第1629話 この地のフィールドボス
俺らが最初に対話した骨の竜の黒の異形種……今は金属で身体が構築された竜で、名前は『モンド』となっていた。これまでの対話の内容で、こうも対応が変化するとはね!
「おっし! モンド、他の連中を安定化させていくぞ!」
『あぁ! すぐにでも――』
「いえ、それは他の方に任せます。ケイさん達とモンドは、私に着いてきて下さい」
「ん? え、俺らはそっちはノータッチ?」
『あぁ、そうか。そういえば、この地の案内がまだだったな!』
「えぇ、優先順位の話ですからね。ケイさん達はここで戦うのですから、戦場の確認をやっていただきます」
「あー、なるほど」
刻浄石を使う予定にしてるとはいえ、戦場の確認は大事だよなー。山岳にあった集会所とここが全く同じ構造をしてるはずはないし……。まぁそれでも、似通った部分はあるんだろうけどさ。
「ジェイさん、ここで戦場になりそうな場所は? あと、フィールドボスの正体は掴めてる?」
「その辺も含めて説明をしますので、とりあえずは移動ですね。モンド、先導をお願いします」
『あぁ、任せておけ!』
力強い声が返ってきてますなー。まぁこの辺は通路っぽいから、それほど広くはないし、戦場にはならなさそう?
この洞窟の奥にどういう場所はあるのか、その把握は必須ですなー。
「はいはーい! ジェイさん、質問いい?」
「なんでしょうか、リコリスさん?」
「刻浄石を使う上に、各群集の人がいるなら……もっと気楽でよくない? 確定で戦闘を回避出来るでしょ?」
「……それはあくまで、可能性が高いというだけですよ。半覚醒はあくまで、意識が戻るだけです。そして、それは絶対的なものではないですからね」
「ありゃ? それ、どういう意味?」
「半覚醒であっても、それに対応する群集の人がいたとしても……戦闘の可能性は排除出来ないという意味ですよ。半覚醒は不安定な状態ですしね。ケイさん達は心当たりがあるのではありませんか?」
「あー、途中で意識が飛ぶなんて事もあったっけ」
「そうなの!?」
半覚醒だからといって、そのまますぐ思い通りに動いてくれる訳じゃないもんなー。その辺は競争クエストや共闘イベントで出てきてた時に、実感した部分だしね。
リコリスさんがその辺を知らないのは……大々的に表立って動いてなかったからか。まぁ最近まで無所属で動いてたんだし、そういう事もあるよなー。
「そういえば、そんな事もあったな。共闘イベントで支配されてた敵で顕著に現れてたが……ジェイさん、どういう警戒をしている? あれは、支配されてたからこそだろう?」
「アルマースさん、私が警戒しているのはまさに支配されている事、そのものです。既に乱入勢の手に落ちて、乗っ取られている可能性は考えておくべきでしょう?」
「……なるほど、確かにそれは無視出来ないか」
「ちょ!? え、そういう可能性ってあんの!?」
「考えてみてください。エリアの占拠に必要なのは、ここの瘴気の塊を抑える事であって……フィールドボスを倒す事ではないんですよ?」
「っ!? 先に、フィールドボスを押さえておくって作戦か!?」
くっ! その可能性、考えてなかった! 黒の統率種なら黒の瘴気強化種を従えられるんだから、黒の暴走種を乗っ取るなんて真似が出来てもおかしくはない!
それこそ、黒の瘴気強化種のフィールドボスなら任意で生み出せるんだから、フィールドボスでフィールドボスを乗っ取るなんて真似だって……ヤバい!? これ、乱入勢の戦力を見誤ってる可能性がある!?
「まぁ必ずしも、そうなっているとは限りませんけどね。可能なのかどうかすら分かりませんが……乱入勢に参謀が付いた可能性があるのなら、警戒し過ぎて足りないという事もないでしょう」
「ですよねー」
楽観視して、敵の戦力を過小に見積もる過ぎると危険なのは間違いない。過大評価で拍子抜けな結果で終わるならいいけど、過小評価で足を掬われたんじゃ笑い話にもならないっての!
「あー、それだと……俺ら、どう戦うんだ? 一旦、今の連結PTを解除して、3つの群集で組み直すのか?」
「最悪の場合、その紅焔さんの案になりますね。ただ、普通に山岳エリアと同じになるのであれば、今の連結PTで1PT毎に分かれて担当してもらいます」
「……それは、下手すると対人戦になるのかい?」
「プレイヤー自身で乗っ取れるとは思えないので、普通のモンスターと戦うつもりで問題ないと思いますが……ソラさんが避けたいと思う状態になれば、その時は離脱してもらっても構いません。その場合、外に待機しているメンバーへの伝達を頼めますか?」
「そうさせてもらうよ。離れる分だけ、役目はしっかり果たさせてもらうしさ」
「えぇ、それでよろしくお願いします」
フィールドボスそのものを抑えるのは、プレイヤー自身では無理ってのがジェイさんの見解か。俺もフィールドボスを抑えるには、同等の戦力が必須だとは思ってるけど……この辺、ちゃんと共通認識を作っておくべきだな。
「ジェイさん、乱入勢が黒の瘴気強化種のフィールドボスを従えてる可能性を考えてる?」
「えぇ、それが一番の懸念点です。あれは任意で生み出せますし、乱入勢の手に海岸エリアの天然のフィールドボスがいるのは、ほぼ確定事項ですからね。その力の元で、瘴気強化種のフィールドボスを生み出し、従えている可能性は考えておくべきでしょう。そして、瘴気の転移門で送り出せる可能性もです」
「……ですよねー」
フィールドボスのエリア間の移動は、基本的に出来ないはず。気軽に他のエリアと行き来するようなのが、フィールドボスって名乗られてたまるか! だから、通常では移動は考慮しなくていい。
だけど、今回は『瘴気の転移門』という俺らには仕様がよく分かっていない転移手段が存在するからなー。俺が乱入勢の立場にいたならば、今考えている事を試そうとする。大幅な戦力の増強に繋がる可能性だから、思いついたなら、ほぼ確実に実行に移す。成功するかどうかは置いといて……だけど。
「その辺りの情報は、ベスタさん達の探りに期待したいのですけど……何か、報告は出ていませんか?」
「あー、今のところ、何もなし。十六夜さん、共同体のチャットの方は?」
「……こちらも、まだ何も出ていないな。死亡報告がある程度で、有力な情報はまだ掴めていないようだ」
「……そうですか。まぁそれは仕方ありませんね」
ベスタは何も喋ってない状態だし、下手に俺らから声をかけて邪魔する訳にもいかないからなー。何か分かるまで、任せておくしか――
『着いたぞ。ここが、戦場になり得る場所だ』
「へ? え、広!?」
待て待て待て!? だだっ広い空間に出たけど、ただそれだけじゃん!? 特徴らしい特徴が全然見当たらないんだけど!?
あー、でも俺らの少し先にあるのが、ここの瘴気の塊か。……ポツーンと置いてあるだけなんだね。いや、黒の異形種達は大量にいるけどさ! あー、奥には赤の群集の面々もいるのか。
「ここが、そうなのかな?」
「はい! 他の場所へ繋がる通路はどこにありますか!?」
『いや、そんなものはないぞ? ここの洞窟は、この広い空間のみだ』
「え、そうなの? 山岳みたいに何ヶ所かあると思ったんだけど……」
「どうも、様子が全然違うみたいだな?」
「そうっぽいなー」
ただひたすらに広いだけって……でも、それほど上への高さはない? 少なくとも、空中戦を自由自在に出来る場所ではないんだよな。
「さて、この場所から考えられるフィールドボスの正体について、何かご意見をいただけませんか?」
「いやいや、条件が違い過ぎるよな!? 意見も何も、ただ広いだけじゃ……」
いや待て? ただ広いだけであっても、ここは暗い洞窟の中だ。それで有利になる点は……ない訳じゃない。
「……ここのフィールドボス、もしかして不動種か!?」
「おそらく、1体はその可能性は高いかと思います。やはり、ケイさんもその結論を出すのですね?」
「そりゃまぁ、太陽光も水もないんだから……回復用のスキルを潰せるのは、そういう種族になるだろ」
「まぁそうでしょうね。それで、不動種に限定した理由は何になります?」
「広さが関係ないから。……下手すると、動き回る何か別のフィールドボスをぶつけるなんてパターンもあるんじゃね?」
それこそ、動き回るフィールドボス……突撃系をメインに持つフィールドボスを誘導して、敵同士で戦わせるなんて事も出来るかも?
「なるほど、そういう考え方もありましたか。フィールドボスが1体ではないのは割とある話ですし、考慮に値する内容ですね」
「敵を利用しての攻略法、今までもあったしなー」
ミズキの森林での巨大ザリガニとか、ミズウメだった時のミズキにぶつけようとかした事もあるんだしね。あの時は妨害されて、結局失敗に終わったけど……。
「飛行系の種族を抑える可能性も考えていたのですが……その辺はどう思います?」
「んー、可能性はあると思うけど……さっきの動き回る敵の方が有力な気はする」
「……まぁそれは確かに、そうですね。飛行種族ですと、動きが制限され過ぎて、逆にぶつけにくくなりそうですし……」
なんだか、運営が用意している謎を解いてるような気分だな、これ!? でも、確定にするには情報がまだ足りなさ過ぎる!
「はい! そもそも、ここは何体のフィールドボスがいますか!?」
「見ての通り、戦場になり得る場所が1ヶ所しかないですから……数が絞れていないんですよ。1体も、発見情報を得られていませんし……」
「あぅ!? それは、厳しいのです……」
うーん、この原野でのフィールドボスの目撃情報はなしか。俺らだって、ここで探索してた時に見かけたりはしてないしな……。
「この原野での不動種なら、バオバブの木辺りが怪しそうかな?」
「確かに怪しそうだけど、あちこちに生えてたよね?」
「流石に、ここのエリアを完全踏破していくのは、時間がかかり過ぎるのさー!?」
サヤの言う通り、怪しい種類の目星は付く。だけど、ハーレさんの言う事も一理ある。人手が足りているなら総当たりで調べる事も出来るけど……乱入勢を警戒して、あちこちのエリアに戦力が分散している現状では、無理があり過ぎる。
「あー、不動種だから、黒の異形種達に反応するかも分からないのか!?」
「えぇ、そこも問題でしてね。実際、何体かの黒の異形種達を引き連れて外に出てみたのですが……残念ながら、成果は得られていないのが現状です」
「もう試してたかー」
逆に考えれば、そこまで遠出はしてないだろうから、この近くにフィールドボスがいないのは確定だと考えてもいいのか? いや、UFOに捕まっていれば、そもそも反応のしようもないんだよな。うーん、そうなると……。
「……現状、手詰まりだったり?」
「まぁ簡単に言えば、そうなります。UFOの落下物に捕獲される事も考えれば、闇雲な捜索は危険なだけかと思いまして……」
「だよなー」
やっぱり、今の推測以上の情報を得る手段がないんだな。あー、UFOからの捕獲の要素が厄介過ぎる! ん……? ちょい待った。
「モンド! 少し確認したい事があるんだけど、いいか?」
『私に分かる事であれば、なんでも答えようではないか!』
「ケイさん、何を確認する気ですか?」
「いやまぁ、ちょっとした思いつき?」
「……またそれですか。まぁそれを期待していたんですけどね」
呆れたような様子で、期待してたとか言われても困るんだけど!? いやまぁ、単なる思いつきだから、実際どうなのかは聞いてみないと分からないんだけど……。
『それで、何を聞きたいのだ?』
「あー、フィールドボス……この地の主達を捕らえる手段が、呼び寄せる手段と同じような手段って聞いたんだけど……それは間違いない?」
『あぁ、間違いない。私達は自分で使った事はないが、原理自体は分かっているからな』
「なら……ダメ元で聞くんだけど、呼び寄せる対象がいるかどうかの確認だけでも出来ない? ここの洞窟にある瘴気の塊を使ってさ」
「っ!? 繋がりを利用して、探知をしろという事ですか!?」
「いやー、フィールドボスがここの大地の脈動と繋がってるなら、そういう探り方も出来るのかなーと?」
天然のフィールドボスが大地の脈動と繋がっているからこそ、近場の群集支援種の影響力が届かず、命名クエストが発生しないという理屈だったはず。
その繋がりを利用して洞窟内へと強引に呼び寄せるんだから……呼び寄せる手前までで止めれば、存在の感知は出来そうな気がするんだよな。
『それ自体が可能だと思うが……間違いなく、主を刺激するぞ?』
「それで姿が見えるなら、上等じゃん! な、ジェイさん!」
「目に見えて動きが出れば、正体は確定。存在そのものを探知出来ても、動きがなければ捕獲済み。拾える反応の数で、総数は確定……まだ使えない段階のものを、先んじて使おうとは、無茶な発想をしますね! モンド、それの実行にはどれほどの瘴気を消費しますか?」
『存在を探り当てるだけなら、それほど消費はしない。……そうだな。あの弱い【瘴気珠】で換算して、10個ほどあればいけるだろう』
「瘴気珠10個で、探知が可能ですか。まさか、既に手元に手段があるとは思いませんでしたよ!」
「あー、ジェイ? とりあえず、落ち着け?」
「落ち着いていますよ、斬雨! モンド、少し下準備をしますので、それが終われば逆探知をお願いします! それで、フィールドボスの数を確定させますので!」
『任せておけ!』
ふー、思いつきだったけど、まさか本当に逆探索が可能だったとはねー。まぁ仮にフィールドボスを刺激する事になっても、外の谷には蓋がされているし、そう簡単に破られはしないだろ。
さーて、モンドが瘴気の塊を扱いに行ったけど、どうなるやら? これで具体的な位置も分かればいいんだけど、試したい事がある内容じゃなさそうだし、そこまで都合よく分かるとは限らないんだよなー。




