第1235話 総力戦の前の情報戦
初めは正体が全然掴めなかった暗躍している集団が、何者なのかが掴めてきた。あくまで推測に推測を重ねた結果ではあるけど、少なくともその一部へと明確に手が届いたのは間違いない。そうじゃないと、あんな伝言は返ってこない。
対処というか反撃は桜花さんの伝手にかかってるけど、推測通りならどこかに直前で無所属の傭兵達を寝返らせる為の情報伝達手段があるはず! そこに桜花さんが割り込めれば、一方的に攻め込まれている情報戦に反撃の一手が打てる!
「ケイさん、色々と気になる状況だけどごめん! 一旦、今はログアウトするね!」
「あ、もう18時になってるかな!? ケイ、ハーレ、また後で!」
「いってらっしゃーい!」
「ほいよっと!」
流石に晩飯でサヤとヨッシさんが離脱なのは仕方ないな。俺らはあと1時間は大丈夫だけど、それまでに動きが掴めるといいんだけど……。
って、あれ? ベスタからフレンドコールがかかってきたって事は、ログインしてきたのか! よし、ベスタにこの一連の推測の意見が聞きたいとこだし、丁度良いタイミング!
「ハーレさん、ベスタからフレンドコールがきたから話してくるわ」
「はーい! うーん、何して待ってよう?」
「何か動きがあるまでは暇だもんな。ハーレさん、俺と模擬戦でもしに行くか?」
「おぉ、紅焔さんと模擬戦! ケイさん、行ってきてもいいですか!?」
「長過ぎなければ、別に構わんぞー。そんなにすぐに分かるとも思えないしな」
「やったー! ドラゴンスレイヤーを目指すのです!」
「わっはっは! あっさりと倒されてやるかよ!」
ドラゴンスレイヤーって……まぁ龍殺しなんだし、火龍の紅焔さんを倒せばそうなるのか? ちょっと見たいとこではあるけど、桜花さんは中継どころじゃないし、俺もベスタからのフレンドコールに出ないとな。
「ベスタ、待たせた! ちょっと意見を聞きたい内容がある!」
「俺の方も聞きたい事があって連絡したとこだ。……ケイ、連中の何かの動きを察知したか?」
「ちょ!? その件で話をしようと思ってたんだけど、もう知ってんの!?」
「いや、少し桜花に用があったんだが、フレンドコールが可能になったり不可能になったりを繰り返しているからな。そこにケイ達や、昨日の傭兵2人がいれば何かあったと思うのが自然だろう?」
「……まぁまさしくその通りだけど、そこまで察してるなら話は早い! とりあえずあった事を伝えていくわ!」
「とりあえず概要を説明してくれ。聞きながら、俺もそっちへ行く」
「ほいよっと。それじゃまずは――」
桜花さんの所にいるのが分かってるなら、樹洞の中で内緒話をしていた事くらいは分かるよなー。ベスタがここまで辿り着く間に、手短かに何があったか話していこうっと。
◇ ◇ ◇
ベスタの移動中にここまでの暗躍していた敵の正体の推測の事を伝えていった。移動だけに徹しているようで相槌以上の返事はないけど……下手な事を言って誰かに何かを聞かれないようにしてるんだろうね。
ぶっちゃけ、今回に関しては同じ群集であっても油断が出来ないとこだし、ベスタが慎重になる理由も分かる。
「桜花、中には入れるか?」
「ん? おっ、ベスタさんか。ベスタさんなら問題なく入れる状態だぜ」
「そうか。色々と助かる」
おっと、推測を話し終えたところでベスタが辿り着いたね。まだ桜花さんが何をしているかまでは説明出来てないけど、大体は察していそうな気がするなー。
「……なるほど。その一連の流れから、桜花が色々と探りを入れている最中か」
「だな。って事で、動く方に戻らせてもらうぜ」
「桜花、少しだけ待て。俺からも伝えておく事がある」
「ん? どういう内容だ?」
「ここに来る途中で確認したが、昨日の件についてのまとめ部分の編集履歴で何人か気になる名前があったからな。名前を上げておくから、そいつらを重点的に当たってみてくれ」
「あー、あれか? 普段は編集をする事はないけど、間違ってる部分が放置になってればいつの間にか修正をしてる人か?」
「なんだ、気付いていたのか」
「俺が気付いたというよりは、色々と伝手を当たってる間にその辺の人達に連絡を取ってみた方が良いって話が出てきててな。ベスタさんから見ても、変わった人達なのか?」
「……変わった人達というよりは、そこでしか名前を見た事がないと言った方が正解だな。修正情報の精度を考えれば見かけても良さそうなもんだが、それがない数名だ。今回の相手側に与している可能性もあるが……編集のタイミングを見るとそうでもなさそうだからな。勧誘を蹴った上で止めようと動いている可能性もあるから、もし話が聞ければ何か分かるかもしれん」
「なるほど、それじゃその辺を重点的に当たってみるわ! 具体的にどの人になる?」
「あぁ、頼む。それは――」
ふむふむ、変に口を挟まずに大人しく聞いていたけど、ベスタが把握している今回の件を知っていそうでかつ、相手側の味方になっていない人達の候補か。桜花さんにそれが誰なのかを伝えている最中みたいだから、少し待とうっと。
あの嫌がらせ的な内容は俺から見たら誰がどういう編集をしてるのかがサッパリだけど、少なくともそれを修正しようと編集している人は存在してるんだね。
その辺は普段からまとめの編集をしてくれているベスタだからこそ気付く内容か。……やっぱりベスタはベスタで、俺と同じような推測自体はしてたのかも?
「ケイ、待たせたな」
「そこは問題なし! というか、桜花さんへの用事って今の内容?」
「それを含めて、表に出てきていない連中への探りを入れてもらうつもりでいたんだが、まぁ大半の用事は先に済ませておいてくれたようだな」
「あー、ベスタもやっぱり表に出てきてない人達の可能性を考えてた?」
「……可能性だけは前から考慮には入れておいたんだが、思った以上に『捨て駒』への反応が薄いからな。裏に誰かいるのを匂わせておきながら、大人しく指示に従って手の平を返さない奴が多過ぎる。赤の群集の騒動の件や、青の群集の主導権争いに関わっていた連中だと考えれば尚更にだ」
「あー、それは確かに……」
その辺はソラさんが気にしていた部分だよな。騒動を起こしている割には妙に統率の取れた、これまでの動きとはまるで違う冷静さが垣間見えているもんな。てか、やっぱりベスタが『捨て駒』だと言ったのは意図的な発言か!
「ベスタ、相手の内輪揉めを狙ってた?」
「いや、内輪揉めというよりは手の平を返す連中が出てくるのを狙っていた。本当に捨て駒ならあの時点で切り捨てるだろうし、それに反発した動きが出てくるはずだから、群集から距離のある集団経由でその反応を桜花に探ってもらおうと思っていたんだが……」
「なるほど、そういう流れか!」
ベスタでも完全に今の状況まで予想し切れてた訳ではないけど、少なからず何か変化を起こす為の『捨て駒』発言だったんだな。結果的には違和感を浮き彫りにさせる効果になったけど、元々の狙いは別にあったと……。
なんでも出来る訳じゃないのは当たり前なんだけど、全部ベスタの狙ってた通りだと思ってしまったのは……ちょっと頼り過ぎなんだろうな。そりゃベスタだって予想外になる事もあるさ!
「俺の見解とは随分と違った事態になっているが、大体はケイの推測で合ってるだろう。これで悪意で動いていたら、それはそれで相当厄介な相手だがな」
「……捨て駒だと承知した上で、反発もせずに統率された状態を維持してるって事になるもんなー。どんな状況だよ、それ……」
「もはや、カルト宗教的な狂気だろうな」
「……そんなのは相手にしたくない」
でも、もう1つの可能性としてはそれでも説明は出来なくもないんだよな……。元々が雰囲気に流されて状況を悪化させてしまった人達だし、盲目的に良いように使われて、本当に捨て駒にされても良いと思って動くって……いや、このパターンの想定はやめとこう!
可能性は0とは言えないけど、この可能性よりは黒の統率種での占拠を狙っている表には出てきていなかった人達の集団と、群集への反発からその人達と手を組んだ問題行動を起こしていた人達って構図の方が遥かにマシ!
「こうなると重要なのは……中心にいるのがどこの群集の裏に隠れていた集団なのかだな」
「あー、そこって重要?」
どこの群集であったとしても表に出てきてない集団だから気にしてはいなかったんだけど……。ぶっちゃけ、全部の群集に潜んでるのは間違いなさそうだしさ。
「その件は重要だ。考えてもみろ、最初に共闘の提案をしてきたのは誰だ?」
「それはウィルさんだけど……って、もしかして赤の群集にはその心当たりがある!?」
「あぁ、その可能性が高まってきた。動きが読めない無所属なんて言っていたそうだが……黒の統率種になった時雨についても探りを入れてきていたという話だったな?」
「あー、確かに例外として扱って良いかという話はされた……」
よく考えてみたら、あの時から既に黒の統率種の話題は出ていたんだよな? もしあの時点で今の状況への可能性を掴んでいたのだとすれば、俺らはウィルさんの手の上で転がされていた?
「……俺ら、赤の群集に利用されてる?」
「どこからどこまでが仕込みかは分からんが、俺らよりも情報を持っているのは確かだろうな。そういう意味で、どこの群集に隠れていた集団なのかが重要になってくる」
「……同じ群集の方が、1番状況を察知しやすいもんなー」
それに赤の群集には、赤のサファリ同盟という表に出てきていなかった実力者集団が存在している。その辺からの伝手で、表に出てきていない集団の動きを掴むのはやりやすい可能性は高いか。
「ケイさん、ベスタさん、話してるとこだがちょっと良いか?」
「問題ないけど、桜花さん何かあった?」
「何か情報は掴めたか?」
「おう、さっき挙げてくれた人の一人に連絡を取ってくれた人から、ちょっと気になる情報が出てきたぜ。間に何人か挟んでるらしいから情報の精度は確実とも言えないが……特定の連絡経路を持たない無所属に伝えるには伝聞頼りだとは思ってたけど、思った以上に強烈な手段を使うみたいだぞ」
「……強烈だと? 桜花さん、どういう事だ?」
「俺や羅刹が、模擬戦を利用する形みたいなのじゃねぇのか?」
「そっちもあるが、あくまでそっちは補助みたいだな。本命はこれから説明していくぜ」
本格的に桜花さんが、探っていた手段を見つけ出したらしい。表に出てきていない人達同士での独自の伝手って凄いんだなー。……まぁ下手に頼り過ぎれば一切の協力を拒まれそうだけど。というか、元々が伝聞情報になるのか。
「傭兵の中に既に協力者が混ざっているって話でな。開戦前に共闘へ不満を持っているのを主張して、騒動を起こした悪名を持つ連中がその協力者の傭兵の権利を剥奪する形にするそうだ。要は群集が無理矢理に傭兵を従わせようとする構図を作って、その後に植え付けた不信感を伝聞で広めていくみたいだぞ。ただ、協力している具体的なプレイヤーの名前までは分からんそうだ」
「ちょ!? そういう手段!?」
「その手段だと群集は悪名を持つ連中を抑えに動く事になるが……即座の強制的な排除は不可能だな。ちっ、徹底的に悪名を利用していくつもりか」
思った以上にこれは強烈な手段だよな!? 異議の申し立ては元々仕込みなのだとすればしなくてもいいだけの話だし、これまでの悪名の使い方を考えれば普通に実行してきそうな内容だ。
「……羅刹、北斗、そうされた場合は無所属の傭兵はどう動く?」
「どこの群集の傭兵になってるかによるな。桜花さん、それは灰の群集での仕込みの話か?」
「いや、灰の群集はそもそも傭兵が少ないから何もする予定はないみたいだぜ、北斗さん。これは赤の群集に対しての計画って話で、赤の群集で共闘を支持しない集団が出れば、青の群集の傭兵も義理堅く共闘を守る事もないって読みみたいだな」
「……良い読みをしてんじゃねぇか。血の気が多くて特に指示に従うのが好きじゃないって連中が赤の群集には多く行っているし、不審があろうがなかろうがキッカケさえあれば、どうとでも寝返るだろうよ」
「俺も北斗の意見に同意だ。作戦を重視してる青の群集にはそれを守る気がある奴らが傭兵として行ってるが……利があってこその話だ。共闘の破綻が見えたら、無所属としての利を取りに動くはずだ。仮に青の群集の意思で共闘を破棄すれば、そのまま青の群集には従うかもしれんが……」
「それを実行されれば、群集への信頼は関係なく共闘を維持する事は不可能になるって事か……」
「やはりそんなところだったか」
うーん、灰の群集の傭兵は完全にスルーされてるのは人数が少なくて影響が薄いからってのもあるんだろうけど、羅刹や北斗さんがいるからっていうのもありそうな気がする?
割り込んでそういう風に利用されようとしているのを伝えればどうにかなりそうな気はするけど、割り込めないな、この手段!? 何か別の手段を考えないと……。
というか、やっぱり赤の群集は色々と情報を掴んだ上で共闘を持ちかけてきてない!? 赤の群集だけでは対処し切れない状況になりかねないからこそ、その対抗策として共闘を提案してきてるような?
今の状況で1番有効な対抗策として機能しているのが集団化している無所属への共闘という約束事だし、それを崩す為に色々と策を巡らせてきている。……ウィルさんの思惑に乗せられるのは癪だけど、共通の敵を抑えるという意味ではちゃんと効果は発揮している状況だもんな。
裏で何か別の事を企んでそうな気もしてきたから、その辺は警戒するとしても……共闘自体はちゃんと成立させておくべきか。少なくとも、総力戦の開始前からぶっ壊される状況は避けておきたいし……。
「……灰の群集での対応だけならどうにでも動けるが、他の群集の中で対処を考えないといけないのは厄介か。ケイ、何か妙案はあるか?」
「いきなり言われても困るんだけど!?」
それこそ、フラムのとこに羅刹と北斗さんに行ってもらって……って、他の群集だと無理だよな。確か灰の群集の傭兵だからこそ、模擬戦機能が使えてるって話だし……。
だー! 思った以上に裏から手を回す手法を使ってきてるから、正攻法でどうにかなるのか!? 裏工作には裏工作で対抗するしかない……?




