第1594話 邂逅する時
黒の異形種である骨のコウモリと、クオーツの対話が始まった。そういや、クオーツって精神生命体になってるけど、入ってる器自体は元々の機械だから、人間だった設定の俺らとはまた違った存在にはなるのか。
骨のコウモリは、その違いが分かってるような反応だったけど……ここからどういう会話になるのか、気になるね。とりあえず、しばらくは大人しく見守っておくか。
『……コノワクセイノ……シュゴシャ……ダト?』
[我の自称ではあるがな。だが、それに匹敵するだけの力を持った存在にはなっているはずだ]
『……タシカニ……キョウダイナ……チカラハ……カンジル。……ッ! ……コノチカラ!? ……チカフカクカラ……カンジルモノト……オナジ!?』
[我の本体は、地下にあるからな]
『……シュゴシャ……トイウノハ……デタラメデハ……ナサソウダナ。……ダガ……ソンナモノガ……ワレラニ……ナニヨウダ? ……ワレラヲ……ホロボス……キカ?』
[滅ぼすなど、する気はない。我の今の力は、我自身だけで得たものではない。……我の恩人達と源流を同じくする者に、そのような真似は出来ん]
『……ナニ?』
[我は、来訪者達の手によって、今の状態へと進化を遂げた。故に、守護者になり得るだけの力を得た。そして、お前達は……その来訪者達から生まれた、この星の新たな命だ。我にとっては、守るべき対象なのだ。意思を示したのならば、尚の事!]
『……ワレラノ……イシヲ……クミトッテ……クレタノカ?』
[この星に害なす存在とならぬなら、我は其方らを受け入れよう。……すまぬな、我だけでは意思疎通が行えず、こうして対話が遅れてしまった]
『……ッ! ……アヤマル……ヒツヨウナド……ナイ! ……イマ……コウシテ……タイワヲ……オコナッテクレルコトニ……カンシャスル!』
おー、クオーツ的には、黒の異形種もこの星に住む一員って認識なんだ? これまでは意思疎通の手段がなくて、こうやって対話する事が出来なかっただけなんだね。
骨のコウモリは……なんか、感激してません? いや、そもそも黒の異形種達は、自分達の存在を主張していたんだし、それがこういう形で受け入れられた事は重要な事なのかも?
「クオーツ、話の途中で申し訳ないのですが、少し質問をよろしいですか?」
[……何か気になる事があるのだな? 分かる範囲の事なら、答えよう]
「では、失礼して……今の『黒の異形種』の受け入れの発言は、好戦的に暴れている集団も含みますか?」
あー、ジェイさんが聞きたいのは、今の簒奪クエスト発注元になっている黒の異形種の事か。まぁ確かに、そこは気になる部分かも?
[あぁ、含まれる。我は、この星を破壊しない限り、其方らの争い自体に関与はせん]
「……そうですか。この星の脅威とならない限りは、あなたはどこに対しても中立という認識でよろしいのでしょうか?」
[その認識で問題ない。だが、暴れている者達には我の声を届かせる事が出来ないのが歯痒いな……]
「……私達を介していなければ、接触は不可能なのですか?」
[……その通りだ。皮肉な話だが、その翻訳機能を介さなければ、我の意思を伝える事が出来ん。我自身には、対話の為のネットワークを持っていないのだ。だから、群集拠点種のネットワークや物理的な機械が必要となってくる。直接、触れられれば別なのだが……]
「……なるほど、そういう制約があるのですね」
ふむふむ、この翻訳機能があるからこそ、なんとか今みたいな対話が成立してるのか。黎明の地なら、常闇の洞窟の中に広がる群集拠点種のネットワークと触れる事で、どうにかなるんだろうけど……こっちの新エリアには、そういうのはないもんな。
あー、そういやクオーツに『クオーツ』という名前は付く前は、グレイ達の方からアクセスを確立してたっけ。元々、そういう機能を持ってなかったとは思えないし……機械人達と接触しない為に、そういう機能を完全に殺してるのかもなー。
でも、そういう事情なら……こういう手も打てる可能性が出てくるのか? ちょっと聞いてみるか。
「クオーツ、俺も質問! 俺らが対話出来る状態にすれば……暴れているのを、止めさせるのは可能?」
[それは、その者達の意思次第だな。我はあくまで中立を貫く。この星に害を為さぬなら、縄張り争いの仲裁はせんぞ]
「あー、やっぱりそこは止める風には動いてくれないか……」
あくまで、あの簒奪クエストの趣旨は、自分達の拠点の確保が目的みたいだしなー。星に害を与えるのが目的じゃなさそうだし、クオーツが割り込むような真似はしない範疇か。
[だが……我と話した結果、その者達が矛を下ろすのであれば、我は何も言わん]
「あっ! 自発的に向こうが止めるって可能性もあるのか!」
「……自分達の存在の主張が目的の1つのようですし、クオーツに受け入れてもらう事で、収まるという可能性はありますね」
これ、何気に重要な内容じゃん! あー、でも無所属の乱入勢が大人しく、それを実行させてくれるとも思えんなー。
場合によっては、乱入勢がクオーツと黒の異形種の間を取り持って、第4勢力の確立に進めるという可能性もありそう?
『……アバレテイル……モノタチハ……ヒキサガラン……ダロウ。……ジブンタチヲ……ウケイレタ……モノタチヲ……ウラギリハ……セン。……シュゴシャガ……トメヌノナラ……ナオサラニ。……ワレラトテ……ソレハ……オナジ』
「なるほど、そういう認識になるのか……」
受け入れた者っていうのは……要は、黒の異形種から受けた簒奪クエストを進めてる人達の事なんだろうね。ここの場合はイブキだけだったから、その状況をひっくり返せたけど……盛大に暴れ出した今、味方として動いた乱入勢を裏切る真似はしないって事か。
うーん、一枚岩ではないにしても、同じ黒の異形種同士だから、気持ち自体は分かるんだろうなー。クオーツも止めるつもりはないみたいだし……争いなく収めるのは無理っぽいね。
『……スマヌナ。……ワレラモ……イチマイイワデハ……ナイカラ……クチダシハ……デキン』
「あー、まぁそこは仕方ないって」
下手すると、俺らが諦めれば平和に終わるなんて話にもなりかねないからなー。結局は縄張り争いになるんだから、それも1つの解決策なのは間違いないし。……納得出来るかは別だけど。
[その手の話は……まぁそのくらいでよかろう。今は、それよりも……その不完全な身体の話だ]
あらら、クオーツから強制中断が入ったよ。まぁクオーツは縄張り争いは止めないって言ったんだし、これ以上この話題を続けても不毛なだけですよねー。
『……フカンゼンナ……カラダ? ……タシカニ……ワレラノ……ソンザイハ……フアンテイデハ……アルガ……ドウニカ……ナルノカ?』
あ、骨のコウモリでも、自分達が不安定な存在だって自覚はあるんだ? まぁプレイヤー達の『陰』の存在で、選ばなかった進化の可能性の発露とはいえ……ゾンビやスケルトンなのは、決して安定してるとは言えないもんな。意思疎通すらまともに出来てないんだし……。
[その身体は、来訪者達の『陰』の残滓を元に、瘴気が形を成すように進化を果たしたもの。分析した結果、そういう結論が出ている。生物としては、絶望的に『陽』が足りず、バランスが保てていない状況だ]
ほほう? 黒の異形種って、そういう存在なんだ? 生物として絶望的に『陽』が足りていないって……それ、どうすんの?
んー、残滓って少なからず『陽』の要素も残ってそうだけど……精神生命体が浄化の力の塊みたいなものだって話もあったし、それが異常な形で進化した結果が黒の異形種か。
『……アンテイカハ……カノウ……ナノカ?』
[足りぬものは、補えばいい。その為の材料も……手に入っている。今、あちこちに空から降りてきている、あれらを構成しているものだ。これで身体を補う事は出来るはずだ]
『……アノ……ナニモ……カンジレヌ……ヤツラカ』
今、少し間があったのは……まぁあの機械の砂の出所の問題なんだろうね。とはいえ、それでも使うとは決めたんだから、今の話になってるんだけどなー。
[この手段は、まだ試した事がない。……悪い言い方をすれば、生体実験となる]
『……ソレヲ……ワレラ……イヤ、ワレニ……ウケヨト?』
[無理にとは言わない。だが……その不安定さ、いつまで保つかは分からんぞ?]
『……ソンナコト……ハ……ワカッテイル。……イツ……キエルカ……ワカラヌカラ……コノ……ソンザイ……ダケデモ……シラシメテ……オキタカッタ……ノダ』
ちょ!? え、黒の異形種の自己主張って、そんなに重い理由だったの!? 不安定過ぎて、いつ消えてもおかしくない状態なのかよ!?
いやいやいや、それって簒奪クエストなんてしてる場合か!? あー、逆か。いつ消えてもおかしくないから、意識があるうちに、自分達の存在があった事を残しておきたいのか。……なんか、戦いにくくなる設定をぶっ込んでくるなー。
『……イイダロウ。……ソレデ……ナガラエル……カノウセイガ……アルノナラ……ソノカノウセイニ……カケヨウ……デハナイカ!』
[よく言った。では、早速始めよう。【情報組成式物質構成素子】を出してもらえるか?]
「ほいよっと!」
クオーツに言われた通り、インベントリから機械の砂を取り出して……これ、とりあえず、ここのリーダー格っぽい骨のコウモリの分だけをやるって事でいいのかな?
どう考えても、ここにいる黒の異形種、全ての分は賄えないと思うけど……あー、その辺がこの後のイベント内容なのかも?
[身体を補うと同時に、翻訳機能も埋め込むつもりだが……いいか?]
『……ソレハ……フツウニ……ダレトモ……タイワガ……カノウニナル……ノカ?』
[あぁ、そうなるはずだ。足らぬ『陽』の要素は、我が材料に混ぜ込んでいく。この材料との親和性が怪しいのが少し難点だが……]
……ん? 足らない『陽』をクオーツが補うって事は、浄化の力……精神生命体の力を機械の砂に混ぜるのか? 今、何か引っ掛かったんだけど……あっ! もしかして、これって、こういう事なのか!?
「クオーツ、割り込んで悪い! その『陽』を混ぜ込むの、これじゃ駄目か!?」
[それは……エメラルドの原石か? ……ふむ、確かに【情報組成式物質構成素子】よりも、『陽』への親和性はありそうだな。だが、貰い受けてもいいのか?]
「そこは問題なし!」
[ならば、使わせてもらおう]
用途が不明なアイテムだったし、使えるなら使ってくれ! てか、オフライン版の宝石系アイテムとの関連性、ここで出てくるんかい!
オフライン版だと、宝石の中に適応進化の保存……言い方を変えれば、精神生命体の力の外部保存をしていたんだ。それはオンライン版で出てきてる『陽』の力だから、足りていない『陽』の補填の器になり得るはず! 機械の砂だと不安要素があるという、クオーツの言葉を含めれば尚更に!
「……なるほど、そうきましたか。この手のアイテムは、『陽』の核になるのですね?」
「多分なー。あとは、実際にどうなるかだ!」
「確かにそうですね。ここまできたら、後は見守りましょうか」
クオーツが俺からエメラルドを受け取ったのだから、ほぼその役割で合ってるはず。てか、そうであってくれ!
[では、始めるぞ]
『……アァ……マカセヨウ』
あの機械の砂、遠隔では分析が出来ないって言ってたけど……こうやって使う分には、問題なさそうだね? まぁ黒の異形種を、常闇の洞窟の中にあるクオーツの一部まで連れてこいって言われても大変だけど……。
おっ! エメラルドに浄化の光が込められて……あー、浮いた機械の砂が周囲を削り取って、宝石状に加工していってるな。
ふむふむ、加工が済んだエメラルドを中心にして、機械の砂が卵状になって……あ、骨のコウモリを包み込んだ。中から、荒れ狂うように禍々しい瘴気と浄化の光が漏れ出して……徐々に混ざり合って、収まっていく?
[……これで、終わったはずだ。どうだ?]
『これは……不安定さが、消えた? それに、これまでとは……何もかもが違う?』
[どうやら、成功したようだな]
おー、片言で頭の中に響いてた感じの声が、普通の発声に変わった! 見た目も、もう骨で形成されたコウモリじゃなくて、肉の部分が金属で出来たような姿へと変貌しているよ。翼……というか、皮膜の部分も、なんか曲げても元の形に戻る特殊な金属っぽい感じ。
何より象徴的なのは、ネックレスでもしているかのように、首に埋まっているエメラルドだよなー。いやはや、こんな形になるとはね!
『これが、安定した状態か! 今ならば、存在が消えてしまうような、不安は感じはしないぞ!』
[思った以上に、安定したな? なるほど、『陽』の核となる物質が必要だったのか。よく、気付いたな?]
「いやー、どういたしましてだな!」
用途が分からないアイテムだったけど、この今のタイミングで入手が可能になってたのには意味があったんだな。オフライン版の宝石がヒントにはなったけど、それがなかったとしても……一度失敗して、何かが足りないって流れにはなってたのかもね。
なんか1つ、演出を飛ばしちゃった感じもするけど……まぁ結果オーライって事で!
それで、この後はどうなるんだろうね? 敵対はもうあり得ないとは思うけど……どこの群集の味方になるとか、ここで決まったりする? 流石にそこまでは話は進まないか?
あ、でも、ここへ向かって攻め込んでくる連中の件は伝えないとまずいか。クオーツは中立で止めてくれないとしても、この骨の……って、もう骨じゃないか。金属のコウモリ達にとっては、無視出来ない状況だろうしね!




