第154話 ヨッシとハーレの進化
「すまん! 完全に行き止まりの奥に未成体がいるって情報を忘れてた!」
「……もっと分かりやすくいるって思ってたかな?」
「……ケイ、これは流石に仕方ねぇよ」
完全に初見殺しだしね。……って言ってもわざわざ試し打ちや流れ弾でもない限り石を攻撃することも無いか。うわー、この石っぽいカニ、完全に臨戦態勢に入ってるよ。
そう思ってたらハーレさんが巣の中から飛び降りてきた。あれ、なんで巣から降りてきた? ボーナス無くなって攻撃の威力が下がるぞ。
「いーや! ケイさん、ナイスだよ!」
「そうだね。私達にはちょうど良い相手だし」
「あ、進化の為にはちょうど良いのか!」
「そういう事! って事で、アルさん、ケイさん、サヤは逃げてね!」
「特にアルさんね。リスポーン場所が変わっちゃうから」
「……そういう事なら俺らは邪魔にならないように逃げるぞ」
「そうだね。アル、私が引っ張るよ!」
「おう、頼む。ケイも急げ!」
「おうよ!」
「ヨッシ、行くよ! 『投擲』!」
「うん、ってケイさん達の方には行かないでくれる? 『アイスプリズン』!」
どうやら石みたいなカニに狙われているのは俺のようである。これはさっさと俺は立ち去った方が良さそうだな。ここにいては進化の邪魔になりそうだし。って事でハーレさんの巣に小石ごと飛び乗る。……今まではここで解除が必要になってたけど、もう解除は不要だ。移動操作制御が早速役に立つとはね。
アルとサヤは既に準備完了しているので、あとは俺が滑らせたら問題ない。あ、今回はコケ付き皮を事前に準備していなかったからそっちも必要か。そう思っていたら、皮だけの状態でアルも準備してくれていた。アル、ナイス!
<行動値を3消費して『増殖Lv3』を発動します> 行動値 25/37(上限値使用:8)
<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 24/37(上限値使用:8) : 魔力値 60/76
<行動値を4消費して『水の操作Lv5』を発動します> 行動値 20/37(上限値使用:8)
これで問題なし! 下が岩場だからゴツゴツしててうまく滑れるか怪しいけど、まぁ最悪強引に引っ張って行けば良いだろう。カニから少し距離を離して俺への攻撃行動を解除すればいいだけだしな。
「よし、行くぞ!」
「うん、行くよ。『自己強化』!」
「……そういや『自己強化』には『操作属性付与』って出来るのか?」
「え、どうかな? 試してないからわからないね」
「それは後だ後! ヨッシさんのアイスプリズンがもう3個目だぞ!?」
今すべき事でもないので、さくっと逃げるべきか。……ヨッシさんのアイスプリズンがガリガリと削られて今にも破壊されそうだしな。というか、もう壊されて3個目って……。よし、早く離れよう。
「それじゃ進化終わって来るの待ってるね!」
「うん! すぐ戻るよ!」
「多分そう長くは保たないからね」
そうしてハーレさんとヨッシさんを置いて、逃走を開始する。
「何処に行けばいいかな?」
「あー、転移地点まで戻るか。分かれ道を埋めてたからそう遠くはないだろ」
「……そうだな。他のプレイヤーもいるだろうけど、進化直後なら敵が確実にいない所がいいか」
「うん、確かにそうだね。それじゃそっちに向かうね」
進化シーンを他のプレイヤーに見られることにはなるけど、ここには灰の群集しかいないだろうし問題ないだろう。
「攻撃がやっとこっちに向いた! 『魔力集中』『アースクリエイト』『投擲』!」
「このカニ、防御が硬いね。『ポイズンボール』!」
「わ!? ……つい避けちゃったけど、避ける意味ないよね!?」
「……進化の為とはいえ、ただ一方的に倒されるのもなんか嫌だよね」
「うん、わかる!」
「ハーレ、多分倒せないだろうけど全力で行こうか」
「良いね! 私も望むところだよ!」
PT会話からはヨッシさんとハーレさんの戦いが聞こえてくる。……進化の為とはいえ2人とも今回は大人しく倒される気はないようだ。前回の成長体への進化の時は微妙な気分になってたもんな。気持ちは分からないでもない。
2人の激戦をBGM代わりに俺とアルとサヤは転移地点まで急いで戻っていく。急げ、敵の出ない場所へ!
「よし、到着!」
「やっぱり結構他のプレイヤーがいるか」
「それは仕方ないだろ」
しばらく岩場で揺らされながらも、俺達は転移地点まで戻ってきた。転移地点が出来たので、それを利用してここまで一気に移動している人達が多いらしい。まぁクエストの効率を考えたらそうなるよな。
ただ、どうやら海側ではなくもう片方の道が人気のようである。……単純に考えるなら海エリアの海水の中を行く必要があるから、少しハードルが高いのかもね。海の方への道はある意味で陸地エリア側からは必須なところまでは既に埋まってるとも言える訳だし。
それにしてもあの移動方法は他のところより慎重に走らなければサヤ自身が転びそうになっていたりしたので、洞窟内では控えた方が良いかもしれない……。……いい加減適当でもいいから名前をつけるか。うーん、よし『コケ式滑水移動』でいいや。他の人達のは纏氷を使ってるみたいだし『纏氷式滑移動』でも呼んでおこう。
「まだ2人は戦ってるのかな?」
「リスポーンしてないって事がそうなんだろうな」
「おーい、ヨッシさん、ハーレさん。こっちは安全地帯に到着したからいつでも大丈夫だぞ!」
「えー! なんとか1割くらいは削ったよ!」
「1撃辺りの威力は凄いけど、攻撃自体は避けやすいしね」
「……今戦ってるのって進化の為じゃなかったっけ?」
「あ、そういやそうだった! 全力で倒しに行ってた!?」
「まぁそろそろ厳しいから頃合いだね。ハーレ、私が先に行くよ」
「うん、わかった!」
どうやら白熱して本気で倒しにかかっていたらしい。……どうもレベルの低い未成体なら時間をかければ成長体でも倒せそうだな? かなり効率は悪そうだけど。
そしてそのすぐ後にアルにあるヨッシさんの巣から、進化したヨッシさんが現れた。青白い色を基調に、所々毒々しい色合いの模様が入っている。無事に未成体へと進化出来たようだ。
「うん、進化完了」
「ヨッシ、おかえりー! 未成体はどんな感じかな?」
「サヤ、焦らないの。ハーレも戻ってきてから話すからね」
「私も進化完了ー!」
「ハーレもおかえり!」
少し遅れてハーレさんも巣から姿を表した。パッと見では今まで通りの茶色いリスでヨッシさん程の変化は見受けられないが、1周りくらい大きくなった様な気はする。大きく違うと言えば、両腕にそれぞれ腕の付け根から手の先にかけて大きく白い三本線があるくらいだろうか。これは投擲メインの印みたいなものかな?
「2人とも無事に進化できたか」
「無事に『投擲リス』になったよー! 属性は『なし』のままだけど、特性に『投擲』と『採集』に加えて『豪腕』ってのが出たね! ちなみに『未成体・豪腕投擲種』だってさ!」
「リスで『豪腕』ってのも変な感じだけど、その特性は投擲の威力は上がりそうだな」
「だよねー! ヨッシはどう!?」
「私は『未成体・複合異常種』の『氷王毒バチ』だね。属性は『氷』と『毒』。特性は『刺突』が消えて、『統率』と『異常付与』になってるね」
「そういや、今更だけどヨッシさんって地味に毒属性ってなかったんだよな」
「多分、成長体では単純な強化の進化を選んじゃったからだろうね」
なるほど、ヨッシさんは粘っていれば成長体の段階でも毒属性持ちになれた可能性自体はあったのかもしれない。それなら今サヤが新しい進化先を狙っているのも決して無駄ではないのかもしれないね。属性や特性が増えればそれだけ強化はされていきそうだし。
とにかくこれでヨッシさんとハーレさんは未成体へと進化した。俺は2枠目を使っての共生進化待ち。サヤはこのまま粘って進化先が出れば良いし、出ないまま海に辿り着けば俺と同じで共生進化かな? アルはとにかくLv20が最優先。
ハーレさんとヨッシさんは共生進化は遠のいたけど、共生進化は必須じゃないっていったんも言ってたからこれはこれで良いんだろうね。
「なぁ、あのハチって全然見たことない姿をしてるぞ……?」
「……進化がどうこう聞こえてたけど、あんな進化先もあるのか?」
「あのハチの人って、もしかして地図作成の時のランキングのヨッシって人じゃない?」
「って事はあそこのPTは例のコケの人のPTか!」
ある程度この可能性は考えていたとはいえ、やっぱりここでの進化は目立ったか!? そもそも走ってここに戻ってきた時点でそれなりに目立ってたもんな。……今はまだ様子見状態で誰も話しかけて来てはいないけど、これは時間の問題。情報提供自体は別にいいんだけど囲まれての質問攻めは勘弁願いたい。さて、ここは……。
「サヤ、まだ『自己強化』の時間って残ってるか?」
「あ、うん。ほんの少しだけど残ってるよ。……やっぱり逃げる?」
「逃亡には俺も賛成だ。多分昼でログアウトするまでは捕まりそうだぞ?」
「サヤ、ついでだしさっき言ってた『操作属性付与』も試してみたら?」
「あ、そうだね。やってみようかな。『アースクリエイト』『操作属性付与』!」
「お、なんか纏属進化みたいになった? ……でも微妙になんか違うのか?」
サヤの表面が砂に覆われた様な感じになって、両手両足にスパイク状の突起が生成されている。クマの纏土を見た事がないから違いがよくわからないが、なんか走りやすくはなってそうだ。クマに限らなくても纏土は見た事ないな、そういや。
「うん、これならさっきよりは走りやすそう」
「んじゃさっきのとこら辺まで戻るか」
「「「おー!」」」
「あ、逃げた!?」
「……追いかける?」
「いやいや、止めとけ。必要があったら情報共有板で書き込んでくれるんだから無理強いはすんなよ」
「そうだぞ。無理強いして自発的に教えてくれなくなったら困るのは俺らだからな?」
「あ、それもそっか。……無理強いする相手には教えたくはないか……」
ちらっと聞こえてきたそんな言葉に感謝しながら、元の場所へと戻っていく。その内情報が纏まればまた提供するから今は勘弁な。……まぁ無理強いしてくる奴に教えたくないっていうのは確かにそうだし、止めてくれた人に感謝!




