第1630話 繋がりを利用して
さて、思いつきで言ってみた手段……引き寄せる手前で止めて、フィールドボスの存在を探知するって方法は上手くいくのか――
「よぉ、ケイさん」
「おっ! ルアー、おっす!」
ジェイさんが矢継ぎ早に次々と指示を出している間に、ルアー達の連結PTがやってきた。構成メンバーは全員『リバイバル』のメンバーみたいだし、何人かは名前にも覚えがある。ウィルさんと一緒に、一時は無所属になってた人達だなー。
「辿り着いて早々に、色々とやってくれてるみたいだな」
「まぁなー。ルアー達こそ、奥で何やってたんだ?」
「何かフィールドボスに関するヒントが無いかと、隅々まで探ってたんだよ。まぁ成果なしだったがな」
「あー、なるほど」
ふむふむ、戦場になるこの場所に何かしらのヒントがある可能性を探っていたのか。まぁだだっ広いだけの場所じゃない可能性はあったんだろうけど、残念ながら特別なギミックは無しっぽいね。
「ルアーさん、やはりそちらは駄目でしたか?」
「あぁ、さっぱりだぜ、ジェイさん。脆くなってて崩せそうな場所や、その奥に隠し通路なんかも期待したが……ガッツリと、頑丈な岩壁で覆われてやがる。戦場は、ここのだだっ広い広間だけだと断定でいいだろうよ」
『だから、言っただろう。この場には、これ以上の場はないと』
「別に信用してねぇ訳じゃねぇんだが、念の為だ、念の為! うっかり見落としましたじゃ、間抜け過ぎるからな」
『……まぁそうかもしれんな』
ふむふむ、まぁ戦場の確認は大事だもんなー。呼び寄せた後、知らない空間にフィールドボスが隠れてたなんて事になると……かなり悲惨な事になりそうだしさ。
「それで、ジェイさんの方はどうだ? ケイさんの思いつき、実行準備は出来たか?」
「えぇ、丁度外への通達が終わったところです。何か異変を確認すれば、すぐ報告が入ってくるように手配しました」
「おし! モンドの方は、準備はいいか?」
『主の位置を探るのに必要なだけの、瘴気は確保した。私達の復活に必要な分の余裕も含めて、いけるはずだ』
ジェイさんの指示で、モンドが少しだけ一部の瘴気珠からの瘴気の抽出を進めていて……それは既に完了した様子。さて、これで探知の準備は問題ないな!
「……そもそも、フィールドボスがどの程度の反応を示すかが分からないのは問題ですけどね!」
「まぁそこはやってみるしかないしなー。最悪、外は1時間の耐久戦をよろしく!」
「軽いノリで、とんでもない事を言ってくれますね!?」
「だって、そこまで大事になるとは……ジェイさん自体、思ってないだろ?」
「……まぁそれはそうですけども!」
「あー、ジェイ? その理由を解説してもらっていいか? なんで、大事にならないって断言出来る?」
「簡単な話ですよ、斬雨。それで本格的なフィールドボス戦が始まるなら……この広間の意味はなんですか?」
「何って……洞窟の広い場所じゃねぇの?」
「それは見たままの話ですよ。そうではなく、ギミックとしての存在理由です。この中に呼び寄せるのに瘴気珠が500個も必要になるのに対して、すぐ側の外へ呼びつけるに瘴気珠10個で済むのは……どう考えても、釣り合いが取れないでしょう?」
「あー、言われてみりゃ、確かにな。……ここならではの何かがあるって事か?」
「もしくは、谷まで引き寄せ続ける効果はない……という判断ですよ」
「なるほど、そういう事か」
俺も大体、似たような解釈っすなー。瘴気珠10個で済むなら、戦場はあの谷でも別にいい。敵が不動種だとしても、日光を遮る手段なんてのはプレイヤーで用意が出来るし、ここの黒の異形種達に真似をさせても……ちょい待った。
「そういやジェイさん、ここの黒の異形種達の名前は?」
「まだ決めていませんよ。どうも、モンドから要望があるようでしてね?」
「要望?」
『私達の集団の名は、そなたらに付けて欲しいと思ってな! 私達に意思を、最初に汲み取ってくれたそなたらに!』
「……はい? え、俺らが名付けるの!?」
『あぁ、それが私達の希望だ。頼めないだろうか?』
「あー、嫌って訳じゃないけど……ちょっと考えさせて。即答では思い付かないからさ」
『何、今すぐにとは言わない。考え付いた時で構わないからな』
なんかサラッと重要な部分を任されてるんですけどー!? 友好的になってた場合って、こういうイベントが発生するんかい! これ、断われたりしない?
あー、でも俺は他所で『百鬼夜行』と名付けてしまっているし……ここで断ると、なんか関係性が悪化しそうな予感!? 断るって選択肢は、なしか……。
「……『百鬼夜行』……『魑魅魍魎』……化け物の集まり?」
「……別にそこに由来する必要はないだろうが、要素としては組み込みたい部分ではあるな」
あ、風音さんや十六夜さん、もうガッツリと考え始めてるんだね?
「あー、ジェイさん? これ、考えるのは今すぐの方がいい? それとも、後回しでも――」
「可能なら、出来るだけ早くお願いします。名前があった方が呼びやすいですからね」
「ですよねー!」
モンドは後でもいいと言ってるけど、もうこの場で俺らが名付ける流れじゃん! あー、確かに既に安定化の変質進化をあちこちで行い始めてるし、戦略的にも名前があった方がやりやすいのは間違いないもんな。……おし!
「みんな、何か良い案があったら出してくれ! モンド達の集団名を、今から決める!」
「はーい!」
「分かったかな!」
「了解!」
「ま、そこを決めない事には、先に進めそうにないしな」
という事で、急だけど名付けタイム! ……『百鬼夜行』の時は、ハーレさんが何気なく言ったものが役立ってたのを実感しますなー。
「名付けかー。おし、ケイさん達に任せた!」
「思いっきりぶん投げたね、紅焔!?」
「基本的にそういうのは苦手だからな! ソラだって、そうだろ?」
「……それはそうだけど、ちょっと無責任過ぎないかい?」
「わっはっは! 俺ら『飛翔連隊』は、最初の時に遭遇してないからいいんだよ!」
「まぁ確かに、それはそうですね?」
「俺らが名付ける方が、不義理というものだな」
「確かにそうだよね! 僕らじゃなくて、直接最初に会ったケイさん達がやる方が確実だよ!」
「ただ単に、紅焔さん達は面倒がってるだけだよな!?」
「ま、そうとも言うな!」
「思いっきり肯定してるし!?」
あー、うん。ソラさんだけは溜め息を吐いているけど、カステラさんも辛子さんもライルさんまで頷いてるし……。まぁ確かに、指名されたのはあの時にいたメンバーなんだろうけども!
「はいはーい! ササっと案を出して、サクッと決めちゃおう!」
「……それがいいね」
「まぁ確かにな。そこから、本格的に探る必要があるしな」
「ですよねー!」
曼珠沙華の3人の言う通り、ここで変に揉めていても仕方ない! サクッと名前を付けて、フィールドボスについて探らないと! その為にも、早く案を出して――
「はい! 折角、金属の身体になっているんだし、そこの要素を入れたらいいと思います!」
「となると……シンプルに『メタル』か? 鉄や鋼なんかとはまた別物だろうし、『アイアン』や『スチール』は不適切だろ?」
「確かに、そうなりそうかな?」
「どう考えても、実在の金属じゃないもんね」
ふむふむ、これまではゾンビやスケルトンの集団って印象から決まった感じだけど、今回は安定化した後の姿を元にしていくのもありだね。問題は……『メタル』と何を組み合わせるかだな。流石に『メタル』のみってのは――
「はいはーい! 『メタル・クラウド』はどう!?」
「クラウド……あぁ、雲の『cloud』じゃなくて、群集の『crowd』か! リコリスにしては、気が利いてるんじゃねぇか?」
「ちょっと! 私にしてはって、一言余計だよね!?」
「……意味は、金属の群集。いいと思うよ?」
「あー、そうきたか!」
ここの集会所も、山岳と同様に中立地点への打診はされているはず。まぁその中でも、俺ら灰の群集寄りな雰囲気はあるけども……それでも、明確にどこかの群集に下に着いている訳じゃない。
だからこそ、この名前はいいのかも? そのまま日本語で『金属の群集』にするとややこしいんだろうけど、こうしまえば区別も出来る!
「はい! 『メタル・クラウド』はいいと思います!」
「シンプルに英語だけど、同じくかな!」
「分かりやすくていいよね!」
「特徴自体は、しっかり捉えられてるしな」
「そうだよなー」
みんなの反応も悪くないし、決して呼びにくい名前でもない。ゾンビが元になっている個体は金属部分は身体の一部、スケルトンが元になっている個体は全身が金属という違いはあるけども……金属の身体を持つ、1つの集団であるのは間違いない。よし、これで行こう!
「モンド、お前達の集団としての名前は『メタル・クラウド』だ!」
『【メタル・クラウド】……それが私達の名か! 皆の者、私達の名は【メタル・クラウド】! これからは、その名を胸に刻んで行け!』
『オォォォオオ!』
『ははっ! 俺らの名前が決まったか!』
『【メタル・クラウド】……俺たちの、存在を示す名だ!』
<特定の集会所に、名付けが行われました>
<『黒の異形種の集会所』を改め『【メタル・クラウド】の集会所』へと名称が変更になりました>
あ、こういう変更のアナウンスが出るんだね。そういや、『百鬼夜行』の名付けの時にもエリア名が変更になったって言ってたし、該当する集会所にいる人にだけ出るアナウンスなのかもなー。
「さて、名付けも終わりましたし……先に進めましょうか。モンド、探知の実施をお願いします」
『あぁ、任された! では、始めるぞ!』
「頼んだ!」
さーて、モンドが金属の竜の手を瘴気の塊に押し当て……その直後、バッと全方位に薄い瘴気が一気に広がっていった。今、思いっきり俺らも通り抜けたけど……影響は出てなさそうだな?
『……っ! 見つけたぞ! 反応は……1……2……2つだ!』
「おし、ナイス!」
「……フィールドボスは2体で確定ですか? 3体目は、いないのでしょうか?」
『反応があったのは、間違いなく2体だ。それ以上は、存在を感じられん』
「そうですか……。ケイさん、ルアーさん、どう考えます?」
「元々、2体しかいないか……もしくは、1体は既に倒されているか……だろうな」
「俺もルアーの意見に賛成だけど……倒されてるのが不動種だと、痛いかも?」
「確かに、それはそうですね。ぶつける相手がいなくなると、敵同士の潰し合いが狙いにくくなりますし……」
うーん、元々何体のフィールドボスが存在するのか、確定情報はないからなー。でも、これまでの傾向を考えると――
「……この原野に水場がないわけではないが、大規模なものはなかったな」
「……水場の……主は……存在しない?」
「順当に考えれば、そんなところでしょうね。それで考えるのなら、大地の主と、空の主でしょうか?」
「大地の主が不動種だと仮定して……空は予想が難しいな!?」
それぞれのフィールドボスの支配領域が違うというのが、これまで見てきた天然のフィールドボスの大きな特徴だ。だから、この原野だと2種類しかいないという可能性は十分過ぎるほどあり得る。
「ちなみに、その2体の現在地は分かりますか?」
『正確な位置までは掴めないが、大雑把な方角くらいならな。だが……今のに過激に反応する気配はないな? これは、捕らえられているのかもしれん』
「……なるほど。だから、目撃情報が出てこないのですね」
ふむふむ、既に捕らえられて身動きが取れない可能性ありか。とはいえ、片方は不動種って予測だから……シンプルに反応しても動いてこれないだけって可能性もあるんだよなー。
「ジェイさん、どうする? ざっくりとでも方角が分かるのなら、その方向の落下物を取りに行くのもありだと思うが?」
「……そうですね。ここはルアーさんのその案で行きましょうか。青の群集でここを守りますので、赤の群集と灰の群集で、1ヶ所ずつ担当をお願い出来ますか?」
「よし、それは任せとけ! ルアー、いいよな?」
「あぁ、問題ねぇ。片方は俺ら、『リバイバル』で引き受けよう。もう片方は、ケイさん達に任せるぜ」
おっし、これで役割分担は完了! みんなも頷いているから、この方針で特に異存はないっぽいしね。
「それでは、瘴気珠から本格的な瘴気の抽出を始めていきますので……それが終わるまでを目安に戻ってきて下さい。もし、捕らえられていないフィールドボスを見つけた場合は、そのまま報告を上げるだけで撤退して構いません」
「ほいよっと!」
「了解だ!」
最終的にはこの場に呼び寄せるんだから、無理をしてまで探り当てる必要はない。とはいえ、突発的にフィールドボス戦がどこかで始まるのも避けておきたいからね。
フィールドボスが捕まっている可能性が高い落下物は確保しておきたいし、もし捕まっていない不動種がいるのなら、その実物は確認したいしなー。だから、この方針に文句はなし!
「モンド、反応のあった方角を教えて下さい」
『ここから、北へそれなりに離れた場所に1つ、西にも同様の距離で1つだな。……私達も同行した方がいいか?』
「いえ、あなた達『メタル・クラウド』には過剰に反応する可能性があるので、不測の事態を避ける為にもこの場に留まって下さい。ルアーさん達は北へ、ケイさん達は西へ、よろしくお願いします」
「おし、了解だ! 行くぞ、『リバイバル』!」
「「「「「おう!」」」」」
「おっし、俺らも行きますか!」
「「「「おー!」」」」
さーて、抽出にかかる時間は……おそらく山岳エリアと同じで1時間! 戻ってくるまでの往復時間を考えると……使えるのは30分程度か。転移の種で原野まで来たから、再度の転移は……あー、転移の実で新たに登録すれば問題ないか。よし、その方向でやっていこう!