第1591話 敵の敵は味方
さて、ジェイさん達……というか、青の群集との共闘は確定した。共通の敵が存在すると、やっぱりこういう流れになってくるよね。
アルが滝の上まで高度を上げて、周辺の警戒をしてる状態だから、ジェイさん達はアルを目印にしてこれるはず。実際、アルを目印にしてくれって言っちゃったしなー。
「ケイ、ジェイさん達と共闘になるのかな?」
「そうなるなー。あ、十六夜さん、ラジアータさん、獲物察知の妨害は解除してもらうように頼んだから――」
「……丁度、今、反応が復活したところだ」
「青の群集の集団は確認出来たが……これは、多いな? 連結PT、3つはいるぞ」
「随分、多いな!?」
連結PTがフルで18人だけど、それが3つって……54人!? いや、全てがフルメンバーになってるとは限らないか。……うん、それでも十分多いですよねー。
「赤の群集とも、共闘は成立したよー! ただ、弥生達、赤のサファリ同盟は、別の場所にある黒の異形種の溜まり場に向かっているってさ」
「あ、そうなんだ。ちなみにレナさん、それってどこ?」
「『オンキョー渓谷』から北に2エリア進んだ場所だね。海岸沿いの場所なんだけど……あ、そうそう! ケイさん達が行ってた、原野の東側に当たる部分だよ!」
「あー、あそこの東側か!」
なるほど、そこに弥生さん達が接触した黒の異形種の溜まり場がある場所なのか。地味にベスタの調べていた場所の一覧には入ってないような気がするけど……流石に全てを網羅出来てる訳じゃないんだな。
「今、リバイバルが赤の群集の動きを取りまとめてる最中だそうだから、そっちはひとまず任せておいて大丈夫そうだよ。灰の群集からは遠い場所だから、増援には向かいにくいしね」
「ですよねー」
多分、その位置だと……あの原野エリアを通り抜けるより、赤の群集が占有しているオンキョー渓谷を抜けさせてもらう方が早いくらいかも? てか、共闘が成立したなら、状況次第で占有エリアを通って増援に向かうって事もありそう――
「赤の群集、青の群集、どちらも共闘は成立したようだな。レナ、俺の方でもやるが、そちらでも周知を頼む」
「任せて! 早めに広めないと、どこかでかち合って戦闘もあり得るからね!」
共闘が成立した以上、その事実を広めるのは重要だよね。まぁ乱入してくる無所属に対抗する為に、共闘をするのは初めてじゃないから、そう難しい事ではないだろ。
赤の群集も、青の群集も、情報共有を行える体制には戻せているみたいだし――
「っ! ベスタさんと紅焔さん達が、山岳エリアに入ったのさー!」
「おっ! やっとか!」
連結PTのメンバー表示が、同じエリアにいる事を示す表示に切り替わったから、エリア入りしたのは一目瞭然っすなー。
「わっはっは! 山岳エリアには到着だ!」
「でも、まだ少し時間はかかるけどね」
「大勢いますし、距離もありますからね。ところで……ソラ、対人戦の可能性は高まっていますが……大丈夫ですか?」
「……あまり嬉しい流れではないのは、間違いないよ。場合によっては、僕は離脱するからね。あ、でも僕に遠慮して、みんなまで下がる必要はないよ」
「それは……仕方ねぇか」
「……いつもの事ではあるもんね」
「それは、そうですが……」
「今更だろ、それは! むしろ、今後もソラが動きやすいように、乱入勢の動きは潰しておくべきだぜ!」
「紅焔……みんなも、撃退に期待してるからね」
「……それも、そうですね」
「好き勝手にはさせるもんか!」
「ははっ! 確かに、やるべき事はそれに違いねぇな」
対人戦がNGなソラさんにとっては、今の状況は好ましいものじゃない。だからこそ、飛翔連隊の他にメンバーの気合いが入りまくっているんだね。
まぁいくらクエストだからといっても、好き勝手に乱入されて、状況を引っ掻き回されるのは良い気分じゃない。乱入するのが向こうの目的なら、それを阻止するのが俺ら群集所属の目的だな!
「……『過剰浄化』、治った」
「おっ、彼岸花さんは復活か。俺は……まだかかるなー」
「……それは、仕方ないよ」
「まぁ俺の方が後で使ったんだし、当たり前か。合流するまでに、治ればいいんだけど……」
「ベスタさん達の到着には間に合いそうだが、ジェイさん達の方は……無理そうだな。見えてきたぞ、岩のドームが」
「あー、マジだ」
アルの言う通り、目視が出来たし、到着まではもうそれほど時間はかからない――
「……っ!? 西から、急接近してくる2つの反応ありだ!」
「これは……灰の群集だな?」
「灰の群集の2人が、急接近?」
一体誰が……って、2人!? あー、何となく予想が出来た気がする。これ、多分だけど――
「あそこか! 急ぐぞ、疾風の!」
「当然だ! 飛ばすぞ、迅雷の!」
聞き覚えのある2人の声が、山の上から響いてきて……黄色い龍が2体、山頂から凄い勢いで飛んできている様子が見える。うん、これはどう考えても風雷コンビっすなー。
「あっ、山頂の方にUFOが降りてきてるよ! Ⅰ型の方!」
「「っ!?」」
Ⅰ型のUFOが降りてきたのは、風雷コンビの目の前か。すぐにぶっ壊すのかと思ったけど……意外とそうでもないっぽい? さっきは大声だったから、響いてここまで声が届いてたけど、今は聞こえないな。あ、交戦を始めた。
「風雷コンビ、まだ必要な改造品が足りてない?」
「コンビで動いてたなら、他の人よりも回収難度は高いだろうしな。その可能性はあるだろ」
「……ですよねー」
俺らは必要なものが揃って……いや、『Ⅱ型』で得られる改造はまだ他にもある状態か。今の優先度は黒の異形種との接触が上だけど、UFOからの改造品や落下物の確保も無視していいものじゃないからなー。
この様子だと、風雷コンビが俺らの元に辿り着くのはまだかかりそうだね。まぁどこで、何が、どういう風に必要になるのか分からないんだし、そういう事もあるか。
あ、そういや、これはどうなんだ? クオーツに聞こうと思ってたけど、ベスタ辺りは情報を持ってたりしないかな?
「ベスタ、ちょっと質問をいい?」
「どうした、ケイ?」
「もし知ってたらでいいんだけど、『エメラルドの原石』や『金鉱石』の使い道って分かる?」
「……いや、知らんな。そもそも、『金鉱石』の方は出るようになっていたのは知っているが、『エメラルドの原石』は初耳だ」
「ベスタでも、知らないか……」
うーん、この辺のアイテムは用途が分からないままなんだけど、一体何に使うのやら?
「ケイさん、何を悩んでいるのですか?」
「……いや、何しれっと飛んできてんの、ジェイさん」
投げ飛ばされてきたような感じで、急な登場をしてきたもんだね!? 投げたの、スミ辺りか? カニごと投げるとか……結構な無茶をしてません?
「いえ、少し嫌な予感がしましてね。あそこで戦っている風雷コンビ、私達との共闘を承知していますか?」
「あー、どうだろ?」
慌てて駆け付けようとしてた様子だけど……もしかして、ジェイさん達が俺らへ近付いているのを見つけたからこその動きだったとか? まだ共闘は周知し始めたばかりだから、風雷コンビが知らない可能性もある?
「伝えてきた方が、よさそうかも? UFOを落として、こっちに向かってきてるよ」
「あのドームは、厄介だ! 行くぞ、疾風の!」
「攻めさせてたまるかよ! 行くぞ、迅雷の!」
あ、これ、ジェイさんの嫌な予感が当たってるかも? まぁかつての競争クエストで苦しめられた岩のドームを見れば、警戒して動くのも分かるけどなー。
情報の伝達って、難しいもんだね。さて、どうやって風雷コンビを止めるのが――
「わたしが止めてくるよ! よっ! ほっ! そこの風雷コンビ、止まりなさーい!」
「任せた、レナさん!」
レナさんが小石を足場に駆け出していったし、多分これで風雷コンビは止まるはず。今は喧嘩をしている状態じゃないんだから、すんなりレナさんの言葉を聞くだろうしさ。
「それで、何を悩んでいたのですか? 何か、これからの点で不安要素でもあるのでしたら、対策を一緒に考えますが……」
「あー、いや、そういう訳じゃないんだけど……」
原石について、ジェイさんに聞くのはどうなんだ? 俺らには全く情報がないのを教えるのも……いや、クオーツに聞くつもりでいるんだし、そこに居合わせるのがほぼ確定なんだし、気にするだけ無意味かも……。よし、決めた!
「ジェイさん、こういうアイテムの使い道、知らない?」
「っ!? これは……宝石の原石ですか!? 出るようになったとは聞きましたが、実物は初めて見ましたね」
「あー、見たこと自体なかったか。それだと、用途は不明?」
「申し訳ありませんが、そうなりますね。これは……エメラルドですか。オフライン版の宝石系アイテムと無関係とは思えませんが……あのままの用途では、使えませんよね?」
「そもそも、適応進化の仕様自体が違うしなー。保存なんて使い道が出来るとは、思えないし……」
「確かに、それはそうでしょうね。となれば、『装飾進化』……こちらも、何か違う気はしますね。見た目の変化は、纏属進化でも担っていますし……」
「そうそう、そうなんだよな。それで、手に入れたものの使い道がさっぱり不明!」
「……クオーツに聞いてみるのは、いかがです? 名前が水晶ですし、宝石繋がりで何かあるかもしれませんよ?」
あー、ジェイさんも似たような発想は出てくるんだね? でもまぁ、やっぱり何かしらの共通点があれば気になる部分ではあるのかも?
「それは、余裕があれば聞いてみるつもり」
「……なるほど、だから私に聞いたのですね? 答えが出てくる事は、元々期待していませんでしたでしょう?」
「まぁなー。ぶっちゃけ、一緒に動く事になった以上、伏せておくだけ無意味だったから聞いてみただけだしさ」
「……それを私達の前で聞く気でいるとは、情報を伏せる気があるのか、ないのか……よく分からない人ですね。昨日は、盛大に逃げたというのに……」
「そりゃ、あんな追いかけ方をされたら逃げるっての!?」
というか、変な流れになったら困るから、『Ⅱ型』の増援があった場所から逃げた時の件は触れずにいたのに、ジェイさんから話題に出してくるんかい!
「あれは結局、なんだったのですか? 無力化された手付かずの『Ⅱ型』が放置されていましたが……あれは、ケイさん達の仕業ですよね?」
「えー、その説明、今必要……?」
「この際ですから、気になる事は聞いておこうかと思いましてね。再現を試みようにも、群集での協力体制を戻せたのはつい先ほどですし……気になったままよりは、聞いてしまった方がスッキリするかと思いまして」
くっ! ジェイさんめ、この共闘の機会に聞きたい事を色々と聞くつもりか!? だから、先んじて投げ飛ばされてやってきてるな!?
「……まぁその程度の情報は、教えても別にいいけどさ。あれ、あえて機能を壊さずに接触した時に出てきた『Ⅱ型』の増援だったんだけど……増援で来たUFOは、下手にクオーツが触れると危ないって事で、放置になったんだよ」
「……妙な形で採集機の反応があったとは思いましたが、そういう経緯でしたか。機能を活かしてままとか、無茶な事をしますね?」
「いやー、やっぱりそこは試しておかないとなー!」
「……リスクは度外視……まぁいつもの事ですか」
なんか呆れられてる風だけど、ジェイさんだって交戦状態にして強引な引き止め方をしようとしてたんだし、似たようなもんだと思うけどね! まぁそれは言い始めたらキリがないから、今はいいとして……。
「それはそうとして……なんで、あの岩のドームの動きを止めてんの?」
「あぁ、それですか。あれで、黒の異形種のいる洞窟を覆ってしまおうと考えているのですが……ベスタさん達がまだ到着していない段階で、やる訳にもいかないでしょう? そもそも、私達はこの場にある洞窟の入り口の正確な位置を知りませんしね」
「あー、そういう理由か!」
なんで少し距離を取って、動きを止めているのかと思ったけど……それなりに理由はあったみたいだな。
「それに、内部には防衛戦力も揃えてきていますので……いざ動き出すまでは、人員を伏せておきたいんですよ。どこに、無所属の乱入勢に協力している人がいるか分かりませんしね」
「……まぁ、確かに。てか、群集所属のプレイヤーも警戒してる?」
「明確な意図までは分かりませんが、この簒奪クエストではインクアイリーを形成していた人の一部が動いているのでしょう? 関係する群集所属のプレイヤーがいないと考える方が無理ですよ」
「……ですよねー! ちなみに、防衛戦力ってのは……?」
「スリムさんを筆頭に、高Lvの質量のある操作系スキルを使える人達ですね。当然、Lv10の方もそれなりの数はいますよ?」
「……マジっすか」
「ケイさんだって、その1人でしょう。そう驚くような事ではないはずですが?」
「そりゃ、そうだけどさー!」
質量のある操作系スキルLv10って事は、土、水、氷の3パターンがそれなりの人数が揃ってるなんて、脅威じゃん! まぁ確かに、あの生成量なら……洞窟を全方位から包み込んで、籠城なんて真似も出来そうだけどさ。
でも、そういうメンバーを揃って連れてこれるって、動きが早過ぎない!? 元々、何かの事態があった時に、そういう動きにするのを想定して……あっ!?
「……その防衛戦力、どこかで俺ら相手に使うつもりだったな!? そもそも防衛じゃなくて、隔離用じゃね!?」
「否定はしませんよ。その為に考案した手段なのは、間違いありませんしね。ですが、共闘イベントが先にありそうでしたから、そこで披露する事になる可能性は考えていましたので……今回のこの機会に、出してきたまでです」
「あー、そういう……」
あっさり認められ過ぎてて、なんて言い返せばいいのか分からん! でも、俺らが隔離される為に使われる前に見れたのはよかった……のか? うーん、今回の件で改良点を探りそうな気がするし、決して良い事だとも言い切れない気が――
「そうか! 今回は青の群集とは共闘になったのか! 少しホッとしたぞ、疾風の!」
「あそこにいるのは、味方として来ているって事だな! 焦りが取れたぜ、迅雷の!」
「納得したのなら、戦力に加わってね! 今回、乱入勢がどういう動きをしてくるか、本当に読めないからさ!」
「「了解だ!」」
おっと、風雷コンビの声がどんどん近付いてきてるし、レナさんの説明は終わったっぽいね。喧嘩してない時の風雷コンビは頼りになる戦力だし……なんか、ちょっと過剰戦力になってきてない?
これから、ベスタ達が大勢を引き連れても来るんだし……まぁ何が起こるか分からないんだから、戦力は多い方がいいけどさ。




