第1144話 調査の成果は?
アルを飛ばしている飛行鎧の岩の底に張り付いていた、青の群集のカメレオンは撃破した。その後、大急ぎでその場を離れたけど、特にどこかが襲いにくる事はなかったね。戦闘は本当に控えめっぽいな、今の状況。
それと一定の距離を保っていた青の群集とは離れたから、あのカメレオンが俺らの正確な位置を伝えていたのは間違いなさそうだね。
「おし、とりあえず警戒度合いは下げても大丈夫そうだな。アル、急いで移動した分だけ岩の操作の時間切れが近いから再発動するぞー」
「おうよ。任せたぜ!」
「ほいよっと!」
青の群集にはこの岩の中身がクジラだという事は伝わっただろうけど、赤の群集や無所属に対しては有効なままだしね。継続してアルのクジラを隠して行く方向でいこう! という事で、再発動!
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 83/119(上限値使用:2): 魔力値 296/302
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』は並列発動の待機になります> 行動値 64/119(上限値使用:2)
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値を10消費して『獲物察知Lv 5』は並列発動の待機になります> 行動値 54/119(上限値使用:2)
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
出来るだけ気付かれにくいように岩壁と地面の方に寄せてから切れかけてる岩の操作を解除して、大急ぎで再展開! 出来るだけ再発動の様子は見られたくはないけど、こればっかりは仕方ない。
獲物察知の方には……少し南の方に、赤の群集の3人組の反応がある程度か? まぁ距離はあるし、これは無視してもいい範囲だな。3人という少人数なのは気になるけど……単に人数が揃わなかったとか、何人か倒されたとか、色んな可能性が考えられるから考えても無駄だろう。
「羅刹、次はどっちに向けて進めばいい?」
「あー、この辺は未踏破の場所だから適当に進んでいけ。俺が案内出来る範囲からは完全に抜けたからな」
「ほいよっと」
いつの間にやら、未踏破部分までやってきてたのか。羅刹の案内に従いながら、出来るだけ岩壁にぶつけないように注意して進んでたからマップは全然見てなかったもんな。
チラッとマップを見てみれば……あれ? 思ったほど距離は進んでないっぽい? 中央部へもまだ届いてない位置だけど……まぁこれだけ複雑に入り組んだ地形だと未踏破の場所が多くても仕方ないか。ともかく、前方に気を付けながら進んでいこう!
「それにしても、大型種族の死角に擬態持ちが引っ付いてるとか、厄介な事をしてくるもんだなー」
「相変わらず、青の群集は油断ならねぇな。ケイ、青の群集は何が狙いだと思う?」
「うーん、単純に考えたら俺らに何もさせたくない?」
「まぁ普通に考えたらそんなとこだよな」
でも、敵になる俺らに張り付いて監視とか、リスクは相当高いはず。それを実行に移して、距離を取って位置を把握していただけとも思えない。うーん、青の群集の狙いはなんだ?
「……擬態した部隊が、私達を包囲しようとしてる可能性はない?」
「はっ!? その可能性はありそうなのです!」
「そうなると、獲物察知で見つけた付かず離れずで距離を取ってたPTは、本命を悟らせない為の囮かな?」
「……そういう可能性もあったか」
確かに排除したい相手がいるのであれば、数の暴力で仕留め切るのはありな作戦だ。他に意識を散らさせておいて、逃げられない状況を作り出して一気に叩く。作戦としては、確かにありだけど……。
「それ、今の段階でやる必要があるのか? むしろ、そういう事も出来るぞというのを示して、俺らの集中力を無駄に削る作戦な気もするぞ?」
「あー、アルの意見に同意。それは俺も今思ってたとこ」
「……ケイさん達が疲弊してるのは分かってるだろうから、明日に備えて無駄に疲れさせようって作戦か。ジェイならやりそうな作戦だな」
「確かになー」
今回のは俺らの集中力を無駄に消耗させる方が狙いな気がする。本格的に衝突する時なら、俺らを危険視して排除の為に大人数で包囲はあり得るだろうけど……今、それをするメリットはないもんな。
「だー! この件はこれ以上は考えるのは無し! こうやって悩ませる事自体が目的な気もしてきた!」
「あ、地味にそれが1番ありそうかな?」
「ケイさんがそういう分析をするのは、ジェイさんは知ってるもんね」
「確かにそうなのさー!?」
「……ですよねー」
ジェイさんが考えた作戦だという保証はないけど、青の群集に俺らが警戒されてる事は間違いない。相手が作戦の分析をするのを逆手に取って、無駄に集中力と警戒心を使わせる狙いは充分あるか。
分析するのは大事だけど、完全な狙いまで確定出来る状況じゃないなら考え過ぎも駄目だな。張り付いてる敵の排除はしたし、あんまり気にし過ぎない方向でいこう。
「よし、切り替えていこう! 羅刹から見て、今の探索状況ってどんな感じ?」
「……そうだな。決して気楽に考えてはいけないだろうが、それでも昼間よりはどこの群集も手薄だぞ」
「昼間はもっと凄かったのかな?」
「あぁ、あちこちで空中から昇華魔法で叩き落とされるプレイヤーの姿があったり、殺される時の捨て台詞なんかもよく聞こえてたぞ」
「そうなの!? 今はそんなの、全然聞こえないのさー!?」
「だから、手薄って事になるんだね」
「まぁな」
どこの群集も今は大々的には動いていない状況って事かー。まぁあくまでこの峡谷エリアに限ってなんだろうけど、各群集でトーナメント戦をしてるって話も出てたし、そこまで的外れな推測ではないはず。
「探索状況としては俺があまり通ってなかった道を選んで通ってきたが、特にこれといって新発見もないか」
「群集支援種のサソリの……えっと、なんだっけ?」
「カナデだぞ、ケイ」
「そう、それ! そのカナデや、他の群集の群集支援種も見つからないしなー」
「どこにいるのか、さっぱりなのです!?」
「この地形と広さで、サソリを見つけろってのも大概、難易度は高いがな」
「そこはアルマースさんに同意だな」
上空を飛べない状態だから見下ろして全体像の把握は出来ないけど、マップを見る限りでは相当広いもんな、ここ。あんまり移動速度を上げ過ぎるとどうしても物音が発生する可能性が上がったり、見落としが増えるから余計に探索に時間がかかる。
群集支援種を探す難易度は、ジャングルよりも遥かに高い気がするよ。でも、それを見つけなければ次の段階に進めないのもまた事実か。
「ふと思ったんだけど、岩壁の上に群集支援種がいる可能性もあるよね?」
「はっ!? それは確かにそうなのです!」
「……今の状況は、群集同士で群集支援種の捜索を邪魔し合ってる感じになるのかな?」
「それはあるかもしれんが、それについては邪魔する方が正解とも言えるぜ?」
「……そりゃそうだ」
「確かにそうなるな」
あー、つくづく厄介だな、この峡谷エリア! 競争クエストという名の通り、色んな形での妨害ありでの競争なんだから当然ではあるけどさ!
「これ、いっその事、群集支援種が異形に進化してから探した方が早くね? そっちの方が見つけやすい気がしてきた……」
「ケイさん、それはどういう意味だ? その辺は詳しく知らないんだが……」
「あー、ジャングルで群集支援種が異形に進化した後って、アルを引っ張っていけるほどの勢いで突っ走っていったんだよ。それをここのエリアでやれば、目立ちそうじゃん?」
「……なるほど、それは確かにな。だが、それだとその場所に他の連中も集まってくるだろ?」
「そうなったら、大乱戦になっても他の群集をぶっ倒すのみ!」
「まぁ、そこはそうなるか」
その状況なら待ち伏せの罠とかは用意しにくいはず。ただ、その進化がいつ発生するかが未知数なのが問題か。まぁこればっかりは運次第かもなー。
「とりあえずその辺はそうなった時に考えるとして……ここからどう動く?」
「その前に確認しときたいんだが、そもそもケイさん達は今日は何時までやるんだ?」
「……そういや決めてなかったっけ」
えーと、今って何時だ? あー、22時半ってとこか。うーん、未踏破部分を踏破してマップを埋めていきたいとこだけど、この時間は何とも微妙……。
元気な時なら日付が変わるくらいまでやってもいいけど、今日はそれをすると明日に支障が出そうだよね。今いる峡谷エリアを含めた新エリアの方の進行はどうなるかは分からないけど、少なくとも明日は12時以降からミヤ・マサの森林での競争クエストが待ってるもんな。
「みんな、どうする? この感じだと、まだまだ探索には時間がかかりそうな上に、成果らしい成果はなさそうだけど……」
「ま、それは同感だ。今日はケイさん達は結構な無茶をしてるっぽいし、明日へ悪影響が出ない程度にしとけよ?」
「……羅刹さんの言う通りか。俺はそろそろ切り上げるのに1票だ」
「私もなのさー! 無茶したら、明日寝坊しそうなのです!」
「私もそれに賛成かな」
「同じく私も。人数が少ない状況で探索をやっても、効率は悪そうだしね」
「満場一致だし、そうするかー」
みんな、なんだかんだでまだ疲れは抜けきってない感じだね。まぁ俺もだから、気持ちはよく分かる。明日動けなくなる方が大きなデメリットか。
ここまでの探索でエリアの特徴の調査自体は大体出来たし、後は状況に応じて動いていくしかない。それに俺らだけでしなきゃいけない訳じゃないしね。
「でも、羅刹はそれでいいのか? 俺らが全員ログアウトしたら1人になるけど……」
「元々そうやってたんだ、それは問題ねぇよ。それに俺も明日に備えて、そこまで夜更かしする気はねぇし、群集所属と違ってログアウトしても安全圏には送り返されんからな」
「……なるほど」
確か群集に所属してるプレイヤーがログアウトをしたら、強制的に安全圏に送り返されるんだったはず。それに対して傭兵は、その場所に残留だったっけ。
それならここから先でも、羅刹は問題なく進め……進めるのか? そもそも青の群集に気付かれないように安全圏へマップの提供をしに行ってたんじゃ?
「俺らで羅刹を安全圏まで送り届けた方がいいんじゃ……?」
「ん? なんだ、ケイさん、俺が青の群集に見つかる心配をしてんのか?」
「あー、まぁそうなる?」
「ま、当然の心配だが……ケイさん、俺の2ndの事を忘れてねぇか?」
「え、羅刹の2ndって……」
あれ、なんだっけ? どこかで見た事があるような覚えはあるんだけど……あー! 思い出した! あのスライムの騒動の件の時に、羅刹はカメレオンだったはず!
「羅刹は2ndのカメレオンで擬態が出来るのか!?」
「あ、そういえばそうだったかな!」
「すっかり忘れてたのさー!?」
「思い出したな。2ndのカメレオンも成熟体には進化してるし、峡谷への経路が確立された時点でもう持ち込んでいるぜ。こことは違う未踏破部分の近くでログアウトしてるから、そっちで探索を続けるからな」
「なるほど、昼間はそっちで探索してたって事か」
「アルマースさん、それは違うな。状況に合わせてティラノとカメレオン、どっちでもだ。身動きが取れそうにない状況ってのもあったから、その時はログアウトしてたりしてな」
「……なるほど、そういう感じか」
ふむふむ、羅刹はティラノとカメレオンを上手く使い分けて探索してたんだな。てか、2ndの方もそのまま傭兵として動けるんだね。あー、アカウント毎に所属群集が決まるんだから、ある意味それが当然の仕様か。
「はい! 次に一緒に動く時は、カメレオンで獲物察知の妨害をしてもらうのがいい気がします!」
「俺は別にそれでも構わんが……正直、ティラノの方が強いぜ?」
「あー、それは悩ましいとこだな!?」
味方に獲物察知の妨害が出来る人がいるのはありがたいけど、羅刹の近接戦闘も捨てがたい。状況次第で切り替えは……難しいか。いや、共生進化を使えばそこら辺はなんとか――
「あぁ、これは先に言っとくぞ。ティラノは完全に単独で育てて、存在する可能性の高い『孤高強化Ⅱ』の取得を狙っている。だから、悪いが共生進化はしないからな」
「……それなら仕方ないか」
くっ、明確に狙っているものがあるのなら、無理にそこを曲げて俺らに合わせてくれとは言えないか。確かに存在はしそうだしね、『孤高強化Ⅱ』ってさ。
「まぁどっちを動かすか細かく考えるのは今でなくてもいいだろ。そもそも、次も一緒に動けるとも限らんしな」
「確かにそりゃそうかー」
傭兵は気楽に安全圏に戻ってこれる訳じゃないんだし、合流出来るかはその時次第になるもんな。峡谷エリアが灰の群集で狙う本命エリアになったとしても、俺らと羅刹が一緒に戦える状況になるかは不明。
一緒に戦えるなら戦いたいけど、仕様上の問題だからこの辺はどうしようもない。本当に今考えても仕方ない事か。
「大した成果はなかったが、とりあえずエリアの傾向は伝え切れたとは思うし、まぁ今日はこんなもんだろ」
「だなー。羅刹、助かった!」
「なに、良いって事だ。さて、俺はカメレオンに切り替えるから、下ろしてもらってもいいか?」
「ほいよっと!」
もうこのタイミングで解散って流れだね。まぁ俺らはもう今日はログアウトして休んだ方がいいのは間違いないし、羅刹に関しては置き去りを心配する必要はないもんな。
今回の探索では大した情報が得られなかったのは残念だけど、まぁいつでも良い情報が手に入るとも限らないからなー。エリアの傾向を体感出来たのは成果ではあるけども。
「ケイさん達は明日に備えてしっかり休めよ。それじゃまたな」
「羅刹さん、またねー!」
「今日はありがとうかな!」
「競争クエスト、続きも頑張ろうね!」
「もし一緒になった時は、頼むぞ!」
「次の1戦、勝つぞ、羅刹!」
「当たり前だ!」
そう言って、羅刹が樹洞から飛び降りて着地したような音が聞こえた。でも、全然音が響いてないんだから、相当上手く衝撃を殺してるんだろうな。
<羅刹様がPTを脱退しました>
そうして羅刹はPTを抜けてから、カメレオンに切り替えていったようである。まぁログアウトした光景は俺からは見れてないけど、多分そのはず!
さてと、俺らは俺らで安全圏に戻ってから明日の予定を決めて、今日は終わりにしますか! あ、でも本命をどこにするかの話についてくらいは確認しといた方がいいかもなー。




