第210話 荒野エリアの特徴
「……おぉ! 水球の中以外でクジラが来たぞー!?」
「うぉ!? マジだ!?」
「木が生えてるクジラだ!」
「このクジラは初めてだね」
「しかもちょっとだけど浮いてるぞ!」
「おいこら、お前ら! 気になるのは分かるが落ち着け!」
俺達がバタバタしている内に、いつの間にやら荒野のプレイヤーが集まってきていた。そりゃクジラが来たら目立つもんな。落ち着かせようと声を張り上げているのは高さ1メートルちょっとで細長く、鋭い棘が大量に生えているサボテンの人だった。
「おう、すまんな。色々こっちの荒野エリアじゃ珍しい光景だったもんで。とりあえず、群集拠点種に挨拶しといてくれや」
「あ、どうもすみません。ありがとうございます」
「いやいや、こっちも騒がせて悪かったな」
サボテンの人……名前はシンさんか。サボテンのプレイヤーってのも居るもんなんだな。とりあえず、群集拠点種で貰うものもあるのでそっちを先に済ませてしまおう。追憶の実は後でもいいけど、帰還の実は早めに手に入れておくほうが良いだろうしね。
「ここの群集拠点種のキズナだよな? よろしく」
『お、お前らよく来たな。俺はキズナってんだ。よろしくな』
「早速だけど、帰還の実とか貰えるか?」
『おう、任せとけ! ほらよ!』
<『帰還の実:始まりの荒野・灰の群集エリア4』を獲得しました>
俺が代表でキズナに呼びかけて、みんなの分の帰還の実が生成され渡されていく。……サボテンの棘が膨らんで実に変わるとはちょっと思わなかった。うん、この辺はゲーム的な不思議演出である。
とりあえず貰った帰還の実の内容は想像つくけど一応確認しておこうかな。ログインしているコケの方のインベントリに入っているね。
【帰還の実:始まりの荒野・灰の群集エリア4】
所持しているだけで死亡時にリスポーン位置に『始まりの荒野・灰の群集エリア4』の『群集拠点種』を選ぶ事が出来る。また通常時、任意に使用して『群集拠点種』へと移動が出来る。
使い捨てで所持制限1個。ただし『群集拠点種』にて再取得が可能。(1日1個まで)
予想通り、キズナ専用の帰還の実だね。これで森林深部、海、荒野への帰還の実は手に入った。群集拠点種同士は転移も可能になっているので、実質3回までは自由に戻れるって訳だな。行ける初期エリアが増えた分だけ便利にもなっている。
「追憶の実くださいな!」
『おうよ! 持ってけ!』
「ありがとー!」
<『追憶の実:始まりの荒野・灰の群集エリア4』を獲得しました>
ハーレさんが追憶の実の催促をすればすぐに帰還の実と同じように生成され、インベントリへと入っていく。これは確認したらすぐに使っていったんのとこに送っておこう。一応、詳細確認っと。
【追憶の実:始まりの荒野・灰の群集エリア4】
始まりの荒野・灰の群集エリア4にて発生した、終了した過去のイベントの特殊演出の再現映像を見る事が可能になる。
ゲーム内フィールドではなく、ログイン場面にて使用可能。
うん、ほぼ変わらずだね。使用していったんのとこに送っておこう。これで最低限ここで貰うべきものは貰った。一応特性の実とかの交換が可能か確認してみたけど、まだ交換の一覧には無かったので競争クエストが終わって追加されたらなんだろうな。
最低限の行動は済ませたので、次は情報収集といこうかな。聞く相手は目の前にズラッと勢揃いしている訳だし、荒野エリアの事は荒野エリアの人に聞くのが一番だろう。……なんか色々と待ちかねているような感じだしね。
「もういいよな!?」
「よっしゃ! そのクジラどうなってんの!?」
「コケの生えたザリガニ……?」
「クラゲかー! やっぱ海エリアも行ってみたいもんだな」
「……ウニか。ゴクリ」
「クマ、かっけー!」
「質問! このメンバーって海出身、森林出身のどっち!?」
「木の生えた浮かぶクジラかー。色々と可能性を感じるな」
「おいこら、お前ら一気に質問攻めにしてんじゃねぇよ!」
「いいじゃねぇかよ、シン!」
「荒野から他に行ったやつって、他のキャラでは殆ど戻って来ないんだしよ!」
「そんなに気になるんなら自分で他のエリアに行ってくれば良いだろうが!?」
「それはそれ。これはこれだ!」
「……他のエリアでも木の生えたクジラとコケの生えたザリガニは見たことないよ?」
「ぐっ、それは確かに俺も見た事ねぇわ……」
何か荒野エリアのプレイヤーは仲良さげだな。そして他のエリアの種族に興味津々といった感じである。……コケの生えたカニなら青の群集にもいるけどね? 多分探せば似たような人は他にもいる筈。
そういや荒野のプレイヤーと言えば、ポイントを使わずにスキル取得に拘ってる人も結構いたんだっけ? 他のエリアに比べると殺風景な場所ではあるけども、ここに拘りを持っている人もそれなりに居そうだね。
とりあえず代表的な感じのシンさんに色々と聞いてみようかな。個別に話してると相当時間が掛かりそうだし。
「えっと、シンさん? ここってそんなにクジラって珍しいのか?」
「あークジラそのものが珍しいって訳じゃなくて、水球から出て無事なクジラが珍しいって感じだな」
「へぇ、そうなんだ」
「で、実際のとこはあんたら海と森林どっちの出身だ? そこのハーレさんとヨッシさんが2ndって事は森林……いや森林深部か?」
「お! それは正解だよ!」
「やっぱりか。って事は、そこのケイさんってザリガニの人が『ビックリ情報箱』のコケの人だな」
「え、何その呼び名!? 俺、そんな風に呼ばれてるの!?」
「「「「何を今更……」」」」
「そう言われるような気はしてた!」
みんな揃って同じ事を言わなくてもいいじゃないか。というか、何その『ビックリ情報箱』って妙な渾名。……あんまり否定出来る気がしないけど、せめてもうちょい他の呼ばれ方が良いな。
なんかシンさんには自分ばっかり聞くなとかブーイングが届きまくってるけど、悪意は感じないからこれが日常的な感じなんだろうか。
「色々と気になるだろうけど、今の荒野にいる連中ってのはここがお気に入りの連中ばっかでな。まぁそれでも他の種族も気になるってやつも多くて、ここで育てられそうな2ndの吟味中のやつが多いんだよ」
「あ、だからみんなして集まってるのかな?」
「そうそう。ここで活動できる実例が見たいって感じだな。……それにしても空飛ぶクジラ計画ってのを海エリアのクジラの人がやろうとしてたのは知ってるが、多少なりとも実現の可能性を垣間見れたのはありがたい」
「そりゃ良かったぜ。……そうだな、荒野でやるなら幼生体のうちにここで適応進化させた方が良いだろう。その上で空中浮遊を取れば行けるんじゃないか? 適応進化してしまえば木は必須じゃないぞ」
「ほう、そういう育て方もありなんだな。なるほど、他のエリアで2ndを作って即座に死なせまくっての適応進化か。適応進化の事をすっかり忘れてたぜ」
「……適応進化は使ってないのかな?」
「そもそもここには乾燥しきった環境以外で死ぬ様な環境がほぼねぇからな。隣接エリアでも適応での問題は起きねぇし、『仲間の呼び声』以外で適応進化を発生させる土台がないんだよ。しかも『仲間の呼び声』を使う奴は大多数が呼ばれる側だしな」
「あーなるほど」
ほぼ乾燥のみに適応した荒野ではそもそも他の適応進化の発生する余地が無かったわけか。エリア指定して2ndを荒野で作った場合は元々適応してるし、初期エリア同士が全部繋がったのもごく最近の話。今の荒野エリアは試行錯誤の時期なんだな。
なんだか荒野エリアは気に入ってる人はとことん気に入ってるみたいだし、この先かなり独特な進化を遂げるエリアになりそうな気がする。
「ここが合わなかった奴は大体他の初期エリアに移籍したし、ここはここで自由にやるさ。なぁ、お前ら!」
「「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」」
そのシンさんの呼びかけに集まってる人達が一斉に雄叫びを上げていた。うん、ここはかなり独特なノリがあるようだ。まぁこれはこれで楽しそうだし良いんじゃないかな。
「で、コケ御一行は今回はどんな用事だ? 観光か? 競争クエストか?」
「はい! 珍しいところがあれば見てみたいです!」
「こら、ハーレ! 目的は別でしょう!?」
「あぅ、そうだった!? 目的地はここの調査クエストの草原エリアだよ!」
「ほう? なんでまたここなんだ?」
「あー空飛ぶクジラ計画の為のスキル上げとか、Lv上げとか、まぁ色々だな。草原エリアの方は色々あって負けてただろ?」
「……なるほど。確かにその巨体なら平坦な場所のほうが良いのは間違いないな。だが、それなら海エリアの海面でも良かったんじゃねぇか?」
「そうすると今度は敵がいねぇんだよ。並行してLv上げもしたいからな。後は、ケイが火の操作の取得実験とか色々と計画中だ」
「ほう、そりゃ面白い。……見物とかは問題ないか?」
「問題ないよー!」
「こら、ハーレ! 独断で返事しない!」
「あぅ、ヨッシに怒られた……」
「私は別に良いかな?」
「俺も別に問題ないな」
「今日は散々見物されたし、俺も問題ないね」
「あ、みんな別に良かったんだ。それならわたしも良いよ」
まぁこの近辺に詳しい人達がいるというのも参考にはなるだろう。このエリア独特のなにかもあるかもしれないしね。それを聞いた荒野エリアの人達も喜んでいるようである。……こりゃ大所帯になりそうな予感。まぁそういう時も別に良いかな。
「ところで見た感じでは全員移動は大丈夫そうだとは思うが、乾燥対策は大丈夫か?」
シンさんが確認の為に乾燥対策について尋ねてきた。一応はアルの作った海水があればヨッシさんとハーレさんは大丈夫みたいだし、万が一の時でも即座に死ぬ事もないだろう。俺のコケやロブスターも水を用意すれば一応は大丈夫ではある。……思ってた以上に対策がないと厳しい感じはするけどね。
乾燥で死にまくって適応進化をさせても良いけど、なんでもかんでも全てに適応させても大丈夫なものか少し不安だ。転生進化で選びたいのが出ても、死ねなくて選べないとかいう事態に陥っても困る。……まだ進化階位には先があるし、特定の進化が詰むような状況は避けたい。
あと水属性のコケが纏火を使った時はダメージ量の減少があったみたいだから、迂闊に属性を増やし過ぎても逆に弱くなりそうな気がするし。……まぁこの辺は様子を見ながらだな。
「とりあえず大丈夫だと思う」
「そうか、それならいい。草原エリアなら東南地点にボスの土ガメがいるから、その先だぜ」
「お、そうか! 情報ありがとな!」
そうしてサボテンの人からボスの場所を教えてもらった。初期エリアは訪れた時点でマップ情報は埋まってボスの大体の出現位置は分かるけど、種類までは分からないからね。これはありがたい情報だ。
ここに集まっている荒野エリアの人達も付いてくるつもりみたいだけど、まぁ別に良いかな。参考にしてもらって、灰の群集の全体の底上げになるなら良いことだしね。火の操作がうまく行けば、ここのみんなに火の操作を取得してもらっていくというのも良いだろう。
試してみないとわからないけど、水流の操作を利用して風の操作の取得を広めてみるのも良いかもね。さて、やる事は沢山あるから頑張っていこう!




