第1331話 ケイと紅焔の模擬戦 その1
<『始まりの海原・灰の群集エリア5』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>
さて、海エリアを経由して森林深部まで戻ってきた。まさかここで帰還の実を使う事になるとは思ってなかったけど、五里霧林は広いから急いで戻ろうとしたら、こうなりますよねー。
今後はあそこも特訓の場所になるかもしれないし、転移可能な安全圏やミズキと距離は考えておかないと駄目か。まぁ今回はトレード目的での群集支援種の捜索が目的だったから、流石に仕方ない。
「乗ってた訳じゃないから、水の操作は流石に解除されたか」
移動操作制御にしていれば転移してもそのままではあるけど、そうでない操作は解除になるのも仕方ないのかもね。乗っていれば判定は違いそうではあるけど、今回は乗ってた訳でもないしなー。多分、乗っていれば上空へ転移だったんだろうけど……。
まぁそれはいいとして……それほど混雑はしてないし、紅焔さんはどこだろね? 先に行ったから、既にいるとは思うんだけど……あぁ、いたいた。エンの根本に、存在感の凄い赤い龍がいる……って、あれ!? 名前をよく見たら、この龍の人は別人じゃん!?
「おーい、ケイさん! こっちだ、こっち!」
「あ、そっちか!」
思いっきり上から降りてきてる紅焔さんがいたよ! くっ、赤い龍だからって、必ずしも紅焔さんだけではないのは当然なのに、変な思い込みをやらかした! ……うん、気付いたのが呼びかける前でよかったよ。
「おぉ!? 俺以外にも、同じような赤いドラゴンがいるな! あ、転移していっちまったか」
「もしくはログアウト?」
「どっちもあり得るなー! まぁ似たような人もいるって事か!」
「だなー」
ケインという俺と構成がそっくりな相手だっていたんだし、火属性のドラゴンの紅焔さんと同じような人はそれなりにいそうな気がする。人気種族だろうしね、ドラゴン。火属性となれば尚更に。
「おし、それじゃ早速始めるか!」
「ほいよっと! ハーレさん、そっちはどうだ?」
「ふっふっふ、ゲストにはザックさんがいたので確保しました!」
「これ、僕よりも戦闘をよくするザックさんの方が解説に向いてるんじゃない? 今からでもゲストへの変更は無理かい?」
「それは要相談なのです!」
確保したのはザックさんかー。死にまくってる印象が強いんだけど……動きの解説とかって出来るのか? ザックさんの場合、意図的に死んでる部分が確実にあるから、実力的にどうなのかって部分がよく分からん!
<紅焔様から模擬戦の申請がありました。受諾しますか?>
おっと、ハーレさんに現状を確認してたら紅焔さんから申請がきたか。まぁこれは当然、受諾を選ぶのみ!
<模擬戦の申請を受諾しました>
よし、これで模擬戦の受付は完了。特に順番待ちは発生してないから、整理番号の発行は特になしか。
「ケイさん、サクッと樹洞の中に移動して設定していこうぜ!」
「だなー!」
それほど時間に余裕がある訳でもないし、実況側の人員が確保済みならもうサクサク進めてしまった方がいい。という事で、エンの樹洞の中へと進んでいこう!
◇ ◇ ◇
場所は変わり、エンの樹洞の中へ移動完了。久々に模擬戦でこの中の入った気もするけど……前に模擬戦機能を使ったのって、『アブソーブ・アクア』の検証の時にアルとやった時だっけ?
「さーて、どういう設定にするよ? 前にやった時は、草原だったよな?」
「あー、そういや紅焔さんと模擬戦するのは、これで2回目だっけ」
「前は俺の負けだったんだよなー」
紅焔さんとの模擬戦は、確か翼を切り飛ばしたんだっけ? いや、そうしようとしたものの、切り落としそびれてた気もする? うーん、正確な事を覚えてないや。まぁ狙う部分は同じかも?
「エリアは、前回とは全然違った方向でやってみる?」
「海エリアは勘弁だからな!?」
「なら、追加された湖エリアで――」
「どう考えても俺が不利だよな、それ!?」
「冗談、冗談!」
検証だけのつもりならありな選択肢だけど、本当に勝負としてやるなら選ぶエリアとしては無しだな。あんまりここで悩み過ぎてもあれだし、ここはこれでいくか。
「どこが出ても恨みっこなしで、ランダムはどう?」
「おっ、そりゃいいな! ただ、海エリアは除外でいいか?」
「その条件を飲むなら、荒野と砂漠も除外させてもらおうか!」
「あー、俺だけが不利になる海を除外するなら、そりゃケイさんだけが不利になる場所も除外になるよな。おし、それでいいぜ!」
「それじゃその3エリアは除外で、後はどこになっても文句はなしで!」
「おうよ!」
対戦エリアがどこになるかは分からないけど、まぁその場に応じた戦法を考えるのも大幅な強化になった水の操作を慣らすのには丁度いいだろ! 勝負としてやる以上、水の操作だけにこだわる気もないけどさ。
「天候と時間は……あ、昼と夜って選択出来るようにもなってるのか」
「あー、そこはアップデートで変わったとこだな。んー、でも天候も時間もランダムでいいんじゃね? この際、とことんランダムだ!」
「おし、それじゃそうしよう!」
「おう!」
本当に対戦が始まるまで、どういう戦場になるかが一切不明な設定になってきたね。これで大雨の湖エリアとか引いたら、紅焔さんにとっては厳しいかも? まぁそうなったらそうなった時だし、決して紅焔さんにとって不利なだけとも限らないか。さて、次!
「えーと、アイテムの使用は?」
「いらん! あ、でもケイさんがいるなら別にあってもいいぞ?」
「んー、1対1じゃ使いにくいしなー。特に回復をしてまでやりたい手段がある訳でもないし、無しでいいや」
「なら、アイテムは無しだな!」
「ほいよっと」
サクサク決めているようで、実は何もろくに決まっていないよな、これ! まぁランダムに任せるってそういう事だし、問題なし! という事で、次の項目は……あ、これは地味に戦闘では使った事がないやつだ。
「この模擬戦固有の、行動値や魔力値の回復速度上昇はどうする? 最大まで上げとく?」
「あー、欲しいといえば欲しいけど……いいのか? 普段とは全然違った感じになるぞ?」
「んー、まぁスキルの使用感が分かればいいし……普通にこの設定で大暴れがしてみたい気はする?」
「なら使っていくか! ……覚悟しろよ、ケイさん? その設定、苛烈だぜ?」
「おー、そりゃ楽しみ!」
昇華魔法で全部使い切るレベルだと流石に即座に全快とはいかないらしいけど、それ以外はほぼ行動値も魔力値もあって無いようななものって注意書きも出てるからなー。
ふっふっふ、この設定での全力での大暴れ、盛大にやってやろうじゃん! 模擬戦ならではの設定っていうのも、面白いとこではあるよな! あー、でも回復速度が上がるだけなら、元々絶対に回復しないスキルの使用中は意味がないか? んー、まぁその辺も使ってみれば分かるだろ。
「配信は灰の群集に限定で……あ、ハーレさん達の実況は聞けるようにしとく?」
「あー、そっちはPTの設定の方だっけな。聞こえてても集中力が鈍るような事はあんまりねぇし、ありでいいんじゃね?」
「おし、ならそうしよう! あ、ハーレさん、設定をしたらそっちにリーダーを渡すから、ザックさんをPTに入れておいてくれ!」
「了解です!」
手早くPTメンバーの音声が配信に乗るように設定して……よし、これでいい。その上でハーレさんにPTリーダーを変更してしまえば、ザックさんを含めた実況側の状況が分かるようになる。
<ザック様がPTに加入しました>
おっ、ザックさんがPTに入ってきたな。よし、これで設定は完了っと!
「おっす、ケイさん、紅焔さん! 今回は俺が解説になったぜ! 解説出来る自信はないけどな!」
「解説はザックさんになったのかー。てか、自信ないのに引き受けたんかい!」
「わっはっは! 何事もチャレンジあるのみってな! 何気に解説は初挑戦だぜ?」
「あー、そうなのか?」
「期待しとくぜ、ザックさん!」
「わっはっは! 任せとけ、紅焔さん!」
今のザックさんの発言って不安になりそうな内容なのに、全然不安感が出てこないのはなんでだろう? いつも死にまくってるザックさんだから、失敗したとしても何か面白い事にしそうな予感がするからかな?
「おーし、これで全部の設定は完了だな! 勝負だ、ケイさん!」
「受けて立つぞ、紅焔さん!」
全ての設定が完了したから開始していきますか! 全身全霊、出し惜しみ無しで紅焔さんを倒すのみ!
「さぁ、『グリーズ・リベルテ』リーダーのケイ選手と、『飛翔連隊』リーダーの紅焔選手による全力勝負が開幕だー! なお、今回は水の操作Lv10の実戦運用を兼ねた勝負ともなっております! 実況は私、『グリーズ・リベルテ』所属のリスとクラゲのハーレがお送りします! そして、解説とゲストはこのお二人だー!」
「解説は、特にどこにも所属してないトリカブトのザックがやっていくぜ! 初の解説だけど、よろしくな!」
「『飛翔連隊』所属のタカの、ソラがゲストとしてお送りするよ」
「お二人とも、ありがとうございます! さぁ、どんな場所で、どんな激戦が繰り広げられるかが注目です!」
実況組の開始の挨拶も終わったみたいだし、模擬戦自体も開始していこうか。さーて、どんなエリアになるのやら?
<『模擬戦エリア:湖』へと移動しました。模擬戦の開始のカウントダウンを開始します>
ちょ!? 冗談で思ってたけど、本当に湖エリアを引き当てちゃったよ!? あ、でも湖といってもいくつか小島があって、俺の初期位置はそこになったっぽい。紅焔さんも他の小島の上が初期位置か。
「……うへぇ、ランダムにしたから仕方ないとはいえ、マジで湖になるのかよ」
「恨みっこ無しだからな!」
まだ快晴な昼間なだけ、かなりマシな方のはず! てか、ネス湖みたいにあちこちに小島があるタイプなんだね、模擬戦の湖エリアって。うん、初めて見たから知らなかった。紅焔さんが除外に選ばなかった理由はここか。
「さぁ、舞台は小さな島が点在している湖エリアに決定だー! 天候は快晴で、時間帯は昼間となっているようです! これをどう見ますか、解説のザックさん?」
「紅焔さんは空を飛べるし、小島が結構あるなら問題ねぇんじゃねぇの? ケイさんが水中に引っ込んでても、それだけで勝てるって訳でもねぇしな」
「それもそうだね。別に対戦に時間制限はない訳だし、逃げの一手は無意味でしかないよ」
「だよな! だから、ケイさんに一方的に有利って事はないと思うぜ!」
「確かにそれはそうですね!」
おー、ちゃんとエリアの特徴を説明してるし、模擬戦で時間制限がない事からの逃げの一手が意味ない事もしっかりと解説出来てる! 正直、ちょっと意外だった!
「ケイさん、最初はどうするよ?」
「あー、どうするか」
紅焔さんと俺の初期位置は違う小島ではあるけど、お互いに姿が見えて声が届く範囲ではある。とはいえ、攻撃するにはお互いに遠いとも言える距離。でも、射程圏外という訳でもないか。
「始まったら、すぐに戦闘開始でどう?」
「あー、まぁそれもありだよな! よし、それでいこう!」
同じ小島に移動してから仕切り直してスタートって方法もあるけど、今回はそういうのは無しでいこう! あえて先手を紅焔さんに譲って、後手で引っ掻き回してみるか。
「それではまもなく開幕です! 2……1……模擬戦、スタートです!」
<模擬戦を開始します>
よし、カウントダウンが終わって、模擬戦開始! 紅焔さんはどう動く……って、動いてねぇ!? ちょ、すぐに飛び立って距離を詰めてくるかと思ったんだけど……後手を選んだのは紅焔さんも同じかよ!
「開始早々、ケイ選手も紅焔選手も動き出さないー!? これはどういう事でしょうか!?」
「あれじゃね? ケイさんも紅焔さんも、近付いてくるとこを狙おうとしてじゃね?」
「多分、そうなんだろうね」
小島で分断されているし、ここから直接の攻撃は狙いがバレやすいし、紅焔さんの動きに合わせて動きを決めようと思ったのに、まさかの狙いが一緒ときたか。
うーん、膠着状態になると、先に仕掛けた方が不利になりそうなんだけど……どうしたもんか。いっそ、湖の中に潜って、位置を分からなくする? いや、でも紅焔さんは危機察知を持ってるから、不意打ちには強いよな……。
「おーっと!? よく見れば、今回の模擬戦の設定は行動値と魔力値の回復速度が最大限まで上げられていたー! これはド派手な攻撃の応酬が見られるかー!?」
「おっ、マジだ! あー、でも回復が早いからって調子に乗って連発すると、変なとこで隙が出来るんだよなー」
「へぇ? そういう事があるのかい?」
「俺、何度かやらかした事があるんだけどな? 普段なら行動値や魔力値の残りを気にしながら使うけど、その制限がないと思って使い過ぎんだよ! 少しの回復時間の確保も忘れて次のスキルをどんどん使って、最終的にガス欠ってな! そこで思いっきり隙が出来て、一気に攻め込まれて、立て直せないまま死亡とかな!」
「なるほどね? 普段とは違う仕様だからこそ、注意が必要になる部分かい」
「解説のザックさん、興味深い内容をありがとうございました! さぁ、この膠着状態はいつまで続くのか!? どっちが先に仕掛けるのでしょう!?」
ふむふむ、今の話は普通に俺としてもありがたい内容だな。普段とは違うからこそ、行動値や魔力値の管理……というか、回復のタイミングはしっかりと意識して作らないと駄目って事か。
今、それを聞けたのはありがたかったかも。……まぁ開始早々に膠着状態に陥った場面で聞くとも思わなかったけど。
「だー! ザックさん、それは言い過ぎだって!?」
「紅焔さん、実はその隙を狙ってた?」
「そこの隙じゃなくとも、隙があればどこでも狙うまで!」
「まぁそりゃそうだ」
敵の隙を狙うのは当然の話だけど……まずはこの膠着状態の打開からだなー。うーん、どうせなら強行突破で派手にいってみるか! 隙が無ければ、隙を作るまで!




