第1617話 浮き彫りになる問題点
突如……という訳でもないけど、ギンから出てきたeスポーツ勢の受け皿としての共同体の設立メンバーとして、アイルさんを入れる事への不安感。まぁ俺とハーレさんとのやり取りが発端になってるけど……ギンが不安になるのは分かる! 俺も正直、すごく不安だしなー。
<『始まりの草原・灰の群集エリア3』から『群雄の密林』に移動しました>
そういう事なので、レナさんから何かアドバイスをもらう為、待ち合わせ場所へと移動中。ベスタや紅焔さん達、桜花さんもいるから、何か良い案が出ればいいんだけど……。
「ところで、ケイ? 話は変わるんだが……今、イベントはどういう状態なんだ? 夕方はざっくりとしか聞けてないんだが……」
「あー、最新状態は分からないけど、かなり進展はしてるぞ。ギンは、宝石の原石やUFOを構成してた機械の砂は知ってる?」
「あぁ、あれらか。一応、昨日の夜に手に入れたのはあるが……使い道が分かったのか?」
「どっちも、黒の異形種の身体の補填に使えるんだよ。イベント進行で、そういう事が可能になってる」
「黒の異形種って言うと……あれだよな。ゾンビやスケルトンなヤツか?」
「そうそう、それ! かなりの数が必要になって、群集のみんなに掻き集めてもらってなー」
「それで、簒奪クエストで狙われてた場所を1ヶ所、守り切ったのです!」
「改造を施した黒の異形種と、共闘が可能になってな? それらを戦力にして、特殊なボス戦をした感じになるぞ」
「へぇ? 素材提供って形で、俺みたいな新規でも参加出来るようになってんのか。これが、ねぇ?」
ギンめ、サラッと何かの宝石の原石を取り出してんな!? まぁ落下物からのランダム入手なんだし、持ってても不思議じゃないか。
「それで、イベント的にはこれから具体的に何すりゃいいんだ?」
「簒奪クエストの対象は、命名クエストが終わってないエリアだから……ギンが出来そうなのは、機械の砂や原石集め? 流石にフィールドボス戦は、進化階位的に無理だろうし……」
「ま、そんなとこだよな。となりゃ、立ち上げた共同体のメンバーで、UFOと落下物の探索が無難か」
「多分、そうなるだろうなー」
既に各群集で受け皿の共同体を設立する事は知れ渡ってるみたいだから、結成さえすれば、すぐにメンバーが集まる可能性は高い。eスポーツをやってる競技者同士なら敬意も表すらしいし……リーダーをするレナさんは、競技者云々はお構いなしに信頼は勝ち取りそう。……やっぱり不安要素は、アイルさんか。
「あ、来たね!」
「ケイ、ギンノケン、少し遅刻だぞ」
「悪い、ベスタ! ちょっと個人的な事情でなー!」
「……まぁ具体的に何があったかまでは聞かん。用が済んだのなら、こっちの話し合いに加われ。桜花の樹洞の中だ」
「ほいよっと! アル、頼む!」
「おうよ!」
アル達が心配して俺の様子を見に来てたくらいだし、俺の様子が変だったのは……この場に集まってるベスタ達は知ってるはず。その上で、何も聞かずにいてくれるのは……うん、ありがたいね。
さて、桜花さんの樹洞の中に、昼のメンバーは集合完了! アイルさんの件を相談してみて――
「さて、ケイ達も揃ったし、問題の件に戻すか」
「そだねー。この土壇場で、ちょっと予定変更は痛いんだけど……」
「ん? レナさん、何かトラブルでもあった……?」
「例の共同体の結成の件でね? ほら、昼間にアイルさんの件でちょっと問題があったでしょ。ああいう事があるなら、結成メンバーを任せるのには不安になっちゃってさ」
「レナさんにも不安視されてるのか!?」
「そりゃそうだよ! わたし、迂闊な発言の危険性を、実例を交えて説教したんだよ? その後に、更に警戒されるような行動を起こされたんじゃ、後々のトラブルの懸念くらい出てくるって!」
「……ですよねー」
うん、レナさんが警戒するだけの理由、十分過ぎる程にあったわ! 俺が個人的に嫌がってるって範疇、完全に超えちゃってるじゃん!?
「ただ、ケイのリアルでの知り合いという事もあって、ここで共同体の結成メンバーから外すと、変に悪影響が出る懸念もあってな……」
「ごめんね、ケイさん。アイルさんの性格面、ちょっと見誤っちゃったみたいでさ……。真面目なタイプだと思ってたんだけど、無自覚なトラブルメーカーだったのは……うん、誤算だった」
「あー、そういう認定なんだ……」
まぁベスタもレナさんも、その認識は何も間違ってないとは思うけど! 俺だって、最初はあれだけのポンコツ具合だとは思ってなかったし!
「ちょっと意見を挟ませてもらうぜ! 俺、そのアイルって人をよく知らないんだけど、具体的にどう問題がある人なんだ?」
「確か、競争クエストで成熟体に到達してない人達を率いて動いていた人という覚えはあるのですが……その実績を考えると、そう問題がある人のようには思えませんよ?」
あー、紅焔さんやライルさんからすると、そういう印象になるのか。そりゃまぁ、俺みたいに悪い意味でアイルさんとの馴染みがある人って少ないですよねー!
「んー、その辺が見誤った原因なのかも? アイルさん、元々のわたしの印象としては、物怖じせず、コミュニュケーション能力の高い人ではあったんだよね。だから、指揮能力もあって、立ち上げメンバーとしては適任だとも思ったんだけど……」
「ケイとのやり取りを聞く限り、それが上手く回るのは……おそらく、自身の想定通りに事が進んだ場合のみだな。少しでも予測が外れると、途端に崩れ去る危険がある」
「そうそう、そういうとこが不安要因として表面化しちゃったの! 自覚してれば直せもするんだけど、無自覚で状況を悪化させる節も見えてきてるから……下手に影響力を持ちそうな分、大規模なトラブルメーカーになりかねないね」
ベスタもレナさんも、思った以上に辛辣な判定だな!? てか、そういう判定になった理由って、俺とのやり取りが理由!? ……まぁ、色々とあったもんなー。
アイルさんって、eスポーツ部の立ち上げもしてるし、初出場の大会でも3位まで勝ち上がったし……モンエボでも目に見える成果は出している。だけども、俺とのあれこれの要素がマイナスになり過ぎるって事か。
「……思った以上に、随分と辛辣な判定ですね?」
「正直、予想以上だったぞ!? でも、自覚がねぇなら、自覚させるってのでもいいんじゃね? ほら、気付きさえすれば、改善の余地もあるだろ!」
「……紅焔がそれを言うのかい?」
「いくら言っても、独断専行がなくならない紅焔がねぇー?」
「説得力が薄い言葉だな」
「だー!? 揃って、そういう反応は酷くねぇ!? てか、一応聞いてるよな!? ……事後承諾、多いけど」
「まぁ紅焔さんが事後承諾での独断専行が多い事は、今はどっちでもいいよ。それ、見方を変えれば即断即決っていう長所にもなるからね」
「レナさん、フォローしてくれてるようで、そうでもないよな!?」
見方を変えればって言い方はしてるけど、ソラさん達の主張を認めてはいるもんなー。うん、割と容赦なく紅焔さんの意見を切り捨ててるよね。
「改善の余地は、そりゃ考えるべきなんだけどさー。ぶっちゃけ、もうわたしは何度か釘を刺した後なんだよね」
「……レナさん、それってマジか!?」
「紅焔さん、こんなとこで嘘を言っても仕方ないからね。昼からずっとその辺は考えてたんだけど……夜の集合の事を決める際に、ケイさんに伝言を頼まなかったでしょ?」
「あれは、伝え忘れではないからな。むしろ、伝え忘れていたのは『まだ呼ぶな』という部分だ」
「忘れてたの、そっち!?」
てか、あれってギンは呼ぶ気でも、アイルさんは呼ぶ気なかったんかい! いや、ここまで不安要素として考えていたなら当然の措置か……。
「ケイ、単刀直入で聞く。アイルを受け皿の共同体を設立メンバーから外すのは、問題ないか?」
「……あー……」
これは、どうなんだ? 正直に言えば、気は楽になりそうな気がする。するけど、それで問題解決かといえば……そうはならないのがアイルさんだよな。今までの実経験として……。
「めっちゃ悩んでんな、ケイさん!? ……こりゃ、確かに厄介な事態かもしれん!?」
「……そうなんだよ、紅焔さん! アイルさんは、これで解決って思った時に、余計な一言で新しい火種を作ってくるんだよ!」
「うへぇ、マジか……!? となると、今から下ろしたら下ろしたで、別のトラブルが起きかねないって事か!?」
「そういう事!」
考え方の予想が全く出来ないから、どういう動き方をするがサッパリ読めん! ギンの読みだと異性との距離感がバグってるって話だし、下手すりゃグリーズ・リベルテに勧誘する為に外すなんて、ぶっ飛んだ方向で解釈しかねない! ……冗談で考えてみたけど、本気でありそうで困るな!?
「……レナ、監視下に置く事で制御は可能か?」
「どうだろ? ちょっとこれまでは性格を読み違えちゃってたから、今は正確に行動が読めないかも……。ギンさん、客観的に見たアイルさんの性格って分からない? ケイさんの認識だと、それはそれで主観が入り過ぎてるから歪みはあるんだよね」
「……俺も、それほど親しい訳じゃないんだがな。まぁ警戒してるケイよりは、遥かにマシか」
うーん、そもそも俺もアイルさんの性格はよく分からん! 接点があるのって割と最近の話だし……小学生からずっと同じ学校だって部分は、この場合は関係ないだろ! うん、ないはず!
「あんまり、こうやってリアル情報を話すのも気分のいいもんじゃないが……俺もアイルの設立メンバーは、変えてほしかったからな。ある程度は仕方ないか」
「ほう? ギンノケン、お前から見ても問題ありか?」
「まぁな。うちの部にも、性別こそ違うが、似たような奴がいてな。アイルさんは……異性にモテ過ぎて、異性は自分に好意を持ってるのが当たり前だってタイプだと思うぜ。実際にモテてたのは、俺も中学が同じだから知ってるしよ。ただ、問題なのは……実際に、それに見合う容姿や能力を兼ね備えてる部分だな。そこで、ケイみたいな対応をする相手が出てくると、異常に齟齬が出るんだろうよ」
「あらら、そういうタイプかー! あー、だから、ケイさんに警戒されてるはずなのに、ああいう行動に出ちゃうんだ! ……同性のわたしじゃ、抑えられないかも?」
「……なるほど、自己愛が歪んでいるタイプか。それも、異性間の部分に特化して……確かに、レナでは厳しそうだな」
なんか、ベスタもレナさんも、もう匙を投げてません!? というか、ギンの今の言葉であっさりと納得するんだ!?
「こうなると、厄介だな……。根本的にそれを自覚させないと、解決には向かわないものだぞ?」
「本人に向き合わせるしかないけど……素人が下手にやると、やる方が振り回されちゃうヤツだね。可能なら、リアルで専門の人に診てもらった方がいいレベルかも?」
えっと、なんだか大袈裟な話になってきてません? え、アイルさんのあれって、専門の人に診てもらうべきレベルなの!?
「……いや、待て。ギンノケン、同じようなのが部員にいると言ったな?」
「そりゃいるが……ちょっと待ってくれ。同じようなのを、会わせる気なのか!?」
「荒療治ではあるけどな。お互いが反面教師になれば、あるいは……」
「ベスタさん、それはちょっとわたしの負担が大き過ぎない!?」
「だが、今から変に除外すると、変にケイのリアルに影響が出かねんぞ? 自発的に離れるようになれば、その影響は下げられるだろう」
「あ、別に治療しようとか、そういう事を考えてる訳じゃないんだ? むしろ、同族嫌悪を狙ってる?」
「狙いとしてはそうなるな」
あー、同族嫌悪は……確かに出そうかも? 思いっきり異様な共同体が誕生しそうな気がしてきたけど……レナさんがいるなら、抑えられるか? うーん、分からん!
「ベスタさん、そりゃうちの部員を使って、アイルさんが自発的に出ていくように仕組むって狙いだよな? 流石に、それは許容出来ないが……」
「いや、結果的にそうなるというだけだ。ギンノケン、お前が共同体の一員なら、部員は必然とそこに集まるだろう?」
「確かに、そりゃそうだが……ちっ、このままだと嫌でも遭遇する事になんのかよ!? てか、あいつ……そういやアイルさんに話しかけに行ってたな。ここにいると知れば、自分から望んで来やがるか!? 今日の昼からは随分と乗り気になってやがったが……もう知ってる可能性もありそうだな、おい!?」
あー、状況的に設立する共同体からアイルさんを排除しない限り、遭遇するのは時間の問題なのか。それなら、ベスタの意図というよりは……今後の予測と考える方がいいのかも?
「……なんだか頭が痛くなってきたんだけど、共同体のリーダー、引き受けるの止めてもいい?」
「無理強いはせんが……好きにさせる方が、よっぽど後で頭を抱える羽目になるぞ? 俺や、他の大勢を含めてな」
「……だよねー。はぁ、一度引き受けた以上、安定するまではやり切るしかなさそうだね……」
ここまで気落ちしてるレナさん、初めて見たんだけど!? なんというか、eスポーツ勢の流入ってトラブルばっかだな!? ……いや、全員が全員、そういう訳ではないけどさ。
「もう、予定通り、アイルさんを共同体に入れるって事でいいんだね?」
「あぁ、それしかないだろう。その結果、上手く回らなくとも……レナに責任はないからな」
「あー、安請け合いするんじゃなかったー!」
なんというか、レナさん、ご苦労さまです! いや、本当にそんな苦労しそうな役目、負わなくてもいいのに……。
「あ、レナさん。こっちの問題児がナンパとかしてきたら、容赦なく蹴り飛ばしてやってくれ」
「え、いいの? ……その前に、そんな事をしてきそうな人なの?」
「ほぼ確実にな。半端な人だと、蹴り飛ばすなんて実行すら出来ないが……レナさんなら当てられるだろうから、プライドをへし折るつもりで頼む」
「……ギン、実はそいつの事、あんまり好きじゃなかったりする?」
「大会がある度、他所の女子部員をナンパしに行く奴に好感度があるとでも!? トラブルになって、後始末にし行くの、他の部員なんだからな!? 今まで、そんなのが何件あったと……」
「そんな事があるんかい!?」
ギンの苦労が垣間見えたけど……これ、アイルさんも問題だけど、それ以外に入ってくる方も問題大ありじゃん!? ……いや、モンエボだと声で性別は分かっても……うーん、それでも何かしそうだな、そいつ!?




