第1602話 湖方面の様子
大量の黒の異形種達を引き連れて、洞窟の外へと出てきた。エメラルドからは、何気に機械人達とも接触も考えてたなんて不穏な話も出てきたけど……意思を感じないと言ってたし――
「横から失礼しますが……エメラルドさん、他の集団はあれら……クオーツからは機械人の製造した『採集機』と聞いていますが……あれらと接触している可能性はありますか?」
『……意思あるものとの対話が可能であれば、可能性はある。それこそ、そなたらのようにな。だが、少なくとも我らはそのような相手を確認してはいない』
「……なるほど、相手の意思が重要なのですね?」
『あぁ、そうだ』
ふむふむ、少なくとも今は、対話をする機械人そのものがこの星には来ていないって事になるのか? 流石に翻訳機能があるんだから……生命と認められない機械人だったとしても、対話の余地が皆無だとも思えないしなー。
まぁ交渉の余地があるかは……問答無用の捕獲っぷりを考えると、かなり怪しい気もするけど……。
「ケイさん、少し意見をお聞きしても?」
「別にいいけど……何に対する意見?」
「機械人と黒の異形種との接触の可能性についてですね。私は、現状ではあり得ないと思っていますが……ケイさんはいかがです?」
「……現状では……か。あー、確かにそれはそうかも……?」
ジェイさんの今の言い方、あくまで現状に対する認識だよな? でも、今後がどうかは言ってないから……なるほど、言いたい事は分かってきたかも?
「ジェイ、そりゃどういう意味だ?」
「次の共闘イベントで、接触する可能性があるって読みで合ってる?」
「えぇ、その通りです」
「なっ!? 次の共闘イベントでか!? 確か、機械人が次の共闘イベントの敵だって予想してなかったか!?」
「えぇ、していましたよ。今の緊急クエストが、その前兆イベントだと思っていますしね。なので、今のこの黒の異形種との接触も、その一環だと思っています。もちろん、今の簒奪クエストも含めましてね」
「おいおい、それじゃ乱入勢が機械人側に付くとでも――」
「その可能性も、あり得ると思っていますよ?」
「なっ!?」
斬雨さんは驚いてるけど……正直、その可能性は否定出来ないよな。黒の異形種達の身体を補う手段は、機械人由来の技術が元になっている。
安定化させる為の【陽】……つまり、精神生命体の力を得られるのなら、機械人が味方をする可能性は十分考えられる。機械人に精神生命体の存在は知られたらいけないみたいな話もあったけど……あちら側に与する人が出てもおかしくはないんだよなー。
「俺もその可能性はあると思うけど……ぶっちゃけ、そうなってみるまで、どうなるかは分からないぞ?」
「まぁそれはそうなんですが……場合によっては、既に占拠されてしまった場所の奪還は、現状では不可能かと思いましてね」
「それって……機械人が、その占拠されたエリアを拠点にするからかな?」
「えっ!? サヤ、そうなの!?」
「可能性としては、ありそうだよね」
「あはは、ただの予想かな?」
「サヤさんのその予想は、それほど間違ってはいないと思いますけどね。機械人が襲来してきた場合、どこが戦場になるのか、ずっと考えていたんですが……流石に宇宙という訳にはいかないでしょう?」
「まぁ、そりゃなー」
色んな種族で空を飛ぶ手段はあっても、宇宙まで出れる種族はいない。身体から抜け出た精神生命体であれば可能だろうけど……それだと、ゲームの根幹から揺らいでくるもんな。
そう考えると、地表のどこかが戦場になる訳だけど……初めての時の共闘イベントの時は初期エリアや常闇の洞窟、それとその近くのエリアが対象になってたんだし、今占拠された場所が、そういう場所になる可能性はあり得るな。ただ、問題は……。
「機械人が、占拠した黒の異形種や乱入勢をどう扱うかにもよるんじゃね? 絶対に味方になるとも限らないだろ? 最悪、三つ巴になる可能性だってあるような……」
「……まぁ確かに、あくまで現状では推測に過ぎませんからね。正直、空からの機械人の先兵の襲来から、今のように事態へ推移するとは、欠片も予想していませんでしたしね」
「あー、それは分かる!」
今の事態を直接引き起こしてるのは簒奪クエストではあるけども、どう考えてもUFOの襲来とも密接に関わってるもんなー。参加する立ち位置の違う大型のクエストが、互いに影響しあってるんだから……そう考えると、状況次第で、次の共闘イベントの内容そのものに影響が出るのはあり得そう。
「はい! 逆に、私達が守ろうとしてる、中立になった黒の異形種達の洞窟が狙われる可能性はありませんか!?」
「……ないとは、言えませんね?」
「それこそ、身体の補いに使った金属が呼び寄せるって可能性もあるんじゃねぇか?」
「あ、その可能性もあるな!?」
くっ! もし、そうだとすると……展開的には嬉しくないんだが!? これ、もしかしたらどこかの群集の下に付かせるか、中立でいさせるか、敵対になるかで、共闘イベントがルート分岐する?
いや、全部が全部、同じ勢力になる訳じゃないから……それぞれで、機械人からの接触方法が変わってくるのかも? あー、結局は推測に過ぎないから、結論は出ないか!
「そろそろ、時間切れのようですね」
「みたいだなー」
話している間に辿り着いたのは、青の群集の面々が展開している3属性のドーム状の防壁の目の前。でも、群がっている黒の異形種に驚く様子がないのは……ここでも中継が行われているからか。
何気に不動種の人が来てるんだから、凄い事を考えるよなー。纏樹を使えば移動は可能になるとはいえ、前線に不動種を送り込むという発想が……うん、敵に回すと危険だよ、このドーム。
それにしても、内側にいるプレイヤーの数が結構多いから、かなり広めに展開されているとはいえ……黒の異形種達の移動速度が、ちょっと遅めなのが気になるな。
それほど大した距離じゃないのに、思ったよりも移動に時間がかかったし……これは、集団を運用する上でのデメリットかも?
いや、滝があった影響も多少はあるか? どうしても滝の部分はプレイヤーほどスムーズな移動とはなってなかったし、地形の影響は受けやすいのかもね。まぁその辺は、ここから先に進めばもっと分かってくるか。
「ケイさん、わたしが先行偵察をしてくるから、少しだけ待ってて! 戻ってくるまで、ここは開けちゃ駄目だからね!」
「ほいよっと!」
「それじゃ、ちょっと行ってくるね!」
「よろしく、レナさん!」
そう言って、レナさんはドーム状の防壁……その攻略の弱点となりうる、川との接点の部分へと進んで……川へ潜って、上流へと泳いでいった。
やっぱり、そこの部分がこのドームの弱点だよなー。どうやっても塞ぎ切れない場所になるから、警戒しておかなければ、こうやって素通りが出来てしまう。まぁそれだけ重要な部分だからこそ、他よりも防衛要員が多いんだろうけどさ。
「ケイ、今のうちに獲物察知でも探知をしとけ」
「……アル、それって思いっきり黒の異形種達が引っかかりまくると思うんだけど?」
「いや、そうでもないだろ。確か、表示のオンオフの切り替えが出来たんじゃないか?」
「……へ? あ、そういやそうか! それなら、いけるかも!」
一般生物の表示の切り替えが出来たんだから、それ以外でも可能なはず! とりあえず、発動してみて……。
<行動値を6消費して『獲物察知Lv6』を発動します> 行動値 127/133
アルに乗った後、発光と飛行鎧は解除しておいたから、今は上限の使用はなし。
まぁそれはいいとして……無茶苦茶、多過ぎる反応を拾ってるけど……よし、黒の異形種だけをオフに出来るな! ずっとオフにしっぱなしって訳にもいかないけど、今は黒の異形種の表示はオフにする!
「ケイ、どうだ?」
「んー、オフには出来たけど……特に目立って変な反応はなし?」
ザッと眺めた感じでは、普通にUFOと落下物を探していた時とそう違いはない。……近くにプレイヤーの反応が多いという事を除けば。
「ケイさん、油断はなさらないようにお願いしますよ。ここに向かう乱入勢らしき無所属のプレイヤーや、黒の統率種に従っていると思わしき敵は、少なからず存在を確認していますからね」
「その辺の相手って、迎撃してた?」
「いえ、このドーム状の防壁を見て、撤退しているそうです。見張りやすいように、あえて『瘴気の転移門』は消さずに残していますしね」
「……なるほど」
ベスタがこのドームの内側にいる戦力を外に出そうとしないのは、乱入勢の動きを警戒してのものでもあるのかもね。まぁ人数の不足は、黒の異形種達の協力で……って、ちょい待った!
「もしかしなくても……乱入勢も、俺らみたいに黒の異形種の集団を差し向けられる?」
「それは当然でしょう。だから、私はここに残るんですよ。青の群集の戦力指揮として、離れる訳にはいきませんからね」
「ですよねー!」
ジェイさんが俺らに着いてこようとしないのは、何か企んでるかもって疑ってすみませんでした! ちょっと考えたら、乱入勢が俺らと同じ事が出来るのは当たり前の話だったわ!
そう考えると、思った以上に乱入勢の戦力はやばいな。複数の属性のLv10の操作で組み上げられてるこのドームでも、侵食の効果で破られる可能性は十分あるぞ。1体ならまだしも、数が半端ないし……。
一応、黒の異形種の表示もオンに戻して……ふむ、特にそういう集団がいるような気配もないな。ただ、この状況で獲物察知の使用は、視界に情報量が多過ぎる!
群集所属のプレイヤーなら連結PT単位までの纏めた表示も可能になってるからマシだけど……黒の異形種の大群を引き連れている状態じゃ、黒い矢印で埋め尽くされ過ぎ! とりあえずオフに戻して……あ、レナさんが戻ってきた。
「周辺確認、完了! 『瘴気の転移門』が湖方面に1つあるのが気になるけど、目視の範囲では敵影はなしだね!」
「……マジっすか。嫌な情報だな、それ」
周囲にある『瘴気の転移門』を消さずに放置しているジェイさんの方針は分かるけど、今の状況で、目的地にあるのはリスクがあり過ぎるし――
「なぁ、ジェイ。俺を運ぶの、任せていいか?」
「……斬雨、消しに行く気ですか?」
「まぁな。俺はドームの中に居たって、本格的に攻め込まれるまでは出番はねぇしよ。だったら、それが起こるきっかけを潰しておく方が安全じゃねぇか?」
「……まぁそれもそうですね。これからの目的を考えれば、その方がリスクは減るのは間違いないですか」
ん? もしかしなくても、この流れって斬雨さんが消しに行くパターン? え、でも、あの門の破壊って浄化魔法じゃなきゃ……いや、浄化属性さえあれば、物理攻撃でもいけるのかも?
「ケイさん、私と斬雨で湖方面の『瘴気の転移門』を消滅させてきます。構いませんね?」
「……任せて、いいんだな?」
「おう、任せとけ! 邪魔な門は、俺が消し飛ばしてやらぁ! ま、物理攻撃で消せるかの、実験にもなるがな!」
「……最悪、私が浄化魔法をぶっ放しますので、お気になさらずに――」
「ちょ!? ぶっつけ本番!?」
「……ケイさんが、それに驚くのですか? ご自身がいつもしている事なのでは?」
「確かに、それはそうかな?」
「まぁケイが言うのは、俺も違うと思うぞ?」
「同感なのさー!」
「あはは、そうかも?」
「みんな揃って、納得し過ぎじゃね!?」
くっ!? 他のみんなも納得しながら笑ってるし……まぁ否定は出来ないけども!
「スリム、『瘴気の転移門』の消滅に成功したら、入り口を作ってください。それまでは、この場の指揮をお任せしますよ」
「ホホウ、了解なので!」
「場合によっては、私と斬雨は戻れない可能性もありますが……あぁ、こういう手がありましたか。紅焔さん、仮に私が身動きが取れなくなっていたら、仕留めていただけますか? ここへ、リスポーン出来るようにしておきますので。『群体分離』!」
「おっ! いざって時は、死んで戻るって事か! おし、その役目は引き受けたぜ!」
「お任せしましたよ。では、斬雨、行きましょうか」
「おう! 俺だけで済めば、それが一番なんだがなー」
「ぶっつけ本番なのですから、文句は言わないで下さい。……まったく、いつもこのような不確定な手段でひっくり返されると思うと……作戦を立てる意義が分からなくなりますね」
「ま、それも一種の強みってもんだろ! そういうのを咄嗟に思い付くってのも、すげぇもんだと思うぜ?」
「……それを否定する気はありませんよ」
なんか、色々と言葉に俺に対する棘がありまくるような気がするんだけど……まぁここはジェイさんと斬雨さんに任せよう。てか、この2人も川の中を通って出ていくんだね。欠点だと思ってたけど、意外と利点でもあったりする?
まぁ出入りの方法はいいとして……今の状況で俺らのメンバーから戦線離脱者を出す訳にはいかないから、任せられるのはありがたい。
それにジェイさんなら、最悪、自身が戦闘不能でも指揮は取れるし、その為に戻ってくる手段も置いていったんだ。……いつかの競争クエストの最中に俺がそれをやったの、思い出すなー。
それほど時間がかかるとは思えないけど……今はとりあえず、待ちだな。危なくなりそうなら引くのを前提にした偵察だけど、リスクは可能な限り下げておきたいしね。
フィールドボスの襲来はともかく、乱入勢の襲来の可能性は下げられるんだから、その為の手は打っておかないと!




