第1188話 特訓をしていると
ハーレさんと風音さんが現在、対戦形式で特訓中。俺は行動値の回復を挟みつつ、ロブスターの応用スキルを順繰りに空振り発動して熟練度を稼いでるけど……この手の応用スキルは、戦闘中が1番熟練度を稼ぎやすいな!? 空振りはやっぱり空振りかー。感覚的な話だけど、当てる事でのボーナス熟練度ってありそうなんだよなー。
<『殴打重衝撃Lv1』のチャージが完了しました>
とりあえずチャージが完了したから、振り上げる感じに発動! うーん、中々どれもスキルLvが上がってくれないねー。とはいえ、全く無駄でもないだろうからこのまま継続していくとして……こっちはどうしたもんか?
「『連速投擲』!」
「『アースバレット』」
「あぁ!? あぅ……」
「……えっと、ハーレも自分で分かってるみたいだけど、風音さんの勝ちかな」
「また……負けた……のです……」
「……また……勝った」
「ハーレ、ドンマイ?」
「あぅ……」
今のはヨッシさんが3体のハチを同時生成してたけど、今までの対戦を見てきた中でこの場合1番、ハーレさんと風音さんの差が明確に現れてくる。ハーレさんと風音さんというよりは、投擲と魔法の違いと言うべきか。
そこまで明確に意識をしてきた事はなかったけど、射出魔法の弾速自体は投擲系スキルには劣る。投擲系スキルは魔力集中の有無で違いは出てたけど、ハチが1体の時はハーレさんの方が早い。……いや、早かった。途中までは。
「風音さん、どんどん指定速度が上がってないか? しかも、同時に複数指定の場合が特にさ」
「……うん。……こういう鍛え方……した事がなかった。……成果を……実感中」
「あぅ……初めは私の方が早かったのに!?」
「まぁ風音さんが急成長したって事で!」
「……それはそうだけど、負け続きになったのはショックなのさー!?」
うん、初めはなんだかんだで1体しかハチを出していなかった時以外は勝ってたんだよなー。風音さんが使う魔法を射出魔法だけに絞ってくるまでは。
指定内容が増えて結果的に狙いが遅れるから全然使ってない射出魔法の速度を上げる魔力値の追加消費とかもあるけど、それを使った訳でもなく……ただ純粋な風音さんの照準指定のプレイヤースキルでの精度向上によって。
生成位置や射出方向、同時に撃ち出す時はそれぞれにその指定が必要になるけど、その精度がやる度にどんどん上がっていった。単発なら俺も対抗出来るとは思うけど、3発同時だと……もう無理だな。
「ハーレさん、あとどのくらいやる気だ? 今の風音さん、多分俺でも勝てないぞ?」
「せめてあと1勝はしてから……って、ケイさんでも無理なの!?」
「……魔法砲撃にして、微調整のみで済む位置ならワンチャンってとこ? 元々の狙いが正確なんだから、集中し切ってる今じゃ勝てる気はしない!」
「あはは、ケイさんがそこまで言い切るくらいなんだ?」
「まぁなー。そこに操作系スキルを混ぜてもよくて、素早く動く標的になるなら別だけど」
「……ケイさんには……操作では……勝てる気は……しない」
「十分過ぎるほど、風音さんの操作精度も高い気はするけどなー」
風音さんの操作はそんなに回数を見た訳じゃないけど、それでも精度はかなり高い。それこそ最近はかなり克服してきたとはいえ操作系スキルが苦手なサヤは元より、高水準なアルや得意になってきてるヨッシさんに匹敵するかそれ以上なんじゃ?
風音さん自身が色々と高水準のプレイヤースキルを持ってるし、ハーレさん相手に対人で特訓した事でそれがより磨かれた感じ。こうして考えてみると、風音さんが味方になって良かったもんだね。
「アル、今度は風音さんと操作系スキルで勝負でどうだ? 良い勝負になりそうな気がするけど」
「俺は別にそれでもいいが……風音さんはどうなんだ? 流石に集中力が切れてきてるんじゃねぇか?」
「……集中力は……大丈夫。……でも……休憩は……したい」
「もう1戦! 最後にお願いなのさー!」
「……それなら……次で……一旦……休憩」
「それでいいのです! ヨッシ、いつでもいいよー!」
どちらかというとハーレさんの方が集中力が欠けてきてる気もするけどなー。どうしても投擲系スキルだと連撃でも投げる度に照準指定が必要だし、投擲動作でもタイムラグが出る。その分、魔法より弾速も射程もあるけど……今回は相手が悪かったなー。
ハーレさんも下手な相手には負けないくらいな投擲の命中精度だし、ちゃんとヨッシさんが生成したハチには当たってるんだけどなー。ほんの少し、風音さんの方が早いだけで。
「そういや、行動値とか魔力値はどうなってんの?」
「……ヨッシさんが……時間をかけるから……その間に……回復してる」
「ほぼ全快の状態のままなのです!」
「あー、そういう状況か。あ、ヨッシさん、地味にその辺も狙ってた?」
「狙ってるには狙ってるけど、どっちかというと自分の回復目的だね」
「なるほどなー」
「それに何度も連発して使えばすぐに枯渇するし、こっちの方が緊張感は出るでしょ?」
1戦ずつの間隔が長かったり、すぐだったり、毎回違ってはいたけど、その辺は行動値の回復状況を見ながらやってたのかもね。下手に行動値が尽きてからみんなで休憩するより、焦らしながら回復させる方が色々と好都合だよなー。
「そりゃそうだなー。ヨッシさんも色々と――」
「っ!? 『連投擲』!」
「……っ! 『アースバレット』」
「やったー! 勝ったのです!」
「……負けた」
俺との会話の真っ最中にハチを3体生成して、その結果はハーレさんの勝ちか。不意打ちも不意打ちだけど、それに即座に反応したハーレさんが凄いな。風音さんがアースバレットを発動した時には既に3体中1体は当てて、2体目に向かって投げ放っていたんだから、早いもんだ。
流石に3体目は風音さんが先に当てたけど、3体同時の場合は当てた数が多い方の勝ち。うん、ヨッシさんのこのタイミングでの不意打ちも凄いもんだな。あえて油断しそうなとこを狙ってきたか。
「ハーレの勝ちかな! ケイさんとの会話中にやるとは思わなかったよ!?」
「油断大敵ってね?」
「ふっふっふ、そこは見落とさないのです!」
「……油断……した」
この辺は流石にハーレさんの普段の観察力の鋭さが凄かった……って、なんか真上に影が……って、見覚えのあるオオカミの人が上空を駆けているだけだな。あ、こっちに降りてきたね。
「ケイ達は……スキルの特訓でもしていたってところみたいだな。今、少し時間はあるか?」
「そうだけど……ベスタ、何か俺らに用事でもある?」
「まぁな。位置的にあまり離れていなかったから、少し声をかけに寄った。これから青の群集との協議に向かうが、一緒に来るか?」
「おっ、マジか!」
なるほど、それは大事な話だね。でも、それってフレンドコールでもよさそうな話な気がするけどな。位置的に離れてなかったからって言ってたし、単純に近くにベスタがいただけか?
「青の群集のサバンナでの動きは終わったのかな?」
「あぁ、少し前にな。ようやくと言った方がいいくらいにはかかったが……」
「おぉ!? その結果はどうなりましたか!?」
「大番狂わせがあったりする?」
「……そこに……期待」
風音さん、少し前にもそういう反応はしてたけど、やっぱり青の群集を敵対視してるー!? まぁあわよくば群集全体の作戦とは別に動いた人達が勝ち取ってくれていたら、ありがたいとこではあるけどさ。
というか、風音さんは自分が参加した時にジェイさんを完全に倒さない限り、敵対視したままな気がする。俺としてもジェイさん達にジャングルで仕留められかけたし、ボスは横取りされてるし、どっかで倒しておかないと納得がいかないのは同じだけどなー!
「……ケイ、多分ジェイさん達もそう思ってるぞ?」
「まぁ向こうも勝ってる訳じゃないし……って、アル!? くそ、またか!」
「あはは、中々抜けないね、そのケイさんの癖」
「本気で忌々しい悪癖だな!? なんか本気で改善策ってあったりしない!?」
自分では出来るだけ気を付けてるつもりだけど、気付けばポロッと出ているっぽい。作戦やら戦法やら、実際に戦闘中になったりして集中してる時には出ないのは幸いだけどさ……
「別にそのままでもいいんじゃないか?」
「リアルでは、ここまで頻繁には出ないのさー! 私が知らないだけかもしれないけど!」
「……ハーレさんが知らないだけなのか、リアルではあんまり出てない癖なのか、その辺って地味に重要なんだけど!?」
くっ、リアルでその辺を聞けそうな相手……心当たりが少ないんだけど! 中学時代の同級生に……高校でクラスがバラバラになってるし、どいつも部活に入ってるから最近はあんまり交流がない!
いや、それでも連絡先を知ってるのは何人かいるし、その辺に連絡を取ってみるのもあり? 確かオフライン版をやってた奴もいたから、もしかしたらオンライン版にいる可能性も……って、あいつは確かバスケ部だっけ。うーん、流石に運動部に入ってる奴がオンラインゲームは無理か? まぁいいや、今度機会があれば――
「ケイ、黙ってるところを見るに色々と考えてるとこなんだろうが、脱線は後にしてもらっていいか?」
「あ、すまん、ベスタ! 青の群集というか、サバンナは結局どうなった?」
「サバンナは青の群集が勝ち取った。これで、各群集が最低1エリアを確保した事になる。赤の群集は既に2つだがな」
「やっぱりそこまで極端な番狂わせは出なかったかー」
「ま、妥当な結果ってとこだろうな」
「……残念」
結構時間はかかってたみたいだけど、それでもしっかりとサバンナは青の群集の占有エリアになったんだな。今回の競争クエスト、初回の開催とは違って灰の群集の圧勝なんて状況にはならなかったね。……それだけ、赤の群集も青の群集も油断ならない相手になってきてる訳だ。
そういや今って何時だ? 特訓してたから気にしてなかったんだけど……あー、意外と時間は経ってて16時くらいか。これは予想以上に青の群集が苦戦してたっぽいな。妙に時間がかかって苦戦してたのかが分からないけど、ボスの発見に手間取ったとか?
てか、結構長い間の特訓になってたけど、その割にはあんまりスキルLvが上がってる気がしない。うーん、俺は毎回違うスキルでやってたのが問題だった? それとヨッシさんの同族統率はどうなってるんだろ? 気にはなるけど、その辺は後回しだな。
「えっと、それで私達も一緒にっていうのはどういう事かな?」
「個人に限定した話だけではないが、なんだかんだでお前らは勝敗に大きく影響してくるからな。向こうもそういうメンバーが出てくるのもあるし、少し牽制を兼ねて一緒にどうだという話だ。あぁ、ちなみに赤の群集の方からも出向いてくるぞ」
「ちょ!? 赤の群集がここで出てくるって事は、もしかして――」
「霧の森での総力戦の話も兼ねている。話を持ちかけたのは、俺らの方ではなく……赤の群集の方からだがな」
「……赤の群集……から? ……全力で……勝負を……挑みにきた?」
「おそらくな」
このタイミングで赤の群集からの総力戦の提案があったとはなー。ベスタが巻き込もうとはしてたけど、まさか向こうからも同じ提案をしてくるとは想定外……。
いや、状況を考えたら、それほど意外な事でもないか。1回目の開催の時は赤の群集は蚊帳の外で俺らは青の群集との総力戦をしたんだし、今の体制が変わった赤の群集の中から同じような事がしたいという意見が出てもおかしくはない。というか、それを見越してベスタが提案しようとしてた訳だし……。
「声をかけてくる可能性はあるとは思っていたが、思った以上に早かったのが想定外ではあったな。まぁ青の群集がサバンナを取るのに、色々と手間取ったというのもあるんだろうが……」
「これから時間を決めるなら、晩御飯の時間帯までの余裕が無さすぎるのさー!?」
「……今すぐ開始は無理だし、1時間後に開始でも総力戦だと厳しいよね?」
「それでも実行可能ではあるだろうが、まぁその時間帯にすれば不満が出てくるのは抑えられんだろうな。それに青の群集としては、少しは時間を空けたいはずだ」
「まぁ少し前まで戦ってたなら、そうなるよな。てか、なんでそんなに長期化してたんだ?」
灰の群集から参戦してる人もいるとは聞いてるけど、それでも動員してる人数が相当違うはず。赤の群集や無所属からも参戦してる可能性もあるけど、その中の仮に弥生さんとシュウさんのコンビみたいな異常な程に強い戦力がいたとしても、それが活きるのは集団としての作戦があってこそ。
そういう戦力への対抗策を用意してない訳がないし、まだ完全に対応し切れていない例の危機察知を避ける狙撃もある。一体、どういう苦戦があったんだ?
「1番の原因は、士気が低かった事みたいだな。考えてもみろ。赤の群集に誘導されて勝ちを譲られた状態で、非参戦者に勝ち取ってこいと押し切られた状況だぞ?」
「あー、そういう理由……。確かにそれは……うん、分からなくもない」
「……少し……同情するかも?」
俺だってその状況で勝ち取りに行けって言われたら、普段ほどのやる気は出ないかも。でも、今後の必要性自体は分かるから多分戦い自体には行くには行く。行くけど、やっぱり士気は低くなるよなー。
「灰の群集からだけでなく、赤の群集や無所属からも自由な参戦はあったようだがな。むしろ、その参戦で士気が回復してたくらいのようだ」
「妨害どころか、逆に役に立ってたんかい! いや、でもその気持ちは分かる!」
張り合いがない状況ではやる気は出ないけど、そこを邪魔しにきて油断すれば掻っ攫われると分かれば動き方も変わってくるよなー! もしその手の人達の参戦が無ければ、もっと遅くなってた可能性もある?
あー、終わった事の仮定はしなくてもいいや。それよりも俺らがその協議に参加するかどうかを決めないといけないな。さーて、どうしたもんか。
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