第1232話 違う思惑の可能性
桜花さんの桜の木の樹洞までやってきて、サヤとヨッシさんが報酬として火属性の進化の軌跡を受け取り終えた。てか、既に何の属性を貰うかは決めてたんだね。
まぁそっちはいいとして……今から大事な話をしていきますか。大前提をひっくり返す可能性だから、慎重な意見が欲しいとこだしね。
「さて、どこから話したもんか……」
「ケイさん、結論から聞いてもいいか?」
「紅焔さんに賛成だ。まずはどういう思惑があり得るのかを知りたい。そこに至るまでの過程は後から俺らの意見を交えつつでどうだ?」
「あー、それもそうだな。それじゃそこからで」
紅焔さんと羅刹の提案に乗っかる形でしていくのが良さそうだね。先に結論を話してておかないと、意見を求めるにも言いにくいだろうし。
「結論から言うと、群集への攻撃は本命じゃない。無所属……正確には、黒の統率種で発生してる特殊なクエストをクリアする為に動いている可能性だ」
「……なに? そういえば、羅刹と共に黒の統率種の時雨から話を聞いたんだったか?」
「確かに聞いたが……ケイさん、その結論はどういう事だ? 今の行動と、実際の目的が食い違ってるように思うが……」
俺も今の時点では、相当な食い違いがある状況だとは思う。だからこそ、大きな違和感があった。ただ、この推測は想定している行動理由の方向性がまるで変わるから、他の人の意見も聞いておきたいんだよな。
「俺の推測としては、群集の内輪揉めを狙っているような動きそのものが意識を逸らす為の作戦だ。まぁそうとは知らず、捨て駒にされてる人もいるような気はするけど……」
「はっ!? それが昨日、暴れてた人達の正体ですか!?」
「多分だけどなー。羅刹、北斗さん、無所属としてその辺はどう思う? あの連中、新規サーバーに移る前に大暴れみたいな事は言ってたんだけど」
「その前提で考えてみると……確かに問題行動が多い連中を抱え込んで、新規サーバーへ移ろうってのが不思議ではある部分だな。羅刹はどうだ?」
「ドライアもそうだったが、根本的にまとまる連中だとも思えんしな。本命の為に、捨て駒として唆されて取り込まれたと考えれば合点もいくか。……だとすると、今の状況を滅茶苦茶にするというのを共通の目的だと思わされているのかもしれん」
ふむふむ、北斗さんと羅刹の意見は俺の推測を補強する内容にはなる感じだな。やっぱり、どうにもああいう連中がそう簡単に大規模な集団化するとは思えないんだよなー。
共通の目的があればまとまる事もあるだろうけど、悪意によってまとめるだけでは……ぶっちゃけ、まとめ役がいたとしても上手くいくとも思えない。手段はともかく、何らかの共通の目的を提示しなければ言う事なんか聞く訳がないもんな。ましてや、ベスタが『捨て駒』と言い放った現状では尚更に。
「あー、そういう考え方か。でもケイさん、それって滅茶苦茶にするのが本命の目的でも成立するんじゃね?」
「まぁそりゃそうなんだけど……紅焔さん、それで目的を達成したとしてさ? 新規サーバーに移ってからはどうするのかっていう問題があるんだよ」
「ん? そりゃ揃って同じ集団として移って……そのままだと、まとまる訳がねぇな!?」
「僕なら、間違いなく内部分裂をするのが確定な集団を率いたくはないね」
「……あはは、確かにそれは嫌かも」
うん、やっぱり紅焔さんも、ソラさんも、ヨッシさんも、俺が思っているのと同じ反応。結果はどうあれ、滅茶苦茶にして去っていくという目的であるのなら……それ自体が目的で、完全に最後にするつもりでない限り後が逆に大変になるはず。
「仮に新規サーバーに移った後にまとめる事が出来る人なら、普通にこっちで新たに共同体でも立ち上げれば済む話って事だよな。新規サーバーでの明確な仕様が判明してない現状で、これだけの事を仕掛ける奴がその辺まで考えが回らない訳もないってとこか?」
「桜花さん、その通り! 後の事を考えると違和感が凄いんだよ、今の動き。だから、考えられる可能性は後の事は考慮に入れてないか、そもそも後の事が俺らが想定している内容と違うか、どっちかになってくるはず」
「……その後の事が、黒の統率種の固有のクエストのクリアって事になってくるのかな?」
「存在自体は判明してるから、可能性はありそうなのです!?」
そう、灰の群集の傭兵になっている時雨さんが教えてくれたからこそ判明している黒の統率種という特殊な存在の固有のクエスト。後の事を考えるのなら、あれが重要な意味を占めてくる可能性が高い。
レナさんが時雨さんとリアルで繋がりがあったから明確に味方だと判明してるけど、ウィルさんが最初に共闘を持ちかけてきた時には無所属の黒の統率種を確認してるような事は言っていた。
だからこそ、本命に気付かれないように強く印象付けて目を逸らさせる為の手段が必要になった可能性はある。……意外と間近なんじゃないか、あの騒動を起こす連中を大々的に作戦に組み込んできたのって。いや、傭兵の権利を剥奪したドライアの件を考えると微妙?
「羅刹、こりゃ俺らが傭兵でいるって事も何か意味があるんじゃねぇか?」
「そうかもな。時雨を探し出して元に戻して……いや、そもそもクエストの内容自体はもう分かってるって話だったな。群集支援種を乗っ取った、特性『野心』持ちの異形の個体に占拠させる事だったか」
おっと、地味にその内容は知らなかった気がするけど、今の状況的にすごい重要な情報だね。なるほど、無所属……いや、この場合は黒の統率種か。それが占拠する事もあり得るんだな。
「……少し疑問なんだけど、ちょっといいかな?」
「サヤ、気になる事があったらどんどん言ってくれー」
俺だけの意見だと見落としがある可能性もあるし、目的を見誤れば対処も間違えかねない。だから、気になる事があればどんと来い!
「それじゃ遠慮なく。仮に無所属の人が黒の統率種として占拠した場合、傭兵になってる人達はどういう扱いになるのかな? この場合、無所属かつ、灰の群集の傭兵かつ、黒の統率種になっている時雨さんの立ち位置がかなり重ならない?」
「あー、確かにある意味全部の勢力に入ってる事にはなるのか……」
傭兵として参加した場合は、味方をして勝った群集の占有エリアには自由に入れるようになる特典が得られるけど……傭兵の状態で黒の統率種となってる場合はどうなるんだ?
確かに気にはなる部分だけど、現状では判断しきれない内容だ。……それこそ、実際になってみないと分からない部分か。
「すまん、サヤ! それは俺にもよく分からん」
「……その答えが分かってるなら、そもそも意見を求めたりはしないかな?」
「そういう事になるなー。それ以前に、黒の統率種が占拠した場合にどうなるか……」
「それを実際に行って、どういう結果になるのかを知ろうとしてる人が今回の黒幕ですか!?」
「黒幕って言い方が適切かは分からんけど、そういう可能性は無視しない方がいいって話だな。群集の中にいたら、絶対にクリア出来ない条件だろ?」
「あー、黒の統率種に占拠させてみたいから、全部の群集に勝ちを捨ててくれなんてのは……流石に許容出来んぜ!」
「紅焔さんの意見に同意だな。戦闘に直接関わってようが、関わっていなかろうが、多分それを許容出来るヤツはほぼいねぇのは間違いない」
紅焔さんと桜花さんのその言葉に、他の人達も納得するように頷いている。群集が嫌いだからという理由ではなく、群集の中にいては実行が不可能なクエストになるもんな。
「そういう話なら、俺らの方にも戦力要請が回ってきても……いや、待てよ。北斗、その手の検証をやりそうな集団に心当たりはねぇか?」
「……あいにく、心当たりはねぇな。群集が嫌になって出てきた奴以外だと、羅刹やイブキみたいに群集所属の連中と戦いたいって奴が多い……って、そういう事か!? ちっ、道理で心当たりがない訳だ!」
「えーと、羅刹と北斗さんは何か心当たりが?」
何か思い至った可能性があるみたいだけど、どういう内容だ? もしかすると、戦闘には参加せずに色々と検証をやってる集団に……そこは心当たりが無いって言ってるから違うか。
そういう集団がいたのなら……って、待てよ!? 群集に対して不快に思っていなくて、それでいて検証内容を群集に伝える事はしてない層って存在してるじゃん!? それこそ、まとめに料理系の情報が一気に出てきた事もあったし、もしかすると――
「心当たりっていう意味なら、群集の方がよっぽどあるはずだ。そういう目的なのだとすれば、おそらく元々は無所属じゃねぇぞ、そいつら。黒の統率種に占拠させる為って目的で、どこかの群集から抜け出てきた実力派集団かもな」
「……北斗さんのその読みは当たってるかも。言われてみれば、思いっきり心当たりがあったよ」
「ん? ケイさん、そんな心当たりがあるのか?」
「あー、紅焔さんは知らない? ほら、回復量の多い料理系が試食データとして出てくるのが判明した途端に、一気にまとめに情報が出てきたってやつ。その時に最初の1件の報告が出てくるのを待ってた集団がいたって話!」
「あぁ! そういやそんなのもあったな!?」
「……確かにそういう人達がいるというのは聞いてはいるけど、その集団が裏で色々と動いているのかい?」
「あー、あくまで今のはそういう一例はあったって話だぞ、ソラさん。ただ、観測出来てる人だけじゃないってのは間違いない」
「……なるほど。確かにそれはあるかもね」
もちろんあの時の人達が動いている張本人達だという可能性はあるけど、実態が掴めていない以上は断定も出来ない。ただ、短期的な嫌がらせを目的とした行動よりは、長期的な検証を目的とした行動だと考えた方が色々としっくりくる。
「ケイさん、ちょっといいか? 今のを聞いて、話しておいた方がいい事がある」
「話しておいた方がいい事? 桜花さん、どういう内容だ?」
「俺は知っての通り不動種をしてるし、その手の集団のいくつかにも心当たりはあるんだよ。それこそ、俺ら不動種を窓口にして群集への情報提供をしてるとこもある」
「え、マジで!?」
「マジだ。共同体『縁の下の力持ち』って聞いた覚えはないか? その手のソロプレイヤーの互助会みたいな共同体なんだが……」
「あー、なんか聞き覚えがあるような……?」
どこで聞いた共同体名だっけな、それ。てか、その手のソロプレイヤーってまさしく十六夜さんだよなー。接点さえちゃんと残っていれば、風音さんもそのタイプだったような気もする。
「その共同体、ソロ向けの非公開のトーナメント戦をやってるとこじゃなかった? ほら、前に風雷コンビと十六夜さんが参加してて、ケイさんが見たがってたトーナメント戦の主催だった気がするよ?」
「あー! それだ!」
「そういえばそんな事もあった気がするのです!?」
「……そういや、俺が初めて知ったのってその時だった気もするな?」
段々と思い出してきたぞ! あれだ、確かケインに難癖をつけられて模擬戦でぶっ飛ばす時に丁度開催が重なってたやつ! ケインを瞬殺してから桜花さんに中継を見せてもらおうとしたら、実は非公開のトーナメント戦でガッカリした覚えがある。あの時の共同体か!
「もしかして、その『縁の下の力持ち』って共同体がいなくなってるって話?」
「いやいや、普通に共同体としては健在だし、流石に消えてたら変に思うっての! ただ、あそこは群集との繋がりが薄めだが、その手のプレイヤー間では独自のネットワークがあってな?」
「ほう? ある意味、無所属みたいなものが群集内にも存在してるって事か」
「あぁ、そう思ってくれていいぞ、北斗さん。表に出てくる前の『赤のサファリ同盟』みたいな集団がいくつもあると思ってくれていい。まぁ共同体によって行動方針はバラバラだが……」
ふむふむ、その手の集団……というか、ちゃんと共同体として成立はしてる集団なんだな。表に出てくる前の『赤のサファリ同盟』を例に出されると非常に分かりやすいし、要するに特定の共通の目的で集まってる集団って事か。
今、そういう集団の話を出してきているのは……俺の推測から目的を考えると、黒幕がその手の集団のどこかという可能性があるんだな。
「表に出てこない集団にも1人くらいは窓口役で動いてるいる奴は所属してる事は多いから、その伝手から探れば正体が掴めるかもしれん。ただ、探りを入れるとケイさんの読みが筒抜けになる可能性も否定は出来んぞ?」
「……なるほどなー」
確かに群集とは別の、無所属の集団に近い独自ネットワーク持っているのなら、探ればその危険性はある。でも、それはあくまで俺の推測が合っている場合。
「桜花さん、そういう人達って群集の事を嫌ってたりはするのか? 」
「全員を知ってる訳じゃないから断言は出来んが、少なくとも嫌ってはいないと思うぞ。ただ単純に、マイペースに動きたいってのが多いからな。だからこそ、ケイさんの推測を聞くまで何とも言えなくてな?」
「昨日の件を考えたら、そういう人達は関係無さそうに思うのです!」
「……あれが本命を隠す為の偽装なら話が変わってくるかな?」
「そうだよね。あれが偽装なら、相当無茶な偽装だけどさ」
今の推測では昨日の一件を考えると今の俺の推測の首謀者とは方向性がまるで違うしね。あれはそれこそ、例のスライムの再来レベルの悪意によるものくらいしか目的の想定が出来ない。
ただ、それが偽装となれば話が変わってくる。連携の取れている集団が裏にいて、群集にいてはクリアが出来ないクエストを攻略するのが目的なら探ってみる価値はあるはず。
「桜花さん、時間はあんまりないけど探ってみてもらえないか?」
「……そりゃいいが、ミスっても勘弁してくれよ?」
「その辺はどうこう言う気はないって。それに、この場合は何か反応がある方が都合はいいしさ」
「あー、そういう考え方もありか。ま、ちょっとやってみるわ」
「任せた!」
あくまで推測に過ぎないけども、これで何らかの反応が出てくれば正体も分かりやすくなってくる。正直、悪意だらけの敵だと戦いにくいしさ……。




