第1625話 現在の戦況
灰の群集でのeスポーツ勢の受け皿となる共同体『グレイ・コンテスタント』が結成され、メンバー加入の流れへとなってきた。
思った以上に新規プレイヤーが多いようで、灰のサファリ同盟での初心者講座も同時に行うみたいだけど……この段階で素直に言う事を聞かないのは、その時点で加入拒否なんだろうねー。まぁ群集としても、色々と手間はかけてるんだから、その辺を考慮せずに好き勝手に言うだけの奴を受け入れる必要もないけども!
まぁその辺の対処はレナさんとギンと、灰のサファリ同盟に任せるとして……そろそろ、次の段階に動き出せるはず!
「さて、後はレナやラック達に任せておけばいいだろう。俺らは様子を伺いながらにはなるが……次の動きについて、話していくぞ」
「ほいよっと! ベスタ、もうどう動くかは決まってる?」
「一応、狙い自体はな。まぁ乱入勢の動き次第では、変更の可能性もあるが……次は、原野エリアの防衛に向かう」
「おー、原野か! ……なんであそこ?」
「理由は単純だ。既にケイ達が接触していて、好意的な反応を示しているからな。確実性の高い場所から、順に進めていくだけだ」
「なるほど、そりゃ確かに……」
知りもしない場所に行くよりも、既に知っている場所の方が進めやすいのは間違いないよなー! でも、これからすぐに動き出せるのか? てか、そもそもそこを狙う予定があったなら、のんびりここで受け皿の共同体の結成を見てる場合!?
「はい! もしかして、もう既に現地入りしてる人達がいますか!?」
「あぁ、既に青の群集が防衛用のドームを展開している。赤の群集も合流している状態だから、それほど手間はかからん」
「おぉ!? 思った以上に、状況が進んでたのさー!?」
ふむふむ、まぁ次は青の群集の出番なんて事をジェイさんが言ってたし、そういう動きが出ている事自体は納得。納得ではあるんだけど……。
「赤の群集、もう動ける状態なんだ? 他の場所、防衛に向かってなかったっけ?」
「それは、赤のサファリ同盟が対処中だ。攻略ギミックを使わず、直接フィールドボスを潰しに動いているそうで、少し時間がかかっているようだな」
「はい!? え、真っ向から潰しに行く意味ってある!?」
「単に赤のサファリ同盟だけでは、ギミックを使う為のアイテムが揃えられてないそうでな。リバイバルが掻き集めてはいるが、それは原野の方に回している」
「あー、人数的な問題か……」
「簡単に言えば、そういう事だ。まぁ細かくは聞けていないが、他にも理由はあるようだが……」
「……なるほど」
赤のサファリ同盟がとんでもなく強いとはいえ、人数としては灰のサファリ同盟や青のサファリ同盟に比べると大きく劣る。個数を集める必要がある場合だと、突出した戦力だけでは埋められない要素か。
それに同時に2ヶ所を押さえようとしてるからこそ、そういう事態に陥ってるのかも? 流石にどこの群集も、同時に何エリアも対応するのは難しいもんな。
「はいはーい! 肝心の乱入勢が狙ってる場所は、分かってたりしない?」
「リコリスがそれを気にするのは分かるが……現状では、それは不明だ。その辺は、オオカミ組の調査待ちだな」
「ありゃ? まだ狙いが不明なんだ?」
「……占拠された、海岸への強襲はどうなったの?」
「あ、それもあったね! ベスタさん、あれはどういう結果になったの!?」
「……その件なら、返り討ちになっている」
「えぇ!? 返り討ち!?」
「ちょ!? え、マジで!?」
オオカミ組とモンスターズ・サバイバルの共同作戦だったよな、それ!? どっちも実力派の共同体なのに、それが返り討ち!?
「乱入勢は、思った以上に厄介な状態になっているようでな? とはいえ、少なからず情報は得られているから、それを伝えておこう」
「……ほいよっと」
「まず、最初に伝えておくが……昼間にケイが従えていた『百鬼夜行』と同類のものが確認されている。名は『魑魅魍魎』だ」
「……やっぱり、そういう戦力が出てくるのか」
『百鬼夜行』を率いていた時は黒の統率種みたいな感じだと思っていたけど、そういう手段が使えるのは……向こうも同じだったとはね。まぁ予想は出来てた範囲だけど、まさか『魑魅魍魎』なんて集団名が既に付いているとは……。
「この黒の異形種の集団、『魑魅魍魎』はゾンビやスケルトンの状態なのは確認済みだ。だが、肝心の率いているプレイヤーが誰なのかが断定出来ていない状態だ。そもそも、同伴しているプレイヤーの姿が見えなかったそうでな?」
「……それ、黒の統率種が率いてるとかだったりはしない?」
「可能性はあるが、黒の異形種の『侵食』の効果が絶大だったそうでな。あっという間に壊滅して、真っ向から攻め入るのは失敗に終わったらしい」
「それ、キッツいなー!?」
俺も少しの間とはいえ『百鬼夜行』を率いていたから分かるけど……黒の異形種達の攻撃手段で、一番凶悪なのはあの『侵食』なのは間違いない。防御が防御として意味を成さなくなるから、防ぐ手立てを用意しないと突破出来ないかも?
「……多くの……昇華魔法で……強行突破は……無理?」
「数の差で押そうという風音の案もありだが……現状で、無理に攻め入るのは得策ではないな。内情が分からなさ過ぎて、迂闊に手が出せん」
「……そうなの?」
「……内部がまとまっていないうちに、攻め込むというのもありだと思うが? 変に時間を与える方が、危険じゃないのか?」
「十六夜の心配も分かるんだがな。それを相手が待っていた場合、大惨事になりかねん。向こうは籠城だから、攻め込むこちらの方が戦力が多く必要になる。その分、他が手薄になり……」
「……どこかが奪われる可能性がある訳か?」
「あぁ、そういう事だ。乱入勢には『瘴気の転移門』があるからな」
「乱入勢の出方が分からないうちは、下手に攻め込む戦力を集められないって事か」
「そういう事だ、アルマース」
ふむふむ、まぁ籠城戦はどうしてもそうなるよなー。回復アイテムが尽きるまで攻め続ければ、兵糧攻めみたいな事は出来るだろうけど……それはあくまで、逃げ道がない場合の話。
『瘴気の転移門』という移動手段があるせいで、完全な籠城戦は成立し得ない。『魑魅魍魎』で足止めをしておいて、その間に他所の溜まり場を奪いに行って、そこで得た戦力を連れて戻るなんて事も……。
「あー、嫌な可能性を思いついたんだけど……乱入勢の率いている『魑魅魍魎』って、消滅する事ってあるの?」
「え? ケイ、それってどういう意味かな?」
「いや、ほら。黒の異形種達の復活用に、瘴気の塊に瘴気珠から瘴気を移したりしたじゃん? あれが尽きれば、復活出来なくなるとは言ってたけど……」
「っ!? 補充を、占拠した乱入勢が出来るのかな!?」
「そうそう、そういう事。瘴気珠か、黒の統率種になるほど染まった状態のを使うか、どっちかは分からないけどなー」
「ケイのその懸念も、攻め込めない一因だ。無尽蔵に復活するのなら……元を断たない限り、攻め切れん可能性が出てくる」
「それ、相当厄介かな!?」
うーん、乱入勢が占拠した海岸は思った以上に厄介な場所になってるっぽいな!? 今聞いた内容だけじゃ、どう考えても攻め落とせる気がしない!
元を断つとなれば、瘴気の塊を消し飛ばすしかないんだろうけど……それがあるのは、どう考えても敵陣地のど真ん中。そこまで攻め込むにも、黒の異形種達の『侵食』と復活が厄介過ぎる……!
「はいはーい! あの『瘴気の転移門』って、黒の異形種達が作ってるの?」
「あぁ、おそらくな」
「それなら、逆にそれを利用して中へ転移は出来ない? ほら、こっちにも『エメラルド』……じゃなかった! 『ラルド』がいるんだし、協力してもらう事は可能じゃない?」
「リコリス、それは有効だろうが……そういう事が可能な味方を増やす為に、先に他の黒の異形種を味方にしようという狙いなのではないか?」
「っ!? あ、そっか!?」
「ラジアータ、正解だ。同種の技術を使っている以上、お互いに弱点になり得るからこそ、味方を増やしていくべきだ」
「……敵の戦力増強も、防ぐ為だよね?」
「あぁ、当然だ。だから、まず原野の集会所を確実に取りに行く。それが済めば、その東にある赤のサファリ同盟が対処中のエリアもだ」
「おぉ!? 2ヶ所、連続なのさー!?」
「そっか、隣のエリアだって話だったっけ」
「そういえば、そうだったかな!」
そういや、そんな情報もあったな! なるほど、原野に必要なアイテムを集めて、それが余ったら隣へ持っていく算段なのかも? 変に離れた場所でやるより、その方が色々とやりやすいよな!
「という事で、ケイ達にはすぐにでも向かってもらいたいんだが……」
「ベスタ、ちょい待った! 俺ら、ここを離れてもいいのか……? 睨みを効かせる役目なんじゃ?」
「そこが悩みどころでな。あの原野への転移は可能になっているか?」
「あー、俺らグリーズ・リベルテや曼珠沙華、十六夜や風音さんは大丈夫だけど……飛翔連隊は無理かも?」
「俺ら、そっちの原野には行ってねぇからな! 登録なんざ、してねぇ!」
「偉そうに言う事ではないけど……まぁそれが実情だね」
紅焔さん達は、俺らが原野に行ってた時は完全に別行動だったもんな。俺らの方は、あの黒の異形種達と遭った洞窟へ入る前に転移の種の上書き登録は済ませてるけどさ。
「そもそも、俺らが行く必要ってあんのか? 赤の群集のリバイバルやら、青の群集のあのドームが向かってるんだろ?」
「それは逆だ、紅焔。あの原野を最優先しているから、それらが向かっているが……それしか行っていないのが現状だ。他の有力な戦力になり得る人員は、他の集会所へ向かっている」
「なっ!? え、戦力が集結してるって訳じゃねぇのかよ!?」
「集結させているのは、掻き集めたアイテムだけだ。他の集会所を、野放しにしておく訳にもいかん。……交渉段階で難航している場所もあるぞ。そもそも、eスポーツ勢への対応に人手も割く必要がある状況だから……冗談抜きで人手不足だ」
「……マジかよ。って事は、俺らは戦力として必要って話か?」
「あぁ、そうなる。それと、呼び寄せたフィールドボスの対処には『刻浄石』を使用する予定だ」
「っ!? そうなると、各群集のメンバーが必要って事か!」
「そういう事だ」
なるほど、そうきたか。俺らが昼間に『刻浄石』を使った成果は、ここで活きてくるんだな! まぁあの時は、赤の群集の個体だったからほぼ意味はなかったけど……だからこそ、全ての群集の人が必要になるんだね。
その中で、灰の群集の担当として俺らが選ばれてる訳か。まぁ1つ目の内容を直接見ているんだし、確実性を求めるのなら、選ばれる理由は分かるかも?
「色々と言ったが……ケイ達には、原野の洞窟へ向かってもらいたい。だが、この場にも多少はいてもらいたいから……紅焔、飛翔連隊が先行して、原野へ向かってくれるか?」
「おっ! 俺らが到着し次第、ケイさん達が転移してくるって手筈か!?」
「あぁ、そういう流れになる。構わんか?」
ふむふむ、まぁ色々と都合があるみたいだし、こういう流れになるのも不思議ではないか。今がアイテムを掻き集めてる最中なら、まだ瘴気珠から瘴気の抽出や、黒の異形種達の安定化の変質進化も進んでないだろうし――
「俺はそれでいいけど……みんなはどうよ!?」
「僕は構わないよ。共闘状態なら、他の群集の人との戦闘は無さそうだしね。黒の異形種が相手なら、まぁ戦えそうだしさ」
「ソラ、途中で黒の統率種が出てきた場合はどうするのさ?」
「……プレイヤーだと意識さえしなければ、多分大丈夫だね。対話は出来ないんだしさ」
「ソラが構わねぇなら、俺もそれで問題ねぇぜ」
「まぁソラがいいなら、僕も賛成で!」
「私も構いませんよ。いざとなれば、逃げても構いませんしね」
「おし! ベスタさん、その役目は『飛翔連隊』が請け負った! ケイさん達、後で合流な!」
「ほいよっと!」
「あぁ、任せたぞ」
よし、これでこれからの行動方針と役割分担は完了! 転移が出来ない飛翔連隊が現地に辿り着くまで、俺らはここで待機だな。
「それで、ケイ達はどうだ?」
「……へ? あ、そういや俺らも同意がいるのか!? みんな、どうする?」
「当然、行くに決まってるかな!」
「当たり前なのさー!」
「あはは、まぁここで行かないって選択肢はないよね」
「少し待つ必要はあるが、まぁそうなるな」
「ですよねー!」
サヤ達は迷う素振りもなく、あっさりと決定。これでグリーズ・リベルテと飛翔連隊の2つの共同体は確定で……。
「ふふーん! 当然、私たち曼珠沙華も行くのみ!」
「……最前線、多いね?」
「まぁそういう人達と共に行動していれば、当然の話だがな」
「……行ってくるね……桜花!」
「ん? おう、頑張ってこいよ、風音さん! 灰の群集で掻き集めてる分も、転移時に渡しとくからな!」
「……うん!」
「……こうも最前線ばかりに参加していると、他の連中からとやかく言われそうだが……まぁいい。俺も引き続き参加させてもらおう」
「ほいよっと! みんな、引き続きよろしくな!」
これで曼珠沙華、風音さん、十六夜さんの5人も一緒に行く事に決定! 桜花さんは灰の群集で集めた必要なアイテムを渡してくれそうだし、ちゃんと届けないとね。
十六夜さんは……共同体『縁の下の力持ち』のメンバーだけど、ソロの互助会だからなー。そこから1人だけ、こんな形で同行してると何か言われたりするっぽい? いやまぁ、一緒に動いてからかなりクエストを進めまくってるんだし、羨ましがられるとかがあっても不思議ではないか。
「そういや、ベスタは来るのか?」
「一応、何事もなければ行くつもりだが……その時次第だ。他に対応すべき事が起これば、そっちに集中しないといかんしな」
「あー、なるほど……」
レナさん達の方を見ながらのその発言……eスポーツ勢の受け皿の『グレイ・コンテスタント』が上手く軌道に乗るかが問題になってくるんだな。
それ以外にも、乱入勢がどう動くかっていうのも問題か。入ってくる情報次第では、ベスタの手は空かない可能性もありそうだよな。……本当、状況次第かも?




