第211話 水流を使って
さてと群集拠点種でやるべき事はやったし、荒野エリアそのものには今のところ大して用はない。という事で、サヤと俺は普通に歩き、ヨッシさんとハーレさんはアルの背中の上にある海水の中にいて移動中。そしてそれにゾロゾロと荒野エリアの人達が続いてきている。
結構な人数がいるけど、競争クエストとか大丈夫なんだろうか? 一応その辺も聞いておこうかな。
「ここの競争クエストってどうなってるんだ? 相手は赤の群集の草原だよな?」
「あーそれなら、クリア目前ってとこだな。舞台が荒野エリアで手応えがなさ過ぎてな。まだ経路確立も出来てないみたいで、増援もないからもうすぐ終わる。好戦的な奴は今頃暴れてるだろうよ」
「あ、こっちもほぼ終盤なんだ」
「中継もやってるにはやってるが、見応えなくてな。ここにいる連中は丁度退屈してたとこだよ」
戦場が荒野エリアになるなら、草原エリアの赤の群集より荒野エリアの灰の群集の方が地の利は大きそうだよな。それに増援がないということは赤の群集の草原エリアは経路確立がまだってところか? それか内部分裂で、それどころじゃない?
そして俺達に着いてきている人達は競争クエストには参加する気がないタイプの人達らしい。中継で見るにしても手応えのない相手との勝負では見ても面白味には欠けるんだろうね。
「まぁ、もし増援が必要になったら頼んでくると思うぜ。大丈夫だとは思うがよ」
「よし、その時は任せとけ」
まぁ聞いている限りではその心配は必要なさそうだけど、今後の為にも今は強化が必須である。今の移動速度が遅い訳でもないけど、折角だし思いついた新移動方法を試してみようかな。という事で空飛ぶクジラ計画を少し進めよう。
「アル、ちょっと相談」
「ん? ケイ、どうした?」
「浮いた状態で風魔法を使って推進力を得るのは可能?」
「あー、どうだろうな? 風を受ける部分がないしな」
「……よし、ハーレさん出番だ!」
「え!? 私!?」
「アルは木を前方斜めに倒した状態で、ハーレさんが傘展開をしつつ木にしがみついておいて、俺が風魔法をハーレさんに向けて放って、帆の要領でアルを引っ張る!」
「……ケイ、無茶な事を考えるね」
「いつもだけど、ケイさんは何処からその発想が出てくるのかが不思議だよ」
「もう何とでも言ってくれ! それで、アル、ハーレさん、出来そうか?」
ちょっと無茶な事を言ってるのは承知しているけども、これがもし可能ならアルが空中を泳ぐのと合わせて移動は速くなるはず。まぁまだ俺の風魔法はLvが低いのでそれほど効果はないだろうけど。
「まぁやる価値はありそうだな」
「私もやってみたい! 楽しそうだしね!」
「そんじゃやってみるか。みんなのスキルの熟練度稼ぎも兼ねてるからな」
「あ、でもハーレは無理じゃないかな? 海水の中じゃないと萎れるし」
「「あ……」」
そうか、そういやそうだった。確かにサヤの言うとおり、海水の中にいる必要があるハーレさんには無理があった。……草原エリアに行くまではお預けかな。よし、プランBに変更。
「仕方ないからプランBに変更! 水流の操作でアルを流していく!」
「えー!? 私のはー!?」
「草原エリアでやるから、それまで我慢な」
「あ、そっか! 乾燥地帯じゃなきゃ大丈夫だもんね!」
「っていうか、まだ他に手段あったのかよ。ケイ、いつの間に水流の操作を取ったんだ? ……というかまだ成長体だからポイント取得は無理なのにどうやった?」
「あれ? サヤとかから聞いてない?」
「今日はケイとハーレさんの時間がズレてるから、そんな時間なかったわ!」
「そういやそうだった。実はだなーー」
てっきりサヤとヨッシさんが説明してくれてるものと思ってたよ。停電が原因での時間のズレを忘れてたね。とりあえず簡単にアルに説明をしておこう。
「通常スキルの操作系スキルLv6から、応用スキルへの派生とそれに伴う生成量の増加スキルか。……また随分ととんでもないものを見つけてきたな」
「いやーそれほどでも……あるな!」
「……まぁいい。それ自体は有用な話だしな。でも取ったばっかりだとLv足りないんじゃないか?」
「まぁな。とりあえず上げつつやってみるって感じで行こうかと思ってる」
「ま、それも有りか。ここならそれほど負担でもないだろうしな」
「それじゃ早速やってみるか!」
さてとまだ水流の操作自体は使ったこと無いんだよな。応用スキルだから岩の操作と同じで最初はろくに扱えない可能性もあるんだけど、使わなきゃ実用レベルにならないんだから使って行くしかないだろう。
それにしても森林深部だとちょいちょい赤の群集のプレイヤーもいたりしたけど、ここはさっぱり見かけない。やっぱり乾燥してる荒野エリアは厳しいのかな? 少し気にはなるけど、それはまぁいいや。そっちのほうが好都合といえば好都合だし。
それでは、ってコケを覆っている水球を解除しないと発動出来ないじゃん。よし、移動操作制御に登録し直して……って普通にアルの背中に移動すりゃ良いだけだ。折角海水ドームを用意してくれてるんだしね。
そういやどうやって登ろう? えーと、何か手段は……お、思いついたけど出来るかな? まぁダメ元でやってみよう。とりあえずコケを覆う水の操作を解除して、弱り始めるまでの時間との勝負!
<行動値1と魔力値5消費して『風魔法Lv1:ウィンドクリエイト』を発動します> 行動値 40/45 : 魔力値 78/86
<行動値を5消費して『風の操作Lv1』を発動します> 行動値 35/45
一度普通に上部へと跳ねて、軽くジャンプした状態になっておく。そこでロブスターの尻尾の跳ねる際に打点部分に風を生成して、操作の支配下にしておく。
さてとここからがタイミングの勝負だ。生成した軽く渦巻く風を即座に効果切れになってもいいので、上部へと勢い良く操作して……Lvが低過ぎるから制御が鈍すぎるけど、いけるか……? ……よし、今だ! 風の流れを足場にするようにして跳ねる! おー、ちょっと飛び過ぎて、アルを通り越した!?
「わ!? ケイさんが陸地なのに水中みたいに跳ねた!?」
「ケイさん、相変わらず色々やるね」
「よし、成功!」
「……ケイ、水流の操作じゃなかったのかな?」
「とりあえず、アルの上に移動したかっただけなんだけどな。サヤもアルに登っとこうぜ」
「そういうのは先に言ってほしいかな!?」
ちょっと飛び跳ね過ぎたけども、方向的には問題なかったので無事にアルの背中の上の海水の中へと落下。……ちょっと飛び過ぎた感じはするけども、風魔法を足場代わりにして空中を飛び跳ねる事は可能みたいだね。操作Lv1じゃ制御が雑過ぎてタイミングを狙うのが難しいから、要練習と熟練度稼ぎは必須だな。ただし、慣れればこれも便利かもしれない。
「サヤ、とりあえず尾ビレの方から登ってこい」
「うん、アル、分かったかな」
そして、サヤはアルの尾ビレの方から普通によじ登ってきた。あ、そっちからなら普通に地面に近いから俺でも登れてたかも……。まぁいいや、まだまだ精度が甘いとはいえ新移動手段も確立出来た事だし。
「んじゃ、今度こそ水流の操作いくぞー!」
「さて、生成量の増えた水ってどんなものかが重要だな」
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 34/45 : 魔力値 75/86
<行動値を20消費して『水流の操作Lv1』を発動します> 行動値 14/45
生成する水量を最大にして、水を生成。……最大量の水の生成量が普通に森林深部に『灰のサファリ同盟』が作った池を1発で満たせるくらいの量がありそう。とりあえず大量の水を水流の操作で支配下においてみるか。
うっわー、この大量の水を全部を操作出来るのか。今までの水の操作の規模と段違いだな。……操作感自体は、ぎこちないけど渦を巻くようにして何とか流れを作る事は出来ている。
これはどうも静止させるほうが難しいっぽいな。静止させたい場合は水の操作を使えば良いか。そういう使い分けをしろという事なのだろう。
「アル、この水流の上にいけるか?」
「……想像のかなり上を行く水量なんだが、これなら問題なさそうだ。……よし、行けそうだな」
「それじゃ動かしてみるぞ!」
「おう」
アルが水流の上に乗って、俺が水流の操作を渦状から川のように一定方向に向けて流れを変えていく。うん、なんというか川を舟で下っているような感じだね。……っていうか、この状態はそのままそんな様子だよな。
ついでに水の追加生成も試してみるけどこれも良い感じだ。生成できる量は多いとはいえ上限は決まっているので、出来るだけ再利用はしていく。それでもある程度は通り過ぎて戻すのが面倒な場所の水は破棄して、進んでいる前方に水を追加生成していけば、無駄も少なくどんどん進んで行く事が出来ていた。
「これは結構良さそうかな?」
「迫力はないけど、良い感じだよね!」
「私はこれくらいゆったりした方が好きだよ。周りが荒野っていうのが不思議だけどね」
まだまだ操作も甘いので、それほど流れは強く出来ずに普通に歩くより少し早い程度だ。制御時間を一気に削れば急流も出来そうではあるけども。って、あれ? 荒野の人達が着いてこない……?
「おーい? シンさん達、着いてくるんじゃなかったのか?」
「はっ!? 思わず呆気に取られてた!?」
「……応用スキルを持ってた奴、いたよな? あれって真似出来るか?」
「いやいやいや、理屈は分かるけどいきなりやれって言われても出来る気しないわ!?」
「……発想自体がぶっ飛んでるけど、それ以上にそれを実行出来るプレイヤースキルが凄いな」
「えーと、風の操作と風魔法で足場を作った感じだったよな……。『ウィンドクリエイト』『風の操作』 お、出来た!」
「何!? え、さっきの真似したのか!?」
「お、確かに出来なくもないな。結構タイミングがシビアだけど」
「魔法で足場を作るって発想か。水とか土の方がやりやすいかもな」
「……うん、こっちにも充分真似出来るだけのプレイヤースキルを持ってる奴がいたね」
「再現は後回しだ、お前らー! 置いていかれるぞ!」
「おっと、確かにそりゃそうだ」
「見逃してたまるか、森林深部の『ビックリ情報箱』の真髄!」
なんか立ち止まって呆けているヘビの人やラクダの人、さっき俺がやったの真似してるネズミの人や小さなサボテンの人、なんか悩ましげなカメの人など、それぞれ違った反応を見せている。っていうか、再現できてるんだし別に俺のやった事にびっくりしなくても良いんじゃない?
「とにかく草原の調査クエストに行くぞ!」
「「「「おー!」」」」
まぁ悪い風に言われている訳でもないし、別に良いか。……アルやサヤも大概無茶苦茶な事をやってるんだから、そっちにも注目してほしいとも思ったりはするけども。
そんな感じの大人数でわいわい騒ぎつつ、東南部の草原エリアへのボスに向けて、新たな移動手段で移動開始である。




