第1627話 それぞれの経過
ベスタと『縁の下の力持ち』のメンバーが、スケの提案から、無茶な作戦を実行する事になった!? いや、でも乱入勢の情報を得るには、これくらいの無茶は必要なのか?
「……よし、通達は終わった。かなりの人数が、参加してくるはずだ」
「了解だ。十六夜は、ここでケイ達に情報を伝えておいてくれ。アルマース、ケイがまだ連結PTに入っていない。出発する前に、入れておいてくれ」
「あぁ、そういやそうだったか。ほれ、ケイ!」
「あー、入ってないままだったっけ!?」
色々な事があり過ぎて、すっかりPTに入ってなかったのを忘れ切ってたよ! とりあえず、アルからのPT申請を承諾しよう!
<ケイ様がPTに加入しました>
よし、これで連結PTに入ったな! えーと、ベスタは……俺と同じ、グリーズ・リベルテのPTに入ってる状態か。曼珠沙華、十六夜さん、桜花さん、風音さんで1PTなのは変わらず。飛翔連隊のPTに1枠空きがある状態か。
まぁ今のレナさんは、『グレイ・コンテスタント』の結成をしたんだから、俺らの連結PTの中には入ってませんよねー!
「よし、準備は出来たな? ケイ、紅焔達が現地に着くまではここを任せるぞ」
「……え、俺がやるの?」
「特にこれといって、問題が起きている風ではないしな。レナもいるし、灰のサファリ同盟も動き出しているから、もう大丈夫だろう」
「あー……」
『グレイ・コンテスタント』への受け入れは……説明会と面接を兼ねた状況でやってるようだけど、灰のサファリ同盟の誘導には素直に従ってるもんな。ちょいちょい、ギンからの注意は飛んでるけど、まぁそこで特に揉めてる様子もなく順調っぽい。
軽く見た感じでは、ギンが懸念してたeスポーツをしてる方が偉いと言ってくるような人が来ている様子はなさそうだよね。注意がちょいちょいあるといっても、モンエボに不慣れなのが原因っぽいしなー。主に、種族のサイズ差で視界を塞ぐ的な問題だし。
「まぁ確かに、これなら問題はなさそうだけど……これから問題が起こる可能性もあるんじゃね?」
「ここまで流れが出来た後なら、起きたとしても問題ないだろう。既に集まってる奴らが、大人しくはしてないぞ?」
「あー、そりゃそうか」
おそらく、今ここに集まっている人達は、eスポーツ勢でも、それを偉ぶる材料にはしていない人達だ。そこにトラブルの元になりそうな人が来れば、排斥に動いて、自浄作用が働く状況になってるか!
「ベスタ……これ、思った以上に青の群集の方に問題がありそうな人が偏ってるんじゃ?」
「おそらく、そうだろうな。灰の群集の『グレイ・コンテスタント』と、赤の群集の『レッド・コンテスタント』では、加入時に審査を行うという通知はしているからな。上から見ている奴らは、それだけで気に入らんのだろう」
「その言葉自体が、もう選別になってる訳か!」
「シンプルだけども、実に合理的な手段と言えるだろう! 自身が選ぶ側だと自負している者が、選ばれる側だと貶められるのは我慢がならないだろうからね!」
「貶められるって、嫌な言い方をするな!?」
スケのその表現、面接をしてる側が悪みたいじゃん! 面倒ごとを起こしそうな人が混ざっているのなら、最低限でも必要な措置のはずなんだけど!?
「おや? 彼らの無価値なプライドからすれば、そう間違ってはいないと思うけども?」
「……いや、まぁ確かにそうかもしれないけどさ」
てか、地味にスケは口が悪いな!? でも、この変人に『無価値なプライド』と評されるって事は……同じeスポーツ勢の中でも、忌み嫌われてるのかもね、偉ぶってる連中って。
「ケイ、ここは任せたぞ。俺はもう行くからな」
「ほいよっと。……ベスタ、無茶し過ぎるなよ?」
「ふん、この程度は無茶とは言わん。だがまぁ、どこまで突破出来るかが問題だな。可能なら、瘴気の塊を視認したいとこだが……まぁそれは突入してから考えるか」
いや、それって相手側の中核の部分じゃね? 確かにそこまで入れれば、得られる情報としては大きいけども……流石に厳しい気がするなー。
◇ ◇ ◇
ベスタが海岸エリアへの突入をする為に離れた後、特に問題なく、共同体『グレイ・コンテスタント』への加入の案内は進んでいく。俺らは、ただ雑談をしながら、その様子を見守っている。
今は桜の並木の外れに集まって、共同体の概要を説明をしながら、グループ分けをしている最中ですなー。ザッと見た限り、30人を軽く超えてるから……これ、連盟が必須っぽいね。どう考えても、上限人数は超えそうだし!
今してるグループ分けは、とりあえず進化階位の差で分けているっぽい。幼生体のスケ、成長体のギン、未成体のアイルさん、成熟体のレナさんと見事に結成メンバーも分かれているのは……まぁ単なる偶然か。いやまぁ、連盟の本体となる共同体のメンバーなんだから、あんまり関係ないけどさ!
「こう見てると、案外、幼生体の人が多いかな!」
「始めたばっかの人、結構いるんだね?」
「多分、噂だけ聞いて、動くのは待ってた人達なのさー!」
「ハーレさんの読みが正解だろうな。レナさんが作ったサイトを筆頭に、群集で受け皿を用意しているのは、外部でも噂が流れていたからな」
「え、アル、それってマジで?」
「そんなとこで嘘を吐いてどうする……。あちこちの外部サイトで、モンエボがeスポーツの特訓に最適だってまとめ記事が上がってるんだ。その流れの一部で、『ナチュラルポート』の管理人が受け皿を用意しているって話が盛大に流れていたからな」
「あー、なるほど! そういう流れか!」
レナさんが管理人をしているという、オフライン版の有名ファンサイトの『ナチュラルポート』。あれは、あくまでオフライン版のモンエボをプレイする人の中での有名どころという限定的な範囲ではある。
でも、当たり前な話だけど、そういう記事を見る人の中にはeスポーツ勢だけでなく、オフライン版のモンエボのプレイ経験がある人もいる訳で……そういう人から、とんでもない人が受け皿を用意しているという情報は伝わるよねー。
「……要は、レナさん狙い?」
「あー!? それ、なんか納得いかないんだけど!?」
「ここでリコリスの納得は必要ないがな? だが、随分と大人しいのには、それなりに理由があった訳か」
「ぶー! そりゃまぁ、トラブルが起きない方がいいけどさー! 『ナチュラルポート』の影響力ってのが、なんか納得いかない!」
「……ライブラリの作ったサイトの影響よりは、遥かにいいよ?」
「あれの影響度を打ち消す為の、手段でもあるだろうしな」
「そりゃ、そうなんだけどさー!」
なんだかリコリスさんは不満みたいだけど……まぁこれまで、レナさんが『ナチュラルポート』の影響力を利用してこなかったのに、今回の事態の対抗策として使わざるを得なくなってる状況が気に入らないんだろうね。
てか、募集し始めてそれほど長時間が経ってる訳じゃないのに、流石に集まり過ぎじゃね? これ、何人いるんだ? 軽く50人くらいはいそうなんだけど……まだ加入段階にはなってないとはいえ、いきなり結構な規模になるな!?
「なぁ、ケイ? これらが育つと、結構な脅威じゃねぇか?」
「……アルもそう思うか。それ、俺も思ってたとこ。まぁ実際の実力が、どの程度のものかは分からないけど……」
「実力は、ピンキリか?」
「多分なー。少なくとも、ギンとスケは上位なのは間違いない。アイルさんも、そこそこ上な方のはず? それ以外の人は、サッパリだな!」
「ま、そりゃそうか。その辺の見極めは、これからってとこか」
「だろうなー」
全員が同じ水準の実力者という事は、まずあり得ない。だけど、この中にギンやスケみたいに飛び抜けて強い人がいる可能性も十分ある。
場合によっては、eスポーツの競技対象のゲームでの戦績はパッとしてなくても、モンエボで化ける人も出たりするんじゃね? 根本的に、特訓を目的として来ているんだし――
「さて、グループ分けは完了したね! ここまでの様子を見た限り、特に問題がありそうではないから、ここに集まってくれた全員、加入を承認するね!」
「おし! 審査、突破か!」
「相当な実力者なんだろ、あのレナってリスの人!」
「eスポーツをしてる人ではないらしいけど、かなり有名人っぽいしな」
「その人はいいんだけど……他の奴らは、誰だ?」
「……あの変なネズミは、心当たりがあるぞ」
「あー、それは俺も心当たりはあるわ。てか、あの変人がいるのか、ここ……」
「あの変人ネズミに怒ってるカンガルーの人は、間違いなく身近な人間だな。まさか、ここで会うとはな」
「えっ!? えっ!? それ、何の話ですか!?」
「まぁまぁ、素性の詮索はやめようよ? 確かに、何人か聞き覚えのある声はいるけどさ?」
「……それもそうだな。この中にいる時は、味方といこうか。普通にゲームを楽しんでる人達に迷惑はかけたくないしな」
「そうそう、それでいこう!」
あー、一部の人達の話し声が聞こえたけど……これ、スケとギンの正体がバレてるっぽいね。いや、ギンの方は微妙か? 同じ部の誰かくらいまでは絞れてるだろうけど、そこから先までは……あー、場合によっては声で分かるかも?
リアルとフルダイブでは、実際の声と自分の声だと思ってる声で違いが出るけど……大会で対戦してる間柄なら、フルダイブでの音声はお互いに聞いた事がありそうだしなー。
てか、何気に全国大会へ出場するレベルの人、何人か混じってません? スケとギンの正体に心当たりがあるって事は、そういう場面で会った事がある可能性は高いよな!?
いやまぁ、ただ単に観戦で知ってるだけって可能性もあるけど……スケへの変人認定を考えると、その可能性は低そうなのがなー。うん、まぁ変に荒らすような真似はしなさそうな人達だし、気にしないでおこう!
「それじゃ、進化階位の高いグループの方から順にわたしへ加入申請をしていってねー! ちょっと人数が想定よりもかなり多いから、連盟って機能を使って枠を増やすからね! その辺、ご協力ください!」
「あー、まぁこの人数じゃ、そりゃ連盟になるわな」
「元からモンエボをやってた俺らの方が、その誘導はやりやすいか」
「まさか、灰のサファリ同盟から移籍する日が来るとはねー。これはちょっと予想外?」
「まぁそういうのもありでしょ!」
あ、何気に灰のサファリ同盟からの移籍なんて人もいるのか。……そういや、抜けた群集への再加入には制限があったけど、共同体はどうなんだろ? 移籍ならすぐにやりたいだろうし、それほど厳しくはないのかも――
「おっし! 飛翔連隊、現地に到着だ! ケイさん、聞こえてるよな!」
「おー、聞こえてるぞ! 紅焔さん、道中は大丈夫だった?」
「今のタイミングでUFOが降りてくるのは、惜しいもんだったぜ! 流石に急いでたから、スルーするしかなくてよ?」
「まぁそういう事もあるんだろうけど……どっちかというと、乱入勢の瘴気の転移門とかの状況が聞きたいんだけど?」
「おう、それは何個か見たぜ! だがまぁ、敵が転移してくる様子は見えなかったな!」
「この原野には、進出している様子はなかったよ」
「そうそう! 黒の統率種も、それに率いられてる個体も、『魑魅魍魎』とかいう黒の異形種の集団の気配もまるでなし!」
「原野は、標的にされていない可能性が高そうですね」
「まぁ大々的に、あのドームが展開されていれば……わざわざ狙おうとも思わないだろうがな」
「わっはっは! まぁそりゃそうだろうな!」
「ですよねー!」
他にも場所はあるだろうし、青の群集が防衛用のドームを展開しているなんて場所に、わざわざ狙いを定める理由はないよなー。俺なら、あれがある場所は絶対に狙わん!
でも、そうなると……他のエリアが狙われてる可能性があるんだよなー。それに関する情報は、未だ得られずか。
「ケイ、俺と『縁の下の力持ち』の準備は完了だ。これから突入するが……飛翔連隊が到着したなら、そっちも転移を始めてくれ」
「それはいいけど……ベスタの方の情報確認は、どうすりゃいい?」
「まだ瘴気珠からの瘴気の抽出自体が始まっていないから、時間的な猶予はあるはずだ。フィールドボス戦が始まるまでに、こちらはある程度の情報を得るつもりではいる」
「あー、流れとしてはそうなるのか。それじゃ、待機中に確認しとけばいけそうだな」
「あぁ、それで問題ないはずだ。そこからどうなるかは……成り行き次第だがな」
「まぁそうなるよなー」
乱入勢の動きがサッパリ分からないからこそ、ベスタ達がこれから無茶な突入作戦をする訳で……って、ちょい待った!
「ベスタ、ちょい確認! 他の群集の人に、これからの突入作戦の事は伝えてもいいのか!?」
「あぁ、別に構わんぞ。今は共闘中だし、その上で最重要な情報になるからな。だが、他の群集の連中を送り込むような真似だけは止めてくれ」
「……了解っと」
まぁ共闘している以上、隠し立てするような情報じゃないか。だけど、他に人が増えると予想以上の混乱を招く可能性があるから、それは避けたいんだろうね。これは、俺がしっかり伝えるべき内容だな!
「おし! それじゃ、俺らも動き始めるか! レナさん、原野に行ってくるわ!」
「およ? そっか、もうそんなタイミングなんだね! そっちは任せたよ!」
「ほいよっと! みんな、出発するぞ!」
「「「「おー!」」」」
「曼珠沙華も、出発だー!」
「……頑張る!」
「さて、フィールドボスは何が出てくるのやら?」
「……既に、個体の情報があればいいんだがな」
「……桜花……これで最後?」
「今、集められた分はな! 届けるのは頼んだぜ、風音さん!」
「……うん!」
さて、移動準備は出来ているようだし、すぐに転移を始めていこうか! 現地に着いたら、原野の最新情報を仕入れないとなー。




