第1204話 割り振り、開始
浄化の要所を制圧しに行く班と、その場所まで移動させる為の推進力を作る班の割り当てが始まっていく。それが終われば、現地入りへの待機になって青の群集との総力戦が遂に開始だな。
「どっちの班かは、声をかけた時点で分かっているな? 森守り、推進力作成班の取りまとめを任せるぞ」
「任せとけ、ベスタ! やるぞ、テメェら!」
「「「「「おう!」」」」」
「少し場所を離して、やってくぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
そっちの班のまとめ役は、森守りさんがリーダーの共同体『森林守り隊』が中心となって行うっぽいね。まぁ拠点にしてた人達が1番ミヤ・マサの森林の状況には詳しいだろうし、適任な気がする。
今回は峡谷エリアでの反省点も踏まえて、指揮系統は相当分散させてるなー。総指揮がベスタなのは変わらないし、実際に動く時にはその場の指揮は似たような感じにはなってたけど、それでも予め明確に誰が指揮権を持つかははっきりさせてるね。
まぁ今度はその指揮が潰された時のリカバリーが出来るかどうかが重要になってくるなー。それぞれに力のある共同体のリーダーをしている人が担うのなら……よっぽどでなければ指揮系統の混乱は発生しにくいはず。負けても共同体のチャットで連絡は取りやすいしね。
「えっと、20人くらいが離れていったかな?」
「みたいだね。パッと見、同じ共同体のメンバーだけで固めてるみたい?」
「何人か灰のサファリ同盟の人も混じってるけど、大半は『森林守り隊』の人なのさー!」
その辺も気になるけど、向こうは向こうで割り振りをしていくはず。あ、少し俺らの方からは距離を取っただけで話し合い始めた訳でもないから、こっちの割り振りが終わるのを待ってる感じか?
「さて、それでは浄化の要所の制圧班を割り振っていくが、その前に概要の説明だ。今回は連結PTを3つ作り、順繰りに交代して行動値を回復させながらでいく。連結PT単位で交代のつもりでいてくれ」
ふむふむ、どうやって戦い続けるつもりでいたのかと思ったけど、そういう形でやっていくのか。行動値という制約がある以上、何らかの形で回復を挟まないとどうしようもないからなー。
「ベスタ、その件で質問だ。回復が必要なのは分かるが……人数はこれで足りるのか? 連結PT3つだと最大で54人……その内1つは回復をしていくと考えると36人で守り切れと? 少人数って訳でもないが、広範囲の魔法や毒を使われたら簡単に瓦解するぞ?」
「ジンベエの杞憂は分かるが、それ以上は増やし過ぎてもお互いの邪魔になるだけだ。その部分は攻める側も同じである程度限度があるし、重要な防衛にはある程度の要員は確保してある」
なるほど、ジンベエさんの杞憂は尤もな話。それこそ複合毒のポイズンミストや昇華魔法の餌食に……って、あれ? なんかベスタの視線がこっちに来てる気がする?
「一部の者……基本的に抗毒魔法を持っている者には、回復よりも魔法毒の防御を優先してもらう。昇華魔法についても同様に、対応するアブソーブ系スキル持ちに対応してもらうぞ」
「……なるほどな。チラホラとアブソーブ持ちや毒持ちがいるのは、そういう事か」
「あぁ、そういう事だ」
ふむふむ、ヨッシさんには抗毒魔法を、俺にはアブソーブ・アクアを、風音さんにはアブソーブ・ファイアを使えって話か。
富岳さんも魔法Lv10狙いのトーナメント戦に出てたんだから、属性までは分からないけど持ってそうではあるよなー。風魔法を結構使ってたし、持ってるのならアブソーブ・ウィンドか?
多分俺が知らないだけで、他の属性のアブソーブ持ちの人も来てるって事なんだろうな。それこそ風雷コンビなら、アブソーブ・エレクトロとか持ってそうではあるしさ。
でも、防ぐ作戦自体はいいとしても……どうしても不安要素が残るな。アブソーブ系スキルの潰し方は……俺は知っている。その辺をどうするか、ちょっと聞いて――
「はい! 少し質問です!」
「……まぁ割り振る前に、疑問は先に解消しておいた方がいいか。ハーレ、どういう質問だ?」
「昇華魔法はアブソーブ系スキルで対処するのは分かったけど、瘴気魔法や浄化魔法はどうやって防ぎますか!? 吸収したら、それはそれでマズいのです!」
俺が聞こうと思った事を、先にハーレさんに聞かれたよ!? ……具体的な方法って、地味に思い付かないんだよな、それ。
「その場合は、手が空いている2人での昇華魔法で相殺する。……それを吸収される可能性もあるから、可能な限り複数属性でだ。もし可能であれば、その近くにいる奴か、遠距離からの発動妨害を狙いたいとこだがな」
「昇華魔法はキャンセルを狙うって訳だな! なぁ、疾風の!」
「どんな威力の攻撃も当たらなきゃ意味がねぇからな! なぁ、迅雷の!」
「……言うのは簡単だが、状況次第にはなる。どう刻印系スキルを使ってくるかも分からんから、目の前の敵だけでなく可能な限り周囲には気を配れ」
「その点は了解なのさー!」
「まぁそうなるよなー」
色んな攻撃手段は考えられるけど、どういう順番で何を使ってくるかは実際に戦うまで分からない。あくまでもこれは基本的な対処手順に過ぎないし、具体的にどうするかは臨機応変に動いてみるしかないか。
吸収し切れないほどの昇華魔法の連発も考えられるけど……もうその辺は出たとこ勝負だな。吸収した分を使って昇華魔法で相殺を狙うか、強化して防御魔法に回す事は出来るしさ。
「何をどう用意すれば正解というものはないから、その辺は忘れるな。何かその場で重要な内容があれば指示は出すが、基本的には同じ連結PTの中で指揮を出してもらう。これからその割り振りは行うが、その中で誰が指揮を取るかを決めてくれ。ただし、俺はその中での指揮役はやらんからな」
ふむふむ、連結PTを3つ分で、3人が指揮権を持つ感じか。その上にベスタがいるって感じ? というか、なんともこの状況は色々と相槌だけってのもやりにくいもんだね。
「まず1班は、共同体『グリーズ・リベルテ』のメンバー5人、風音、ジンベエ、刹那、共同体『三日月』のメンバー5人、風雷コンビ、富岳、ディール、レナの18名だ。どうPTを組むか、それぞれで決めてくれ」
「ほいよっと!」
「今呼ばれた人、アルマースさんを中心に集合! アルマースさん、ちょっと西の方に動いてくれない?」
「おう! 了解だ、レナさん」
共同体『三日月』って事は、ツキノワさん達か! 挨拶こそ出来てなかったけど、来てたのは見てたもんな。とりあえず今はアルに乗って移動するとしても……このメンバー、全くの交流なしの人が1人もいないな?
いや、個人で見ていけば全く交流が無い人も結構いるんだろうけど……何かしらの縁がある人で固めてきてる? その方が少なからず連携はしやすいか。
「……風雷コンビと一緒かー。あー、なんか大変そうだよな、富岳」
「そう言うな、ディール。喧嘩が多かろうが、なんだかんだで戦力になるコンビだぞ。……気持ちは分かるがな」
「我らの活躍、見せてやろうではないか! なぁ、疾風の!」
「当たり前だっての! なぁ、迅雷の!」
「……龍が……3人。……頑張る!」
「「おうともよ!」」
「ジンベエ殿、龍達に負けぬように大暴れをするのであるよ!」
「まぁやるだけの事は全力でやるが……海メンバーは少なめか」
「ジンベエさん、その辺は俺らが海の種族を2ndで持ってるのが大きいと思うぜ? 俺は海水の昇華も持ってるしな」
「あぁ、そうか。サヤさん以外は、海水への適応を持ってんだな。アルマースさんの存在を考えると、あながちバランスが悪い訳でもないか」
「そういう事だな」
少し移動しながらも、その間にそれぞれにちょっと会話をしていく。なんというか、意外と風音さんが風雷コンビと意気投合してるのは良い傾向な気はするね。
それとアルが推測してたけど、確かに海の種族単独での参加はジンベエさんと刹那さんの2人だけなのは、俺らが海の種族を持ってるからってのはありそうだな。
風雷コンビを組み込んできたのは、海水を使う際に電気魔法を使うのが狙いでもある? ヨッシさんは、多分だけど毒の対処の方で電気魔法を使う余裕まではないはず。
「ハーレさん、今日はよろしくー!」
「おぉ、アリスさん! こちらこそよろしくなのさー!」
「あ、そうそう! グリーズ・リベルテ名義で狙撃Lv10の情報が上がってたけど、あれってハーレさんだよね?」
「ふっふっふ、その通りなのです!」
「あ、やっぱり! 私は投擲Lv10にしたから、使い分けて頑張ろー!」
「おぉ、そうなんだ!? 行動値が減らないどころか増えるやつですか!?」
「うん、そだよー!」
「ツキノワさん、黒曜さん、クマ同士よろしくかな!」
「おう、よろしくな、サヤさん!」
「よろしく、サヤさん」
へぇ、アリスさんが投擲Lv10なのはありがたいかもね。えーと、全体で考えると物理と魔法のバランスはどうなるんだ? 分かりきってる俺らも一応含めて、その辺の戦力を数えてみようか。
風音さん、風雷コンビの龍、モコモコさんとシオカラさんも魔法だったはず。純粋に魔法オンリーはこの5人か?
刹那さんは変則的ではあるけど、近接物理。サヤ、ツキノワさん、黒曜さん、レナさんもだから、近接物理は合計5人。ハーレさんとアリスさんが遠距離物理で、2人か。
両方いけるのが、俺、アル、ヨッシさん、富岳さん……ディールさんとジンベエさんはどうなんだ? ジンベエさんは物理だと思うけど、ディールさんはさっぱりだぞ?
「ケイさん、ずっと黙ってるけどどうかした?」
「あー、いや、ちょっと戦力バランスを考えてたんだけど……ディールさんとジンベエさんの戦法を知らないなって思ってさ」
「ん? あぁ、そうか。アルマースと違って、ケイさんは俺が戦ってるとこはろくに見たことねぇんだな。俺なら特性に突撃と牙撃のある物理近接型だ」
「あー、そういう構成か! その辺は了解っと!」
って、あれ? あ、そういやジンベエさんってアルと知り合いなんだったっけ! 顔見知り程度の認識でいたけど、そこを思い出したらこういう割り振りになった理由がなんとなく分かったわ!
ふむふむ、ジンベエさんは物理主体というのは予想通りの内容だったか。サンゴで出来てるサメの身体で突撃は耐久性が地味に気になるけど、まぁ大丈夫ではあるんだろうね。
「俺は物理も魔法もどっちもいける毒メインで、電気もいける状態異常系だぜ! おっと、そうだ! ヨッシさんだよな、毒魔法Lv10の情報を上げてたのって? 『アンチドート・コンバート』の検証情報がまだになってたけど、知り合いの無所属に頼んであれを検証したんだが情報はいるか?」
「え、検証出来てるの?」
「おっ、マジか!?」
まさかのディールさんもヨッシさんと同じ状態異常使いだった! まぁそういう育成がヨッシさんだけな訳もないし、毒メインの人は他にも知ってる人はいるもんな。
ここで地味に確認出来てなかったアブソーブ系スキルと同系統っぽい『アンチドート・コンバート』の効果が正確に分かるのはありがたい! 同系統ではあっても、微妙に性能は違いそうだもんな、あれ。
「おう、情報が出てきた後にスキル強化の種が必要個数に届いてな! それから不足部分は試しといたぜ!」
「あ、そうなんだ。地味に試せてないから、教えてもらえるとありがたいかも?」
「よしきた! えーとだな、敵の放った魔法毒を吸収して魔力値に変換するのはアブソーブ系スキルと同じなんだが、微妙に違う要素がここからだな」
「何か違う要素があるんだね?」
「まぁな! 簡単に言えば、味方が受けた魔法毒を吸い取って解毒した上で、それを魔力値に変換って性能だな。多分、この辺の仕様は毒には昇華魔法が無いからだと思うぜ。ついでに毒性が高いほど、得る魔力値も多いぞ?」
「強力な毒ほど、メリットがあるって事だね?」
「そういう事だなー。これ、抗毒魔法との兼ね合いを色々考えた方がいい気がするぞ」
「……それは確かにそうかも? 解毒するのを前提に、相手の毒をわざと受けるのもありだよね」
なんか聞いてる限りでは『アンチドート・コンバート』が使える状況なら、無毒化しない方が良いパターンもありそうなのがなんとも言い難いとこだな。んー、効果が有用なのは間違いない。でも少しでも運用を間違えれば、一気に壊滅する可能性も秘めているか……。
「さーて、適度に距離は取ったし、注目ー! とりあえずわたし達の中でPTを組む必要があるけど……その前に誰が指揮をするのかを決めていくよー!」
「あー、まずはそこからか」
ベスタが残り2つの連結PTの割り振りをしてる最中だけど、俺らは俺らでその辺は決めていかないとなー。このメンバーでの指揮なら、レナさんやツキノワさん辺りがいけるか?
「という事で、わたしはケイさんを推薦だー! 反対の人は挙手!」
「ちょ!? え、俺!? レナさんでも良くない!?」
って、誰も反対する様子がないんだけど!? というか、納得してる感じでみんな頷いてるんですけど!? え、これは俺に決定な流れ!?
「だって、ケイさんは総指揮の経験者じゃない? それにほら、わたしじゃ風雷コンビの制御は無理だし、草原エリアの人の誰にも無理だし! でも、割とケイさんの指示は聞くみたいだし?」
「ちょ!? 風雷コンビが俺らと一緒なのって、そういう理由!?」
「多分ねー! ベスタさんが一緒の連結PTにするのかと思ってたけど、そうじゃないみたいだし?」
「……あー」
俺としても今回はベスタと同じ連結PTになると思ってたけど、実際にはそうはならなかったもんな。あれ? これって、ベスタが俺をこっちの指揮のつもりで割り振ってない?
「ケイ、もう既に戦力把握をしてたんだし、頑張れよ!」
「ケイ、ファイトかな!」
「ケイさんなら出来るのさー!」
「頼りにしてるよ、ケイさん!」
「だー! 分かった、分かった! もうそこは俺がやるのでいいよ!」
他のみんなもじっと見てきていて、もう半ば強引に押し切られてるような感じだけど、ここから他の人に任せる流れを作る方がよっぽど無茶だ! 交代で休憩は取りながらやっていく予定なんだし、なんとか頑張りますか!
おし、そうと決まったからには俺らの連結PTでの動き方を決めていこう。さーて、半ば強引に押し切ったからには多少の無茶振りには応えてもらおうか!




