第1632話 怪しいもの
フィールドボスが捕まっているかもしれない落下物を回収する為、反応の片方があった西へと進んでいる。その途中で全壊した『Ⅰ型』のUFOを見つけて、今はその状態を調べている真っ最中。
「……うん、間違いなく『全壊』状態だね」
「ふふーん! それじゃラジアータ、思いっきり押し潰すよ! 『アクアクリエイト』!」
「デブリスフロウだな。『アースクリエイト』!」
彼岸花さんが識別で状態を確認して、リコリスさんとラジアータさんの手によって生み出された土石流でUFOを押し潰していく。2人での昇華魔法なら絶大な威力があるし、発動が終われば余計なものが残らないからねー。
この辺に散らばってる落下物は、カステラさんと十六夜さんが回収してくれている最中。だから、手短に終わらせるのがいいんだけど……さて、どうなる?
「あっ!? UFOの形が崩れたのさー!」
「原型を留めなくなってるかな!?」
「残骸ですら、なくなったね?」
「こりゃ、成功か?」
「みたいだなー」
明確な程の過剰なダメージを受け、UFOが残骸としての形すら保てなくなったのは確定。でも、機械の砂になってるかは……デブリスフロウの発動が止まらないと、確認が出来ない。あ、そろそろ収まり始めたか。
「ふっふっふ! ちゃんと機械の砂になってるね! よーし、確保だー!」
「どうやら、上手くいったようだな」
「……よかった!」
改造品には出来なかったけど……まぁそもそも、『全壊』の状態だと無理だったしなー。まさか、そこからさらに過剰にぶっ壊せば、こういう状態になるとは思わなかった……。今みたいな流れじゃなきゃ、そもそも試そうともしてなかったしね。
「よし、回収完了!」
「……こっちも終わったぞ」
「回収、お疲れさま!」
ふー、とりあえずこれで、ここの落下物と機械の砂の回収は完了! 中身を確認出来ないのは……まぁ仕方ない。変に時間をロスする訳にもいかないしなー。
「おし、それじゃ次に行くぞ! アル、少し北にズラしてくれ! 反応はそっちだから!」
「おう、了解だ!」
さーて、ともかくひたすら回収していくのみ! ぶっちゃけ、どこまで進んでどこまで回収すればいいのかが分かってないんだけど……どこかで区切りをつけて戻るしかないんだろうなー。
でも、こうもあちこちに反応があると、その判断も難しいな!? ここまで放置されてたのなら、逆に回収しに動かなくてもよかったような気がしてくるぞ……?
◇ ◇ ◇
完全に墜ちているUFOは昇華魔法でぶっ壊し、落下物も谷から西の延長線上になる部分の物はひたすら確保して進んできた。ちょいちょい小規模な森や、小さな水場とかの中に落ちてたりするから、そういう場所は回収に少し手間取る――
「っ!? アル、少し止まってかな!」
「おう! ……サヤ、何か見つけたのか?」
「前に見えるあれ、なんか変かな!」
「バオバブの木がか?」
「なんか変って……並んでるだけじゃね? 何度か見たような光景だけど……」
「こう、なんとも説明し辛いんだけど、何か違和感があるかな!」
特段、珍しい光景ではない気がするんだけど……いや、サヤが何か違和感を覚えたのなら、無視するのは得策じゃないか。
「ハーレさん、リコリスさん……サヤの違和感はどう思う?」
「はい! 私もなんか変だと思います!」
「んー、確かに何か違和感はあるんだよねー? でも、なんだろ、この違和感……」
「2人も、何か違和感があるのか……」
不動種の候補として、確かにバオバブの木は挙げた。でも、少し前にあるバオバブの木……何本か並んで植っているけども、そんなのはこの原野エリアではよく見た光景でもある。
でも、観察力に優れた3人が揃って違和感を覚えるのなら……絶対に無視は出来ない。あれらのどれかが、フィールドボスの可能性があるんだしさ。
「……発見報酬が……出ない?」
「……擬態か? 不動種は普通の木よりも大きくなるのが特徴だが、それを合わせてしまえるという可能性は考えられるかもしれんぞ」
「あー、だから見落とされてたって可能性もありそうだな」
バオバブの木そのものが、他の木と比較して格段に大きいというのもある。普段は見慣れない木だし、何か特殊な特性やスキルを持っている可能性も――
「はっ! 違和感、分かったのさー!」
「っ!? ハーレ、分かったのかな!?」
「それ、どういう内容!? 私、まだ分かんないんだけど!?」
「あそこに並んだバオバブの木、大きさが均一過ぎるのです! 他のはもっと、バラつきがあったのさー!」
「あっ! 言われてみれば、確かにそうかな!」
「っ!? だから、違和感があったんだ! 気付いてみたら、揃い過ぎてて変かも!」
そう言われても、いまいちピンとこないんだけど……よくそんなのが分かるな!? まだそこそこ距離があるし、バオバブの木自体がデカいし……相変わらず、サヤ達の観察力は凄まじいもんだよね。
「ケイさん、先制攻撃でも仕掛けてみるか?」
「あー、紅焔さん、それはちょっと待った」
「なんで止めるんだ? どれかが、フィールドボスって可能性もあるよな?」
「その可能性があるから、止めてるんだよ。不動種は攻撃範囲が広いからな」
「あー、なるほど! 攻撃を仕掛けるにしても、下準備をしてからって事か!」
「そういう事。みんな、ちょっと高度を上げてくれ! 地面から、出来るだけ距離を取る!」
「了解だ!」
「おうよ! 飛翔連隊、上空へ上がるぜ!」
「……うん!」
飛翔連隊と風音さんは自前で飛んでて、それ以外のメンバーはアルのクジラの背の上。ここまでは落下物を回収していく都合があったから高度は低めにしていたけども……フィールドボスの可能性が出てきたなら、地面に近い位置は危険過ぎる。
特に、ここまで集めた落下物を抱えているライルさんの移動操作制御による岩の操作を消される訳にはいかないからね。ここは慎重に動かないと!
「それにしても……こりゃ、どういう特性だ? 発見報酬どころか、黒いカーソルそのものが出ないって事は擬態状態なんだろうが……こんなに目に見えた擬態があるのか?」
「アル、逆にそこが盲点なのかもよ? ほら、木を隠すには森の中とか言うじゃん」
「それを、比喩じゃなく実現されるとは思ってねぇよ!」
「ですよねー!」
自分で言っててなんだけど、本当にそう思うわ! でも、ゴマタノオロチの背中が森の木々を作っていたなんて事もあったしなー。
この原野のLv帯は、ゴマタノオロチの出た山岳と同じくらいなんだから……あれと同格、もしくはそれ以上の厄介な敵が出てきても不思議じゃない!
「さーて、この辺まで上がってりゃ、流石に根は届かないだろ!」
「だなー! みんな、とりあえずこの高度を維持で!」
「……うん!」
「おう、任せとけ」
バオバブの木自体が……今のは変に近付けないから他で見たものを基準に考えるけど、軽く10メートルは超えてそうなんだよなー。今の高度で、多分30メートルくらいか。少し離れた位置ではあったし、様子を窺うだけならこのくらいの距離はあった方がいいはず。
さて、ここからどうやって攻撃を仕掛けるか……。うーん、動くところとフィールドボスである事さえ確認出来れば、そこで撤退でいいんだけど……この距離、『看破』は届くのか? ……よし、試してみるか。
「ハーレさん、危機察知に警戒しといてくれ! ライルさんは、移動操作制御を破られないように通常発動で防御体勢!」
「了解です!」
「承知しました! 『アースクリエイト』『岩の操作』!」
「それで、ここからどうすんだ? 一気に焼き払うか?」
「あー、それでもいいんだけど……」
ここにあるの、合計で5本のバオバブの木なんだよな。その内の1本が不動種だとして……他のバオバブの木、一般生物の木だと考えていいのか? いや、そうだとしたら何故、高さが揃っている? 普通なら、違和感が出るほどピッタリ揃うはずはないし……可能性としてはこれか。
「あのバオバブの木、全部が敵の可能性はあると思う? ほら、オフライン版みたいに、植物が群れを作ってるパターンみたいにさ?」
「そりゃ、草花系の種族の話……だと断じるのも危険だな。考えられる可能性としては、特性『統率』か?」
「っ!? あのバオバブの木、全部が統率個体って事かな?」
アルが言った可能性はあるはず。木が群れを形成するのは不思議な気はするけど、モンエボで出てくる植物は現実通りの植物じゃないんだ。それくらいの可能性は考慮しておくべき! その上で、他の可能性があるとすれば……。
「もしくは、特性『群れ』か……いや、一般生物の木は動かないから、それは無理?」
「……流石に、一般生物の木はないと思う」
「……俺も彼岸花さんの意見に賛成だ。動物ならともかく、植物には無理だろう。まぁコケの群体化みたいに、総数として扱われるなら別だが……」
「あー、そういう可能性もあるのか。……HPが無いってタイプには、全く見えないけどなー」
「……元より、今のは可能性が高いとは思っていない」
「ですよねー!」
これだけ耐久性のありそうな巨大な木が、HPを持たない種族であってたまるか!
「はいはーい! 分体って可能性はないの? 不動種なら、そういう芸当は可能だよね?」
「……『樹の分け身』……の事?」
「そうそう、それ! あれは確か、色んな種族に変化させられるものだったでしょ? それで、自分と同じのをドバーッと!」
「あー、そういう可能性も考えられるか」
『樹の分け身』は不動種の固有スキルで、伸ばした根の先に分体を作り出して活動するって代物だったよな。同じような要素はオフライン版でもあったし……それを、より特化させたのが今の状態という可能性もあるんだね。リコリスさん、良い着眼点!
「どういう形であれ、あそこに生えてるバオバブの木は全部怪しいってこったな! やっぱり、一斉に焼くのが早くねぇか?」
「あー、そんな気はしてきた……」
1本ずつ、何か遠距離から攻撃を当てていこうかと思ってたけど……全部が怪しいのなら、一気に攻撃しても問題ないんだよな。
多分だけど……発見情報やカーソルが表示されないのは、このバオバブの並木そのものが擬態状態だから。そう仮定するなら、どれか1つでも攻撃を受ければ、擬態状態は解除になるはず。
ただ、その場合に問題になるのは……一斉に反撃を受ける可能性もある事。統率個体……それも『強化統率』の個体ならば、完全な別行動を起こす可能性すらある。
「サヤ、ハーレさん、リコリスさん……これから攻撃を仕掛けるけど、それぞれに識別を頼めるか? 本体か分体か統率個体か……どれがどれだか、サッパリ分からんし!」
「ふふーん! 任せておきなさーい! 私、左から2体やるね!」
「私は真ん中の2体を引き受けるかな!」
「それなら、私は残った右の1体を受け持つのさー!」
「おし、その割り当てで頼む!」
距離があるし、下手な事では対象を見失わない3人に任せるのが得策だろ! さーて、ここからは撤退の準備もしていこうか。
「アル、風音さん、飛翔連隊は、フィールドボスだと確認出来次第、谷に戻るつもりで! どう攻撃を仕掛けてくるか分からないから、俺、十六夜さん、曼珠沙華は防御を重視して、退路を確保する! 他のメンバーは、根に巻き付かれないように打ち落としてくれ! ヤバそうなら、ヨッシさんの毒を最大限まで高めて、それで振り切る!」
「フィールドボスと確認出来次第、撤退戦だな。了解だ!」
「……全力で……逃げ切る!」
「ふふーん! 彼岸花、ラジアータ、絶対に守り切るよ!」
「ふん、当然だ」
「……当たり前!」
「僕ら、『飛翔連隊』は防御をすり抜けてきたものの露払いだね」
「わっはっは! 全力でやってやるぜ!」
「紅焔、火で視界を塞ぎ過ぎないでよ?」
「攻撃を見誤ると、危険だからな」
「時々やり過ぎるんですから、注意して下さいね」
「ちょ!? 分かってるっての! こんな大事なタイミングで、そんなミスはしねぇって!?」
あ、紅焔さんって、そういうミスをしたりするのか。まぁ火って大々的に広げると視界を妨げるもんなー。……それで相手の攻撃を見落とすなんて真似は、流石にないようにしないとね。
「今回、私の毒が切り札なんだね?」
「まぁ相手は植物だからなー。いざって時は、『トキシシティ・ブースト』や『白の刻印:増幅』で盛大に強化した溶解毒をよろしく!」
「うん、任せて!」
ぶっちゃけ、どの程度の規模の反撃が来るかが未知数過ぎるんだよなー。不動種は動けない代わりに、攻撃範囲がやたらと広いのは知ってるけど……オンライン版での具体的な射程って知らないんだよね。
しかも本体以外にも、分体か統率個体が存在するっぽいんだから……余計に厄介かも? あー、でも引き寄せるメリットは見えてきたね。これ、多分だけど……引き寄せるのは本体だけだな。
「紅焔さん、ここから5本全部、火で軽く炙る程度でいける?」
「それくらい、朝飯前だっての!」
「おし、ならそれで! 合図したら、作戦を始めていくぞ!」
「「「「おー!」」」」
「おう!」
他のみんなの気合の入った声が返ってきてるね。さーて、それじゃこの怪しい5本のバオバブの木の正体をはっきりさせていきますか!




