第1185話 刻印のセット 前編
ちょっと反省点のある脱線にはなったけど、それはこれから気を付けていこう。自分達の当たり前を、誰にとっても当たり前だと思わないように!
まぁいつまでも脱線してても意味がないから、そろそろ本題に戻して白の刻印と黒の刻印のセットをやっていこう。これで俺らグリーズ・リベルテの全員が白の刻印と黒の刻印が2つずつ用意出来るしね。
「えーと、とりあえず今の刻印系スキルのセット状況のおさらいをしとくかー」
「正直、全員分は覚えきれてないので、その方がありがたいのです!」
「それは自信満々で言う事かな?」
「あはは、まぁ見落としがないように今あるのと比べながらでいいんじゃない?」
「そういう事なのです! 私はリスで白の刻印が『増加』、黒の刻印が『消去』の2つなのさー!」
白の刻印の『増加』は連撃系のスキルで、攻撃を当てなくても連撃が溜まっていくというもの。黒の刻印の『消去』は、相手に刻まれた刻印を問答無用で消し去る効果。
白の刻印の『増加』の方はハーレさんの拡散投擲だからこそ活きる感じだから、別に他のみんなが無理に選ぶ必要はないか。むしろ、重要なのは黒の刻印の『消去』の方が重要性は高い。それこそ、ハーレさんの拡散投擲みたいな噛み合った組み合わせを崩すのに必須になりそうなくらい。
「ハーレさんとヨッシさんが2つだけだったな。ケイだけが自前で刻印石が3つあって、俺とサヤは風音さんに1個ずつ借りたんだったな」
「だなー。えーと、黒の刻印の『消去』はアルとヨッシさんもあったよな?」
「うん、そうなるね。私はハチで白の刻印は『守護』、黒の刻印は『消去』になるよ」
「俺は木の黒の刻印が『消去』だな。クジラは白の刻印が『剛力』、黒の刻印が『剥奪』だ」
「3人いればいい気もするけど、万が一の為に俺も空いてる黒の刻印を『消去』にしとくのもあり?」
「そういやケイの空いてる部分は黒の刻印だったな」
「そうそう。コケの方の黒の刻印が空いてる。埋まってるのはコケの白の刻印の『増幅』と、ロブスターの白の刻印の『守護』と黒の刻印の『脆弱』だなー」
白の刻印の『増幅』は魔法攻撃の強化用。『守護』はチャージのキャンセル防止用で取ったはずだけど、地味に生成した魔法の破壊を防げるのは大きな利点! まぁ流石に耐久値があるものまではどうしようもないだろうけどね。
黒の刻印の『脆弱』は物理防御の低下だけど、これは俺が使うというよりはサヤやハーレさんの支援用に用意したもの。まぁこれからロブスターの物理攻撃も鍛えていくつもりだし、自分用で使うのもありかもね。あ、それならこういう手段もありか?
「『消去』で刻印を消し去ってから、すぐに『脆弱』を刻むのは出来ると思う?」
「……重ね掛けには……ならないから……いける?」
「確か同じ精神生命体で、刻印系スキルは10分間に3回までだったよね? 一気に2回使う事にはなりそうだけど、その範囲内にはなりそう」
「制約の範囲内なら、大丈夫な気がします!」
「てか、もうケイは黒の刻印を『消去』にするつもりでいるだろ?」
「まぁなー! どっちにしても黒の刻印は近付かないといけないから、どうせならセットで使えるようにって思ったとこ!」
「確かに理に適った選択ではあるのか。だがなぁ……」
ん? アルがなんか言い淀んでるけど、何か問題でも……って、サヤの方を見てる? あっ、なんかサヤがしょんぼりしてる!? あー、そうか、これだとサヤだけが黒の刻印に『消去』が無い状況になって……どうしよう?
「……あ、私の事は気にしなくて大丈夫かな! 黒の刻印はクマの『脆弱』も竜の『低下』も下手に変えられないし、役割分担は大事かな! 白の刻印はクマの『剛力』のままで問題ないし!」
うーん、どう見ても強がって無理して言ってる気しかしないんだけど、これはどうしたもんか。かといって、サヤに合わせて俺が方針を変えるとそれはそれで悪い気もするし、サヤ自身のセットは変える必要はないんだよなー。
サヤのこの辺のみんなと違った状況になるのを寂しそうにするのは……まぁなんかありそう。前にチラッと出た、中学生の頃に悪目立ちしてた件とも関係してそうな気もするし……。
「ケイさん、ケイさん! 確か、ケイさんの刻印石は1個余る感じだったよねー!」
「ん? まぁそうだけど、それがどうかしたか?」
「それ、貰っていいですか!? 『消去』じゃなくて、『非力』と『減衰』の2つにしたいのです!」
「あー、書き換えるのか。でも、なんでその2つ?」
黒の刻印の『非力』は敵の物理攻撃の大幅低下、『減衰』は敵の魔法攻撃の大幅低下だったよな。今まで俺らの中では誰もセットしてなかったスキルだから、ここでハーレさんがセットする事自体はいいけども……これってサヤの為か?
いや、それも多少はある気はするけど、それだけの理由で言い出すのはない気がする。サヤがそういう気の遣われ方を嫌がりそうなのをハーレさんが気付かない訳がないし、本格的に何か狙いがあるのかも?
「正直、後ろにいる私にまで攻撃が届く時点で色々と危険な状況なのです! それならいっそ、相手に突っ込んで弱体化を叩き込んでくるのさー! 凌ぐ為の『消去』じゃなくて、攻勢に転じる為の『非力』と『減衰』なのです!」
「あー、そういう感じか!」
「なるほど、威力を下げて当たったとしても耐えられるようにしようって狙いだな?」
「そういう事なのさー! Lv10のクラスター系の魔法とか、特に効果がありそうなのです!」
「あ、言われてみればそうかな!」
「下手に避けたり、逃げ回るより、当たっても問題ないようにって事だね? でも、それってハーレが突っ込むのは危険だし、間に合うの?」
「その時はサヤに投げてもらうのです! 当ててからは『逃げ足』で逃げるのさー!」
「え、私がハーレを投げるのかな!?」
「そうなのです!」
ふむ、確かに後衛になるハーレさんへ攻撃が当たる状況が危険だというのはもっともな話。それが起こり得るスキル自体は増えてきてるし、遠距離からの一方的な攻撃をこっちから強襲して、一時的に封じる手段自体はありか。
あー、でもちょっと待てよ。これに関しては効果が出るタイミングによっては、意味がない可能性もあるよな。
えーと、ここはまとめを確認してみるか。『非力』と『減衰』の効果が出るのは……刻んだ直後からなんだな。へぇ、発動中のスキルの威力に即座に影響が出るんだ。次のスキルの発動からしか効果が出ないかもしれないってのは杞憂だったっぽい。
まぁ次のスキルの発動からになれば、適当に行動値1で発動出来るスキルで使ってしまえばいいんだから、こういう仕様にもなるよなー。うん、アイデア自体はいいね。でも、ハーレさんよりも適任がいるぞ、その案には!
「ハーレさん、それは俺が遠隔同調でやっていいか?」
「え、ケイさんがやるの!?」
「……確かにケイのコケの方が安全かもしれんな。投げるのも、ハーレさんの狙撃が色んな意味でいい気がするぞ。何せ貴重なLv10での狙撃だ」
「あぅ!? た、確かにそれはそうだけど!?」
「まぁ別に俺とハーレさんの2人共って手段もあるけど……刻印石は足りないぞ?」
「ケイさんまで書き換えるなら、そりゃそうなのさー!?」
俺以外は空きを埋めるだけの刻印石しか持ってないんだから、書き換えが可能なのは1つだけ。ハーレさんはどうも自分がやりたいみたいだけど、ここはもう一手いっときますか。
「ハーレさん、冗談抜きで俺の黒の刻印は内容を変えさせてくれ。……シュウさん相手に『脆弱』は使ったから、警戒されそうで怖いんだよ」
「……そういえば……使ってた!」
「シュウさん相手に見られてるなら、手札を変えておくのはありかな?」
「そこは確かにな。状況に応じて切り替えていけってスキルでもあるし、ありじゃねぇか?」
「後はハーレ次第だよ?」
「うー! ケイさん、持っていくといいのさー! ……折角いいの考えたのに」
「サンキューな!」
なんか拗ねてるけど、大袈裟な反応だなー。敵の懐に飛び込んで、色々と引っ掻き回すのをやりたかったとかっぽい? まぁそれならそれで他の手段でもやりようもあるけど……そっちを伝えてみるか。
「……必要なら……また貸すよ?」
「あー、風音さん、それはちょい待った」
「……何かある?」
「まぁなー。ハーレさん、代案だ。『消去』と『剥奪』の両方で、敵の懐に飛び込んでのスキル破りってのはどうだ? 効果は違ってくるけど、立ち回り的には似たような感じになると思うぞ」
「っ!? その辺、詳しくお願いします!」
おー、思いっきり食いついたね。拘ってた部分は『非力』と『減衰』じゃなくて、やっぱり敵の懐に飛び込むとこだったか。それなら既に『消去』はあるんだし、この代案に乗ってくる可能性は高いな。
「ただ生成しただけの魔法だと白の刻印の『守護』で破壊不可にはなってただろ? でも、『剥奪』で操作系スキルの制御を奪えばどうだ?」
「はっ!? 生成されてるものは残っても操作出来ないから、実質的には無効化になるのです!」
「……今聞いてて思ったが、操作系スキルに『守護』って効くのか? 地味に効かないんじゃねぇか?」
「え? あ、確かにどうなんだ?」
わざわざ操作系スキルを無効化する『剥奪』なんてものがあるんだから、そのアルの疑問はもっともだ。操作系スキル自体が、物理攻撃とも魔法攻撃とも違う特殊なスキルではあるから、その辺の仕様の問題か?
まとめを開いたままになってるから確認しとこ。えーと、あった、あった。あー、なるほど、こういう感じか!
「まとめを見てみたけど、操作系スキルに『守護』自体は効果はあって、変に乱されて操作時間を削られるのは防げるっぽいなー。ただ、『剥奪』で操作権を奪われるのは防げないってさ」
「なるほど、そういう仕様か。操作時間を狙って減らされるのを防げるだけでも、相当な効果ではあるな」
「だよなー! でも、それを問答無用でキャンセルさせるのが『剥奪』か。この手段、使われないように気を付けないと……」
俺の対策をしようとするのであれば、『剥奪』を狙ってきてもおかしくはない。水の操作や土の操作なら行動値の消費は激しくないからいいけど、水流の操作や岩の操作とかの応用スキルの方を狙われたらヤバいよな。
でも、それは俺だけに限った話じゃない。操作系スキルの扱いに長けた人であれば、真っ先に狙っていくべきとこだ!
「ふっふっふ! ケイさんが警戒しなきゃいけないくらいの手段なら、私はそっちでやるのです! サヤ、投げる時はお願いなのさー!」
「あ、うん! そこは任せてかな!」
「そういう決断の仕方!?」
「ケイさんが警戒する内容なら、有効な手段なのですよ!」
そこまで断言していいのか……? いやまぁ確かに岩の操作や水流の操作を使ってる時にリスが投げられてきて、黒の刻印の『剥奪』を使われたら……ヤバいな。あれは本体じゃなくて、操作してるものに触れられたらアウトだし……。
ちょっと待って、本気で対抗策がなくね!? 改めて性能を考えてみたら、操作系スキルへの特効過ぎな気がする!
「アル、なんか『剥奪』を防ぐ手段って思いつかない?」
「……少なくとも、1人で既に発動済みだとキツイな。操作自体で避けるしかねぇんじゃねぇか?」
「……だよなぁ。PTなら、誰かがフォローに入ればなんとか?」
「現実的な手段としては、代わりに誰かが軽い操作で受けるのが無難なとこだろうな」
「状況にもよるけど、ケイさんが狙われたら私かアルさんがフォローって感じだよね? 今は風音さんもいるから、風音さんも!」
「……自分だけで……無茶はしない?」
「まぁ基本的にそうなるよなー」
ソロであれば触れさせないようにするしかないけど、幸い俺らはPTだ。操作系スキルを使えるのは俺だけじゃないし、その時に手が空いてる人がいれば代わりに受けてもらう事で対処は可能。まぁその余裕があるかどうかは、その時次第だけど!
「それじゃ私のクラゲの黒の刻印は『剥奪』で決定なのさー! リスは『消去』のまま継続なのです!」
「何気に俺と同じ組み合わせになったな、ハーレさん」
「おぉ!? そういえばそうなのです!」
「あー、そういやそうなるのか」
意図せず、アルとハーレさんの黒の刻印の構成が同じになったか。まぁその組み合わせが効果的なのは分かってるし、2人使えるにならそれだけ幅も広がるってもんだよな。
「おし、それじゃ俺も黒の刻印はコケを『非力』、ロブスターを『減衰』にしとくか!」
「それで決定なのさー!」
特に他のみんなからの異論もないみたいだし、サクッとセットしていこう! スキル自体は呼び出せるように登録済みだし、セットだけならコケからの操作で問題なし!
コケの方に『非力』をセットして、ロブスターの方は『脆弱』から『減衰』に書き換えて終了! さーて、使う時に内容が変わってるのを忘れないようにしないとなー。
「黒の刻印は、後はヨッシのウニだけかな?」
「そうなるけど……どうしよっか? 近距離も色々と考えてるから、すごい悩むんだけど……」
「だよなぁ……」
ヨッシさんは今のところは魔法での遠距離からの状態異常に寄っているから、近接は微妙といえば微妙。それだけを考えるなら、今はアルとハーレさんと同じ構成でも良い気はする。
でも、支配進化にした事で近接も結構いける状態にもなってるし、同族統率を利用した物理毒の運用も考え出してたもんな。その辺も考えていくと、物理防御の大幅低下の『脆弱』もありな気はする。魔法と連携させる為に『低下』もありか。
「別に後から書き換えで、とりあえず今は俺やハーレさんと同じでもいいんじゃねぇか?」
「んー、まぁそれもそうだよね。そうしよっか!」
「それもありな手段なのです!」
追加で刻印石が必要にはなるけども、さっき俺がやったみたいに後からでも書き換えは可能なんだしね。この辺は気楽に考えればいい事だよな。
「それじゃちょっとそれでセットしてくるね」
「はーい! ヨッシのセットが終わったら、次は白の刻印を決めていくのです!」
「ケイ以外は1個ずつ、決めていかないとかな!」
「さて、何にしたもんか……」
「あ、全部決まったのは俺だけかー!?」
なんかすっかり全部終わった気になってたけど、終わったのは俺だけだったよ!? まぁ後からでも書き換えが出来るという事を念頭に置いて、気楽にみんなの白の刻印を考えていきますか!




