第170話 狙いのキャラが揃って
「マップを見たら何となく推測出来るけど、少し確認いいかな?」
「いいよ! どんな確認?」
「この『ナギの海原』って北西側のエリアが赤の群集との競争クエストのエリアでいいのかな? もう競争クエストは終わってるって認識でいい?」
「あ、それちょっと前に終わったやつだね」
「サヤさんの推測通りだ。赤の群集が勝つのを諦めてたのか、楽勝だったらしいぞ。あと、暴発の情報が役立ったとも言ってたな」
「……あれ? 俺って暴発でのクリア方法って流してたっけ?」
「それなら私が流しといたよ! 私達がやったのと同系統の感じだったらしいからね!」
「あ、ハーレさんか。良くやった!」
ついうっかり報告するタイミングを逃してしまっていた事に今気付いたけど、ハーレさんがやっててくれたか。……多分夜中のメンテ明けにログインしたって時にだろうな。そして暴発が必要だったという事はミズキ……ミズウメと同じような半覚醒の黒の暴走種がいたのだろう。
「まぁ終わった方は良いとして、タツノオトシゴのいるまだ終わってない青の群集との方が問題だね」
「あっちはどうも攻略方法が違うっぽいって話だしな」
「でも俺も参戦してももう大丈夫みたいだし、このまま一気に参戦しちゃう?」
「それもいいが、ケイさん達は時間的に大丈夫か? さっき6時がどうとか言ってたけど」
「あーうちのメンバーの2人が6時で晩飯なんだよ」
「私とヨッシが時間的に微妙かな……?」
「そうだね。もう30分もしたら1回ログアウトしないと……」
「……なるほどな。移動と移動阻害のボスを倒す時間も考えれば競争クエストのエリアに行くだけでも微妙なとこだな。どうするか……」
俺とハーレさんはまだ時間的に余裕があるので問題ない。アルも融通は効くから大丈夫だが、肝心のサヤが駄目というのが致命的か。
「別に無理にすぐにじゃなくても良いよ? 私としては海藻って選択肢もありだ……あれ?」
「サヤ、どした?」
「うん、ちょっとね? ねぇ、シアンさん、ソウさん。タツノオトシゴってその競争クエストのエリアにしかいないのかな?」
「あーどうだろうな? 大々的に確認されたのが競争クエストのエリアってだけだし、プレイヤーとしてはいるにはいるからな。……あ、誰かタツノオトシゴのプレイヤーを呼べば良いか」
「……うーん、それもなんか悪い気もするし……。とりあえず試すだけでもしてみようかな。『看破』! ……やっぱり気のせい?」
「サヤ、何か気になる事があるの!?」
「うん、ちょっとね。そこの海藻がちょっと変な動きをした様に見えたけど、気のせいみたいかな?」
「……サヤの勘って結構当たるからね。……もしかしたら『看破』!」
<未成体・暴走種を発見しました>
<未成体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>
ヨッシさんが看破を使えば、慌てた様に海藻の一部が動き出す。発見報酬が出たという事は、初発見なのか。そして海藻によく似た海藻ではない未成体が逃げ出していった。ぱっと見で海藻っぽいタツノオトシゴみたいである。あまりにもあっという間に逃げたので識別する暇が無かったけど、特性に擬態があるんだろう。
「あっ!? タツノオトシゴが海藻に擬態してたの!?」
「こんなとこに未成体!? これって、もしかして姿が確認できてなかった海藻系の幼生体を狙う未成体の1体!?」
「……見つけるには看破が必要なのか。見つけたら逃げるのは競争クエストのヤツと一緒なんだな……」
「競争クエストのタツノオトシゴって逃げるの!?」
「まぁな。タツノオトシゴだけじゃなくて他にも魚やエビが海藻に擬態してて、浄化の欠片を盗んでいく黒の暴走種ばっかなんだよ……」
「なんだか随分と違った様子の競争クエストみたいだな?」
「そうなんだよ。今は攻略手順の洗い出し中だ。それにしても今のが看破か。オフライン版と性質が違うのか?」
「うん、全然違うかな。擬態や隠密を見破れるよ」
あの未成体のタツノオトシゴは海エリアでもまだ未発見のモノだったらしい。……看破が必要になるならそれも仕方ない事ではあるけども。……森林深部エリアでも試してみようかな? どこかにいるはずなんだけど、襲う時以外には気付かれる事のない植物系プレイヤーの進化誘発用のコケはまだ見たことないんだよね。もしかしたら普段の状態のを見つけるには看破が必須なのかもしれない。
「なるほど、仕様変更が盲点だったか。いや、使い物にならなかった識別があれだけ便利になってるんだからもっと早くに気付くべきだったな。……ところで看破はポイント取得か?」
「いやいや、これがまた良い取得方法がありましてな?」
「ほう、ケイさん。それは教えてもらえるのか?」
「もちろん後でばら撒く予定の情報だぞ。ただ混み合う可能性があるから、そこは要注意な」
そして看破の取得方法を教えていく。自分で言うのもなんだけど、かなり有用な発見だと思うんだよ、この情報。その情報を聞いたシアンさんとソウさんは、どことなく満足している様子である。いや、何か手掛かりを掴んだといった感じか? あ、そうか。擬態が大量っていう競争クエストのエリアなら取得には混雑しないかも。
あ、違う、そうじゃない。これは看破がそっちの競争クエストの進行の鍵? ……オフライン版の仕様からの先入観ってのも怖いところか。半覚醒のミズウメの時もNPCとプレイヤーの情報のズレで思い込みがあったしな。先入観には気を付けないと、変な所で大事な事を見落としそうだ。
「なるほど、そりゃお手軽で良い取得方法だ。……こっちの方で情報ばら撒いててもいいか?」
「問題ないぞ。俺がやる手間も省けるし、競争クエストに必要そうだしね?」
「やっぱりその可能性には気付くか。そんじゃこっちから広めさせて貰うぜ」
「おうよ!」
競争クエストに必須の可能性があるならばどんどん広めていくべきだろう。海エリアの競争クエストにも参加してみたいという気持ちもあるから可能な限り協力はしよう。……共生進化が可能になる成長体まで2枠目が育てば、参加したいしね。それまでに終わってなければだけど。
とりあえずこれでランダムのヨッシさん以外は全員が狙った種族の遭遇は済ませたのでこれで2枠目の作成用意は出来た。晩飯後には2枠目の育成に入れるかな。
「あー、みんな。ちょっと予定変えてもいいか?」
「ん? アル、どんな風に?」
「アルさん、予定してた種族変えるの!?」
「あー選ぶの自体は変わらないが、進化の方向性を変えようと思ってな? シアンさんの背中に乗ってみて思ったんだが、イルカで引っ張るよりクジラの背中にいる方が安定して良くないか?」
「それは確かに……。それならアルはイルカを目指すんじゃなくてクジラのまま育てるのに変更か?」
「まぁそうなるな。一応幼生体で使ってみて、小型化も試してからになるが。扱いにくそうなら予定通りイルカにするかもしれんけど」
「おー! アルさんがクジラかー!」
「アルマースさん、折角なら一緒に空飛ぶクジラ目指そうぜー!」
「……それもありだな。検討しておく」
「おー! やった! 同じ目標の仲間が出来た!?」
「……おいおい、シアン。まだ決定事項じゃないからな?」
「あ、そうだった」
自分と同じ種族仲間が増えるのは嬉しかったりするから、シアンさんの気持ちもよく分かる。それにしてもアルが予定変更か。まぁどっちにしろイルカにするにもクジラからの変異進化が必要だって話だし、選ぶ種族は変わらないから特に問題はない。……それよりも気になる点があるにはある。
「でも、アル。木の方の海水対策はどうするんだ? クジラだと海水の中に潜るだろうし流石に厳しくないか?」
「……問題はそこなんだよな。成長体のうちに木を海水向けに適応進化させとくか。いや待てよ。シアンさん、ソウさん、進化の輝石・海って手に入ったりしないか?」
「えっ、どうだろ? ソウ、なんか知ってる?」
「あーどうだろな。……そういや競争クエストの終了アナウンスでヨシミで交換可能なアイテムの追加とかあった気はするな。洞窟内にいたからまだ確認出来てないが……」
「あー! そういえばそういうのあったね!」
「ちょっとヨシミのとこまで行って確認してくるわ。みんなはここで待っててくれ」
「あ、ソウさん。わざわざすまんな」
「良いってことよ。どうせすぐ近くだし」
まぁ群集拠点種からはあまり離れておらず、まだ普通に見える距離なのでマグロのソウさんならあっという間だろう。それでもありがたい事だけどね。っていうか、競争クエストでのアイテム追加ってエンにもあったっけ。俺も確認してなかったような気がする。
「エンの方にも追加アイテムはあった気がするけど、誰か内容確認してない?」
「あ、そういやしてないかな?」
「私もしてないね」
「私も今まで忘れてた! 新情報多くて忘れてたよ!?」
「……確か『特性の実:陸地適応』と『特性の種:陸地適応』の2つだったはずだ。何ポイントだっけな……?」
「特性の実ってあれだよね! 競争クエストで湖に入る為に配ってたってやつ!」
「陸地適応って事は海エリアのプレイヤー向けかな?」
「特性の種ってのはなんだ? 初耳だけど」
「さぁ? ここに来る直前にチラッと流し見しただけだから、俺も細かくは知らないんだよ」
あ、確認したのは海エリアへと転移してくる直前だったのか。それなら詳細を把握出来てなくても仕方ない。それに陸地適応なら森林深部の大半のプレイヤーには無縁のアイテムだろうし。これは他のエリアから来たプレイヤー向けのアイテムっぽい?
「俺としてはその話は気になるよ! それを使ったら、陸上活動が可能なんだよね!?」
「あー多分な? 特性の種は分からんけど、特性の実は時間制限あると思うぞ?」
「それでも可能性があれば良い! このサイズで適応進化を狙ったら迷惑かけそうだし……」
「あ、それは確かに……」
「……森林深部じゃなくてミズキの森林なら迷惑かかりにくいかな?」
「それは確かにそうだね!」
「ミズキの森林って?」
「森林深部の競争クエストで勝ち取ったエリアだよ! 広いし、プレイヤーは森林深部ほど多くはないから迷惑はかけにくいと思うよ!」
確かにあそこなら森林深部の2倍以上の広さはあるし、適応進化で死にまくってランダムリスポーンしまくっても迷惑をかける相手は非常に少ないだろう。そっか、競争クエストで占拠したエリアはそういう利点があるんだな。ミズキの元へはエンから転移も可能だから海エリアのプレイヤーもすぐに移動は可能だろうし。
そうして話しているうちに、ソウさんが帰ってきた。
「おう、すまん。待たせたな」
「ソウ、どうだった?」
「追加されてたのは『特性の実:海中適応』と『特性の種:海中適応』ってやつだな。実の方が情報ポイント5、種の方が情報ポイント500だ」
「お、そっちも特性の実と種か。ポイント的に効果としては種の方が高いのか?」
「そっちもって事は森林深部も似たようなもんか。とりあえず取得してるやつがいたから、効果の詳細を聞いてきたぜ」
「お、ソウ! 流石!」
「どんな感じなの!?」
「まぁそう慌てなさんな。実の方は使い捨てで効果時間は2時間って話だ」
「あ、そこそこ効果時間あるんだね。進化の軌跡を特性のみに特化した感じなのかな? 纏海より効果時間長いなら便利かも」
「ま、サヤさんの言うような感じでみんなそっちを取得してたぜ。それでだ、ザックさんが『ここは情報収集の為に人柱になってやらぁ!』って言いながら、種の方を交換してたぞ」
「おー! ザックさん、やるね!」
「それで判明した内容だが、種の方は合成進化に使えるアイテムって事だぜ」
「マジか! おい、アル!」
「言われなくても分かってる! その特性の種で合成進化して、海中適応すれば適応進化をする必要もない!」
多分、これは適応進化の時間短縮の為の手段なんだろう。進化の輝石と同じポイント数で特性1つのみはちょっと高い気はするけど、それが嫌なら適応進化で時間をかけてやれという事か。まったく、ここの運営は1つの物でも色々と入手手段を用意してくれるものだ。まぁみんな情報ポイントはそれなりにあるから大丈夫か。
さて、これで海中内でのアルの海水対応の手段は目処が立った。そしてもうすぐ6時である。
「あ、そろそろログアウトしないといけないかな」
「私もだね」
「おうよ。晩飯食ったら2枠目やろうぜ!」
「うん、そうだね。集合場所はどうしようかな? 多分初期位置はバラバラだよね?」
「はい! ヨシミのところで良いと思います!」
「ま、それが無難だな。迷ったり遠かったりしたら、フレンドコールで連絡ってところか」
「遠かったら、コケの方で岩の操作を使って迎えに行くぞ?」
「ケイさん、遠かった場合はお願いね」
「おう、任せとけ!」
岩の操作を使えば海水の中でも結構な速度で移動できるのは実証済みだから、迎えに行くのは問題ないだろう。……俺自身の2枠目が遠かったらちょっと悲惨なことになるけど、その時はアルのクジラに迎えを頼むか。
「それじゃまた後でね」
「いってきます」
「おう、いってらっしゃい」
そしてサヤとヨッシさんはログアウトしていった。さて、俺らも晩飯までには時間はあるけど今のうちにログアウトしていったんのとこで2枠目を作ろうかな。ついでに追憶の実も見ておきたい。
「案内はここまでかな? 大した案内は出来なかった気もするけど……」
「いやいや、結構有難かったよ。シアンさん、ソウさん、ありがとな!」
「そっか。それなら良かったよ」
「それじゃ俺達は競争クエストの方へ殴り込みに行くか!」
「お、いいね! とりあえずみんなに相談だね」
「そうだな。それじゃそういう事で、ケイさん達、またな!」
「おう、こっちこそ色々ありがとな!」
そしてシアンさんとソウさんとは分かれることになった。こっちの競争クエストも気にはなるけど、あんまり経験値が貯まらない状況でいつまでも足止めってのもあれだから、2枠目を優先しよう。
「俺は晩飯までの間に2枠目作成と追憶の実を見てこようと思うけど、アルとハーレさんはどうする?」
「タイミング的には今のうちにその辺をやっとくほうが無駄は少なそうだな。俺もそうするか」
「それなら私もそうしようっと! 海エリアの追憶の実、楽しみ!」
俺もハーレさんと同様にちょっと楽しみである。行動方針も決まったので、みんな1度ログアウトして各自2枠目の作成だ。再集合した時にどんな風になるのかも楽しみだね!