第1624話 これからの動き
eスポーツ勢の受け皿となる共同体『グレイ・コンテスタント』が結成された。同時に、赤の群集では『レッド・コンテスタント』、青の群集では『ブルー・コンテスタント』が結成になったはず。
「あ、そうそう。青の群集は、特に加入制限は設けないみたいだよ」
「……へ? え、レナさん、それマジで!?」
「ケイさん、驚きすぎ! まぁリーダーを務めるスミさん自体がeスポーツ勢だから、変に制限をかけられないんだと思うよ?」
「あー、そういう……」
なるほど、同じeスポーツ勢だからこそ、下手に選別なんて行動が取れないとも考えられるのか。……ジェイさんがそんな見落としをするとは思えないから、あえてそういう方針に持っていったな!?
「ほう? レナさん、そりゃどういう意図での事だ? 俺が弾くのは、性格に難ありの奴だけのつもりなんだが……」
「多分、赤の群集やわたし達が弾いた人を取り込むつもりなんだろうねー。まぁそのまま無所属へ流れられても困るし、青の群集で引き受けてくれるのなら――」
「いやいや、取り込むのは分かるが、その意図が見えねぇって話なんだが?」
「およ? それなら、簡単な話だよ? わたし達への敵対心をそのまま使うつもりなんでしょ。まぁ内部でマウント合戦とか起こりそうだし、eスポーツ勢の中の問題児で蠱毒でもする気なんじゃない?」
「……蠱毒って、とんでもねぇ例えをしてくるな、おい!?」
うっわ、ジェイさんならマジでそれはやってきそう。スミ、そんな共同体のリーダーをやるとか……無茶するなー。
「ギン、蠱毒というのはなんだい?」
「……お前、本当に格ゲー以外の知識はサッパリだな!?」
「ふっ、そんなに褒めないでくれるかい?」
「いや、欠片も褒めてねぇからな?」
遠回しな皮肉どころか、ほぼ直球な言い方なのに……それでもこの反応になるのは、やっぱり変過ぎるわ! これ、『スケがメンバーになってるのに、自分が入れないのはなんでだ!?』みたいな苦情とかも出てきそう。……レナさん、そういう相手の対応は頑張ってくれ!
「蠱毒っていうのは、1つの壺の中に、大量の毒虫を入れて、最後の1匹になるまで閉じ込めて殺し合いをさせて、残った1匹の毒を使う呪術の事ね。まぁ今のは比喩的な表現で使ったけど――」
「なるほど、理解した! 他所への敵対心を与えつつ、それを糧に高みを目指す潰し合いをさせるという事だね!」
「ざっくりと言えば、そういう感じだねー」
「やる事、エゲツない気がするのは気のせい!?」
「……気のせいではないと思うぞ、アイルさん。青の群集のまとめ役ってのは、eスポーツ勢を道具とでも思ってんのか?」
「……それは、なんだか気分は良くないね」
アイルさんがそれを言うか……とツッコミを入れたいけど、これまでの事を反省してきてるんだし、追い討ちをかけるのはやめておこうか。
「多分、それで嫌気が差す人が出るのも想定済みだろうけどねー。ねぇ、ケイさん?」
「そこでなんで俺に同意を求める!?」
「ほら、ジェイさんとはよく情報戦をやり合ってるしさ? まぁわたしなりに、その先の結論も考えてはいるんだけど……ケイさん的にはどう思う?」
「……その先の結論、ねぇ?」
シンプルに考えれば、青の群集の『ブルー・コンテスタント』にしか入れないような人で、そこすら嫌だと思ったなら無所属に流れるしかない……いや、待て!? 今、現状ならそれしか選択肢はないけど、次の木曜まで待てば、もう1つの選択肢が出てくるのか!
「なるほど、次の大型アップデートで開放される、新規サーバーの方に誘導する気か!」
「あ、やっぱり同じ結論になったね! 無所属は無所属で利用されてるのは分かってるから、選べる手段としてはありだよね?」
「ですよねー!」
そう考えると……むしろ、この条件なしの受け入れは、大型アップデートまでに不満を溜めさせるのが目的な気がしてきた。
「それ、ついでに群集に不満を持ってる人も一緒に送り込もうとしてないかな?」
「あ、それはありそうかも! 青の群集って、そういう人が多いって話だもんね」
「無所属へ流入されるよりは、その方が楽でいいのさー!」
インクアイリーという、その手のプレイヤーの受け皿となっていた集まりも崩壊したから……本格的に、別の道へと分かれる可能性はあるよな。まぁ新規サーバーで、そういう人達が主導権を握れるかは、また別の話だろうけど……って、ちょい待った。
「ベスタ、ちょい確認!」
「ん? 何か気になる部分でもあったか?」
「まぁちょっとなー。今、簒奪クエストを進めてる集団って、新規サーバーに移る可能性はあると思う?」
「……おそらく、それはないな。中には群集へ不満を持って参加している奴もいるだろうが、主導しているのはちゃんと統制が取れる奴の可能性が高い。これだけの事を行える奴が、一定の成果を上げた後に離れるとは考え辛い」
「成果って……1つのエリアを占拠した事?」
「あぁ、そうだ。そこで既に、群集相手に出し抜いた事になるからな。不満がある連中なら、それをもっと大々的に押し出してくるだろうが……その様子は今のところ、見受けられん」
「となると……中核を成しているのは、群集に反発してる連中じゃなくて、簒奪クエストの進行そのものに興味がある集団?」
「ほぼ、間違いなくそうだな。その辺の確実な情報を、オオカミ組経由で調べてもらっているところだ」
「……なるほど」
例の、オオカミ組のメンバーとリアル知り合いって人が探ってくれてる最中か。そういう存在は味方にいれば頼りになるけど、逆に敵側にもそういう人がいてもおかしくないから、諸刃の剣なんだよなー。止める手段が存在しないし!
「今のは、どういう話題なんだい?」
「俺も聞かせてほしいとこだな。ケイ、そりゃ今のイベントの最新状況の話だよな?」
「あー、そっか。ギン達は、その辺から説明しないとだよなー」
ギンには簒奪クエストが進んでいるとは伝えたけども、細かい話は出来てないし……今は動きが停滞中みたいだけど、最新の状況は俺も把握し切れていない。まずはその辺の情報の整理……いや、待て。先にこっちか?
「ベスタ、『グレイ・コンテスタント』はこれからメンバー募集なんだよな? イベントに参加してる余裕って、あるのか?」
「……少なくとも、結成メンバーにはしばらくここにいてもらう必要があるな。レナ、構わないか?」
「まぁ募集をかけてるのに、加入の許可が出来るリーダーのわたしが不在って訳にはいかないからねー。そこは仕方ないものとして、しばらくはここにいるよ」
「となれば、僕も残るしかないね。リスの師を置いて、どこへ行けと――」
「スケ、お前はLv上げだ、Lv上げ! 最低でも、今日中に成長体まで上げちまうぞ! お前のプレイヤースキルなら、進化階位さえ上げとけば、後はどうとでもなる!」
「何を言っている、ギン! リスの師を置いて離れるなど――」
「ねぇ、ギンさん? スケさんはパワーレベリングでいいの? それなら、私が倒す役はやるけど?」
「おっ、助かるぜ、アイルさん! ついでに、俺の方も頼めるか?」
「もちろん! これでも、先にモンエボを始めてた先輩だからね! その辺は任せて! ……という事なんだけど、レナさん、問題ないですか?」
「その辺は元々やってもらうつもりでいたから、問題ないよー! スキルの育成は最悪、後からでも出来るから、今は成熟体を目指すのを優先して!」
「分かりました! スケさん、ギンさん、私達はイベント参加よりも、Lv上げと進化階位上げを最優先で! 舐められない為にも!」
「……ま、本来は進化階位の差は絶対的なものだからな」
「おや、そうなのかい? ギン、なぜ僕を見て不思議そうにしているんだい?」
「……こういう例外もいるからだな」
ギンが何を言いたいのかは……うん、よく分かる。スケはベスタに抑え込まれたのを驚いていたけど、本来ならギンの攻撃を避け続ける事すら難しいはずだ。
まぁサヤが未成体に進化する前、未成体の斬雨さん相手に翻弄していたなんて事もあったけど……ギンは決して動きは悪くないどころか、高水準なのになー。スケがモンエボに慣れたら……とんでもなく化けそうだ。
「レナさん、それなら募集の場所を変えた方がいいんじゃないか? ミズキの森林くらいの方が、育成の様子も見れるだろ?」
「いやー、現状のみんなの動きが分かんなくて、そっちの確認まで手が回ってないんだよねー。桜花さん、今の黎明の地の様子ってどうなってるの?」
「……そういやレナさんもログインして戻ってきたばっかだっけか。黎明の地での動きは、大して変わってないな。出てきたUFOを大勢で叩き落として、落下物を確保してるぜ。ただまぁ、『情報組成式物質構成素子』と色んな原石が必要になる関係から、情報共有は復活してるし、灰のサファリ同盟が回収係をあちこちに派遣している状態だな」
「あ、そういう動きになってるんだ?」
ほほう? 黎明の地では、基本的な動きは変わってないのか。まぁ黒の異形種は成熟体からの存在だし、それより下の進化階位の人に相手をしろって方が無茶だよなー。
対話自体は進化階位は関係なく成立するだろうけど……そこまで行くのに危険性があるしね。あ、でも進化階位が低い人達の攻撃で落下物の追加入手とかもあったし、水増し目的で連れていくのもありか?
「んー、それなら、回収係に『グレイ・コンテスタント』のメンバーを同伴させて、あちこち案内しながら育てるのもあり?」
「……ありっちゃ、ありだな? ただ、まだまとまりが出来てない段階で、他所との集団行動は危ない気もするが……」
「あー、まぁそれはそうだよねー。んー、ギンさん、アイルさん、スケさん、今日は流れ次第ではイベントの参加は諦めてもらっていい? 可能そうなら、イベントで動けるようにも流れは考えるけど……」
「ま、結成当日は仕方ねぇな。どうなっても、本格的な育成は厳しそうだし……アイルさん、パワーレベリングは明日頼むぜ」
「あ、うん! それは分かったけど……レナさん、募集はどこでやるの? ミズキの森林?」
「ううん、あそこだと移動妨害のエリアボスが倒せない可能性もあるから、森林深部でやるよ。今から交渉するけど、森林深部の灰のサファリ同盟の旧本部を借りるのがいいかもね」
「あそこ、借りられるの!? あ、でも、私も初心者講座でお世話になったし、場所としては最適かも?」
「おや、初心者講座とかがあるのかい? あぁ、そういえばギンも受けたと言っていたね?」
「まぁな。レナさん、今の初心者講座はラックさんの仕切りか?」
「あー、どうだろ? そもそも、今、初心者講座自体が開けるどうかから確認しないと……あ、そっか」
ん? なんかギンがこっそりとカンガルーの指でバツ印を作って……あ、そうか! スケがギンと同じeスポーツ部なら、ラックさんは同じ高校か!? 今の、ラックさんと遭遇しないようにしてくれって合図か!
「うん、その辺はちょっと調整してくるから、少し時間を頂戴!」
「おう、頼んだぜ!」
ふー、イベントの最新状況の確認をしたいんだけど、『グレイ・コンテスタント』のこれからの立ち回りを決めない事には先に進まんなー。
「桜並木の終わりの場所……ここか?」
「あの、eスポーツ関係で新規に開始したプレイヤーへ指導をしてくれるって場所、ここですか?」
「ちょ!? お前、押すなっての!?」
「あ、悪い! つい、この景色に圧倒されてな?」
「……まぁ分からなくはねぇけどな」
「変わったゲームとは聞いてたけど、ここは一段とすげぇ……」
「だー! 地味に四足歩行って、動きにくいわ!」
「足があるだけマシだろ! 植ったままで、こっちに来れずに置いてきた奴もいるんだからな!」
「木になった友人を置いてきてるから、どうすりゃ動けるようになるのか教えてくれ!」
あー、そろそろ第一陣が集まり始めたみたいだね。てか、初期種族が木になって身動きが取れてない人もいるのか。これ、ちょっと対策を打たないと危ないかも?
「ベスタさん、灰のサファリ同盟へ、旧本部の間借りをお願いしてもらっていい? わたしはこっちの対応に動くからさ」
「そのくらいは引き受けよう。そっちの人員も、やってきたとこだしな。ラック、俺の方へ来てくれ。話がある」
「え、到着早々に、ベスタさんから話!? あ、みんなは整理に回って! 結構な人数が来てるみたいだし!」
「「「「「はい!」」」」」
「さて、わたし達は『グレイ・コンテスタント』の初の活動を始めよっか!」
「おし、了解だ!」
「はい!」
「リスの師の命ずるがままに……!」
おっと、ラックさんが灰のサファリ同盟からの支援を連れてきたところか。ラックさんとスケが一緒にならないように、自然な流れで離せられたな。
「えっと、ベスタさん? 私に名指しって、何か大事な内容でもあったりする?」
「あの『スケコマシ』というプレイヤー、ギンノケンと同じ部の者だ。……変人だから、色々と悟られるな」
「っ!? 端的な状況説明、ありがと。……変な名前の人がいると思ったら、あの人かー。うん、警戒しとく!」
あ、すごくシンプルな伝え方だったのに、あっさりとラックさんには伝わったんだ。さては、リアルで既に遭遇した事があるな? って、ちょい待った!
「ハーレさん、もしかして……あのスケの事、知ってたりするのか?」
「ケイさん、そこに言及したら駄目なのさー! あそこまで変人だとは思ってなかったから、知らない人のフリをしてるの!」
「あー、そういう……」
どうやら、元々知ってはいたようだけど……ぶっ飛び具合までは把握してなかったらしい。ドン引き具合は、素の反応かー。
「そういう話は、今はいい。ラック、レナからの頼みなんだが……灰のサファリ同盟の旧本部を使わせてほしいそうだ」
「あ、別件でもちゃんと用事はあったんだ! うん、ザッと様子を見た限りだと、完全な新規さんもいるみたいだから、あそこを使うのは問題ないよ! この感じだと、初心者講座も開いた方が良さそう?」
「あぁ、可能なら頼む。あと、木のプレイヤーへの措置もだな」
「うん、それじゃ初心者講座を開くとして……木のプレイヤーは私も気になってた部分だから、灰のサファリ同盟から巡回部隊を回すね。場合によっては、掘り出して旧本部へ連れていくのでいい?」
「呼びかけと合わせて、それで対応してくれると頼む」
「了解! それじゃ、その辺の手配をしてくるねー!」
手早く、これからの対応策が決まっていくもんだね。さて、俺らはしばらく暴れるようなプレイヤーが出ないか睨みを効かせる必要はあるけど……変なのが出てこない限りは、この場にいればいいだけだよな?
様子を見つつにはなるけど、ようやくイベントの最新の動きの確認が出来そうだ。……まぁ受け皿の共同体の結成も、その動きの1つではあるんだけどなー。




