第1609話 安定化の拡大
色々と話している間に、地下湖へと到着した。ここが俺らの受け持つ戦場で……敵は水棲のコケ、もしくは水草の可能性ありか。
一応、地下湖の水は残す事にはなったけど……まぁ結局、実際の戦闘が始まるまではなんとも言えないんだよなー。『刻浄石』の使用が上手くいけば、それこそ戦闘らしい戦闘なしで終わる可能性もあるんだしさ。
てか、何ヶ所か焚き火はあるけど、なんか薄暗いな? なんで広間より、こんなに薄暗い状態にしてるんだろ?
「ベスタさん、この落下物はどこに置く?」
「それは湖の中に沈めておいてくれ。呼び寄せようが、その前に対処する事になろうが、そこなら大差はないからな」
「なるほど、了解だ!」
ふむふむ、外の水源の湖から回収してきた落下物は、ここの地下湖に沈めておくんだね。まぁこの洞窟が3体のフィールドボスを弱体化させる為のギミックなのだとしたら、そういう対応が正解なのかも?
「あぁ、ケイ。もう1つ、伝えておくぞ」
「ん? まだ何か、他に不安要素があったりする?」
「あくまで、水草や水棲のコケがフィールドボスだった時に限定にはなるが……あまり光量のある光源は使うな。『光合成』を使われる可能性がある」
「あー! そうか、植物だから、あれがあるのか!?」
俺も持ってるけど、日が出てる時しか使えないから、ほぼ使ってないスキル! 確か、効果は……HPの回復量や全ステータスの強化が入るんだっけか?
今日は昼の日だし、外だと効果を発揮してた可能性はあるな!? 微々たる効果だったはずだけど……一定Lv以上で大幅に強化が入ってる可能性もある? フィールドボスともなれば、その効果が増幅される可能性もあるし……なるほど、この洞窟へと呼び寄せるのは、それを封じる手立てにもなる訳か! こっちが薄暗いの、その辺が理由か!
「根本的に、コケに類するもののフィールドボスというのは情報が少ない。単独となれば、尚更だ。……用心しろよ?」
「……ほいよっと」
ベスタがここまで警戒するのも無理はないかもね。多少の湖の目撃情報は出てきても、まだそれがフィールドボスの正体だと確定した訳ではない。……そこから推測出来る正体が、情報の少ない個体なら尚更に!
「こうなりますと……正直、『刻浄石』の使用が成功する方が楽ですね」
「コケのフィールドボスなんざ、正直、相手にしたくねぇしな」
「斬雨、私達は戦闘には参加しませんよ?」
「……そういやそうだったか」
「あ、それなんだけど……レナさんが抜けて、ベスタも後で抜けるんだよな?」
「あぁ、そのつもりだが……そうか、ケイ達は2枠空くな?」
「……ほう? ジェイ、どうやら戦闘に参加する余地はあるようだぜ?」
「どうやら、そのようですね。今のは、参加のお誘いという事でよろしいのでしょうか?」
「ジェイさんと斬雨さんさえ良ければなー。どっちにしろ見ていくなら、一緒の連結PTにいる方がやりやすいだろ?」
「そうですね。では、そのお誘いは受けましょう。斬雨、構いませんね?」
「おう、問題ねぇぜ! ただまぁ、コケが相手だと俺が意味あるかどうかが怪しいが……」
「いざとなれば、食べればいけますよ。コケはどれだけ進化を重ねようとも、一般生物の魚にすら食べられますからね」
「……そういや、前々から愚痴ってんな、その辺は」
「……何度も食べられましたからね」
ジェイさん、魚に食われまくったんだ? まぁ俺も経験はあるけど……最近はそうでもないんだけどなー? どういう状況なら、今の段階でも一般生物の魚に食べられるなんて事が起きるんだろ?
「はいはーい! 何をしたら、そんなに食べられるの!? ラジアータは、そんな事ないよね?」
「確かに進化階位が低い時は食べられる事も多かったが……今はそうでもないからな。ケイさんはどうだ?」
「俺も最近は、そんな事は特にないけど……」
「それは、ケイさんは『同調種』だからでしょうね。ラジアータさんは……ただの支配進化ですか? それともその先の『同調』ですか?」
「俺もケイさんと同じ『同調種』だな。そういうジェイさんは……なるほど、共生進化か。離して行動する事があるんだな?」
「まぁそういう事ですね。コケ単体で動く場合だと、水中では今でもよく食べられるんですよ」
「あー、そういう……」
俺やラジアータさんと違って、ジェイさんは支配進化の系統じゃないもんな。『遠隔同調』で一時的に切り離す事は出来ても、基本的にはロブスターやヤドカリと一緒だから食べられにくくなってるだけなのか。
「だからこそ、『百鬼夜行』の水棲生物達に食べさせるという案は、非常に有効だと念押ししておきましょう。ベスタさん、その辺も考慮に入れていましたよね?」
「あぁ、まぁな。だからこそ、ここの地下湖の黒の異形種達の変質進化が最優先だ」
「……なるほど」
ベスタは色んな要素を考えた上で、この地下湖を最優先にしてるんだな。まぁ可能なら、『百鬼夜行』の全ての個体を変質進化させたいとこだけど……時間とアイテムが足りるかが分からないから、優先順位は決めておかないとマズいしね。
「俺は俺でゴマタノオロチと戦うメンバーとの下準備が必要だ。ケイ、そこの湖畔に『情報組成式物質構成素子』と、核にする原石は集めてもらってある。クオーツへ頼むのは、任せていいか?」
「あー、あそこに積み重なってるやつか。おし、そこは任せとけ!」
「なら、頼んだぞ」
そこまで言って、ベスタは紅焔さん達のPTから抜けていった。自分のPTじゃないと表示が出ないのは……まぁ仕様っすなー。さて、それじゃジェイさんと斬雨さんをPTに入れていきますか!
「斬雨、PTを抜けますよ」
「おう! でも、ここで抜けたら外の様子が分からなくならねぇか?」
「指揮はスリムに任せていますし、中のこちらが片付けば、それで済む話です。幸い、まだ無所属の乱入勢の大攻勢はありませんしね」
「あー、ちょい待った。ジェイさん達、外のスリムさん達と連結PTを組んでる状態?」
「えぇ、そうですが……気付いていなかったのですか?」
「いやいや、その辺は単なる確認だから! その状態なら、フィールドボス戦の直前までは今の状態を維持しといてもらえない? 外の情報は気になるし、まだしばらく時間はかかるしさ」
「だそうだぜ、ジェイ。俺もケイさんの意見に賛成だが……どうするよ?」
「……少し気が逸りましたか。そうですね、状況を考えるとその方がよろしいかと思います。私と斬雨がケイさん達の連結PTに入るのは直前にしましょうか」
「おし、それじゃそれで決定で!」
その方が、外の様子が分かりやすいからなー。今は灰のサファリ同盟の人達を筆頭に色んな人が行き来してる状態だけど、フィールドボス戦が始まれば、実際に戦闘するメンバー以外は外に出る事になるだろうしね。
フィールドボス戦、開始ギリギリまで情報を得られるようにするにはこれがベストな判断のはず!
「では、クオーツとの接触はお任せしますよ」
「ほいよっと。とりあえず、アル、色々積み重なってるあそこに移動で!」
「おうよ!」
という事で、さっきから色んな人が行き来して、先ほどよりも更に積み重なっている『情報組成式物質構成素子』と原石の側に寄っていく。これ、俺らが使いやすいように所有権を放棄して、本当に捨てられた状態なんだろうね。
「これ、凄い数なのさー!?」
「みんな、気合い入ってるかな!」
「あはは、これって何個あるんだろうね?」
とんでもない量があるけど……本当、みんなからの提供に感謝! いやー、群集の中でも奪い合いになってたのに、今こうしてその時に拾ったものが集まってきてると考えたら、凄い光景だよなー。まさか、こんな形になってくるとは思ってなかった!
それで……この場合、どうやって始めたらいいんだ? とりあえず、クオーツの部品は取り出してみたけど……今、エメラルドはいないしな。とりあえず、翻訳機も取り出して、こうしてみるか。
「地下湖の中にいる『百鬼夜行』は、集まってくれ! 安定化させるから!」
呼びかけてみれば……おー、続々と集まってきてますなー。これで、クオーツの方に繋がってくれれば……あ、緑色に変わったし、繋がったか!
[これは……また、随分と大勢を集めたな?]
「まぁなー。クオーツ、ここにいる黒の異形種達の変質進化を頼めるか? 材料なら、ありったけそこに持ってきてる!」
[……確認した。【情報組成式物質構成素子】が82個、核になりそうな原石が71個か。この場にいるのが……43人。全員に行き渡るだけの個数はあるようだ]
おー、俺らは個数を把握してなかったけど、あっさりとクオーツが把握してくれたね。黒の異形種が43人……『人』で数えてるんだなー。まぁ元が俺らの精神生命体なんだから、『体』よりも『人』の方が正確なのかも? いや、でもモンスターだし……その辺、地味にややこしいな!?
まぁともかく、変質進化を実行するだけの数は足りるようで安心した! これなら、地下湖にいる個体全てに――
「……何人か、ここに来ていないようだが? ……クオーツ、それらは人数にカウントされているのか?」
十六夜さん、そういうチェックをしてくれてたのか! ベスタが翻訳機能だけでは対話し切れてない個体もいるって言ってたし、そういうのが湖の奥にまだ残ってるのかも?
[ひとまずは、そなたらの近くへ集まっている者達だけで数えている。離れている者は、まだ同意を得ていないと判断するが……?]
「……なるほど。……それらの者は、納得させてからという事だな?」
[無理強いをする気はないからな。意思に反する者は、この場から離れてくれて構わんぞ]
『……ワレハ……アンテイヲ……モトメル!』
『……ワタシモ……ダ!』
『オレモ……オナジ……ダ』
『……カケタ……ママハ……イヤダ!』
『アンテイ……ヲ!』
『……キエル……ノハ……イヤ!』
『……コノ……フアンガ……キエルノ……ナラバ……!』
静かに集まってた黒の異形種達が続々と、意思の表明をしてきてる!? 大量に返事がくると対応が大変だから、翻訳機能で意思疎通が可能な個体でも静かにしてたっぽいね。
[そなたらの意思、しかと受け取った。それでは、安定化を――]
「あ、クオーツ、待った! 先にちょっと確認しときたい事がある!」
[……確認したい事?]
「この変質進化、持続時間は!? 勝手に効果が切れたりはしない!?」
これ、前回の接続時に聞こうと思って、その前に切断されて聞きそびれたやつ! クオーツ自身に聞けるのなら、この答えは教えておいてもらいたいんだよな。
[なるほど、持続時間か。それに関しては、気にする必要はない。原石に送り込む我の力を核にしての、安定化だ。我が力を引き上げない限り、勝手に切れる事はないだろう]
「あ、持続時間に制限はないのか」
[そういう事になるな。……だが、核が外れた場合は、その保証は出来んぞ]
「核があるのが重要なんだな?」
[それが要になっているようだからな。それが外れぬ限りは、心配はいらん]
「分かった! 聞きたかったのは、それだけだ!」
[新たな同胞の誕生なのだ。心配する部分が出てくるのも当然の話だな]
んー、まぁそういう事にもなるんだろうけど……とりあえず、確認したい事はこれではっきりした。核になるクオーツの力を宿して宝石に変わる原石さえ無事なら、変質進化は永続的なものではある。
ただし、核となる宝石は外れれば、その限りではない。という事は、核を狙って外せば……黒の異形種に逆戻りか。身体面では機械で補われた状態のままだろうけど、精神面や存在としてのバランスは欠いた状態に戻る訳だ。これ、狙って外すような場面が出てきそうな予感がするね。
[さて、改めて……そなたらの安定化を始めよう!]
『オォォォオオ!』
黒の異形種達の声なき声が地下湖に響き渡って、不気味な雰囲気になってきてるな!?
「おぉ!? 機械の砂が、大量に浮き上がっていくのさー!?」
「大量の原石も、それに巻き込まれていってるかな!」
「原石が、宝石に加工されていってるね」
「こりゃまた、随分と派手な状態だな?」
「まぁ、人数が人数だしなー」
同時に43人分の変質進化が起こっているんだから、それだけ派手になるのも当然だよなー。本当、色んな原石……何が何やら数が多くてサッパリだけど、クオーツの浄化の力が宿った後の光り方の色が違うから、色んな種類の宝石なんだろうね。
[我の力を宿すのは、完了した。これより、そなたらのそれぞれの身体にあった補填を行い、安定化させる。力を抜き、我に委ねてくれ]
『オォォォオオ!』
次は、光り輝く宝石と機械の砂が、それぞれの黒の異形種の元へ行き、卵状に包み込んでいく。中から禍々しい瘴気と浄化の光が溢れつつ、混ざり合っていくのはエメラルドの進化の時と同じだな。
てか、一気に出来るんだね? 1体ずつ順番に……なんてのも覚悟してたんだけど、思った以上にあっさり終わりそうだ。
[……これで、安定化は完了だ]
『これが、俺なのか……?』
『やった! 安定してる!』
『嘘だろ? あんなに渦巻いてた不安が、消え去って……』
『ははっ! これが、安定化した状態!』
『こうも違うのか!? おい、まだ不安がってる奴に伝えてやるぞ!』
『あ、あぁ! そうだな! あいつらにこそ、これは必要だ!』
『不安から、恩人達の邪魔をしていたが……そんな真似、これを知ったからにはさせられねぇ!』
あ、妨害してたのって、不安感が理由だったんだ!? いやまぁ確かに、急に来た俺らの事を全面的に信用しろって方が難しいし、一部にそういうのが出てきても仕方ないか。
てか、ゾンビだった個体は一部が金属になって、スケルトンだった個体は全身が金属になってるのか。元の姿によって、微妙に差異はあるんだね。まぁ違いはあって当然か。
[もう少し、接続は繋いだままにしておくか。すぐにまた、必要になりそうだしな]
「そうしてくれると助かる!」
無理強いは出来ないとはいえ、これで考えを変えてくる黒の異形種もいるだろうしねー。その為にも、クオーツには少し残ってもらう方がありがたい!
でも、こういう光景って……なんか胡散臭さは感じるよね。いきなりやってきて、『対価も求めず助けます!』って、不審がられて当然だしさ! まぁ俺らがその実行側だし、特に変な事も企んではないけども!