第1189話 総力戦の協議への参加
青の群集とのミヤ・マサの森林での総力戦の協議だけかと思っていれば、赤の群集も交えての霧の森での全勢力の入り混じった協議という事になるとは思わなかった。しかもそれに俺らが行くかどうかかー。
「みんな、どうする? この協議、行っておく?」
「……行く、行かないに関わらず、俺らが警戒されるのは間違いないだろうが、あえて顔を出すのはありか。そういや、そもそもその協議はどこでやるんだ?」
「はっ!? そういえばそれは聞いてないのです!?」
「そういえば言ってなかったか。ここから繋がる、青の群集の安全圏でだな」
「……はい?」
てっきり雪山の中立地点あたりに行くのかと思えば、思った以上に近かった。あー、でもそれならベスタが途中で通りがかっても不思議じゃない位置ではあるのか。でも、開催場所としては謎がかなりあるんだけど……?
「なんでまたそんな場所で? 青の群集との協議だけなら分かるけど、赤の群集まで来るならややこしい位置じゃない?」
「そこは元々、青の群集との協議予定の場所にしてたからな。青の群集……正確に言えば、ジェイがこっちのジャングル内の偵察を狙ってか、ここでの協議を提案してきてたんだが……」
「あー、そういう目論見はあったのか……」
何気にサラッと占有エリア内に入らせてもらおうとしてた訳か。協議の為って事であれば、堂々と入ってきて偵察は出来るもんなー。……ジェイさんめ、抜かりない!
「そうなってないって事は、突っぱねたって事で良いのかな?」
「あぁ、その認識で構わん。だが、他の群集は下手に入れられんと断ったら……青の群集の安全圏なら構わないと言い出してな。代替案を出すのも跳ね除けられた状況だ」
「それって、青の群集が何か企んでそうなのです!?」
「……明らかに不自然だよね、その流れ」
「まぁそうなんだが……俺だけで行くならそれもありかと思ってな。まぁ変な事をした場合の牽制を兼ねてケイ辺りは連れて行こうと思って声をかけた訳だ」
「だとよ。ケイ、罠の中に一緒に行ってこい!」
「おいこら、アル!? てか、ベスタもそこは突っぱねても良くねぇ!? なんであからさまに企んでそうなとこに突っ込む!?」
ジェイさんの思惑が何かは分からないけど、明らかに何かを狙っているのは間違いない。てか、そもそも安全圏って他の群集のプレイヤーが入れる場所なのか? もしかして、協議に集まる場所に指定しておいて、入れない状況に陥らせて協議そのものを破綻させようとしてるとか……?
うーん、前提からひっくり返すって事を俺とベスタでやってしまってるから、その可能性自体は否定出来ない! 安全圏という特殊なエリアを使おうとしてるなら、何かを狙ってるのは間違いないしなー。この辺、ベスタに聞いておいた方がいい気がする。
「……他の群集の安全圏って、そもそも俺らは入れるのか?」
「あぁ、その件か。基本的には入れんぞ」
「入れないの、分かってるんかい! えぇ? それじゃなんでそんな場所を指定してんの? 入れないんじゃ意味ないじゃん……」
「あくまで基本的にはだ。例外的に入る手段自体はある」
「……そんな手段が……あるの?」
「どうやるんだ、それ?」
「傭兵になったプレイヤーが入ってこれるのと似たような原理だな。青の群集のプレイヤーの承認を得れば、中に入る事が可能になる」
「おぉ!? そんな機能があったんだ!?」
「初めて知ったかな!?」
「へぇ、そりゃ興味深いもんだな」
ふむふむ、そんな仕様になってるのか。そういう仕様なら、その承認を拒めば協議そのものをぶっ壊す事そのものは可能か。でも、そうなった場合は責める権利は灰の群集の方にあるよな。その場所を指定したの、青の群集なんだし。
「それ、入ってくる人を制限する為のものだよね? 私達がみんな行っても大丈夫なの?」
「ケイ達は向こうにも知られているし、拒否する事はないだろうが……風音に関しては読めないな」
「……別に……行きたいとも……思わないから……問題ない。……みんなが……行くなら……桜花の所で……待ってる」
「まぁ風音は聞いた限りではそんなとこだろうとは思っていたが、やはり来ようとはしないか」
「……面倒」
「あぁ、別に無理強いしようってつもりはないから、それはそれで構わん。ケイ達も嫌なら断ってくれて構わんぞ」
「あー、なるほど」
別に俺らが絶対に行く必要性自体はないって事か。名実共にベスタが灰の群集のリーダーとして動いてるんだし、ここで任せてしまっても問題はないんだな。でも、ここで任せっきりっていうのも……何か駄目な気はする。
ある程度ジェイさんとやり合える人である人じゃないと連れて行く事自体が危険だけど……って、相手はジェイさんだけじゃないんだ!?
赤の群集も来るんだから、高確率で作戦参謀を名乗ったウィルさんは来るはず。今の赤の群集のまとめ役の共同体『リバイバル』のリーダーになるルアーもか。最低でもこの2人の参加は確定だと考えた方がいい。
「ちょい質問。赤の群集からは、流石に遠くない? ここだと青の群集の安全圏は東端で、赤の群集の安全圏が西端だよな? ジャングルを突っ切る許可でも出した?」
「いや、北の普通のエリアから迂回して来るそうだ。……おそらく、それが余裕だと示す気だろうな」
「あの格上のフィールドボスがいたとこを突っ切って来るのか!?」
「そりゃまぁ、確かに警戒させようと企むなら有効な手段だな」
「可能性としての話だが、俺ら灰の群集が認知出来ていない強者でも連れてくる気かもしれん」
「あー、ウィルさんなら警戒してくれってわざわざ見せにくるくらいはやりそう……」
今の段階では確実に高Lv帯のエリアだし、実際俺らが進んだ時も色々大変だったけど……わざわざそこを突っ切ってくるくらいだしな。
うーん、今の赤の群集の内情は不明だし、少しでも情報は欲しい。でも、ダミーとして強そうに思わせておいて、そうでもない人を連れてくる可能性もありそう……。って、だからこそ牽制としての俺かー!? 明確に赤の群集と青の群集に狙われてるのが分かってる俺を連れていって反応を探るのがベスタの狙い!?
「みんな、ここまでの話を聞いた上でどうする? 正直、凄い悩ましいんだけど……」
「俺は行くので基本的に賛成ではあるが……風音さんを放り出して行く形になるのがな」
「……それは……気にしなくて……いいよ?」
「そう言われても、流石に気にするのさー!? あぅ……悩ましいのです……。行くなら一緒に行きたいし……」
「……そういう……もの?」
「そういうものなのです! 一緒に遊んでるんだから、1人だけ放ったらかしは無しなのさー!」
「……そっか。……そっか……そうだよね」
うん、そのハーレさんの意見には同意。俺らグリーズ・リベルテだけでいたなら気にしなくてもよかった部分だけど、今はそういう訳にもいかない。
かといって、行きたいと言ってない風音さんを強引に連れていくのも、それはそれで違うんだよなぁ……。
「うーん、その辺もあるし、私の目標もまだ未達成だし……本当に悩ましいね」
「ベスタさん、その協議ってどのくらいかかるのかな?」
「折り合いがつくかどうかの問題があるから、一概にはどのくらいとは言えんな。それぞれの納得する条件で決まればすぐに終わるし、落とし所が見つからず長期化する可能性も否定は出来ん」
「……やっぱりそうなるかな」
「だよなー。あー、無理に引き伸ばそうとしてくる可能性は?」
「赤の群集にはそのメリットは無いが、青の群集からは可能性はある。それこそ、今日のミヤ・マサの森林の総力戦を夜に持ってきて、全勢力の方の日程を明日にズラす可能性もあるな」
「確かにそれはありそうな可能性だけど……それって、むしろ俺らから提案しても良い内容じゃ?」
「おぉ!? それはありなのです!」
「なるほど、青の群集からしてみればありがたい提案か。そうなれば、夜までは俺らにも時間は出来るな」
青の群集が連戦を避けようとするのなら、そういう方向性もありなはず。赤の群集は最後にド派手にやりたいだろうし、疲弊している状況よりは、回復した後を希望しそうな気がする。
ただ、これの問題点は明日は平日って部分だな。もし明日にズラすとしたら、時間帯は夜で確定になるだろうね。流石に昼間や夕方では同意は得られないだろうし……。
「待て待て。その件は実際に考えてあるが、そういう話を今からここで本格的にしていてどうする? 俺はそれを話し合う為にこれから行くんだぞ? その手の交渉をしたいのなら、一緒に来てくれる方がありがたいんだが?」
「……そりゃそうだ」
相手の状況次第でどうとでも変化してくる部分を、行くかどうかもハッキリさせない状況でベスタに伝えるのは無しか……。これから向かうベスタに、これ以上足を止めさせておく訳にもいかないし……よし、決めた!
「おし、ちょっと俺だけでベスタと一緒に行ってくる! 別にそういう形でもいいよな、ベスタ?」
「別に俺は構わんが……」
「ケイ!? え、それなら一緒に行くかな!」
「いや、サヤ達はみんなで特訓を続けててくれー! 俺はちょっとジェイさんやウィルさんとやりあってくる」
これなら風音さんを無理に連れていく必要もなく、かといって放置する事もない。そもそも全員いる必要性自体はないし、青の群集が何か企んでいる可能性があるなら大人数で行く事自体が得策じゃない。
現時点で散々な程に警戒されまくってる俺やベスタなら、まぁ今更何かを追加で警戒されたところで問題ないしなー。ここは少数精鋭で行くべきところ! 大真面目に、ヨッシさんの『同族統率』は鍛えて『強化統率』を手に入れておいて欲しいしね。
「……この状況ならそれが無難か。早めに戻ってこいよ、ケイ」
「そのつもりではいるけど、まぁその辺は相手次第だなー」
「ケイさん、任せました!」
「ごめんね、ケイさん。変に気を遣わせて……」
「いやいや、俺が勝手に行くだけだしなー。その間の成果に期待しとくぞ、ヨッシさん!」
「……うん、それはしっかりとやっておくね!」
「……ケイさん……頑張って」
「おうよ!」
「……ケイだけが行くのかな」
さて、サヤ以外は納得してくれて、サヤは不満みたいだけど……これはどうしたものか? うーん、基本的にいつもみんなで動いてるから、ここで俺だけで離れるって事に納得がいってないっぽい? 少しの間、俺が別行動になるだけなんだけど……そういう理屈の問題でもないか。
なんだかんだで寂しがり屋だしな、サヤって。多分、俺がみんなの分まで代わりに1人でやろうとしてるように感じて、その辺が納得いかないのかもね。もしそうなら、こういう提案でもいけるだろ。
「俺1人で離れるのが不満なら、サヤも一緒に来るか? ベスタ、別に俺だけじゃないといけない訳でもないよな?」
「別にそれでも構わんぞ。大人数過ぎるのは困るとは言われてるが、1PTくらいまでは許容範囲だからな」
「え、あ、それでもよかったのかな!?」
「サヤにケイさんの護衛を任せるのさー!」
「こっちはこっちでやっておくから、サヤも行ってきたらいいよ!」
「……うん! ちょっと行ってくるかな!」
「おし、それじゃ俺とサヤがベスタに同行って事で!」
「さて、少し時間をかけ過ぎたから急ぐか。『自己強化』!」
「分かったかな! 『自己強化』!」
「ほいよっと!」
移動速度を重視するなら、移動は飛行鎧を展開していきますか! 水のカーペットは上に乗ってるだけだから、速度が出しやすいのはこっち!
<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 120/120 → 114/114(上限値使用:7)
よし、飛行鎧の展開完了! 発動するのを待っててくれたみたいだし、準備も出来たから早速出発だ!
「サヤは空は駆けられるか?」
「ううん、それは出来ないかな。竜で飛ぶ事は出来るけど……そこまで速くはないかな?」
「そうか。ならジャングルの中を抜けていくぞ。ケイ、木に当ててキャンセルなんて間抜けはするなよ?」
「それは流石にしない……いや、気を付けとく!」
「あはは、油断した時にはやりかねないもんね、ケイ!」
「そういう事だなー!」
冗談抜きでその手のミスは、しないと油断した時にやりかねないからなー。だからこそ、今は油断せずに移動していくまで! うーん、この飛行鎧もどこかで改良を加えたいけど、どういう改良が出来るか……って、今はそれはいいや。
それにしても、サヤはやっぱり俺だけでベスタに着いていく状況に納得いってなかったみたいだね。一緒に行く事になったら、一気にその辺が解消したしさ。
あ、もしかしたら審判役に飽きてたってのもあるのかもしれないなー。サヤだけ、何のスキルの熟練度稼ぎも出来てなかったしさ。戻ってきたら、今度はサヤの熟練度稼ぎが出来る形で何かをルール設定をしてやってみますか!
「あ、ベスタさん、PTはどうしたらいいのかな?」
「別にそのままで構わん。特殊な仕様として、他の群集の安全圏ではPT会話やフレンドコールは機能しないらしいからな」
「え、そうなのかな!?」
「……外には何も伝えさせない仕様かー。本当になんで青の群集は、安全圏を協議の場所に指定したんだ?」
「一応、考えてる可能性はあるにはある。まぁこれは辿り着いたら、真っ先に聞く予定なんだが……このジャングルでなら言っても問題はないか」
「……ここなら? それって他のエリアじゃ問題があるって……あっ!? 無所属からのスパイの可能性か!」
「あぁ、そういう可能性だ」
「……でも、それならさっき話しても良かったんじゃないかな?」
「話してもよかったんだが……話せる状況でもなかっただろう?」
「……あはは、確かにそれはそうかな?」
「そりゃそうだ……」
一緒に行くかどうかさえ悩んでた状況だったんだし、ベスタから更にそんな情報を出してる場合でもなかったよ。でもまぁ、そういう事なら青の群集が認めた人しか入れない安全圏というのはありな選択肢なのかも?
なるほど、だからこそ辿り着いたら真っ先に聞く予定の話なのか。狙いがそこにあるのなら、隠す必要は無いはずだしね。




