第278話 油断ならない相手
ジェイさんの飛ばす斬雨さんが刺さった岩と並んで、アルに乗って飛んでいけば徐々に木々が少なくなってくるのが見えてきた。
「もうマップの南端なので、ボスを片付けましょうか」
「お、到着か」
「えぇ、そうなりますね。……ですが、ここはアルマースさんは厳しいんですよね」
「ん? 俺が厳しいってどういう事だ?」
「いえ、ここのボスは拓けた場所ではなく、木々の間にいるんですよ」
「あー、そういや確かここは氷ザルだったな」
「サルなんだ!? しかも氷属性だー!?」
「雪山に続く方向は氷属性なのかな?」
「そういう事なので、アルマースさんは待機していますか?」
「いや、問題ねぇよ。みんな、落ちるなよ? 『上限発動指示:登録2』『根脚移動』『アクアクリエイト』『並列制御』『根の操作』『水の操作』!」
「おわっと!?」
それを聞いたアルが小型化を呼び出してクジラが小さくなり、木の方で滑らせる為のスキルも発動して小さくなったクジラが木を牽引する形へと変化していく。共生式浮遊滑水移動への切り替えだね。そして切り替えが終わった状態で水のカーペットの上に着水してきた。
急にサイズを変えたからクジラから落ちたし……。まぁ普通にすぐ下に水のカーペットがあるから問題ないけどさ。サヤも素早く竜を操作して、腰掛けるように飛んでいる。ハーレさんはそもそも巣の中だから問題ないし、ヨッシさんは根本的に落ちる訳がない。
「アル、もう少し時間に猶予が欲しいかな!?」
「私は問題なーし!」
「そりゃハーレは巣の中だもんね。まぁ私も飛べるけど」
「そうだぞ、アル」
「サヤは普通に竜に腰掛けて飛んでるし、ケイは水に普通に着水してんだから問題ないだろ」
「それはそうなんだけど、気分の問題かな!?」
「まぁいいや。とりあえず、アル。降ろしていくぞ」
それに合わせてジェイさんも岩を降ろしてきた。ふむ、こう見てると土の昇華も良さそうだよな。岩の操作をいつでも使えるのは良さそうだ。……そういや、昇華させると土の操作の操作範囲ってどうなるんだろ?
範囲拡大なら岩の操作と内容が被りそうだけど、何か違いがあったりするのかな? ふむ、観察して可能な範囲で情報を得ておこう。土の昇華は欲しいしね。
「クジラと木の共生進化って、そういう切り替えも出来るのか!?」
「……なるほど。類似の移動方法は知っていますし、青の群集にも存在しますがこういう切り替えが可能というのは盲点でしたね。小型化にはこういう可能性があるのですか……」
どうやらこのアルの移動の切り替え方法は知られていなかったらしい。まぁ知られてもすぐに真似出来る訳じゃないし、別に良いか。そもそも、どちらかというと今の形の方がおまけだしね。
とりあえず水のカーペットも解除しとくか。もうここまで来れば要らないだろうし。
<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 51/51 → 51/53(上限値使用:1)
よし、これで問題なし。……ん? そういえばアルの様子がいつもとちょっと違うな。いつもあったものが無いような……?
「アル、皮はいらないのか?」
「あーそれか。水の操作のレベルが4に上がってから反発力を強めにしたら、無くても何とかなったぞ?」
「え、マジで?」
「おう、マジで。多分途中からケイのコケは要らなくなってたんじゃねぇか?」
「うわー、それだとちょっと無駄があったって事か」
これは痛恨のミスである。そうか、コケが無くてもある程度の水の操作のLvになれば不要だったのか。よく考えたらコケが必須だと使える人も限られてくるもんな。Lv上昇による効果の変化には気を遣っていた方が良いかもしれないね。
「……この人達を相手にどんな情報が出てくるかは深く考えるのは止めましょうか。内容の精査に留めましょう」
「……そうしとけ、ジェイ」
なんか言われてるけど、これは青の群集に勝っているという証明として前向きに受け取っておこう。……多分その方が俺としても精神衛生的に良い気がする。
「で、ボスはどうすんだ? 確か、今は周回PTの連中も共闘の方に参戦中だったよな?」
「えぇ、ですね。順番待ちさえなければそのまま討伐出来ると思いますが……運が良かったみたいですね」
「おー! 白いサルだ!」
「……正直なところ、俺は降りてきた意味はあるのか?」
「ないだろうね。誰か1人でも瞬殺だろうし」
「……だよな」
正直なところ、アルの行動は完全に無意味である。未成体のボスが相手なら別だけど、エリア切り替えのここで地形的な問題で厳しいからと言ってアルが降りてくる意味は全くなかった。今更言っても遅いけど。
「皆さん、ボスはどうします? 面倒なのであればこちらで処理しますが」
「ここは私がやるよ。ハーレとサヤは単独で何回か倒してるしね」
「おー! ヨッシ、頑張れー!」
「ヨッシ、任せたかな」
「うん、任せて」
「では、お願いします」
今回のボスはヨッシさんが始末する事になった。まぁ同じ氷属性ではあるけど、ヨッシさんには毒属性もあるから問題ないだろう。同じ氷属性だとしても進化階位が上だから苦戦のしようもないだろうしね。
「麻痺毒がいいね。『並列制御』『毒の操作』『ポイズンボール』! ついでに『同族統率・毒』! 行け、ハチ1〜3号『乱れ針』!」
木から木へと飛び移って攻撃体勢に入った氷ザルは麻痺毒の毒弾を受け、地面に落下して身動きが取れなくなっていく。そこに生成されたハチ達が麻痺毒を内包した針でめった刺しにしていた。
途切れる事のない麻痺に氷ザルはなす術もなく、攻撃を受け続けている。ヨッシさんは自分自身で攻撃しないつもりっぽい?
「……なぁジェイ、進化階位の差があるとはいえボスに毒ってあんなに簡単に効くもんだったか?」
「それはボスによりますね。ここは比較的に効きにくかった筈ですが……いえ、確か異常付与の特性を持っていればかなり確率が上がるとはありましたね」
「……持ってそうだよな、それ」
「えぇ、間違いなく。氷属性もあるようですし、凍結も危険そうですね……。やはり灰の群集は侮れませんか」
ヨッシさんの攻撃はしっかりと分析されているようである。ふむふむ、その情報があるって事は青の群集も異常付与の特性を持ってる人がいるって事だね。こっちもしっかりと情報分析をしておかないと。自分達だけが分析して情報を得てると思っているだけじゃ甘いですぜ。
「分析されながらだとやりにくいね。でももう終わり」
そして生成されたハチ達に刺されまくった結果、HPが全て無くなった氷ザルはポリゴンとなって砕け散っていった。生成されたハチは成長体相当の筈だから、ちょっと時間がかかった感じである。これはヨッシさんは実験してた感じか?
<ケイが成長体・瘴気強化種を討伐しました>
<成長体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>
<ケイ2ndが成長体・瘴気強化種を討伐しました>
<成長体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>
<『進化の軌跡・氷の欠片』を2個獲得しました>
「これくらいの差があれば統率のハチだけでもどうにかなるね」
「やっぱりヨッシさん、試してた?」
「うん、ちょっとね。他にもちょっと試しておきたかった事もあるけど、他の機会にかな」
「ちなみにどんな内容?」
「流石にそれはまだ内緒」
「ま、それもそうか」
俺とはほぼ共通点がない全く異質な進化をしているヨッシさんだしね。その試しておきたい内容というのも気にはなるけど、青の群集のジェイさんの目の前でする話でもないか。
ジェイさんは完全に分析モードに入ってるみたいだしね。……前々からそんな気はしていたけど、やっぱりジェイさんは検証型のプレイヤーっぽいな。俺達みたいに実践で試しまくるんじゃなくて、理論的に分析してから実行に移すタイプと見た。だから実戦での予想外の出来事に弱いんだろう。
「ゴホン、それでは現地に向かいましょうか」
「大暴れだー! ボスをぶっ倒すぞー!」
「そういや、ジェイさん。ここのボスってどんな状態?」
「ここは次に現れる時のHPはおよそ6割というところですね。早めにこの段階は終わらせたいところです」
「ま、こんだけの戦力が来ればなんとかなるだろ」
「えぇ、そうですね。期待していますよ、皆さん」
随分と戦力として期待されているらしい。やるからには頑張るつもりではいるし、多分ボス戦への参戦回数は多い方が良い気もするからね。明日はみんな休みだし、多少の夜更かしになっても問題ないだろう。
「お、そうだ。昨日の海エリアでのボスの検証情報は灰の群集にも上がってるか?」
「ん? 昨日の深夜に海エリアで3群集合同で1体倒したってやつ?」
「おう、それだ、それ。灰の群集に関しては心配はしてなかったが、ちゃんと伝わってんだな」
「ふふん! それが灰の群集の強みだからね! まとめ機能は便利なのさー!」
「そうそう、いやーもうあのまとめ機能は便利だねー。ちょいちょい情報は上げてるけど、ケイさんには負けるんだよね」
「へぇ、そうなのですか?」
「そうなのよ。灰の群集のまとめには、実はーー」
「レナさん、それ以上はストップかな!?」
「あっ、危ない危ない。余計な事を話すとこだったよ」
「……非常に気になりますが、仕方ないですか」
レナさん危ないなー!? 今、一体何を言おうとした? 俺の名前が出てたって事は俺用の報告欄があるとかその辺かな。それくらいなら知られても……いや、俺に対する警戒度が上がりそうだから教えないほうが良いか。
「本題があるから話を戻すぜ? 昨日のあれには俺とジェイも参加してたんだが、無理な深追いはし過ぎないようにって共通見解になってるからな」
「それはなんでー!? 今日の夜くらいなら大人数でも行けるんじゃない!?」
「単純に人数を増やせば良いという訳でもなさそうなんですよね。半覚醒の元群集支援種のHPを減らせば減らす程、雑魚敵の未成体の数もボスの攻撃頻度も上がりましてね。多すぎるとどうしても互いに邪魔になりまして」
「……迂闊に人数を増やせば乱戦になり過ぎて逆にやりにくくなるって事か。フレンドリーファイアの確率も上がるからな」
「はい、アルマースさんの言う通りです。この辺りはトラブル防止の意味もありますね」
人数が多過ぎるとフレンドリーファイアの確率が上がるのは間違いないか。雑魚敵を一網打尽にするには広範囲技で仕留めるのが良いけど、それだと連結してないPTの他の群集の人も一緒に攻撃する事になる。……期限が迫っているとかなら手段を選んではいられないけど、余裕のある現時点でそれをやれば無駄にトラブルを招くだけか。
「後はボス戦の参加回数を増やす為でもありますね」
「……少ない方が良いのか、多い方が良いのか微妙じゃないか?」
「それはそうではあるんですが、ケイさん達はどっちだと思います?」
「参加回数の変化か。どっちだろ?」
少ない回数で倒せる方が良い結果になるとも考えられるけど、強引にやれば討伐可能というのも気になる点ではある。早さが良い結果に繋がるなら、それこそ強い人達の少数精鋭で一気に仕留めてしまうのが一番良い事になって、共闘での大人数参加という性質とは真逆になる。
それに……あ、そういやあの参加回数ってプレイヤー毎に個別でカウントだよな。それに個別のボスに対する討伐までの戦闘回数でもない。そうなるとどれだけのボス戦に参加したかが重要……?
「1つ確認いいか?」
「えぇ、どうぞ」
「あの参加回数って違うボスでもカウントは増える?」
「えぇ、増えますよ」
「それなら多い方が良いに1票だ」
「やはり同じ結論ですね」
やはりという事は、ジェイさん……というか昨日の夜の討伐の時点で結論が出てたな。ま、ボス毎にカウントされてないならそうなるよな。
「ケイさん、どういう事!?」
「違うボスでもカウントされるって事は、ボスの討伐にかかった回数の判定じゃないんだよ。多分だけどどれだけのボス戦に参加したかっていう実績の表示だろ。回数が多いほど、何かのボーナスか報酬が多いと見た」
「うん、私もケイと同意見かな」
「問題はそれが何かだね。後半に影響がある感じ?」
「えぇ、おそらくは。前後編で分かれているのは、何かイベントとしての区切りがあるからだと見ています」
確かにその可能性は充分ありそうだ。ボス戦への参加回数に応じて後半に向けての何かの配布とかかな? 積極的にボス戦に参加した方が良い様なものになってそうな気はする。そう考えると夕方の騒動で共闘イベントで動けなかったのは地味に痛かったか……?
「とはいえ、回数ばかり無駄に増やしても仕方ないのでほどほどにですけどね」
「そりゃそうだ」
「ま、無理な深追いじゃなけりゃ追撃も問題ねぇだろ。状況次第じゃ追撃していいだろ」
「えぇ、その辺は状況次第という事で。あくまでも無理な深追いをしないというだけですね」
まぁ回数を稼ぐためにわざと見逃しまくって倒せませんでしたじゃ本末転倒だしね。この辺は状況に合わせて臨機応変に対応かな。倒せそうなのにわざわざ見逃がすのはそれはそれでどうかと思うし。
「まぁまぁ、みんな色々考えるのはいいけどそろそろ突入しようよ。人手不足なんだよね?」
「そりゃそうだ! 人が減ったから増援を頼んだのに、直前で話し込んでても仕方ねぇな!」
「確かにその通りですね。それでは行きましょうか」
レナさんの一言で話し込んでいた状況も終わっていく。うん、こういう時に遠慮なく話を切ってくれるのは脱線している時にはありがたい。推測にしかならない以上は、なるようにしかならないだろう。それならば分かってる範囲で全力でやるまでだ。
「青の群集で大暴れするぞ!」
「「「「「おー!」」」」」
「フレンドリーファイアにだけは気をつけて下さいね」
「ま、俺らはPT連結してるから大丈夫だがな!」
「……そういう事でもないんですけどね」
まぁフレンドリーファイアには気を付けないとね。周囲をちゃんと把握しつつ、コケの広範囲技よりロブスターの近接技をメインに戦おうか。ロブスターのスキルを上げるのにも良い機会だ。頑張っていくぞー!




