第1610話 安定化した者達
俺達のしている事を客観的に見てみると胡散臭さがあるというのは……考えないでおこう。ともかく、安定化した黒の異形種達が、不信感を抱いている黒の異形種達の説得に動いてくれて、そちらの変質進化も進んでいってるからさ!
今の様子を見る限り、段階的に広めていくような流れになってるっぽいよなー。とりあえず、ギリギリ機械の砂と原石は足りそうか? でも、これは他の場所へ回す余裕はほぼないな。
『っ!? これが……安定した身体、なのか!』
『あはは、これは凄いな! これを、拒もうとしていたのか!』
『……すまない。守護者クオーツよ、一度は拒むような事をして……』
[我は仲介者に過ぎん。感謝なら、その場にいる者達にするがいい]
『っ! それもそうだな。貴方達は私達の恩人だ。心よりの感謝と、妨害してしまった事への謝罪をさせてほしい』
『……すまなかった』
『動揺していたとはいえ、悪い事をしてしまった……。本当にすまない……』
「あー、その辺は気にすんな! それより、これから俺らに力を貸してくれるか? 倒すべき相手がいるんだよ」
不信感を抱かれる理由は分かるけど、そこで謝られまくっても困るからなー。かといって、具体的な報酬を寄越せとも言う気はないけど……まぁ必要なのは、これですよねー。
もし、これを拒まれた時はどうしよう? 流石に全員に断られる事はないだろうし、了承してくれた個体だけで――
『倒すべきは、この地の主達……だな?』
『私達にとっても、脅威となる相手だ! 恩人達の頼みとあらば、断る理由もない!』
『我らの力が必要ならば、いくらでも貸そう!』
『他所の連中が暴れてるって話でもあるし、ここへ攻め込んでくる可能性もあるんだよな。頼ってばっかじゃ、いられねぇ!』
『そうだ、そうだ!』
『俺らの安定した姿を、試してみる時だ!』
なんか気合い入ってるな、黒の異形種達!? エメラルドもだったけど、黒の異形種達にとって、今の安定化した状態は欲し続けていた状態なんだろうね。
てか、一気に会話が成立するNPCの数が増えたなー。こういう会話が出来るのって、群集拠点種や群集支援種、あとはクオーツくらいなもんだったのにね。
「ケイ、ここからどうするのかな? もう、ここでフィールドボスを出してみる?」
「いや、それはまだやめとく」
「え? でも、もう封鎖は出来そうじゃないかな?」
「地下湖の方からはなー。でも、広間や縦長の空洞はサッパリだし、あっちから妨害が入ると厄介だしさ」
「それも足止めするのは……駄目なのかな?」
「多分、この反応を見る限り……安定化させる前に、そうやって無理に抑えつけるのは避けた方がいい気がするんだよ」
「下手すると、反感が強まって……最悪、反乱を起こす可能性もあるかもな。ケイの言う通り、慎重に進めた方がいいと思うぞ」
「……反乱は、確かに厄介かな」
段階を踏まなければ、『百鬼夜行』の中でも俺らへと不信感を持っている個体が残るというのが分かったのは成果ではある。黒の異形種は一枚岩ではないのは分かっていたけど、それはこの洞窟内部でも一緒って事だ。
今の状況は『百鬼夜行』にとって、大きな分岐点。だからこそ、ここで雑な扱いをすれば……相応のリスクとなって返ってくる可能性は否定出来ない。
「少し質問ですが……クオーツ、あなたから不信感を抱いている者への説得は出来ませんか?」
[それは無理だな。我は中立としての立場から、手出しをする気がないというのもあるが……そうでなくとも、そういう者は、そもそも我やそなたらとの意思疎通を拒んでいるからな]
「……そうですか。そうなると、黒の異形種達に説得してもらうしかなさそうですね」
「みたいだなー」
ジェイさんが聞いてくれたけど、そもそもクオーツや俺らと意思疎通をする気がないんじゃ、どうしようもないよな。
でも、同じ洞窟の中にいる黒の異形種達の言葉なら届くみたいだし……やっぱり、何段階かに分かれて進めるようになってる――
「おや? これは、朗報ですね」
「ははっ! 確かにな!」
「ん? ジェイさん、斬雨さん、外で何かあった?」
「灰の群集の不動種の並木から、お届け物だそうですよ」
「ケイさん、俺らが掻き集めた機械の砂と原石がそっちに届いたって報告がきたぜ! まだ第一弾だが、それらを活用してくれ!」
「あー、そういう……。桜花さん、サンキュー!」
「おう! 引き続き、集めていくからな!」
「かなり使うから、よろしく!」
「任せとけ! こういう時こそ、商人プレイヤーの出番だしな!」
さっき使ったのは灰のサファリ同盟が掻き集めたものだけど、今外に届いたのは不動種の並木の人達で掻き集めてくれた分とはね。そりゃまぁ、集める経路は1つだけじゃないんだから、こういう動きも出てくるか!
「……桜花達……頑張ってる!」
「……どうやら、そのようだな」
「これなら、1時間以内にはここの全員分の安定化、可能なんじゃね? なぁ、ソラ!」
「そうだといいんだけど……どの程度、数があるかが問題だね」
「とりあえず、私からベスタさんのいる広間の方へ運んでもらうよう、指示は出しておきますよ」
「頼んだ、ジェイさん!」
数が足りるかという懸念は確かにあるけども、それでも今はひたすら、黒の異形種達の安定化の変質進化を進めていくしかない! その為にも、こうしておくか。
「この湖にいる『百鬼夜行』に頼みがある! 他のまだ不安定な状態の黒の異形種達の説得を頼みたい! 安定化させる為の材料は掻き集めてる最中だから、用意が出来たらすぐに実行出来るようにしておきたい!」
俺らの声が届かない以上、そこは任せるしかない。だから、こうして頼んでおけば、動いてくれるはず! ……なんか洗脳された後の人に、他の仲間を洗脳しに行けって言ってるみたいで少しだけ気が引けるけども! そういう意図はないから、大丈夫だよな……?
『……説得か。あいつら、聞く耳を持つか?』
『ここまで俺らが安定したんだ。これを見ても尚、不安だって言うのは……もうどうしようもないだろ』
『共に歩めなくなる……いや、そうさせない為にも納得させなければならないんだな!』
『恩人達の頼みもあるし、我らとて身を守る必要がある。ここで拒み続けるのなら、最早それまでよ!』
『無理強いはしないが……それでも、邪魔しない事だけは確約させないとな』
『場合によっては、消滅も覚悟してもらうしか――』
『おい、待て! それはいくらなんでも、あんまりじゃねぇか!?』
『だが、この安定化の手段を拒むなら、必然的にそうなるだろう! それほどに、俺らは不安定な存在なんだぞ!』
『っ!? ……それは、そうだが!』
『だからって、切り捨てるのは違うだろう!』
『だったら、どうしろと!? 受け入れないのなら、道はここで違えるしかないぞ!』
ちょ!? なんか喧嘩が始まったんだけど……NPC同士で、そんな事ってある!? いやまぁ、確かにここで拒まれるのなら、切り捨てる事になってくるんだろうけどさ。
「なんだか、かなり人間味が増してないかな?」
「そんな気がするのさー! これ、何気にいいAIが採用されてたりするの!?」
「その可能性はあるかもね」
「確か、少し前にサポート用以外にも使える対話型の汎用AI……まぁちょいちょいゲームのNPCなんかに採用されているのが、大幅にバージョンアップしたってニュースはあったな。それに伴って負荷が下がって、使用料の引き下げなんかもあったはずだ」
「へー、そんなニュース、あったのか!」
アル、面白い情報を仕入れてるじゃん! VR関係の技術もだけど、AI技術も日進月歩でどんどん進んでいってるとは聞くもんな。
これまでは対話が可能な相手って限定的だったけど……黒の異形種の存在は特殊だし、安定化した後は普通に対話が可能になるなら、それを実現させられるAIの搭載が必須なのかもね。使用料が下がって、搭載しやすくなってるのも影響してそう?
ただ、高度なものになってくれば……それだけ、対応もしっかりしないと厄介な事にもなり得るかもな。ただのNPCではなく、普通の人を相手にするくらいのつもりで丁度いいのかも? よし、そうしよう!
「無理強いは、絶対にしないでくれ! 妨害さえしないでくれれば、俺達としてはそのままでも構わない! この地には中立を求めてるから、干渉はしないけど……当人がそのままの姿で残ってくれてもいい!」
ちょっと突き放すような言い方にはなるけども……この場所は中立な場所になるんだ。安定化を拒んだ者を受け入れるかは、『百鬼夜行』で決めるべき事。
その結果、ここでお互いに相容れなくなるのなら……それはそれで仕方ない。姿が変わっても、共に居られるのなら、それでもいい。それを決めるべきは、俺らじゃない。
『……絶対に、必要な訳ではないのか?』
『無理強いは、したくない』
『……消える恐怖を本人が受け入れるのなら、それもやむなしか』
『それも……決断の1つかもしれんな』
『そうだな。それでも出来る事があるとすれば……それこそ、説得しかないか』
『今抱えている不安を、希望に変えてやれ! 我らは【百鬼夜行】! この姿こそが、その我らの新しい門出なのだと!』
『それしかねぇな! それぞれ、散って説得しに行くぞ!』
『『『『おう!』』』』
ふぅ、とりあえずこれで喧嘩自体は収まって、説得に向かってくれたね。なんか思いっきり煽動してる気分になってきた……。いや、実際、煽動してるようなもんだけど!
うーん、これってどこまでが役割として用意されてるもので、どこからがAIの判断によるものなんだ? いったんレベルにやり取りが可能なAIが搭載されてるとしても、流石にゲームの役割から外れるほどの事はないと思うけど……。
「さて、どの程度の数が、受け入れないという結論を出すかが問題ですね」
「……ジェイさんは、どの程度出ると思う? あと、出た場合はどうすると思う?」
「理想は0ですが……少なからず出ると思いますよ。どうなるかは……その個体が拒む理由によりますね」
「というと?」
「あの変質進化への不安が勝っているなら……おそらく、そのうち消滅になるでしょう。ですが、ケイさん達への反感が理由なら……それこそ、完全に敵対でしょうね」
「あー、そういうパターンか」
前者だと、消滅までに心変わりして助けられる可能性は残る。だけど、後者だと良くて洞窟から出ていく事で、悪ければ……状況次第では消滅させる必要が出てくるか。こうも人間味があると、どうもやりにくいな……。
「敵対になった場合、『百鬼夜行』がどう処断を下すのかが重要になりますね。彼らが切り捨てられないのなら……最悪、私達でやるしかありませんし」
「あー、まぁそうなるよな……」
くっ! 下手に人間味を感じ始めたせいで、そういう展開になったらすごいやり難いんだけど!?
「ケイさんがやり難いのであれば、私がやりますけども?」
「……ジェイさん、あの様子でやり難かったりはしないのか?」
「まぁ少なからず思う事はありますが、消すのはまともに意思疎通をしない方でしょう? それも、敵対意思がある相手ならば……それを理由に野放しにする方があり得ませんね」
「容赦ないな!?」
「……むしろ、普段から人を相手に容赦なく仕留めておいて、人間味のあるAIだからと気にする方もどうかと思いますけどね。データなんですから、本当の存在が消え去る訳じゃないんですよ? キャラは消えても、演者は残るようなものですし」
「……なるほど、そういう考え方もありか」
ここにいる黒の異形種達に、いったんレベルのAIが搭載されていたとしても……それはあくまで、ゲームの舞台装置として演じているものに過ぎないもんな。NPCが消滅したとしても、AIそのものを消し去る事はないだろうし……俺ら、プレイヤーとのやり取りは学習データとして蓄積されていくはず。うん、そう考えると少しやりやすくなったかも?
「グリーズ・リベルテ! ベスタさんから伝言だ!」
「おっ! どういう内容!?」
灰のサファリ同盟の本部所属のイノシシの人が駆け寄ってきたけど……ベスタからの伝言か。こうやって伝言を頼んできたって事は、直接こっちの来れる状態じゃないっぽいね。
「そのまま伝えるぜ! 『黒の異形種の安定化の変質進化、そちらが済んだのは確認したから、広間と空洞でも進化を進めていく。ケイ達は、フィールドボス戦を始めるまで、待機していてくれ』との事だ!」
「俺らは待機か。了解って伝えといてくれ!」
「おうよ! 何かあれば、灰のサファリ同盟で伝言を承るから、いつでも近くの奴に言ってくれ!」
「ほいよっと! あ、それなら、PTを組んで伝達役を常駐とかは無理?」
「……あ、その方が楽か。ちょい待ち、それ用に調整するからよ!」
「それで頼んだ!」
俺らは下手にこの場から動かない方がいいだろうから、灰のサファリ同盟に伝達役を任せられるのはありがたい! ベスタの仕切る広間と、レナさんの仕切る縦長の空洞の様子がどうなってるか、状況は知りたいしね。
「おし、問題なくいけそうだ! あー、これは……フィールドボス戦の時も維持しといた方がいいか?」
「可能なら、そうしてもらえると助かるかも? 俺らの後ろで下がっててくれていいからさ」
「あー、了解だ。そういう事なら、防御が得意なのを担当に回すわ。そっちが来るまで、俺が伝達役で残るからな」
「ほいよっと!」
戦闘中も常駐してくれれば、他の場所の戦況も分かるからね。まぁ流れ弾を気にせずに済むように、防御に長けた人が代わりにくるっぽいけど……それまでは、このイノシシの人に任せよう!
[この場は、そろそろ離れても問題なさそうだな]
「あー、まぁそうなるな。クオーツ、他の場所の黒の異形種達の安定化も、よろしく頼む!」
[あぁ、それは任されよう。素材と意思があるのなら、我は力を貸すのを躊躇いはせんからな。それでは、接続を切るぞ]
「ほいよっと!」
さて、これでクオーツとの接続は切れたし、俺らの担当の地下湖での黒の異形種達の安定化の変質進化は完了した。ベスタは先に俺らがフィールドボス戦をするのには否定的だったし、足並みを揃える為に待機しますかねー。
多分だけど、3体同時に相手をするのが想定されてる弱体化の手段っぽいしなー。無理に進めて、変な条件を踏んで、妙な事になっても困るし……ここは待機が無難な選択!
出来れば、この洞窟内にいる黒の異形種達が全て、安定化への変質進化を受け入れてくれ! ……ん? 俺らへの信用度も関わってくるなら、無理に進める事自体が、そっちの変な条件を踏む事にもなりそうかも? やっぱり、待機が無難か。