第1595話 黒の異形種の変化
骨のコウモリが大きく姿を変えて、金属のコウモリへと変化した。これ、クオーツの手を借りた進化って事になるのかな?
まぁ今はそれはいいや。それよりも、先に話しておくべき事があるんだし――
『守護者クオーツ、感謝する。欠けていたものが満たされて、生まれ変わったような気分だ』
[上手くいったようで何よりだ。だが、【欠けていた】とはどういう意味だ?]
あ、演出が進んじゃったか。なんだか重要そうな内容っぽいし、ここへ攻め入ってくる可能性の話は、区切りがついてからにしようっと。
『……そうだな。感覚的なものでしかないが、ずっと喪失感のようなものを抱えていた。おそらく、それは我らの生まれに起因するものなのだろうが……』
[なるほどな。残滓から生まれたが故に、どうしても魂にも欠落が存在していた訳か]
『そういう事なのだろう。消える事のない、その喪失感を埋めようと……我らは意思を、存在の証明を求めてきた。だが、今はその喪失感は跡形も残っていない。……この、埋め込んだ宝石が私を満たしているのだろうな』
あー、あのエメラルドって、そういう役割も満たしているのか。というか、あのエメラルドの中に入れたのはクオーツの浄化の力なんだし……クオーツの力の一部を移植したって形になってたりする?
もし、エメラルドなしで実行していたなら……失敗してたのかもね。やっぱり、1段階、展開を飛ばしたような気がしてくるなー。
[ふむ……。そのような事象があるのなら、核を用意した方が安全そうではあるな]
「クオーツ、確認だ! それ、さっき渡したエメラルド以外だと、どういう物が該当する?」
なんとなく、これの答えは想像出来るけど……ここはちゃんと確認しておくべき! なぜ、エメラルドが核になり得るかの理由も分かるかもしれないしね。
[……そうだな。長き時を我と共に歩んだ物ならば、その核として成立し得るのかもしれん。先ほどのエメラルドには、我の力がよく馴染んだからな]
「あー、そうなると……『金鉱石』や『銀鉱石』、『黒曜石』なんかは使えそう?」
[おそらく、問題ないだろう。どれも、我と共に長い時を経ているのは間違いない。……そういう意味では、【情報組成式物質構成素子】は核になり得ないな]
「……なるほど」
ふむふむ、この説明を聞く限り、鉱石や宝石の原石の使い道は、これで確定か。まぁ他にも用途がある可能性もあるけど、用途の1つになるのは間違いない。
重要なのは、クオーツの精神生命体としての力に馴染みやすいかどうかっぽいなー。そして、UFOを構成していた機械の砂は、それには不適格って事か。
『それらがあれば……私以外の、我らの仲間も、安定化を望めるのか!?』
[あぁ、それは可能だ]
『ならば、頼む! 仲間達を、あの喪失感から……それ以上に、消滅する恐怖から救ってくれ!』
[それは構わぬのだが……我だけでは、材料が集められぬ。干渉せぬと言ったものの……協力を求めてもいいのか?]
「それくらいは任せとけ! 手に入れたら、持ってきてやるっての!」
問われたという事は……ここで断るって選択肢もあるんだろうね。でも、それだとここまで進めてきた意味がない。だからこそ、ここは承諾の一択のみ!
[そうか。ならば、材料が揃えば我を呼んでくれ。その時に、処置をしていこう]
「ほいよっと!」
『……最初は、乱暴な扱いをした我らの為に……感謝する!』
<規定条件を達成しましたので、緊急クエスト【謎の飛行物の落とし物】が進行します>
<『???』の名称が『黒の異形種の集会所』に変更になりました>
<『黒の異形種の集会所』にて、黒の異形種の『変質進化』が実行可能になりました>
って、アナウンスが出たな!? なんかシレッとエリア名が確定してるし……あ、この金属化の状態って、分類上は『変質進化』に該当するんだ? ふむ、まぁ『侵食』への変質進化をすれば黒の異形種みたいになるんだし、その一種って考えればいいのかも?
って、ちょい待った!? 変質進化って事は、これって一時的な進化――
[我の役割は、ひとまずここまでだ。まだ話す事はあるだろうが、我は中立だからな。ここまでとさせてもらおう]
「ちょ!? クオーツ、待っ――あー、遅かった……」
一時的な進化かどうかを聞きたかったのに、その前に接続を切られてしまったよ。くっそ、今の様子からしたら、質問の余地は与えないって感じだな!?
「ケイさん、何を確認しようとしたのです?」
「あー、アナウンスで黒の異形種の『変質進化』が可能って出たじゃん? でも、変質進化って制限時間ありの進化だし……」
「……なるほど。確かに、それは気になる部分ですね? 効果がもし切れれば、元の状態に戻ってしまう訳ですか……」
「んなもん、後からでも補充が出来るとかじゃねぇのか? これ見よがしに、目立つ宝石が埋まってんだからよ?」
「斬雨さんの言う事も分かるんだけど、そこをハッキリとクオーツに確認したかったんだよ……」
「まぁ既に接続は切られてしまいましたし……仮に有限だとしても、すぐに切れる事もないでしょう。それよりも、ここからが重要ですよ?」
「……それも、そうだな」
すぐに効果が切れるようなものなら、クオーツが即座に離れるような演出にはしてないはず。なんなら、今後どこかのタイミングで、効果が切れる事も演出の一部として組み込まれている可能性すらある!
あー、そうか。下手すると、あの宝石を抉り出して、今の変質進化を解除させるって事も、あり得るのかも? それなら尚更に、ここからの対話が重要になってくるな。
『我らは……どのように恩を返せばいいのだ? どこかの元に、下ればいいのか?』
あー、これは味方に引き入れられる可能性もありそうだな? だけど、それだと……多分、群集同士で揉める事になるのは間違いない。
なるほど、さっき考えた宝石を抉り出しての変質進化の解除の可能性は、この辺にあるかもね。どこかの群集の味方になった場合、それを帳消しにする手段として存在してるのかも。
「ジェイさん、ここは出し抜きはなしでいい?」
「えぇ、構いませんよ。ただでさえ、新勢力が誕生しそうだというのに、赤の群集と灰の群集を同時に相手取るのは面倒ですしね」
「そうなるよなー! ベスタ、中立を選ぶのでいいよな?」
「あぁ、構わん。中立地点は、いくらか存在してても困りはせんからな」
「ですよねー!」
実際、黎明の地では中立の場所が必要になって、雪山に中立地点を用意したくらいだしね。ここでのやり取りが分岐点だとしても、選ぶのはこれでいい!
『……我らに、何を望むのだ?』
「俺らが望むのは、クオーツと同じ中立の立場だ! どこにも与せず、平等に対応してほしい」
『守護者と同じ、中立を望むか……。それが、我らの恩人の頼みと言うならば、それを受け入れよう。あぁ、誰かに従うのではなく、自由を得られるのなら……それは非常にありがたい!』
「おし! それじゃ、これからはそれでよろしく!」
この対応、やっぱり俺らの望みを受け入れる流れだったか! 多分、灰の群集だけだったら、灰の群集の味方になれって望み方も出来たんだろうけど……一番望む形は、どこにも縛られない事みたいだし、これでよし!
今の共闘状態だったり、乱入勢の動きを考えたら、群集の味方に入らせる選択肢は取りたくないしなー。まだ、乱入勢は処理し切れてないしさ。
「ただ、1点だけ、確認させていただきたいのですが……あなた方の同類で、既に暴れている方々に不戦や休戦を提案する事は可能ですか?」
『……無理だな。集う場所が違えば、それだけでそれぞれのやり方に変わる。同じ存在であれど、その意思を曲げる事は出来ん』
「……やはり、呼びかけて平穏に終わらせる事は無理ですか」
『……中立を望むという話だが、それは他の我らと同じ存在に対してもか?』
「あー、襲ってくる相手に対しては、自衛してくれ! 好き勝手、されるがままになるのは平等な扱いとは言わんから!」
『それを聞いて、少し安心した。我らは、我らの身を守っていいのだな』
「それは当然! 当たり前の話だしな!」
中立を保つ為に、無抵抗でいろっていうのは違う。どこかの群集に付かないように頼むだけであって、無防備にやられる事を望んじゃいない。襲いかかる火の粉は、ちゃんと振り払えるようにしとかないとね。
「では、次の話へ進めようか」
「ん? ここからは、ベスタが進める?」
「あぁ、そうさせてくれ」
「ほいよっと。それじゃ、任せた!」
ふー、ここまでで俺の出番は終わり! いやー、なんとかこの場所を中立地点にするのには成功だね。まぁ、まだ色々とやるべき事はあるんだろうけど、とりあえずは一区切りっすなー。
『次の話とは、どういう事だ?』
「接触を持って対話をする事が、先程までの目的だ。それは達成したから、今ここに差し迫っている脅威についての話をしていく」
『……何?』
「単刀直入に伝えるぞ。お前達の同類……他の場所の奴らが、俺らの同類の一部と手を組んで、1つの場所を占拠した」
『なるほど。我らもそれは行おうとしたが、途中で止めた事だな。……あれを成した者達が出たか』
「もう過ぎた事だから、お前らがそれを目論んでいた事は気にはせん。だが、その上で聞きたい事がある。何をどうすれば、成功した事になる? どういう手順で、この地を奪う?」
ベスタが聞きたいのは、具体的な簒奪クエストでの占拠の手順か! 確かに、イブキだけだったとはいえ、ここでも簒奪クエストは進んでたんだから、その情報は持ってるはずだよな。
『……この地を縄張りとする者を、乗っ取るのだ』
「それは、つまり……縄張りの主の居場所を知っているのだな?」
『いや、それは知らない事だ』
「……何? ならば、どうやって――」
『居場所は知らないが、引き寄せる事は可能だ。この地に縄張りを持つ者は、その力でこの地の瘴気を抑えている。その流れを逆に利用し、多量の瘴気を使って転移させようと考えていた』
「っ!? なるほど、『瘴気の転移門』の使用目的はそれか。ここへ引っ張り出し、その身を乗っ取るんだな?」
『あぁ、そうだ。それを成せば、この地の掌握が可能となる。……もうそのような真似、する気はないがな』
ちょ!? フィールドボスを呼び寄せる為に、瘴気の転移門を用意しようとしてたのか!? あ、そういやそんな事、イブキも言ってたような? ふむふむ、フィールドボスを探す必要はないとはね。
というか、フィールドボスって、この地の『大地の脈動』を掌握してる個体になるのか。こっちの新エリアって、常闇の洞窟みたいな大規模な『大地の脈動』の跡地とか出てきてないしなー。
となると……『転移の瘴気門』って、基本的な仕組みは群集拠点種の転移と同じ? 元にしているエネルギーが、瘴気か浄化かの違いがあるだけなのかも。
「乗っ取る事はせずに、呼び寄せるだけは可能か?」
『必要な量の瘴気さえ集まれば、可能だ。……なるほど、前に見せてきた、あの高密度な球状のあれを使うのだな?』
「あー、これの事?」
『あぁ、それの事だ』
前に見せたやつといえば、俺が持ってる『瘴気珠+17』の事のはず。話に出てきたんだし、一応取り出しておこうっと。
「この『瘴気珠』を使えば、可能だと考えていいのか?」
『……それは【瘴気珠】という名か。いや、それ1つだけでは足りてはいない』
「……なるほど、これでは足りんか。なら、こちらを基準にして、いくつあれば可能だ?」
『……少し密度の低い【瘴気珠】か。これならば……固定化せず、呼び寄せるだけならば500個といったところか』
「なるほど、500個か」
ほほう? ベスタが未強化の瘴気珠を出してたけど、それを基準に500個か。群集で集めようと考えれば、少ない数で済みそうだけど……エリアボスの再戦、500回分って考えると、凄い数だな。
成熟体のフィールドボスの最低Lvが16なんだから、その分で換算すればもっと減るけど……うん、やっぱりそれでも多いな。でも、それだけあれば、フィールドボスを探す必要はないのか。
「……ふと気になったんだが、先ほど出ていた固定化とはどういう意味だ?」
『大地の中を流れる、大いなる力の流れを掌握する事だ。だが、今は分かる。あれは、守護者であるクオーツが抑えているものだ。……守護者の存在を知った今、あれに手を出す気にはなれん』
「クオーツか。なるほど、他の連中に掌握されていようが、惑星自体に影響が出ていなければ、そのままスルーという事か」
クオーツめ、中立だと宣言をしてるけど、本当に中立で動いてるな!? 黒の異形種が乗っ取った状態でも、それに関する情報を出す気は無しかい! まぁそれでこそ、本当に中立だって言えるんだろうけどさ。
「一つ、危惧していた可能性は潰れたな」
「ん? ベスタが危惧してた可能性って、どんな内容?」
「黒の異形種が、機械人と接触している可能性だ。乱入勢も含めてな」
「はい!? あー、その可能性は確かに否定は出来ないか。あ、でも、それならクオーツは絶対に黙ってない……なるほど、だからその可能性は潰れたのか」
「そういう事だ。クオーツが干渉してこないのなら、星自体に危機が迫っている訳ではないという証明になる」
「……確かにそうかもしれませんが、この先、ずっとそうだとは限らないのでは?」
「案外、その辺は次の共闘イベントで何かあるんじゃねぇか?」
うーん、確かにジェイさんと斬雨さんの主張も分かる。今はまだ、そういう事態にまで発展していないだけという可能性も考えられるけど……明確に群集に対して敵対しているんだから――
「それは否定出来んな。だが、今がその前兆だと考える事も出来るぞ?」
「あー、これからの展開次第で、共闘イベントの規模が変わるとか?」
「……可能性はありそうですね。となると、黒の異形種の変質進化をどれだけ進められるかが重要になってきますか?」
「あとはあれじゃねぇか? 乱入勢の勢力を、どこまで抑えられるかだ!」
「現状で考えられるのは、確かにそのくらいだよなー」
機械人がどう出てくるかが分からないけど、調査隊としてUFOを送り込んできているのは、疑いようもない事実。その過程で、明確に敵対した黒の異形種達に目を付ける可能性は否定出来ない。
もう第4の勢力が出来る事自体を防ぐのは無理でも、その規模を可能な限り抑えていくのが必要なのかもね。まぁこれも、あくまで推測に過ぎないけどさ。




