第169話 海エリアの案内
シアンさんとソウさんが案内してくれるという事になったので、とりあえずマップを最大表示にしてどんな場所があるのかを確認してみる。えっと、現在地はマップのほぼ中心の場所で、他の場所よりは浅くなってるのか。それで西側が赤の群集海エリア、南側が青の群集の海エリアになっている。北側が2ヶ所に分かれていて北西が『ナギの海原』、北東が『名も無き海域・その2』になっていた。
『ナギの海原』は命名クエストの結果っぽいね。ここが赤の群集との競争クエストのエリアだったのかもしれない。そっか、海エリアでも赤の群集には勝ったんだな。
そして残る東側は『名も無き海域・その3』となっている。……こっちが位置関係的に青の群集との競争クエストのエリアだろう。
「えーでは、案内人はクジラことシアンとーー」
「マグロことソウにて……って何を言わせるんだよ!?」
「えー!? 途中まで乗ってくれたじゃん!?」
「えーじゃねぇよ!? ……それは良いとして、ケイさん達どっか見たいとこあるか?」
「はい! 珍しい所があれば見たいです!」
「珍しい所だね! はい、それでは後ろをどうぞ!」
「後ろ!? 後ろってさっき見た群集拠点種のヨシミだよね!?」
「他に何かあるのかな?」
言われるがままに後ろを振り返ってみたけども、見えるのはさっき見た群集拠点種のヨシミである。いや、確かに一番珍しいものではあるんだろうけど……。あ、あそこにいるのはザックさん達だ。何やってるんだろう?
「海エリアでは優れもの! 進化の軌跡・海の欠片はいかがっすかー? 今なら他の種類の進化の軌跡2個と交換だ! それ以外のものも応相談!」
「マジか!? こっちに2個くれ!」
「俺にもくれ!」
「回復用の果物と交換は無理か……?」
「何か企んでいるのかと思えばこういう事ですか、ザックさん」
「……だが、今が一番効果的なのは間違いない」
「……ん、確かに」
いつの間にかやってきていたザックさんPT一行は、進化の軌跡で物々交換を繰り広げていた。まぁ確かに普通に戦ってたら常闇の洞窟って進化の軌跡・海の欠片が意外と余るんだよな。俺でも今は10個は持ってるし。先行していたザックさん達はもっと持ってたのかもしれない。品薄の今が確かに交換の狙い時ではあるね。
って、これは今特有の珍しい光景ではあるけど、期待しているものとはまるで違う!?
「……おい、シアン。もう少しまともな案内をだな……」
「い、いやね、あれのつもりはなかったよ!? あっちじゃなくてもっと海底の方!」
「なるほど、あれか」
「海底の方……?」
「あ、もしかしてあれか……?」
「んー? なんか黒いモヤみたいな中でチカチカ光ってる……? ねぇ、あれ何!?」
何やらポッカリと暗闇に包まれた大穴と、その前で妙な感じに暗く見える場所と、その中から光が発生している様子が見て取れる。このエリアはそれなりの深さはありそうだけど、海底までは光が届く範囲だ。それなのに一部分だけが暗闇に閉ざされていた。その暗闇から滲み出てくる光は海の中なのにホタルでも見ているような気分になってくる。
「あれこそが、海エリアからの常闇の洞窟の入り口とその前のボスのアサシイカ!」
「あ、あれがここの特殊ボスか!」
「そして光ってるのは発光系のスキルだったり、自己治癒系のスキルの光!」
「自己治癒系のスキル……? 木の水分吸収みたいなもんか?」
「あ、もしかして進化の軌跡・癒の欠片って森林深部にはない?」
「……無いね」
「もしかしてこっちはこっちで固有の進化の軌跡があるのか?」
「どんなのあるの!? ものすごく気になる!?」
「そういや具体的な進化の軌跡の情報ってやりとりしてなかったっけ」
「……そういやそうなるのか。草原エリアに雷があって取り合ってるくらいしか具体的なのは知らないな」
「知っても手に入らないってのもあったし、仕方ないんじゃないかな?」
「よし、シアンさん、ソウさん、進化の軌跡の情報の交換といこうじゃないか」
「ケイさんの提案に乗ろうじゃないか」
という事で互いのエリアで手に入る進化の軌跡の情報交換をしてみたところボスから、毒、水、光、癒、草の5種類が手に入るとの事であった。森林深部のボスで手に入るのは火、氷、土、水、樹の5種類なので個数は同じで種類が異なる様子だ。これからは行き来も増えてくるだろうし、他のエリアともこの辺の情報交換はしておくべきかもしれないね。
「ちなみに俺は癒の進化の輝石を持ってるよ!」
「俺が光の進化の輝石持ちだな。……正直外れだったが」
「灯りとしては便利じゃん!」
「時間制限あるから意味ねぇだろ! あー、これ合成進化に使えばもうちょっと使いやすくはなるかね……? でも失敗したら外れだとしても勿体無いしな……」
「ソウさんは今は成長体か?」
「おうよ。合成進化でどうするか悩んでるんだよ……」
なるほどね。要するにヨッシさんが悩んでたのと似たような感じか。そうなると実際に合成進化したヨッシさんの話が少しは参考になるかもしれないね。ちょっとヨッシさんに話してあげれないか聞いてみようか。
「そんな時にはこちら! ヨッシが進化の輝石を使った合成進化の実例です!」
「えっ、ハーレ!?」
「それ、マジか!? 進化の輝石を使って合成進化したら具体的にどうなる!?」
「ちょ、ちょっと落ち着いて、ソウさん! 教えるのは良いけど、とにかく落ち着いて?」
「あ、すまん……」
「えっと、進化の輝石を使った合成進化は簡単に言えば、纏属進化の固定化になるよ。だからソウさんの場合は纏光が固定化されると思うけど……ってあからさまに落ち込んでるね?」
「いや、だってよ、纏光って微妙だもんよ……。発光マグロって進化先なんだぜ?」
我が妹ながら親しい相手には遠慮の欠片もないな。でもヨッシさんも慣れたように対応している。そして確かにソウさんの気持ちはなんとなく分かる。纏光って『発光』と『閃光』と『暗視』ってラインナップで、俺自身がっかりしたし……。暗闇には強くなるし、便利にはなるけどポイント取得でも何とかなる範囲なんだよな。閃光は味方にも影響があるのが玉に瑕……。それにしても発光マグロか。
「そこは未成体への進化に期待したらどうかな? 確か、光の操作って未成体からの応用スキルで手に入るんだよね? 属性を持ってたら扱いやすくなるかもしれないんじゃない?」
「あ、そうだね。一番重要なのは属性が付く事かも」
「……そうなのか?」
「属性って対応するスキルにボーナス補正があるみたいだし、あとは場合によっては複数属性化する事も出来るかも。私は毒と氷の2属性だしね」
「そうか。合成進化の後の未成体への進化へ影響する可能があるんだな。……よし、もう少し検討してみる。情報ありがとな」
「いえいえ、どういたしまして」
とりあえずヨッシさんの実体験はそれなりに参考にはなったらしい。やっぱり他の人の情報ってのも大事だね。
「纏癒の方はどんな感じなんだ?」
「えっとね、一時付与スキルが『治癒活性』『解毒』『状態異常抵抗』の3つだね。『治癒活性』が微量の継続回復とスキルやアイテムでのHPの回復量の増加、『解毒』が毒の状態異常の解除、『状態異常抵抗』は状態異常にかかりにくくなるよ!」
「何それ! 私、それ欲しい!」
「確かに便利そう。でも私としては相手をしたくない纏属進化だね……」
「ヨッシは真逆で状態異常を与える方に特化してるから、相性は悪そうだよね」
「実際便利だよ! 毒持ち相手には相当楽になるし!」
「それこそシアンさんは合成進化でそれを使わないのか? 相当死ににくくなる気がするぞ」
「あー、そこは俺がストップかけてんだよ。死ににくくなるってのはこのゲームに限っては絶対的なメリットとも言えないからな。他の群集に妙な敵視されてなければそれほど問題ないんだけど……」
「あー進化の為の死亡の為か。でも、掲示板でその辺は注意されて反省してるみたいな書き込みあったぞ?」
「え、それホント!? なんか妙に怖くて掲示板見てなかったんだけど、そんな事になってるの!?」
「いったんっていうか運営の方から注意が入ってたらしいから、多分もう大丈夫だと思うぞ」
「後で確認してこよう! ソウ、大丈夫になれば合成進化しても大丈夫だよね!? それに競争クエストも参戦出来る!」
「おーテンション上がってんな。まぁ大丈夫になってりゃ問題ないか」
クジラという巨体に回復性能を加えたらとんでもない事になるだろうね。……便利そうだから後で癒の欠片を調達しておこう。アルやサヤが使うとかなり便利な纏属進化になりそうだ。
「そういえばなんだけど、赤の群集の森林エリアとの競争クエストで魚の人が空を飛んでたって話を聞いたんだけど何か知らない?」
「あ、ルアーの事か。それなら直接戦ったぞ」
「お!? ほんとに!?」
「あいつも進化の輝石持ち。属性は風だな。詳細な付与スキルは知らないけど」
「そっか! それなら情報共有板で風の進化の軌跡が手に入る場所を聞いてみようっと。それで飛べそうなら進化の輝石も取得してこよう!」
「あ、空飛ぶクジラ計画は実行中なんだ?」
「そうとも! あれが俺の目標になってるからね!」
「そうなのか」
癒の欠片を合成進化に使いつつ、纏風も使いたいという感じか。そういや2枠目を使用する合成進化は同じ進化階位で1回までってなってたけど、アイテムでの合成進化はどうなんだろうか? ……進化の輝石が2種類は必要になるから気軽には試せない……。それとも他にも進化用のアイテムでもあったりするのか?
「ま、情報交換はこのくらいでいいだろ。他に行きたいとこはあるか?」
「待ち合わせに良さそうな場所とか、経験値稼ぎに良さそうな場所ってあるか?」
「待ち合わせに関しては群集拠点種が1番だな。それ以外となると、どこでも自由に泳げる種族ばっかりじゃないから基本は海底か。目立ちたくないなら岩場の隙間とかがオススメだぞ」
「あ、そっか! そうなるよね!」
「それを聞くってことは、ケイさん達は、2枠目は海のキャラにするのか?」
「おう、そのつもりだ。俺はロブスターの予定」
「私はクラゲー!」
「俺はイルカだが、とりあえずクジラを選ぶことになるな」
「お!? アルマースさんは情報共有板でイルカの事を聞いてきてたからもしかしてと思ったけど、やっぱりなんだ!」
「ロブスターって見たことなかったけど居るんだな。もしかして2枠目からしか選べない種族か……? どこで見つけたんだ?」
「競争クエストの敵のザリガニがいてさ。そしたら海でロブスターが選べるようになってた」
「なるほどな。そういやザリガニとロブスターって同系統か」
とりあえず俺とハーレさんとアルの予定は決まっている。あとはサヤとヨッシさんだな。
「私はランダムの予定」
「お、ヨッシさんはそうきたか。それはそれで面白い事になりそうだな?」
「うん、それもちょっと狙ってるね」
「あ、ヨッシはそういう狙いもあったんだ。私はどうしようかな? 魔法系で変わったのをやってみたいって気持ちはあるんだけど、中々決まらなくて……。共生進化もしてみたいから、相性もあるんだよね」
「中々難しい注文だな……。魔法系が出来て、クマと共生出来そうな種族か……。無難なところで海藻系か?」
「ねぇ、ソウ。あれがいいんじゃない? タツノオトシゴ」
「あぁ、あれか。確かに魔法向けだし、クマに巻き付けば共生も可能そうだな。色物枠じゃないが変わった種族ではあるし」
「タツノオトシゴっているんだね。それが良さそうかな?」
「なら出てくるとこまで行ってみるか……。まぁまだやってる競争クエストのエリアだが」
「そうなの!? それじゃ未成体で大暴れしよう!」
「え、参戦するの? まぁ別に良いけど、時間大丈夫かな?」
「あ、そういやあと30分で6時だ!?」
「流石に時間的に厳しいな」
なんだか海エリアでの競争クエストへの参加という話が出てきた。まぁ経験値と情報ポイントも貰えるからそれはそれで良い。赤の群集との競争クエストは終わってる様子だし、相手は青の群集か。……でも今5時半なんだけど、サヤとヨッシさんは時間厳しいよな?