第1214話 次の一手
風雷コンビはもう完全に言う事を聞かなくなってるけど、自分達から目立つ囮になってくれてるんだし放置しとこ。無視される可能性は高そうだけど、それでも高速であれだけ飛び回ってたら、邪魔なのは間違いないからなー。
それにしても……危機察知回避の狙撃への明確な対抗手段が無いというのが厳しい状況。攻撃されてから目視で迎撃するか防御するしかないけど、そこが本当に厄介だ。
ただ、遠隔同調で1人でやるにしても、複数人で手分けをしてやるにしても、全ての状況に対応出来るだけの柔軟性はないはず。システム的な命中補正を使用しないんだから、完全にプレイヤースキル頼りでの攻撃だ。
そう考えると、風雷コンビがやっているシンプルに動きまくっているのが対抗策な気がする? だとすると……制御の効かない風雷コンビには任せられないけど、この組み合わせならいけるはず!
「風音さん、ハーレさんを乗せて危機察知回避の狙撃潰しを頼む! 風音さんは常に移動しながら、ハーレさんへの防御を! ハーレさんは、敵を見つける事を最優先で!」
「了解なのさー! 」
「……分かったけど……背後が……危険?」
「あー、そういやそうか。レナさん、ハーレさんと風音さんの背中任せていいか? ツキノワさん、そっちのPTから1人回してもらう事になるけど……」
「ここはケイさんの指揮が最優先だし、重要な内容だからそこは問題ないな。レナさん、頼むぜ!」
「まぁ狙撃は放置出来ない状況だもんねー! 風音さん、折角だから風雷コンビを盾に使いながらやろっか。飛ぶ方向の指示はわたしが指定するから、それで敵の位置をある程度絞っていくよー!」
「……分かった。……それじゃ……乗って」
「はーい! 絶対に見つけるのです!」
「他にも何かあるか、その辺も確認してくるからねー!」
「細かいとこはレナさんに任せた!」
「……それじゃ……行ってくる。……『自己強化』『高速飛翔』」
さて、これで今の状況で1番危険な攻撃への対処はいいだろう。少なくとも龍3人が上空を飛び回っている状況では、狙撃そのものが相当しにくくなるはず。
それに周囲は風雷コンビが暴れまくって、隠れられる場所も相当減って……減ってるのか? ちゃんとした木は少なくなってるけど、バラバラになった木片が逆に隠れ場所を増やしてるような……?
いや、そこは今はとりあえず置いておこう。焼き払ってもらってもいいけど、急場の指示出しまではこれで十分なはず。今はベスタを待たせてる状態だし……決して油断出来る状況ではないからこそ、2班、3班と俺らの増援が来れるようにしないとな!
「ベスタ、待たせた!」
「爆発音と言っていたが、とりあえずは無関係のようだな?」
「あー、一応はなー。直接何が起きたかの確認が出来ないから絶対安全とは言えないけど、今ので強襲された訳じゃない。そうやってこっちの精神力を削る作戦な可能性もあるけど……」
「……この状況では否定が出来ん可能性か。すぐにでも2班と3班を送った方がよさそうだな」
「今の状況で強襲されると厳しいし、出来るだけ早めに頼む!」
ぶっちゃけ、最初の戦闘で物理型のみんなの大半が魔力集中を使ったから、今はもう時間切れで自己強化に切り替わっている人ばっかりだ。……耐久性は上がるけど、今のタイミングで人数で攻められたら火力不足の可能性がある。
どの属性のアブソーブ系のスキルの所持者がどれだけいるかも不明なんだし、今の交代要員なしの状況で使うのは危険過ぎるもんな。
「森守り、2班の出発準備は終わってるな? あぁ、これからすぐにだ。ケイ、これからケイの合図で2班を送り込む。手段はスチームエクスプロージョンを2発で、大きなカメと大きなコンブを吹き飛ばす。上空を飛んでいる連中に避けるように伝えてくれ」
「あ、俺のタイミングでやればいいんだな。種族も含めて了解っと」
「その方が、事前の調整もしやすいだろう?」
「そりゃまぁなー。あ、3班の方はどうなる? 準備は――」
「メンバー的には2班の直後に送り込む事は可能だが……その判断を下すのはまだ早いだろう。こっちの動きに合わせて、何か仕掛けてくるかもしれん」
「……そりゃそうだ。とりあえず、まずは2班からだな」
2班が俺らと同じ方法で送り込まれてくるなら、到着するのはあっという間だ。状況の整理が出来ない状況ならベスタのタイミングでやってもらうしかないけど、今なら俺がタイミングを計った方がいい。
かといって、それほど時間はかけてられないから手短に! みんなへ指示出しが終わったら、即座に送り込んでもらおう。特に何も動きがなければ、その後に3班もすぐ送り込んでもらうつもりで!
「風音さん、これから2班がやってくるから、当たらないように注意してくれ! 風雷コンビはもう避けさえすればいいから、勝手にやってくれ!」
「味方の邪魔はしないようにしなくてはな! なぁ、疾風の!」
「当たり前だっての! なぁ、迅雷の!」
「そう言うなら、指示にはそのまま従ってほしいとこなんだけどねー!? 風音さん、ハーレ、狙ってくるとしたらこのタイミングだよ!」
「……確かに……狙いどころ」
「来るなら来いなのさー! しっかりと見極めてやるのです!」
指示を安定して聞いてくれるか怪しい風雷コンビは、もう指示を聞かないものとして扱うとして……冗談抜きで何かを狙ってくるとしたら、この増援のタイミングか。
隠れて俺らを監視していた3人を撃破した事と、俺らに対しても貫通狙撃での危機察知回避を使ってきた事を考えれば、青の群集も次の動きがあるはず。……さっきの爆発音がそれに関係してなければいいんだけど、念には念を入れておくか。
「みんな、一応可能性として聞いてくれ。さっきの爆発音、直接は関係はなかったけど、何かの仕込みの可能性がある」
「……ケイ、どういう意味かな?」
「さっきの爆発音で、俺らの意識がそっちに引き寄せられただろ? 他の戦場でのただの戦闘音の可能性もあるけど……1番最初のジェイさんと斬雨さんの動きでそう反応しやすいように仕込まれた可能性もあるからさ」
「あー、ケイさんが言いたい事は……要は、さっきみたいなハッタリの爆音があちこちで鳴る可能性があるって内容だな?」
「それだけじゃなく、ハッタリの中に本当に強襲を忍ばせてくる可能性もありそうだね」
「ツキノワさん、黒曜さん、把握が早くて助かる!」
ぶっちゃけ、ハッタリとも実際の襲撃とも断言出来ないから厄介なんだけど……作戦として用意するなら、両方共があり得るんだよな。むしろ、そこでどっちかなのかを迷わせる事こそ本命の狙いな気がするし……。
「……今回の青の群集、拙者達の集中力を削ぐ事に注力しているように感じるのであるよ!」
「あながちそれで間違っちゃいねぇと思うぜ、刹那。真っ向からぶつかるだけが、戦法じゃねぇしな」
「それは……ジンベエ殿の言う通りであるな……」
「ま、それがこっから大きく動く可能性があるって事だよな? だったら、全方位の警戒を分担するってのはどうよ?」
「良い案じゃねぇか、ディール。ケイさん、今の案はどうだ?」
「変に全員が引っ張られるよりはその方がいいか。よし、富岳さん、ディールさん、その案を採用で!」
「おし!」
となると、ここは俺の方で割り振りをしていった方がいいな。出来る限り同じPTで同じ方向を対応した方がいいとして……風雷コンビとハーレさん、風音さん、レナさんは別働隊として除外か。
灰の群集の森林エリアと繋がってるエリアの北から東にかけては警戒を薄めにしたいけど、既に開始してから15分以上は経っているし、全方位が危険と考えた方がいいか。というか、他の役割の人達が動き出せてる事は聞いたけど、具体的な情勢まで聞けてなかった!? くっ、今からそれを聞いてる暇はないか!
「上空の5人は狙撃も含めて上部の警戒をメインで! ただし、回避最優先!」
「了解です!」
「ま、わたし達はそうなるよねー」
「……邪魔には……ならない」
「全然攻撃を仕掛けてこないようだが、まぁ仕掛けてきた時は返り討ちにするまでだ! なぁ、疾風の!」
「あちこちで戦闘があるってのに、ここが1番何もねぇとは思わなかったがな! なぁ、迅雷の!」
あー、上空からなら他に戦闘してるのは見えなくもないんだな。詳しい状況を聞きたいとこではあるけど、そこまで聞いてる時間はない! 他の役割のとこは、そっちで頑張ってくれてると信じて俺らは俺らのやる事をやるまで!
「ツキノワさん、『三日月』に少し負担がかかるけど、南部と東部の警戒を任せていいか? 1番馴染みがある人達に任せたい!」
「青の群集の初期位置からの攻撃の可能性がある方向か。おし、そこは俺らに任せとけ! 俺とモコモコで南部、黒曜とシオカラで東部、アリスは両方のフォローで行くぞ」
「それがいいだろうね。了解だよ」
「あれ!? 私だけ2方向担当!?」
「そりゃアリスが1番そういうのに向いてるしね?」
「自然とそうなるよねー」
「そりゃそうだけどー!?」
なんというか、アリスさんはハーレさんと同じように観察力が鋭いタイプか? 投擲メインでやってるくらいだし、広範囲に対して見渡せるのかもね。そうじゃないと遠距離攻撃メインってやりにくいしさ。
ともかく、1番リスクに高い方向はこのエリアに慣れてる『三日月』のメンバーに任せればいい! 全方向を警戒すべきだけど割り振れる人数に限りがあるからね。よし、次!
「刹那さん達は、北側を頼む!」
「委細承知なのである! 何が来ても、対処あるのみであるよ!」
「違いねぇな! 富岳さん、ディールさん、気合い入れろよ!」
「拙者もそこに入れて欲しいのであるよ、ジンベエ殿!?」
「1人で先に気合いを入れてたんだから、別にいいじゃねぇか」
「どっちにしろ、今は何が来てもやるしかねぇってこった!」
「今回の俺らはそれが前提だしな。そろそろ、本格的に暴れさせてほしいもんだ」
襲われるリスクは……おそらく上部への警戒も含めてしまえば1番低い方向に、寄せ集め感の強いPTで。メンバー的には風雷コンビが外れて逆に大丈夫になってる気がするけど。
とはいえ、リスクは低いとはいえ全方向のどこも0じゃない。周辺の戦闘情報を聞いている時間までは……流石に取れないな。その辺の把握はこの場に3班まで全部揃って、戦闘しながらでもどうとでも出来るベスタが来てからで!
「残りの俺らは、西側を担当で!」
「分かったかな!」
「了解!」
「……さて、動き出せば何が出てくるか?」
具体的に何が起こるかは、実際に動き出してみるまでは分からない。でも、ベスタがすぐにでも増援を送れると言っているなら、俺の合図でやってくる2班の人達はそこまで消耗はしてないはず。
送り込まれてくるのは巨大なカメの人と巨大なコンブの人、そしてその2人に分乗して吹っ飛んでくるフルの連結PT1つ分。ベスタは3班の中に入ってたから、まだすぐには来ない。
まぁ状況次第ではすぐに3班も送り込めるとは言ってたから、青の群集の動き次第か。……獲物察知は最も警戒すべき擬態持ちには効果がないし、聞こえてくる戦闘音や声を聞く限りノイズだらけで、やるだけ無意味だな。おし、あとは出たとこ勝負で!
「ベスタ、こっちの警戒先の割り当ては完了したから、2班を送り込んでくれ! みんな、これから2発分の東からの爆発音は警戒なしで!」
「あぁ、了解だ。森守り、2班を出発させろ」
そのベスタの声の少し後に2発の大きな爆発音がして……それを待っていたかのように、東西南北の全ての方向から爆発音が聞こえてきた!? って、ちょっと待てや!
「全方向からってどういう真似だよ、ジェイさん! 全員、割り当て方向を確認で!」
だー! 万が一に備えて全方向へ警戒をしてて正解だった! 俺らに割り振った西側には……特にこれといった変化は見えない。
「サヤ、何かあるか!?」
「見える範囲では、特に何もないかな!」
ちっ、今回も音だけのハッタリか!? いや、そう決めつけるのはまだ――
「ケイ殿、こっちには来ているのであるよ! 皆の者、迎撃に移るのである!」
「来てるのは、銀光と白光のあるサメの突撃か。推進役は……あぁ、今落ちていったか。刻印は……守護のようだな」
「こっちはいい加減、焦らされまくってウンザリしてるんだよ! ディール、一緒にこい! 『遠隔同調』『大型砲撃』!」
「おっ、叩き落としに行くんだな! 付き合うぜ!」
「その後は拙者とジンベエ殿で対処であるよ!」
「おう! 暴れるぜ、刹那!」
「それじゃ行くぞ、ディール! 『強投擲』!」
「おうよ! はっ、的としてはうってつけだな、おい! 『トキシシティ・ブースト』『トキシシティ・エクステンション』『魔法砲撃』『ポイズンクラスター』!」
おぉ、富岳さんの小さなカンガルーに、ディールさんのヘビがマフラーみたいに巻きついて……エゲツない毒魔法を撃ちながら投げ飛ばされていった。うん、根本的に吹っ飛んでくる移動の性質上、敵もあれは避けにくいわ。
「ちっ! 南部からは岩を大量に飛ばしてきてるのか! モコモコ!」
「もう面倒臭い攻撃をしてくるね!? 『並列制御』『アイスウォール』『アイスウォール』!」
「東からは特に何もないようだけど……」
「ハッタリと実際の攻撃を混ぜてきてるね!?」
「嫌らしい攻撃ー!」
明確に攻撃してくる方向もあれば、何もない方向もあるし、微妙な嫌がらせとしか思えない程度だけど無視も出来ない攻撃もしてくるのかよ! これは相当厄介な――
「ヨッシ、危ないかな! 『薙ぎ払い』!」
「わっ!? ……え?」
「サヤ、ナイス!」
ヨッシさんの強化統率の個体をサヤが急に殴り飛ばしたけど、それを盾にしてヨッシさんに迫ってきていた銀光を防いだ! よし、ハチ1号は即死だったけど、危機察知回避の狙撃はこれで凌いだ!
「見ーつけた! ハーレ、風音さん、仕留めに行くからフォローお願いね! 『アースクリエイト』『並列制御』『重脚撃』『土の操作』!」
「了解なのさー! あっ、闇の操作!? それなら、閃光の実で『狙撃』なのさー!」
「……あそこ! ……動きを……封じる! ……『アースプリズン』!」
どうやら今の攻撃で、狙撃を行なってきた相手の居場所は見つけたっぽいね。そうしてる間に巨大なカメとコンブが到着間近だし、とりあえずは凌いだかな?
巨大なカメは、集合の時に少し話したスザクさんか。コンブは……巨大というか、中に他の人がいて、それを巻いて包み込んでる感じなのか。
まだ刹那さん達とレナさん達の決着がどうなるかは分かってないけど、壊滅するような劇的な攻撃ではなかったっぽい。さて、ここから人数が増えて、浄化の要所の制圧作戦を継続だな!
それにしても……今回の青の群集の作戦は、どうも直接的な攻撃よりも、最小限の労力でこっちの集中力を削る嫌がらせ的な攻撃が多い気がする。
直接、大々的に戦力をぶつけるのを避けてきてる? これは俺らに対してだけなのか、全体を通してもそうなのか、確認しておく必要もありそうだ。
 




