけど、まだ見つかってなかったり、数が少なかったりでねー」
「中々安定して入手が難しいんだな」
「ま、そうなるね。もし何か見つけたらよろしく頼みます!」
「まぁ、見つけたらな」
とはいえ、採集の区別方法なんてものは俺にはよく分からないからあんまり期待しない程度にしてもらわないとね。癒水草とかただ偶然で手に入れたようなものだし、ああいう偶然があれば持ってくるくらいだろう。
「ところで、灰のサファリ同盟ってイベント中には何やってるんだ?」
「それは人によってバラバラだよ。レベル上げと進化ポイント狙いでボス戦に参加してたり、承諾取ってから戦闘解説用の中継したり、イベントそっちのけでいつも通りだったりねー」
「え、中継入ってるのか!?」
そういや考えてみれば、こんなボス戦続きのイベントで中継が入ってない訳がないか。……青の群集でも赤の群集でも承諾を聞かれた覚えがないけども、中継は居たのかもしれない……。
「あれ? 基本的に自分の所属エリアの隣接側のエリアは中継自由ってまとめに書いてたよ? 赤の群集と青の群集とも合意済みになってるけど……あ、そっか」
「え、何? その反応?」
「ケイさん、ちょいちょい」
「ん?」
ラックさんが手招きしてくるという事は、内緒話的なやつ? とりあえず近くに寄って話を聞くしかないか。近寄ってみれば、ラックさんが小声で話しかけてくる。
「ごめんごめん。これ決まったの、例の騒動で注意受けた後だったよ。ケイさん、避けてたみたいだから知らなかったんじゃない?」
「……なるほど、あのタイミングか」
ミズキの森林の人が少ない場所でまとめを見ながらスキルの熟練度稼ぎをしてた頃って事か。あ、今確認してみたらまとめに『共闘イベント中の中継について』って項目が出来てたよ。……うーん、更新時間的にはボス戦に関する情報を見た時に気付いてもおかしくないけど、青の群集に行ってからはじっくりとまとめを見ている時間が無かったから読み飛ばしてたっぽい。
青の群集としては周知の事実として把握していたから、確認をとっていなかったのかもしれないね。まとめ機能を見るのが前提となるのが良い事なのかどうなのかが微妙なとこではあるけども。
「まとめもこまめに確認が必要っぽいな」
「ケイは知ってるものと思ってたかな」
「うん、私も」
「サヤもヨッシさんも気付いてたのか!?」
「うん。アルさんに言われてだけどね」
なるほど、俺とハーレさんが晩飯中で、サヤとヨッシさんとアルが3人になった時に聞いたって感じか。
「こりゃ全員集合した時にもう少し情報の確認はしといた方が良さそうか」
「確かにそうだな」
アルの言う通りだな。まとめ機能は運営が用意する情報ではなく、プレイヤーが編集する機能だしね。更新タイミングが一定でないのはどうしようもないか。……でも通達系だけは時間を決めといて欲しいかもしれない。
「後で情報共有板で通達系の時間設定でも要望しとくか」
「ケイは専用欄あるんだから、そこに書いとけば良いんじゃね?」
「あ、それもそうだな」
専用の情報提供用の項目を用意してくれているんだし、こういう機会に使っておかないとね。……よし、要望を上げるの終了! ついでにジェイさんとダイクさんと共同検証した内容も上げておこう。
「まとめ機能は便利だけど、見落としもあるって事だね。うん、灰のサファリ同盟からも要望出しとくよ」
「おう、よろしく!」
「何だかんだでありがたい機能だもん。まとめ機能のおかげで灰のサファリ同盟の地力も上がってきてるからね」
「おー! 役立って何よりさー!」
ハーレさんは編集してない気もするけど……あ、情報提供はしてるみたいだから別に良いのか。灰のサファリ同盟はあんまり強い人はいないって事だし、まとめ機能の情報で地道に鍛えてくれているのなら情報を上げている方としては嬉しい活用方法だね。
「そのうちアイテムとかも自分達で探しに行かないとねー。毒草以外にも色々ありそうな気がするし」
「時間が空いてたら一緒に行こうよー!」
「お、ハーレが良いなら私は良いよ? いっそ、ハーレ達に護衛頼んでも良い?」
「良いですともー! ……良いよね?」
「ま、その時に他の予定がなければな」
何かのイベントと重なったりしていなければ問題ないだろう。サファリ系のハーレさんとしても楽しめるだろうし、そういう楽しみ方も時にはありかな。まぁ今は共闘イベントが優先になるけどね。
それにしても毒草か。……もしかしたら荒らすモノの称号取得の時に消し飛ば……よし、何も思い至らなかったという事にしよう。俺だけじゃないっぽいしね!
「おーい、ラックさん。麻痺毒の毒草の持ち込みがあったから持ってきたぞー!」
「おっ! 噂をすればなんとやらだね」
「おー、桜花さんだ!」
「あ、小鳥は可愛いかな!」
「確かに小鳥もいいよね」
そこにやってきたのは桜花さんの2ndである小鳥だった。近場の普通の木に止まった桜花さんを見て、サヤとヨッシさんがなんだか和んでいる。……ハーレさんは思いっきりスクショを撮っていた。うん、相変わらず変わらない様子だね。
「お、ケイさん達か。ここに来てたんだな。今日はボス戦、終わりか?」
「まぁね。後で桜花さんのとこに行こうかと思ってたから丁度いいや」
「ん? 何か用事でも……あ、そういう事か」
池の近くの木に止まりながら、木を引っ張るクジラのアルに気付いた桜花さんは用事の内容については察したらしい。森の上ではなく森の中を飛んできたみたいだし、今はクジラは小さくなっているので近くに来るまでアルの存在には気付かなかったようである。まぁ、俺らのPTとアルのクジラが揃っていれば大体想像つくよね。
「話には聞いてたけど、桜花さんだよな? 俺は木とクジラのアルマースだ。何かPTにまとめて進化の軌跡を貰ったみたいでありがとうな」
「何、良いってことよ! それにしても話には聞いてたが、陸地でクジラってのはすげぇな! これ、飛ぶのも出来るんだろ?」
「まぁまだ不完全だがな」
「いやいや、充分すげぇって! しかも木の方は蜜柑……いや、これは未成体の柑橘のほうか?」
「ほう? 分かるのか」
「微妙な差だけど、蜜柑の見た目の質が上がってるからな。蜜柑オンリーならもうちょい質が上がるが、柑橘だと種類が増える分だけ少し劣る。まぁ種類が増えるから悪いって訳じゃないが」
「……すげぇな。そんな事まで分かるのか」
「戦闘はからっきし駄目だが、そっち方面は自信あるぜ? ……なぁ、アルマースさん? ちょっと商談でもどうよ?」
「ほう? とりあえず話でも聞こうじゃないか」
「よしきた! 枝に止まらせてもらっても?」
「あぁ、問題ないぞ」
「そんじゃ遠慮なく!」
そして桜花さんはアルの枝に止まって、話し込み始めていた。……挨拶をしたばっかりなのに、桜花さんの行動が素早い。
「あらま? 桜花さん、商人モードになっちゃったか。先に麻痺毒の毒草が欲しかったんだどねー」
「おっと、そりゃ失礼した。ほいよ、ラックさん」
「あら、聞こえてたよ。ありがとねー!」
「これくらいどうって事ねぇよ! あ、そういや手配しておいた例のアレ、そろそろ届くと思うぜ?」
「え、頼んでからそんなに経ってないよね? 早くない?」
「あー、話を持ちかけたら凄い乗り気のコンビがいたもんでな。他に手伝ってくれるっていうPTと合流したらすっ飛んで行ったぞ」
何やらラックさんが桜花さんに頼んでいた事があったらしい。何を頼んでいたのか気になるとこだけど、それ以上にコンビってとこが引っかかる。……まさかね?
そうやって話している内になにやらドタバタと走ってくるような音が聞こえてきた。……これは崖の上からか?
「おいー!? だから速すぎるって、風雷コンビ!?」
「何を言う、この程度の速度なら乗っているだけならどうとでもなるだろう? なぁ、ヒョウの」
「そうだぞ、ザック。未成体ならこの位の速度でどうこうならないだろう。なぁ、ライオンの」
「そういう事じゃねぇよ!? その移動速度じゃ俺だと水の操作が追いつかねぇんだって!?」
「……ザックの操作は下手でもないけど、上手じゃない」
「……同感だ」
「皆さん、事実でも言っていい事と悪い事がですね?」
「一番悪い言い方ってタケじゃねぇ!?」
「まぁいい、もう目的地はすぐそこだ。跳ぶぞ、ヒョウの!」
「おうよ、ライオンの!」
「うお!? だから、制御がー!?」
そんな会話が聞こえながら、崖の上から俺たちの目の前に電気を纏ったライオンとヒョウが飛び降りてくる。そのライオンの背にはなんだかぐったりとして萎れているようなトリカブトのザックさんの姿があった。まぁ言わずと知れた風雷コンビだな。
「あ、やべ!?」
「少し無茶をし過ぎましたか?」
「……ザック、もっと頑張って」
「……これは失敗か」
「俺のせいじゃないからなー!?」
そして何かが内部に入っている水球が制御しきれなくなったのか、中身が放り出されていく。……あれは崖の上から落下させるのはあんまり良くなさそう? よし、何かを運んできたみたいだし、台無しにならないように確保しておくか。
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 52/53(上限値使用:2): 魔力値 173/176
<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します> 行動値 49/53(上限値使用:2)
とりあえず空中に放り出された何かを水の中へと確保しておく。水の操作で運んできたならこれで問題ないだろ。
そして他の声の主も次々崖下へ降りてきていた。毒々しいキノコの生えたカニになっているタケさんに、シンプルにイノシシのままのイッシーさん、鮮やかな緑色をしている翡翠さんだね。
ザックさんのPTと会うのは海エリアの競争クエスト以来かな。共生進化しているのはタケさんくらいみたいである。
「おわ!? 誰の仕業!?」
「あ、ケイさん達がいますね」
「……あ、ヨッシがいる!」
「……手助け感謝する」
「おー! ケイさん、久しぶり! そんでもってありがとよ! もう少しで危うく台無しになるとこだった!」
「それは良いけど、これって何事?」
いきなり過ぎて状況が把握しきれてないんだけど、さっき水球の中に回収したのがラックさんが頼んでたってやつ? 何を運んできたんだろうか。
「あー! ウナギだー!? じゅるり……」
「ウナギ……? あ、ホントだな」
俺の水球の中を泳ぐ細長い魚……まぁウナギっぽいな。それが5匹ほど泳いでいる。……カーソルが緑色って事はこれは一般生物か。いや、でもウナギにしてはちょっとデカ過ぎない? 1メートルは軽く超えてるよ。
どうでもいい内容ではあるけど、ウナギとヘビって似たような動き方するのにウナギは全然平気なんだよな。なんでだろ?




