第156話 はしゃぎ過ぎに注意
「『氷化』『同族統率・氷』! 行け、ハチ1号、2号!」
「行くよー! 『魔力集中』『アースクリエイト』『投擲』!」
まだ進化したばかりなので新技は特にないけども、ヨッシさんは氷のハチを体当たりさせてカニを凍結の状態異常にして、そこにハーレさんがアルの巣からとっておきで攻撃を加えていっている。
「いいね。進化して『氷化』したハチは再生成までの時間がずっと減ってるよ」
「私の『投擲』もなんか威力が上がってる! 豪腕の特性のおかげかな!?」
そしてハーレさんとヨッシさんは進化の為とはいえ、負けた分をやり返してどんどんと攻撃していく。うわー、すごい勢いでカニのHPが減っていってるな。進化前では1割削っただけだったらしいけど、進化したらこうも違うのか。
「未成体同士の戦いだと、俺達はする事がない……」
「……だな。ここまで露骨に強さの差が出るとは……」
「私はベスタさんとルアーさんの勝負を見てたから、これはまだまだ甘い感じだよ?」
「どんだけ強くなってんだよ、ベスタとルアー……」
あまりにも攻撃力の差がありすぎて迂闊に手が出せない状態になっていた。これだと移動と攻撃が両立出来るようになったのにあまり意味がない。……とりあえず俺はハーレさんの邪魔にならないように巣の中ではなく、アルの横で浮かんではいるんだけどな。……これは2人に任せるほうが早そうだ。
しばらく2人の戦闘を見ていれば、明確に今までとは違っている点があるのが分かってきた。まずヨッシさんの状態異常の成功確率が明確に上がっている事と、ハーレさんの投擲の速度と威力が上がっている。これは新しい特性の影響も大きそうだ。カニのHPはもう残り3割程まで減っている。これは倒しきれそうかな。
「あ、ヤバッ!? ケイさん、アルさん、足止めお願い!」
「……つい調子に乗りすぎたね。行動値を使い過ぎた……」
「2人して何やってるのかな!? 『強爪撃・土』!」
どうやら進化して調子が良くて浮かれ過ぎたらしく、2人して行動値が尽きたらしい。まぁあれだけ大技連発してたらな……。それにしても未成体って事もあるんだろうけど、地味にあのカニも丈夫だな。同じ堅牢持ちのザリガニはルアーにあっさり倒されてたのに……。それともザリガニの場合はルアーが相手だったのが問題か……? うん、まだよくわからん。
とにかく今はサヤがまた行き止まりの奥へと吹き飛ばしてくれたので、ヨッシさんとハーレさんの行動値の回復の時間稼ぎが優先だな。サヤの新技は今はダメージは少ないけど吹き飛ばすのはいい感じ。
「アル、魔法Lv3同士を重ねてみよう」
「そういやまだそれは試してなかったな。良いぜ」
<行動値3と魔力値12消費して『水魔法Lv3:アクアプリズン』を発動します> 行動値 34/37(上限値使用:8) : 魔力値 64/76
「『コイルルート』!」
<『複合魔法:ルートアクアスフィア』が発動しました>
まず俺の発動したアクアプリズンがカニを包み込む。見た目的には何度も水の操作の手動でやった水球に閉じ込めるのと同じ事。ただし水魔法Lv3として発動しているので拘束性能は水の操作でやるより数段上だ。そしてそこに根で絡みつくコイルルートが触れれば、アクアプリズンの周囲を覆うように根が張り巡らされ、ルートアクアスフィアとやらの複合魔法に変化した。……根と根の隙間が少しだけあるので一応中の様子は見れるな。よし、ぶっつけ本番だったけど複合魔法には成功した。
「制御は俺の方か」
「まぁ、ケイの方が魔力は高いからな。で、この複合魔法ってどうなってんの?」
「中に水、表面は木の根の2重構造の拘束っぽい。……今はカニが思いっきり水の中で暴れてるのが見えるな。ルートレストレイントよりは効果はありそうだ」
「確かに暴れてるな。あ、ハサミで水を突き破った。大丈夫か、これ?」
「でも位置と角度的にハサミで根は切れないみたいだし、これなら行動値の回復時間は稼げそうだ」
とりあえず、Lv3同士の複合魔法なら即座に破られるという事もなさそうである。いかにも檻って感じのヨッシさんのアイスプリズンも使い勝手は良いけど、アルの直接巻き付いて拘束するコイルルートも、俺の水球の中に閉じ込めるアクアプリズンもどれも特徴があって使い分けが出来て良い。
「アルさん、ケイさん助かったよー!」
「浮かれ過ぎは注意しないとね」
「とにかく2人は回復優先!」
「「はーい」」
そして2人がある程度回復した頃に、カニが根を断ち切って拘束から逃れてきた。……未成体相手ではやっぱりずっと閉じ込めておくのは無理か。だけどこれだけ時間が稼げれば充分実用レベルだ。
「行くよ、ハーレ」
「おうともさー!」
拘束から逃れて再び襲いかかってくるカニに向かって再び2人が戦いに行く。未成体への攻撃は任せておこうっと。俺達は2人の行動値の回復が必要な時に足止めに徹していればいい。というかそれ以外は邪魔になりそうな感じだし……。
そして次の行動値の回復は特に必要なく、カニの討伐は終了した。そりゃ7割は回復なしで削れたんだから3割くらいは問題ないか。
<未成体・暴走種を討伐しました>
<未成体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>
<Lv上限の為、過剰経験値は『群集拠点種:エン』に譲渡されます>
<規定条件を満たしましたので、称号『未成体・暴走種の討伐』を取得しました>
<増強進化ポイントを3獲得しました>
<『進化の軌跡・海の小結晶』を1個獲得しました>
討伐の称号は何かの操作系取得に使えれば良かったけど、今回は仕方ないか。それに狙っていた通りに『進化の軌跡』も手に入ったしな。欠片ではなくて小結晶ときたか。とりあえず詳細を見てみようか。
【進化の軌跡・海の小結晶】
海属性を得た未成体の暴走種が遺した、暴走種が進化に至るまでの軌跡が結晶化したもの。
30分限定で未成体を特殊進化の『纏属進化』をさせる事が出来る。付与される属性は海。使い捨てアイテム。
欠片から小結晶に名前が変わったのと、未成体専用って事以外はこれまでの進化の軌跡と特に変わらないか。といってもこれは俺が持ってても仕方ないから、ハーレさんかヨッシさんに進呈だな。
「やったねー! 未成体用の進化の軌跡ゲット!」
「私もだね」
「私もかな?」
「俺もだな」
「ん? あれ、もしかして全員手に入った?」
「……みたいだな。初回のみは確定か、もしくは入手率が高いかのどっちかか」
「だろうねー! それじゃこんな感じでどんどん狩っていこう!」
「ま、数がある程度必要だろうしな。集めていきますか!」
「「「「おー!」」」」
とりあえず色々と予定外の事もあったけど、一応の目的は少し達成。あとは足らなくならないように数を集めてから海水の中へと進出だな。あ、それはそうと……。
「サヤは進化はどうする? 進化先が出たんならすぐに進化もやるか?」
「んー、私は後でもいいかな? 進化の軌跡の集まり具合で考えるよ」
「それもそっか! 欠片が余って、小結晶が足りなくても困るもんね!」
「うん、そういう事になるね」
「未成体用の進化の軌跡が必要なのを忘れてて言うのもあれだけど、それが無難だよね」
「……まぁ過ぎた事はいいじゃねぇか。ところでサヤの進化先ってのはどんなだ?」
「それは俺も気になるな。足りてなかったって条件はなんだったんだ?」
あの状態で進化条件を満たしたって事は『強爪撃』辺りだろうか……? まぁそれも聞いてみればわかる事だ。
「えっとね、変異進化で『魔爪グマ』ってなってるかな。条件は『魔力集中Lv2』以上、『自己強化Lv2』以上、『操作属性付与』の取得、爪系攻撃スキルを5種類以上取得だね。あと増強進化ポイントが40、融合進化ポイントが30、生存進化ポイントが20かな」
「うっわ、結構厳しい条件だな。足りてなかったのは一番簡単そうな爪系攻撃スキルの数か」
「それって少し魔法寄りに変わるの!?」
「ううん、そうはならないみたい。あらゆる状況に対応するために強化方法を模索した物理型の進化先ってなってるよ」
「って事はサヤは今まで通り物理特化なんだね!」
「そうなると、サヤは操作系スキルを増やしたほうが良いんじゃねぇか?」
「うん、私もそう思ってたところ。みんなが持ってない火か風が欲しいかな?」
「……場合によってはポイント取得だな」
「うん、進化に使っても多少ポイントに余裕はありそうだから、そうしてみるつもり」
「それも良いかもね。今確認してみたら未成体から『操作属性付与』がポイント取得可能みたいだし」
「え、それ本当!?」
「うん、ホント。ただし増強進化ポイント35、融合進化ポイントで25って結構なポイント数だけど。これは派生で取れるなら派生で取ったほうがいいね」
サヤは進化は少しの間は保留で、操作系スキルを増やしてみる事になる訳だ。増えれば増えるだけ魔力集中の使用時に付与出来る属性が増えていく事になる。これは今後の強化が楽しみになってくるね。……出来れば火の操作や風の操作の称号取得を模索したいけど、あれはなかなか難しそうなんだよな。
それにしてもヨッシさんが確認してくれたけど、未成体からのポイント取得は必要なポイント数がかなり増えてるみたいである。……まぁ称号取得を狙っていけばむしろ余ってくるくらいだし、これくらいが良いバランスか?
「そうそう、ケイさんの取った『移動操作制御Ⅰ』もポイント取得可能みたい。融合進化ポイント20、生存進化ポイント40とかになってるけど……」
「草花の人に感謝しておこう!」
「あ! 応用スキルの操作系スキルもポイント取得が解禁されてるね! ケイさん、『岩の操作』は増強進化ポイント40、融合進化ポイント20だってさ!」
「あれってそんなに必要なのか!?」
ポイントは余り気味とはいえ、節約は可能なら出来るだけ節約した方がいいしね! 今回の群集クエストみたいなこともあるみたいだし! ……岩の操作の必要ポイントは、普通の操作系スキル3つ分のポイント量か。称号での取得がボーナス過ぎる。……もしかして浮いたポイントはエンの強化へ回せって事か!? ……既に端数は結構譲渡したけど、クエストの進行具合によっては追加しとくか。
「まぁその辺の強化は後にして、とりあえず進化の軌跡を集めていくか!」
「「「「おー!」」」」
そして昼前までこの周辺で狩り続けた結果、海の欠片が25個、海の小結晶が15個となった。未成体用の小結晶を基準で考えて1人、最低7個は確保出来た。3時間半はこれで海水の中を移動出来るだろう。
ちなみに石海貝、闇ガニ、光巻き貝など3種類ほどの黒の暴走種を発見した。石海貝が未成体の擬態持ちで各種進化ポイントが発見と討伐で12ポイントずつ。闇ガニと光巻き貝は成長体で発見と討伐で8ポイントが2種類分。後はさっきのカニの別個体や闇ガニと光巻き貝を2体ずつ仕留めた。
進出した人がまだ少ない場所って進化ポイントが稼げていいね! 黒の暴走種の発見情報は提供はしても貰う必要は皆無だな。進化の軌跡は海のやつは確定1個ずつみたいだった。残滓についてはまだ未確認。
やっぱり海エリアへの道は一手間かかることが予想されるから人が少ないようである。一応は戦ってるPTもいくらかは見かけて挨拶はしたけどね。転移地点での人数に比べると少ないものだ。
「よし、俺もLv20到達だな! つっても未成体のカニの時点でLv20にはなってたけどな」
「まぁ良いんじゃないか? アルの進化先はどうだ?」
「通常強化の転生進化と変異進化が出てるぞ。転生進化は『強化根脚移動蜜柑』だ。……地味に名前が長くなってるな」
「変異進化の方は!?」
「こっちは随分とまぁ変わった条件だな。『一定数以上の果物を他のプレイヤーに提供する事』か。未成体に進化で『根脚移動柑橘』だとよ。蜜柑以外に柑橘系の果物なら生らす事が可能みたいな感じだな」
「随分と変わった選択肢の増え方だね」
「柑橘系ならレモンとか、オレンジとか、グレープフルーツとかそういうのもありなのかな!?」
「ハーレさん、落ち着け。アルも進化してからじゃないとわからないだろ」
「あぅ、それもそうだった!」
「ま、進化は最低でも海エリアまで行ってからだな。今未成体に進化するのも色々とマズいだろ? 共生進化の実験も遅くなるからな」
「進化の軌跡の数的にも、共生進化的にもそうなるか」
「うー、それも仕方ないか……」
とりあえず海エリアへ行く為の準備は完了。後は海中へと行ってみて考えよう。とはいえ、そろそろお昼時である。1回この辺で食事休憩だな。
「時間も時間だし、海中洞窟は昼飯食ってからだな」
「そだねー! 今日のお昼は何かなー!?」
「ヨッシ、お昼はどうする?」
「そだね。何か適当に作るよ」
「お、ヨッシさんは料理出来る人か」
「ヨッシの手料理って美味しいんだよ!」
「へぇ、そうなんだ。楽しみ!」
「サヤとたまに交換するお昼の弁当のおかず、私の自作だよ?」
「え、そうだったんだ!」
「……楽しそうな食事談義の中、俺はコンビニ弁当かカップラーメンとか、そんなとこか……」
「……アル、どんまい」
そんな感じで騒ぎつつも1度、食事休憩という事で安全地帯にある転移地点まで戻ってからログアウトする事にした。食事時という事もあるのだろうか、破壊不能オブジェクトとして残っている移動種のプレイヤーの姿が結構あった。そりゃこれだけの数がいればログアウト専用場所も必要になるよな。