第1598話 戦場候補の調査 前編
紅焔さんの提案で、この洞窟にあるという地下湖の水を、また別にある縦に広い空洞へと移す事になった。とはいえ、まずは実物の確認からだなー。
「ケイ、地下湖と空洞、どちらを先に見ておく?」
「……んー、とりあえず空洞の方? 水を貯めるのなら、下がどうなってるかを確認しときたいしさ」
「なら、そちらが先だな。エメラルド、空洞はどちら側だ?」
『空洞なら、右側の通路の奥になる。そちらから案内すればいいのだな?』
「あぁ、それで頼む」
『では、案内しよう』
という事で、エメラルドの後ろをゾロゾロと追いかけていく。今いる広間、やっぱり結構広いな? フィールドボスが想像通りでも、そうじゃなかったとしても、戦力の集合場所はここがいいのかも?
「……ほう? 全員、少し聞いてくれ。蒼弦から、少し報告が上がってきた」
「蒼弦さんからって事は……占拠された海岸の件?」
「あぁ、そうだ。攻め込む前に先行偵察を行ったそうだが……黒く染まっていない、白いままの無所属も集まってきているそうだ」
「……乱入クエストを進めていなかった無所属がですか? いえ、確か呼びかけがあったという報告は出ていましたね」
「その呼びかけに応じた奴らが、意外といるって事かよ!」
「まぁそういう事になる。……灰の群集に傭兵としてきていた羅刹達も、その中にいたという報告が上がっているからな」
「っ!? あの方がですか!? 一体、何を考えて……あぁ、なるほど。そういう事ですか」
ちょ!? ジェイさん、今こっちを見て何に納得した!? ……あ、今の情報を冷静に聞き過ぎたのが原因か? その反応で、既に知っていた事に……いや、そもそも裏切ってすらいない事にまで気付かれたかも?
「風雷コンビに頼みたいのですが……私のこれからの発言と、それに関連する返答は書き起こさないよう、お願いできますか?」
「「了解だ!」」
あー、これは……察しただけじゃなく、直接確認してくる気だな。そうじゃなきゃ、風雷コンビにそんな事を頼む訳がない。
「羅刹さん達が、灰の群集へと身を寄せているのは把握していましたが……ここで尋ねさせてもらいますよ。あの方達は、スパイとして潜り込んだのですか?」
「……ジェイ、この場だけで情報は漏らさないと誓えるか?」
「それは肯定と捉えてもよろしいのでしょうね。ご安心下さい、ベスタさん。そういう動きなのでしたら、私達にも好都合な話ですので、不用意に暴露はしません」
「それなら構わんが……これは言っておく。灰の群集でも、その件を知っているのは俺のいるこの連結PTのメンバーだけだ。風雷コンビ、中継班、今の内容は他言無用だ。絶対に漏らすな」
「言うわけがないな! なぁ、疾風の!」
「最重要機密だしな! なぁ、迅雷の!」
あー、こんなにあっさりジェイさんに見抜かれるとは……いや、見抜かれる前提で、ベスタは羅刹の名前を出したのか? 今の話の流れで、無理に名前を出す必要はなかったはず……。
「ベスタさん、意図的に私が気付くように情報を出しましたね? その狙いをお聞きしても?」
「これで、俺がこれからする質問がやりやすくなるからだ。蒼弦からの報告には、『いか焼き』の名もあったが……青の群集も同様の事をしているのか?」
ちょ!? え、いか焼きさんって、青の群集に移籍した元無所属の人だよな!? なんで、青の群集に移籍までした人が、そんな状態になってんの!?
「……いか焼きさんがですか? いえ、それは私も初耳ですが……」
「ジェイ! それ、マジ情報っぽいぞ! 今、いか焼きが青の群集の傭兵達を引き連れて、離れていったって情報が入ってきてやがる!」
「……との事ですね」
「なるほどな。それは……裏切りか?」
「いえ、ほぼ確実に、裏切りに見せかけたスパイでしょうね。まぁ羅刹さんと同様に、すぐスパイだと疑われるとは思いますが……」
「そうだろうな。どう考えても、移籍した人間や傭兵として動いていた人間が動けば、それだけ不自然さは出る。……となれば、必然的に他の狙いがあるはずだ」
「本命のスパイを隠す為の囮……あるいはそれを連想させて、疑心暗鬼にするのが狙いでしょうか?」
「……その辺りの確信的な情報が欲しかったんだが、流石に持っていなさそうだな」
「申し訳ありませんが、そういう事になりますね」
「まぁそれは構わん。どっちにしろ、表沙汰には出来んし、羅刹達は普通に敵として扱ってくれていいからな。本人達からの希望でもある」
「対応としては、当然でしょう。ここで聞いた事は、聞かなかったものとして扱いますよ」
羅刹達が、本命のスパイを隠す為の囮か、そういう存在がいる事を匂わせて疑心暗鬼にするのが狙いか。まぁどっちもありそうな内容だし、群集所属のプレイヤーが手伝ってる可能性も含めて考えれば……更に内部から引っ掻き回せるな!
この感じだと、赤の群集に味方してた傭兵や縁がある人も、同じような事をしてるかもね。もし、本当に本命のスパイがいるのだとすると……その全てに縁がある人って可能性もありそう。まぁ現状では正確な事は分からないけどさ。
「それで、ベスタさんは青の群集からのスパイを探るのだけが目的で、今の報告を伝えたのですか?」
「いや、今のはあくまでもおまけで、本題はこれからだ」
「でしょうね。今の状態で、不確実な対応を求める程度なら、伏せておいた方がいいでしょうからね。それでも伝えたとなれば……何があったのです?」
「羅刹達と、いか焼きの率いる青の群集の傭兵勢が……どうやら協力関係を結んだようでな? どうも、他の乱入勢ではない無所属も取り込んで、一勢力を築いているらしい」
「羅刹、無茶してるな!? それ、内側に入るってより、向こうの勢力を二分しようとしてない!?」
「……思った以上に、群集寄りの人が多かったのかもしれませんね。そういう割れ方は、ここまで簒奪クエストを進めてきた人達にとっては非常に嫌な状況でしょうし……」
「……主導権を、乗っ取られかねない」
「あー! その主導権を乗っ取られるやつ、私達が競争クエストで味わったやつじゃん!」
そういや、曼珠沙華の3人で弥生さん達へのリベンジで動いてたはずが……いつの間にか規模が大きくなり過ぎて、実態がズレた結果だったんだよな。だからこそ、作戦の発案の彼岸花さんはそのまま参戦してたけど……リコリスさんとラジアータさんは、ほぼ何もせずにいたんだったっけ。
今、それと同じような事が、乱入勢の中で起こり始めている? その起点として、羅刹達やいか焼きさん達、疑われそうな人達の結集が起こって……これ、誰かに仕組まれて――
「ベスタさん……その分断は、誰かの意図が介在しているという事か?」
「あぁ、その通りだ、ラジアータ。彼岸花、この件にライブラリが絡んでいる可能性はあるか?」
「……ライブラリは、多分だけど……今回は手は出さないはず?」
「ライブラリさん、基本的に仕込み終わったら、結果が出るまでは手を出さないからねー。ここで大々的にそういう仕込みは入れてこないと思うけど……」
「レナさんの言う通り! もしここでやってたら、ぶっ飛ばす! やってなくてもぶっ飛ばすけど!」
結局、どっちでもぶっ飛ばすんかい! いやまぁ、リコリスさんがそう言う気持ちも分かるし、俺もライブラリを 見かけたら倒したい気持ちはあるけどさ!
「……なるほどな。ジェイ、元からスパイが潜り込んでいる可能性も考えているんだが……」
「簒奪クエストを推し進めた乱入勢の中に、という事ですか? いるのならば、情報収集のスパイというよりは、裏で暗躍する工作員でしょうが……少なくとも、私達の方からは送り込んではいませんよ。可能性はあるとは思いますけどね」
「となると……赤の群集か」
「ウィルさんの無所属時代の伝手……という線が濃厚かもしれませんね。まぁ元より、今回の簒奪クエストにはインクアイリーに属していた群集所属のプレイヤーが協力している節もありますし、これで対等な条件になるのでは?」
「……それもそうだな。この件はまだ情報が足りていないし、一旦保留にしておくか。……どうやら、目的地に辿り着いたようだしな」
「えぇ、そうしましょう。……それにしても、これは洞窟の中とは思えない空洞ですね?」
蒼弦さんからの報告の話をしてるうちに、アルでも普通に通れるくらいの通路を通って、今はかなり広大な空間がぽっかりと目の前に拓けている状態。これ、広い範囲を照らせられるように、拡散気味にしてた懐中電灯モドキでは全体像が見えないんだが!?
「紅焔さん、下を照らしてくれ! 俺は上を照らすから!」
「おう、任せとけ! おらよ!」
火の玉が下へ、俺の懐中電灯モドキは上へと明かりを当てていく。遠い距離まで照らすように、光を絞って……おーい? 天井、まだ見えないんだが?
チラホラと、骨やゾンビの黒の異形種が飛び交ってるけど……結構な広さもありそうだぞ!?
「あ、底が見えたかな!」
「上と違って、下はそう深くないんだな? 精々、4メートルってとこか」
4メートル……まぁ決して低い高さでもないけど、飛ぶのを想定するなら、それほど気になる深さじゃないな。横にも結構広いから、地下湖の水量次第だけど、こっちに水を移すのは非現実的な条件ではなさそうかも?
「あー! 底にUFOがあるのさー!」
「でも、全壊してそうだよ?」
「ふふーん! ヨッシさん、こういう時は、識別あるのみ! 『識別』! あ、やっぱり全壊だね!」
「あ、やっぱり全壊してたんだ」
まぁ俺もチラッと見てみたけど、どう考えても全壊してるよな、あのⅠ型のUFO。割と凸凹してるのな、ここの空洞の底部分。まぁそっちはそれでいいんだけど……。
「……ベスタ、上まで光が届き切らないんだけど?」
「かなり高いようだな。地下ではなく、上に高くて……この方向か。エメラルド、この場は山の中か?」
『位置関係としては、そのはずだ。見ての通り、我らの中でも飛べるものはここに多くいる』
「やはりか。風雷コンビ、上がどうなっているか、確認してきてくれ。目印として、『雷纏い』を使ってな」
「承知した! 行くぞ、疾風の!」
「合点だ! 行くぞ、迅雷の!」
「「『雷纏い』『高速飛翔』!」」
おー、『雷纏い』で体表から放電している電気が、暗闇の中での目印になっているね。しかも風雷コンビは並んで飛ぶ訳じゃなく、側面ギリギリを螺旋を描くように飛んでいってますなー。
中央から対称的に動いてるから、風雷コンビの2人の動きを見るだけで、この空洞の端から端の距離も分かりやすい。これ、端から端まで20〜30メートルくらいあるかも?
「この辺りが、天井だな! なぁ、疾風の!」
「ケイさんの光の、少しだけ先だな! なぁ、迅雷の!」
「よくやった、風雷コンビ! 戻ってきてくれ」
「「了解だ!」」
ふむふむ、俺の光が僅かに届かなかったけど、ほぼあれが最大の高さか。まぁ想定よりは高くなくてよかったのかもしれないけど……それでも相当な高さだよな。あー、高過ぎて、いまいち距離が分からん!
「この高さは……厄介だね。横も狭いとは言えないし、かなり戦い方が制限されるんじゃないかい?」
「だよなー。まだ地下湖の方を見る必要はあるけど……こっちに飛翔連隊が必須かも?」
ソラさんんの見立て通り、ここは飛行戦力が必須かも。状況次第では、俺らと飛翔連隊は別々の部隊に分ける事も考えてたけど、浮いておける俺らもこっちの方がいい――
「わっはっは! やはり、俺らの出番はこっちか!」
「いえ、これは……あれを試す時かもしれませんね」
「ライル、あれをやるのか?」
「実戦、初投入!?」
「ん? ライルさん、あれって何?」
なんだか気になる話をしてるけど……一体なんだろう? ライルさんが、何か便利なスキルでも取得したのかな? 松の木を持っているライルさんが言うと、飛翔連隊の他のメンバーよりも気になる部分ではあるんだよな。
「UFOの落下物から得たスキル強化の種で、土の操作をLv10まで上げましてね。あの馬鹿げた生成量なら、この縦長の空洞を封鎖する事は可能だと思いますよ」
「あ、マジか!? それ、使えるじゃん!」
てか、青の群集にあれだけ同様の事が出来るプレイヤーが揃ってるんだし、そりゃ灰の群集にもいますよねー! それが今の連結PT内にいるとは思ってなかったけど、これはいい!
松の木の土台に岩を使ってるライルさんがそれを使えるのなら、変にメンバー構成を変える必要はないもんな。もし万が一破られても、飛ぶのを前提に構成されている飛翔連隊なら、変に乱れる事もなく再展開もしやすい。
「ちょ!? ライル、それじゃ折角の空中戦が台無しじゃねぇか!?」
「紅焔、今回はこの地の防衛がかかっているのですよ? 個人のわがままで、それを台無しにする気ですか?」
「うぐっ!? 分かった、分かったよ! これ以上、異議は言わねぇが……決定を下すのはケイさんだしな!」
「あー、まぁ普通に今の手段、フィールドボスが飛行種族なら使うけどな?」
「わっはっは! ……はぁ、やっぱりそうなるよなー」
ばっさりと切り捨てる事になるのは悪いけど、ライルさんの土の操作Lv10は冗談抜きで有用だからなー! 何より重要なのは、これからその人員を用意しなくていい事と、
破られても飛行への不安要素が薄い事! この2つは、飛翔連隊だからこそなんだよな。
「とりあえず、ここはこの程度でいいだろう。エメラルド、地下湖の方の案内を頼む」
『あぁ、分かった。こちら側にそちらへ繋がる横穴があるから、そこから向かおう』
……ん? ここ、他にも入り口があったの? あー、確かに左の壁面に沿って、少し登っている通路らしき場所があるね。
この先の横道、戦闘時には塞いだ方がいいか? んー、まだ判断し切れんなー。状況次第では増援や予備戦力の待機場所にもなりそうだし……まぁ地下湖まで行ってみて、改めて考えようっと。最終的には、どういう種族のフィールドボスが出てくるかによっても変わってくる部分だしね。




