第1119話 白の刻印と黒の刻印
手早くロブスターの方にログインし直して、白の刻印と黒の刻印の取得と、同調共有への登録を済ませてきた。ロブスターの方にも魔力制御Ⅱが必要なのを忘れかけてたのは焦ったけど!
他のみんなも2ndの方でも取得は完了している。……サヤとハーレさんが成熟体に進化した際に得た共生情報でログインし直さなくてもよかった事に、ログインし直した後に気付くとかもあったけど。まぁなんとか取得は終わったし、次にやるべき事はこれだろう!
「さてと、刻印系スキルのセットをしていくか! あー、でも誰が何をセットするかは、まとめで効果を確認しながらの方がいい?」
「多分、その方がいいだろうな」
「それじゃ、みんなまとめを見ながらでやっていくのさー!」
「「おー!」」
「……周囲の警戒はしておくね」
「任せた、風音さん!」
「……任せて!」
既に今ログインしている黒い龍の方でセット済みの風音さんとしては、今は退屈な状況だもんな。完全に風音さんだけに警戒を押し付ける訳にもいかないけど、ここは風音さんに甘えさせてもらおう。
まぁアルが空中を飛んでる状態だし、危機察知はハーレさんと風音さんの2人体制だし、競争クエストの対象エリアじゃないから他の群集からの奇襲は心配いらないはず。それを抜けてくる敵は……まぁその辺を変に警戒するより、手早く済ませてしまう方がいいか。
とにかく今はまとめを表示して、刻印の種類一覧を探して……お、あった、あった。いくつか内容は知ってるけど全部の効果を把握してる訳じゃないから、ここでしっかりチェックする為にも、これを表示!
【刻印系スキルの刻印効果一覧】
刻印石を消費する事で、『白の刻印』と『黒の刻印』に異なる効果を設定する事が出来る。再度、刻印石を消費すれば書き換えも可能。
刻印が有効なのは1つのスキルに対してのみ。重ね掛けは不可能。
※現時点では刻印石の入手率が低いので、セットする刻印は慎重に選ぶ事を推奨。
【白の刻印】
主に自身の強化を行う効果で、自身に刻むもの。(要は自己バフ)
自身の攻撃手段に合わせた物を選ぶ事を推奨。
共生進化での共生相手に刻む事は不可。支配進化と同調の場合は可。
()内は刻まれるマークの形。
※ 複合魔法や昇華魔法には適応されない点に注意。
『剛力』(剣)
次に放つ物理攻撃の威力を大幅に強化する。
『増幅』(杖)
次に放つ魔法攻撃の威力を大幅に強化する。
『堅守』(剣と盾)
次に受ける物理攻撃のダメージを大幅に軽減する。
『障壁』(杖と盾)
次に受ける魔法攻撃のダメージを大幅に軽減する。
『守護』(六角形)
上限値を使用するスキル以外の、スキルのキャンセルを防止する。
『増加』(+)
連撃を外しても、連撃のカウントを加算する。
【黒の刻印】
主に敵の弱体化を行う効果で、敵に刻むもの。(要はデバフやディスペル)
対象に直接触れる必要がある点に要注意。
()内は刻まれるマークの形。
『非力』(折れた剣)
敵の物理攻撃の威力を大幅に低下させる。
『減衰』(折れた杖)
敵の魔法攻撃の威力を大幅に低下させる。
『脆弱』(折れた剣と割れた盾)
敵の物理攻撃への耐性を大幅に低下させる。
『低下』(折れた杖と割れた盾)
敵の魔法攻撃への耐性を大幅に低下させる。
『剥奪』(即座に効果が出るので、マーク無し)
敵の操作中のスキルの操作権を無効化する。
『消去』(即座に効果が出るので、マーク無し)
敵が刻印している白の刻印、または黒の刻印を消滅させる。
ふむふむ、白の刻印と黒の刻印はそれぞれ6種類で合計12種類なのは前に聞いていた通り。城塞ガメの討伐の時に使ったのが、白の刻印の『剛力』と『増幅』、黒の刻印の『脆弱』と『低下』だよな。
どれもパッと見た感じで、状況次第では使い道はありそう。白の刻印の『増加』は一見すると効果が薄そうな気もするけど、攻撃を当てなくても連撃数のカウントが出来るのは連撃系スキルをチャージ系スキルとして扱えるようにするようなもんだしな。地味に割と厄介な性質な気がする。
「あぅ……共生進化だと制約があるのです……」
「……あはは、そうみたいかな」
「俺らの中でその辺に影響があるのは、サヤとハーレさんの2人かー」
「そうなるな。竜やクラゲに合わせた刻印を選べって事か」
「それが良さそうだね。うーん、どういう風にセットしていく?」
「これは悩むなぁ……」
一応オールラウンダーを目指してはいるけど、今の俺の育成段階では明確にコケの魔法の方が強い。白の刻印は魔法攻撃の威力を強化する方向性で『増幅』が良さそうだし、ロブスター側からでも刻めるのなら応用魔法スキルのキャンセルを防げる『守護』も良さそうだ。この2つは同時に使いたくなるけど、そうはさせてくれない為の重ね掛け不可の仕様か。
「私のクマは白の刻印は『剛力』、黒の刻印は『脆弱』で決定かな!」
「お、あっさりと決めたな?」
「近接戦闘だし、これが1番効果が出る組み合わせだと思ってね」
「まぁそれは確かになー」
サヤのクマは、徹底的に近接攻撃のダメージ量を増やしていく方向でいいだろう。欲を言えば、黒の刻印は『剥奪』か『消去』があったらいいけど、流石にセット出来る数には制限があるから仕方ないか。
「サヤがそういう組み合わせなら、俺は黒の刻印は『消去』にしておくか。敵に触れる必要があるなら、遠距離のハーレさんやヨッシさんには向いてないだろ」
「ヨッシは近接もいけるとは思うけど、私は無理なのさー!」
「確かにそこはアルさんが適任かも? でも、良いの?」
「PTでやってんだし、その辺は役割分担でいこうぜ。それに俺は根の操作で捕縛する事も多いから、やりやすいはずだ」
「そうなると、もう1枠で黒の刻印の『剥奪』も欲しいとこだよなー」
「そりゃ俺も思ってたとこだが……いっそ、白の刻印は後回しで黒の刻印を2つにするか?」
「……それなら……1個はアルマースさんに渡す?」
「あー、風音さんから貸してもらう分については、とりあえず自前の2個のセットが終わってからだな。ケイは既に3個あるんだから、除外でいいよな?」
「ちょ!? いや、まぁそれでいいけどさ……」
俺が4種類セットして残り1個にするより、みんなの中で3種類セットした方が分散出来ていいから理屈は分かる! 分かるけども、今日は既に持ってるからって対象から除外ってのが2回目ー! 仕方ないけど、なんか凹む……。
いや、今はそんなとこで凹んでいる暇はない! 全員分のセット内容を決めていかないと、風音さんから貸して貰う分を誰が使うのかを決めれないしね。
「ちょっと思ったんだけど、この白の刻印の『守護』って抗毒魔法のキャンセルは防げる?」
「あー!? そのコンボは凶悪そうなのです!」
「そうか。チャージのキャンセルを防ぐんじゃなくて、スキルそのもののキャンセルを防ぐみたいだし効果はあるかも?」
「実際に使ってみないと確実ではないかもしれんが、『消去』で消されない限りは有効かもしれないな。普通にありじゃねぇか?」
「でも、防げる毒は今は2種類までだよね? そこを狙われないかな?」
「サヤ、多分それは大丈夫だよ。逆に貫通する毒が残ってるからこそ、使えるかも」
「え、どういう事かな?」
「意味のない毒は撃ち込んでこないって事。毒の選択肢を狭められるなら、それだけで対応はしやすくなるしね。それに、破りにきたらみんなに任せていいよね?」
「それはもちろんなのさー!」
これならヨッシさんが他の手段で動けなくなるというデメリットはあるけど、抗毒魔法での防御がより確実なものになる。どうやってもアルのクジラの背中までやってきて、ヨッシさんの刻印を消さないとキャンセルが狙えないって事になるし、腐食毒と溶解毒は俺とアルの共通の弱点だからそれを防げるのは大きい。
「私はどれにしよう!? 悩むのです……」
「ハーレさんの白の刻印は『増加』が良いんじゃないか?」
「ケイさん、何でー!? それ、1番使えなさそうだと思ってたよ!?」
「いやいや、そんな事はないぞ! 多分、拡散投擲との相性がエゲツない」
「……え? あ、確かにあれは至近距離じゃないと全弾でカウントは無理だけど……これならそれが可能になりそうなのです!?」
「……相変わらず、すぐそういう発想がよく出てくるもんだな。ケイ、地味にエゲツないコンボだろ、それ」
「だろ? 『増加』は使えない効果じゃないと思うぞ。あれ、連撃とチャージの応用連携スキルを、キャンセル出来ないチャージ系スキルにも出来そうだし」
「あ、確かにそれはそうかも?」
「私は自分で当てるからいらないけど、使われると厄介そうかな」
うん、そこであっさりと自分で当てると言い切るサヤが凄い。逆に言えば、サヤほど当てられない人でもサヤと同等の連撃での最大強化に出来るというのが最大のメリットだろうね。
「色々と組み合わせ次第では厄介そうなのさー!」
「そういや、これって当たる寸前の白の刻印……例えば『剛力』で強化された攻撃を黒の刻印の『消去』で打ち消して、威力を下げる事は可能なのか?」
「……タイミングは厳しいけど……それ自体は可能だよ」
「お、マジか!」
あー、でもそうだよな。攻撃の準備をしてる時にしか消去出来ないのは、効果が限定的になる。避けられないと判断した攻撃の威力を削ぐ為に、黒の刻印の『消去』は有効な手段になるのか。
「そういう事なら、私は黒の刻印は『消去』にしておくのさー! 自分のダメージ軽減用なのです!」
「私もそうしようっと。万が一の時に、近接でも解除出来るようにね」
サヤ以外はなんだか妨害や妨害防止の構成になった気もするけど、それぞれの考えた用途に合わせた内容だし悪くはないよな。まぁ都合が悪ければ、なんとか追加の刻印石を手に入れて書き換えればいい話か。
「それで、ケイはどうするのかな?」
「んー、どちらかというと全体的に妨害や妨害防止寄りになってるし、俺は攻撃寄りにしとくかー。コケの白の刻印は『増幅』で良いとして、黒の刻印が悩むな……」
黒の刻印の効果を発揮する為には相手に触れなければいけないから、どうしても近付く必要がある。ん? ちょっと待てよ?
「少し疑問。『守護』は移動操作制御には有効?」
「あー、流石にそれは無理じゃねぇか? 移動操作制御の被ダメでの強制解除のデメリットの克服は有利過ぎるぜ?」
「そもそも上限値を使用するタイプのスキルには効果が無いのさー!」
「あ、そういやそう書いてたか!」
良い手段を思いついたと思ったけど、それは全然ダメじゃん! うーん、それならどうする? アルと違って根の操作みたいに、本体が早々触れる事はないもんな。
「あー、とりあえずロブスターの方で白の刻印は『守護』にしとくか。これなら応用魔法スキルが使いやすくなるし、場合によってはロブスターでも使えるもんな」
「おぉ、確かにそれはそうなのです!」
「それなら、ロブスター用に黒の刻印は『脆弱』にしておくのはどうかな? 私やハーレ、場合によってはアルの攻撃の威力アップになるよ」
「それもありかもなー。よし、そうするか!」
これで俺のセットする内容は、白の刻印がコケで『増幅』、ロブスターで『守護』、黒の刻印はロブスターで『脆弱』に決定! ここまでで各自の自前の刻印石でのセット内容は確定だな。
「はい! そういう構成になったなら、風音さんから貸してもらう分はアルさんに白の刻印の『剛力』がいいと思います! 私だとクラゲの方からリスへ刻む事が出来ないのさー!」
「お、ハーレさん、それはナイスアイデア!」
「そりゃありがたいが……いいのか?」
「私はハーレの案に賛成だよ」
「私もかな!」
「あー、それで良いならそうさせてもらうか。どっちでもいいんだろうが、クジラの方が雰囲気的に合ってるな」
支配進化ならどっちがどっちに対しても刻めるみたいだし、あんまり気にする必要もなさそうだけどね。まぁその辺は気分的な問題だろうし、気持ちは何となく分かる!
「……それならアルマースさん……はい」
「ありがとな、風音さん! 次の手に入れた時には返すからよ!」
「……うん!」
さて、これで残るはあと1個。誰に何をセットするのが良い状況になる? 現時点で考えるなら……登録が無いのは白の刻印の『堅守』と『障壁』、黒の刻印が『非力』と『減衰』と『低下』。
見事に防御上昇と威力低下がスルーになったなー。この辺も重要なんだろうけど、PTの構成的にこうなっちゃったもんは仕方ない。でも、敵の魔法の防御の低下になる黒の刻印の『低下』は欲しいとこだね。俺とアルとヨッシさんの魔法攻撃の威力アップが狙えるし、そういう面で考えるなら必然的に向いているのはサヤになるか。
「サヤ、竜の方で黒の刻印の『低下』はどうだ? 竜で当てるのは出来るよな?」
「え? あ、ケイ達の魔法攻撃用にかな? うん、それなら出来ると思うよ」
「おー! 確かにそれはありなのさー!」
「それ、良いかもね!」
「俺もそれで問題ないぜ」
「それじゃ最後の1個はそういう事で! サヤ、任せるぞ!」
「任せてかな!」
サヤのクマの白の刻印が『剛力』で黒の刻印が『脆弱』、竜で黒の刻印が『低下』。
アルの木の黒の刻印が『消去』、クジラの白の刻印が『剛力』で黒の刻印が『剥奪』。
ヨッシさんは白の刻印が『守護』で黒の刻印が『消去』。
ハーレさんは白の刻印が『増加』で黒の刻印が『消去』。
それで俺のコケは白の刻印が『増幅』、ロブスターの白の刻印が『守護』で黒の刻印が『脆弱』で決定!
いきなり一気に情報が増えて混乱しそうだけど、この辺は重要になってくるからしっかり把握しておかないとなー。ここは指揮をする俺の出番だしね! 必要なタイミングで、適切な刻印を使えば有利に戦えるようになる。
「……サヤさん、どうぞ」
「風音さん、ありがとうかな! ちゃんと返すからね」
「……うん、待ってる」
さて、風音さんからサヤに刻印石が渡されたみたいだね。手早く済まそうと思ってたけど、思った以上に時間がかかったような気がする。
えーと、今の時刻としては16時半ってとこか。まぁ長期戦を覚悟すれば、戦えない事もないか。その為に準備をしたんだしね。
「全員の刻印のセットが終わったら、さっきのワニを今度こそ倒しに行くぞ!」
「「「「おー!」」」」
「……うん!」
それじゃ早速決めた内容で刻印をセットしていこう。それが済んだらLv差はかなりあるけど、あのフィールドボスのワニをなんとかぶっ倒してやる!




