第1124話 疲れたから撤退で
刻印石、刻瘴石、刻浄石に続いて新たに出てきた新アイテム。その辺のみんなの入手状態を確認しておこう。多分、これは今後の事を考えると重要な気もする。
「ちょっと確認! みんなは……えーと、瘴気タマ? 瘴気ジュ? 読み方が分からないけど、それは手に入った?」
「自信はないけど読みは『ショウキジュ』じゃないかな? 私は手に入ってるよ」
「同じくなのさー! 読みの正確は分からないけど『ショウキタマ』よりは『ショウキジュ』の方が良いのです!」
「とりあえず読みは『ショウキジュ』でいいだろ。俺も手に入ってるぜ」
「……読みはそれでいいと思う。……同じく入手した」
「それもそだなー。入手自体は確定っぽいか」
別に何のアイテムかが分かればいいんだし、語呂としては俺も『ショウキジュ』の方がいい。おっ、風音さんがインベントリから取り出してるっぽい。
なんか石っぽくはないけど、禍々しい雰囲気の色は変わらない感じだね。形は珠ってなってるくらいだし、球形か。大きさとしては、瘴気石と変わらない程度。
「……禍々しい真珠みたい?」
「おぉ! 確かにそんなイメージなのさー!」
「干潟での緊急クエストの貝の中から出てくるのと似たような見た目なのかな?」
「そっちを見てないから、なんとも言えないかも?」
あー、そういやそんなのもあったっけ。てか、緊急クエスト自体はまだ終わってなかった気もする。あれ、いつまであるんだろ? この土日いっぱいくらいはやってるのか?
「それ、成熟体用の瘴気石の上位版じゃねぇか?」
「その可能性はありそうだよなー」
この『瘴気珠』はフィールドボスから手に入ったんだし、名前的にも瘴気石と無関係とは思えない。今まで未成体のフィールドボスを倒せば確定で瘴気石が手に入ってたんだし、無関係だと思えという方が無茶がある。
「はっ!? もしかして、この『瘴気珠』を使えば城塞ガメと再戦が出来たりしますか!?」
「それはありそうかな!」
「ヒノノコに相当すると考えるなら、それはあり得るかもね」
確かにあの城塞ガメとの再戦をしたいって人はいるだろうし、明確にボスとして設定されていたから再戦出来る可能性もあるのか。まぁでも、それをするとしても先に城塞ガメの残滓を探す必要がありそうだ。
「何をするにしても、一旦引き上げてから情報の整理だなー」
「だな。流石にさっきのワニとの1戦は無茶をし過ぎたし、戻って報告をしつつ、しばらく休憩しようぜ」
「……うん」
「賛成なのさー」
「同じく賛成かな」
「そだね、そうしよう」
「それじゃ一旦戻るぞー! アル、移動は任せた!」
「……ケイさん、下ろすね。『小型化』」
「風音さん、サンキュー!」
飛行鎧が解除になって風音さんの龍に鷲掴みされたままだったけど、アルのクジラの背の上に乗せてくれた。風音さん自身も小型化して乗って、他のみんなもそれぞれに乗っていってるね。みんな、今は自分で動く気は欠片もないっぽい。気持ちは分かる!
「……移動は俺なのはいつもの事だから別にいいが、全員乗るのが早いな!? まぁいいけどよ。それじゃ出発するが、群雄の密林に戻るのでいいか?」
「それでよろしくー。今の状況も見ておきたいし」
「おうよ」
という事で、アルに乗って移動開始! ただ戻るだけなら帰還の実でどこかの初期エリアに戻れば良いだけなんだけど、群雄の密林がどうなってるかも改めて確認しておきたい。特に城塞ガメの残滓についての情報!
「それにしても、とにかく疲れたのさー。今日やるべきではなかった気がするのです……」
「あはは、私も同感……」
「竜が仕留められたのは、不覚だったかな……」
「あれ、サヤらしくないミスだったもんなー」
検証やらトーナメント戦やらで合間に疲れない程度のものをやったつもりだったけど、それでも格上相手に一切気が抜けない戦闘をするには良い状態ではなかったか。初めて自分達で使う刻印系スキルだったって要素も大きいのかも。
「こりゃ、夜まで本格的に休んでた方がいいんじゃねぇか?」
「賛成なのさー! 夜に備えて、まったりと寛いでおくのです」
「……夜からまた競争クエスト?」
「他の群集の動き次第だけどなー。いっそ、今日の夜は衝突があっても非参戦って手段もあるけど……」
参加自体は強制じゃないんだし、無茶をしてまで参戦する必要はない。でも、次の1戦に向けての強化も含めて、さっきのワニとの1戦もやった訳だしな。非参戦にすると、本末転倒な結果になるような……。
「出来れば、そこは参戦したいかな?」
「まぁそこはそうだよね」
「欲を言えば、今日の夜は特に大きな動きが無いとありがたいんだけどなー」
その方が疲れは取りやすいけど、赤の群集や青の群集、それに無所属の動き次第になるから何とも言えないところ。その辺の動向も含めて、最新情報が欲しいね。
「赤の群集と青の群集の総力戦次第ってとこもあるんじゃねぇか? 状況次第では、どっちも疲弊してるだろ?」
「あー、確かにそれもあり得るのか」
下手に今日の夜も攻め込めば、明日以降の動きにも悪影響は出そうだしね。でも、それを見越して、明日は捨てて今日攻め切ってくるという可能性も否定は出来ない。……やっぱりその辺の判断をする為にも、最新情報が必要――
「はっ!? アルさん、下から狙われてるのさー!」
「何!? ちっ、全員しっかり掴まってろ! 『旋回』!」
「おわっ!?」
「何が襲って来たの!?」
「地面から木の根が伸びてるかな!?」
「……アルマースさんが使ってた……ルートスキューア?」
アルが旋回でギリギリ回避したところに、地面から真っ直ぐ真上に伸びている根が見えた。確かにこれは樹木魔法Lv6のルートスキューアっぽいから、襲ってきたのは木みたいだな! なんとか回避が間に合ったし、全員落ちずに済んだのは良かった。
だけど、敵はどこだ? 誰も見つけられてないから発見報酬は出てないし……行動値はそれなりに残っているから、ここは獲物察知の出番か!
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します> 行動値 72/120(上限値使用:1)
ちっ、黒い矢印の反応はいくつもある。それぞれの矢印を辿って、木に繋がっているのを――
<ケイが成熟体・暴走種を発見しました>
<成熟体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>
<ケイ2ndが成熟体・暴走種を発見しました>
<成熟体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>
って、ちょっと待った!? くっ、嫌な情報を見てしまったし、こんなタイミングでこれってありかよ! いや、悠長に考えてる場合じゃない!
「アル、戦うのは無しで全力で逃げろ! 王冠マークが見えたから、もう1体のフィールドボスからの奇襲だ! 俺はみんなの固定をする!」
「……は? いや、考えるのは後か! 『自己強化』『高速遊泳』『アクアクリエイト』『水流の操作』!」
色々と文句を言いたいとこではあるけど、そんな事を言ってる暇はない! それ以上に、みんなが疲弊して全快にもなってない状態で戦ってられるかー!
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 71/120(上限値使用:1): 魔力値 34/302
<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します> 行動値 52/120(上限値使用:1)
アルの加速の準備に合わせて、俺も即座にみんなの固定を完了! あー、成熟体になってから行動値と魔力値の回復速度が上がってて助かる! 非戦闘時の回復速度は、かなり実用性が高くなってるもんな!
「今はともかく逃げるのさー!」
「アル、絶対に振り切れよ! 流石にここのフィールドボスとの2連戦とかやってられるか!」
「分かってるての!」
格上のフィールドボスを撃破して帰っている最中に、他のフィールドボスに殺されましたとか絶対にお断りだから、絶対に逃げ切ってやる! それにしても、やっぱりここの進出はまだ早いのは確実だよなー!
◇ ◇ ◇
<『名も無き未開の河口域』から『群雄の密林』に移動しました>
地面から何度も根で突き刺されそうになったり、葉っぱが切り刻もうと飛んできたりし、実が飛んできたりして、みんなで防御を固めつつも何とか逃げ切った……。
そして、アルも疲れ果てたのか、墜落気味にジャングルの上へと墜落。あー、死ぬかと思ったよ。ほんと、2体目のフィールドボスの出現とか勘弁してくれ……。でも、なんとか生還した! それに気になる事も色々とあったね。
「あれ、ヤシの木だったよな? 多分、不動種?」
「そうだったみたいだね……。ヤシの木の実が飛んできた時はヒヤッとしたよ……」
「……あはは、あれって枝の操作なのかな? 確か、木の種類によって効果が変わったよね?」
「確証はないが、その可能性は高いな。だが、固有スキルという可能性も否定し切れないか」
「あ、そっか。その可能性もあるのかな」
「ヤシの実、欲しいのさー! 一般生物ヤシの木、どっかにないですか!?」
「そこまで細かくは見てなかったけど、探せばありそうかな?」
「だなー」
周囲への警戒は、木の種類よりも敵の居場所について重点的に把握してたしね。ジャングルなだけあって熱帯雨林の植生にはなってるみたいだから、多分探せばヤシの実の採集は出来る気はする。
「……ヤシの木……もしかして、作れるようになった?」
「その可能性はあるな。……熱帯雨林特有の木への進化が可能になる、別系統の木が解放されたかもしれん」
「あー、確かにそれはありそうだな」
まだオンライン版ではそういう要素って見当たらなかったけど、オフライン版では選択出来る木にもいくつか種類があった。初期で選べる木はアルの進化系統と同じ系統になってたけど、それ以外の系統はまだ未確認。
いや、俺が知らないだけでもう既にその手の事は判明してるのかも? よく考えたらヤナギさんの柳の木とか、その別系統の木の進化ルートの中にあった木だしな。
「……とにかく休憩するか」
「賛成なので……」
「……そだね」
「もうバテバテかな……」
「……違いないな」
「……うん」
もうアルは墜落した状態から動く気もないみたいだし、みんなは地面に降りて木に寄りかかったり、地面に突っ伏していたりと疲れた様子。まぁ俺も突っ伏してるんだけど、しばらく動く気力もないわ!
「……何を突っ伏してんだ、お前ら?」
「ん? あー、ベスタかー。いや、もう今は動きたくない……」
「……冗談抜きで何があった? アルマース、フィールドボスの存在を確認するって話の割に随分と遅いと思って確認しに来たが、この様子だと戦ってきたな? フレンドコールは避けて正解か」
「……まぁな。とりあえずLv17のフィールドボスの方は倒したぜ」
「Lv17のフィールドボスの方は……だと? ちっ、随分とLvが高い上に、その疲弊具合だと1体だけじゃなかったって事か」
おー、流石はベスタ。察しが良いですなー。いやはや、倒したのは1体だけだけど、2体いたのは確実だしねー。まぁ不動種っぽいヤシの木の方は、識別する余裕すら無かったけども!
「その様子だと今は詳しい話を聞けそうにはないが……まぁいい。他に進展があった事の説明を聞くくらいの余裕はあるか?」
「まぁ俺は聞いてるだけならなんとかいけるぞー。他のみんなは怪しいけど……」
ぶっちゃけ、逃亡の際には俺はみんなが落ちないように固定をしてただけ! まぁアルの回避方向に合わせて調整はしてたから、それだけでも結構神経は使ってたけどね。でも、回避してたアルや、苛烈な攻撃の防御をしてたみんなの方が疲れてるはず。
「とりあえず聞くだけは聞いてるかな……」
「聞きそびれたとこがあれば、後でケイさんに聞いておくのです……」
「そんな感じでよければ、聞けはするよ」
「……はぁ、そういう事ならそうさせてもらうか。ケイ、例の瘴気汚染・重度の状態で纏浄を使ったらどうなるかの結果が出たぞ。ついでに過剰浄化・重度に纏瘴を重ねた場合もだな」
「おっ、任せてた検証の結果が出たんだ」
そういやこっちの方に来る前にその辺の検証を始めるって話だったもんな。その成果が出たのなら、どういう結果になったかが気になるね。
「結論から言うぞ。現時点では、それぞれの状態異常を打ち消して正常化する効果でしかない。まぁそれでも、厄介な状態異常を回復させる手段としては申し分はないがな」
「あー、そういう感じ……って、ちょっと待った。現時点では……?」
その言い方は何か引っ掛かる。まるで、今はまだ無理だけど、他の効果が隠れているかのような……。何かそう感じさせる要素があった?
「あぁ、現時点ではだ。どちらでも瘴気と浄化が混ざり合い、属性無しの魔力集中や自己強化を使った際に出てくる無色のオーラみたいなものが爆発的に増加する現象が見られた。……何も形を成さずに霧散したがな」
「ちょ!? それって、やっぱり何か強力なパワーアップ要素がある!?」
「推測の域は出ないが、おそらくな。アブソーブ系のスキル自体がスキル強化の種を盛大に使用してようやく手に入る状況だから、まだ何かが足りてない状態だと考えている」
「あー、それは確かにありそうだな」
もしかしたら何かあるかもしれないとは思ってたけど、その可能性が一気に高くなってきたね。でも、現時点では何が足りてないのか分からないから、実際にどういう効果があるのかは不明かー。
まぁ今の段階でもパワーアップ要素が多いんだし、瘴気と浄化を併せ持った時に起こる何かはまだ先の話か。でも、現時点でも瘴気汚染・重度や過剰浄化・重度の回復に使えるのはかなり有益な情報だな。
「さて、動けるようになったら情報共有板に顔を出してくれ。俺はその間に刻印石の調達にでも行ってくる」
「あ、ベスタ! 城塞ガメの残滓がもしいたら、教えてくれー!」
「……まだ残滓になった城塞ガメが見つかったという報告は聞いていないが、何かあるんだな?」
「再戦出来る可能性があるかもしれない。ただ、今は具体的に説明する元気がない……」
「まぁそこは探そうとは思っていたから探してこようか。詳細は後で聞かせてもらうぞ?」
「そりゃもちろん!」
そうしてベスタは凄い速度で駆け出していった。俺らは少しまったりして休めば、少しは復活するはず。復活してから説明が終わったら、いつもより早めにログアウトして夜に備えるかー。




